カラスミパスタ、いちご味
朝、目を覚ましてお姉様の部屋に行ってみると、すでにお姉様はいなかった。
また神社にでも行っているかしら?
なんとなく逃げられた気がして気分が悪い。
とりあえずお姉様の真っ赤なルージュを使って帽子にキスマークをつけた。
見つけるのが咲夜であれ、お姉様であれ、一騒動起きるのは間違いない。
私を置き去りにした罰だ。せいぜい困惑するといい。
起きるだろう騒動を想像していると、お腹が鳴った。
そういえば、まだ食事をしていなかった。
咲夜に食事の用意をしてもらう。
用意されたメニューはママリガとサルマーレ、デザートにストロベリーのクラティーテ。
熱々のママリガとサルマーレの美味しそうな匂いはお腹を刺激して、ペロリと平らげてしまっていた。
「咲夜の料理はなんでこんなに美味しいの?」
クラティーテを頬張りながら、紅茶を淹れている咲夜に聞く。
「心を込めて作っているからですわ」
口の端についたストロベリージャムを咲夜が拭き取ってくれる。
「全部の料理に?」
紅茶を一口に飲む。
ジャムの甘さをダージリンの苦味が覆っていく。
「おいしい料理全てです」
ブルーベリージャムが目の前に置かれる。
「おいしくない料理は?」
ジャムを少し舐め、紅茶を飲む。
ちょうどいい甘さが口に広がる。
「愛情の空回りですわ」
咲夜が笑みを浮かべて答える。
ちょっとだけ、見惚れてしまった。
「なによ、それ」
ついつい笑ってしまう。
結局のところ、全部の料理に心が込められているじゃない。
「ね、咲夜」
「なんでしょうか?」
「どんな料理が一番簡単?」
料理は魔法みたいなものだと思う。
自分の思いを伝える魔法。
そこいらに住む人間や、弱き妖怪たちですら使える魔法。
パチュリーのような優秀な魔女ですらすぐには使えないほど難しい魔法。
そんな魔法を使ったら、あいつはどんな顔をするだろう?
不味いと罵るだろうか?
美味しいと称えるだろうか?
口にすらつけず、捨ててしまうだろうか?
お姉様の笑顔。
今まで私に向けられてきた嘲るような笑みじゃなく、本当の笑顔。
パチュリーが、美鈴が、咲夜が見ている笑顔。
その笑顔を見たい。
咲夜に教えてもらいながらカルボナーラを作る。
お姉様は小食だから、パスタは少しだけ。
ベーコンをカリカリに炒めて、クリームと牛乳を加えてひと煮立ち。
チーズを加え、パスタを絡めてブラックペッパーを少しだけ。
「でーきた!」
咲夜に助けてもらいながらだけど、上手く出来たと思う。
あとはこれをお姉様に食べてもらうだけ。
咲夜の私を呼ぶ声と、揺すられる身体によって目が覚める。
ここはキッチンで、目の前にはすっかり冷えたカルボナーラ。
表面から水分が蒸発し、すっかり硬くなっている。
ああ、そうだ。
カルボナーラを作ったあと、お姉様を待っている間に眠ってしまったのだった。
「フランドール様、お嬢様がお戻りになりました」
にっこり笑って悪魔の報告をする咲夜。
その笑顔は「さあ、お料理を」とでも伝えたいのだろう。
ふざけるなこの鬼畜メイドめ!
こんなに硬そうで、みるからに不味そうなもの、お姉様に出せるわけないじゃない!
生ゴミ入れに入れようと席を立ち、向かったところで咲夜が止める。
「フランドール様、そのように捨てられるのは力を使うことと同じですよ」
捨てるのも壊すのも同じということかしら?
成程、一理あるわ。
お姉様は私が力を使うのを好まない以上、このまま捨てるのも好まないかもしれない。
じゃあ、どうしようかしら?
とりあえず、暖めてみよう。
レーヴァテインを出し、皿ごと燃やす。
レーヴァテインを引っ込めると真っ黒に焦げたカルボナーラが出来上がっていた。
「さささささ、さくやどうしよう?!」
「え、えっと、とりあえず、味をつけましょう!」
「そ、そうね!ストロベリージャムでいいわよね?!」
「なんでもいいです!」
咲夜と一緒に真っ黒のカルボナーラにストロベリージャムをかけて混ぜ合わせる。
「よし、完成!持っていくわよ」
「はい!」
「あらフラン、どうしたの?」
執務室でお茶を飲んでいるお姉様。
凄く絵になっていて、軽く嫉妬してしまう。
「あのね、料理を作ってみたの」
ティーソーサと並べるようにカルボナーラとフォークを置く。
お姉様がカルボナーラを見つめる。
ああ、やっぱり怒られるかしら?
「見たことがない料理ね。なんて料理なの?」
お姉様がフォークを持ち、聞いてくる。
ああ、よかった。
食べてくれるみたい。
「カ「カラスミパスタ、いちご味です。」
「カルボナーラ」と言おうとしたのに、咲夜に邪魔されてしまう。
それにしてもカラスミパスタ、いちご味って本当にある料理なんだろうか?
適当に考えて言っているんじゃないの?
「そう、聞いたことがない料理ね。」
お姉様がフォークでボロボロになったパスタを掬いながら口に運ぶ。
バリボリと、普段の食事では聞こえない咀嚼の音が部屋に響く。
「フラン、味見はしたの?」
手を止めず、お姉様が私に聞く。
いつもの柔和な声に少しだけ安心する。
味見か。
自分で作ったんだからするべきと思ったけど、食べたら量があまりにも少なくなってしまうからしていない。
「ううん、あまり作らなかったからしてない」
お姉様が全部食べ終え、フォークを置く。
「そう」
お姉様がお茶を飲み、一息つく。
なんとなく訪れた沈黙が重い。
まるで私は断罪を待つ宗教徒のようだ。
「不味いわね。まるで炭をストロベリージャムでデコレートして食べているようだったわ」
確かにそういうものだったと思う。
「フラン、味見はちゃんとしなくてはダメよ」
「うん、わかったよお姉様」
お姉様はちょっとだけ驚いた顔をして、微笑んだ。
ああ、私はこの笑顔を見たかったんだ。
「でも、嬉しかったわよフラン。フランが作った料理を食べられるなんて思わなかったもの。また、作ってくれると嬉しいわ」
ずるいわ。
そんな顔でいわれると、断われないじゃない。
「任せて、お姉様!今度はスコーンを作るから、一緒に食べましょうね」
「ええ、楽しみにしてるわ、フラン。」
「咲夜、頼みがあるのだけれど」
「なんでしょうか?」
「薬師に胃薬を頼んでるから、取りにいってきて頂戴。私は部屋で休んでおくわ」
「畏まりました」
朝、目を覚ましてお姉様の部屋に行ってみると、すでにお姉様はいなかった。
また神社にでも行っているかしら?
なんとなく逃げられた気がして気分が悪い。
とりあえずお姉様の真っ赤なルージュを使って帽子にキスマークをつけた。
見つけるのが咲夜であれ、お姉様であれ、一騒動起きるのは間違いない。
私を置き去りにした罰だ。せいぜい困惑するといい。
起きるだろう騒動を想像していると、お腹が鳴った。
そういえば、まだ食事をしていなかった。
咲夜に食事の用意をしてもらう。
用意されたメニューはママリガとサルマーレ、デザートにストロベリーのクラティーテ。
熱々のママリガとサルマーレの美味しそうな匂いはお腹を刺激して、ペロリと平らげてしまっていた。
「咲夜の料理はなんでこんなに美味しいの?」
クラティーテを頬張りながら、紅茶を淹れている咲夜に聞く。
「心を込めて作っているからですわ」
口の端についたストロベリージャムを咲夜が拭き取ってくれる。
「全部の料理に?」
紅茶を一口に飲む。
ジャムの甘さをダージリンの苦味が覆っていく。
「おいしい料理全てです」
ブルーベリージャムが目の前に置かれる。
「おいしくない料理は?」
ジャムを少し舐め、紅茶を飲む。
ちょうどいい甘さが口に広がる。
「愛情の空回りですわ」
咲夜が笑みを浮かべて答える。
ちょっとだけ、見惚れてしまった。
「なによ、それ」
ついつい笑ってしまう。
結局のところ、全部の料理に心が込められているじゃない。
「ね、咲夜」
「なんでしょうか?」
「どんな料理が一番簡単?」
料理は魔法みたいなものだと思う。
自分の思いを伝える魔法。
そこいらに住む人間や、弱き妖怪たちですら使える魔法。
パチュリーのような優秀な魔女ですらすぐには使えないほど難しい魔法。
そんな魔法を使ったら、あいつはどんな顔をするだろう?
不味いと罵るだろうか?
美味しいと称えるだろうか?
口にすらつけず、捨ててしまうだろうか?
お姉様の笑顔。
今まで私に向けられてきた嘲るような笑みじゃなく、本当の笑顔。
パチュリーが、美鈴が、咲夜が見ている笑顔。
その笑顔を見たい。
咲夜に教えてもらいながらカルボナーラを作る。
お姉様は小食だから、パスタは少しだけ。
ベーコンをカリカリに炒めて、クリームと牛乳を加えてひと煮立ち。
チーズを加え、パスタを絡めてブラックペッパーを少しだけ。
「でーきた!」
咲夜に助けてもらいながらだけど、上手く出来たと思う。
あとはこれをお姉様に食べてもらうだけ。
咲夜の私を呼ぶ声と、揺すられる身体によって目が覚める。
ここはキッチンで、目の前にはすっかり冷えたカルボナーラ。
表面から水分が蒸発し、すっかり硬くなっている。
ああ、そうだ。
カルボナーラを作ったあと、お姉様を待っている間に眠ってしまったのだった。
「フランドール様、お嬢様がお戻りになりました」
にっこり笑って悪魔の報告をする咲夜。
その笑顔は「さあ、お料理を」とでも伝えたいのだろう。
ふざけるなこの鬼畜メイドめ!
こんなに硬そうで、みるからに不味そうなもの、お姉様に出せるわけないじゃない!
生ゴミ入れに入れようと席を立ち、向かったところで咲夜が止める。
「フランドール様、そのように捨てられるのは力を使うことと同じですよ」
捨てるのも壊すのも同じということかしら?
成程、一理あるわ。
お姉様は私が力を使うのを好まない以上、このまま捨てるのも好まないかもしれない。
じゃあ、どうしようかしら?
とりあえず、暖めてみよう。
レーヴァテインを出し、皿ごと燃やす。
レーヴァテインを引っ込めると真っ黒に焦げたカルボナーラが出来上がっていた。
「さささささ、さくやどうしよう?!」
「え、えっと、とりあえず、味をつけましょう!」
「そ、そうね!ストロベリージャムでいいわよね?!」
「なんでもいいです!」
咲夜と一緒に真っ黒のカルボナーラにストロベリージャムをかけて混ぜ合わせる。
「よし、完成!持っていくわよ」
「はい!」
「あらフラン、どうしたの?」
執務室でお茶を飲んでいるお姉様。
凄く絵になっていて、軽く嫉妬してしまう。
「あのね、料理を作ってみたの」
ティーソーサと並べるようにカルボナーラとフォークを置く。
お姉様がカルボナーラを見つめる。
ああ、やっぱり怒られるかしら?
「見たことがない料理ね。なんて料理なの?」
お姉様がフォークを持ち、聞いてくる。
ああ、よかった。
食べてくれるみたい。
「カ「カラスミパスタ、いちご味です。」
「カルボナーラ」と言おうとしたのに、咲夜に邪魔されてしまう。
それにしてもカラスミパスタ、いちご味って本当にある料理なんだろうか?
適当に考えて言っているんじゃないの?
「そう、聞いたことがない料理ね。」
お姉様がフォークでボロボロになったパスタを掬いながら口に運ぶ。
バリボリと、普段の食事では聞こえない咀嚼の音が部屋に響く。
「フラン、味見はしたの?」
手を止めず、お姉様が私に聞く。
いつもの柔和な声に少しだけ安心する。
味見か。
自分で作ったんだからするべきと思ったけど、食べたら量があまりにも少なくなってしまうからしていない。
「ううん、あまり作らなかったからしてない」
お姉様が全部食べ終え、フォークを置く。
「そう」
お姉様がお茶を飲み、一息つく。
なんとなく訪れた沈黙が重い。
まるで私は断罪を待つ宗教徒のようだ。
「不味いわね。まるで炭をストロベリージャムでデコレートして食べているようだったわ」
確かにそういうものだったと思う。
「フラン、味見はちゃんとしなくてはダメよ」
「うん、わかったよお姉様」
お姉様はちょっとだけ驚いた顔をして、微笑んだ。
ああ、私はこの笑顔を見たかったんだ。
「でも、嬉しかったわよフラン。フランが作った料理を食べられるなんて思わなかったもの。また、作ってくれると嬉しいわ」
ずるいわ。
そんな顔でいわれると、断われないじゃない。
「任せて、お姉様!今度はスコーンを作るから、一緒に食べましょうね」
「ええ、楽しみにしてるわ、フラン。」
「咲夜、頼みがあるのだけれど」
「なんでしょうか?」
「薬師に胃薬を頼んでるから、取りにいってきて頂戴。私は部屋で休んでおくわ」
「畏まりました」
料理と呼べるかは疑問だが一番簡単なのは「焼きウインナー」だ!(ウインナーを切って焼くだけ)
カリスマだぁ
ごちそうさまでした
キャラクターが生き生きしていて読んでいて楽しかったです。