Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

虎と鼠の関係

2009/08/30 22:05:27
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「ナズーリン、その、今いいでしょうか」

大きな図体を申し訳なさそうに縮こまらせて、寅丸星がこちらを上目遣いで見つめてくる。
上目遣いといってもまぁ、元々の背丈の違いもあってそれには失敗しているのだが。

「どうしました? ご主人様」

返答がどこか呆れ気味の声色になったとしても、仕方のないことではないだろうか。


ナズーリンが星に声をかけられたのは、寺の中でも特に人気のない裏庭だ。
配下のネズミたちを集めるためにはそれなりの場所をとる。
それにまあ、ネズミなぞ見て心安らぐものではないのだから、周囲の目を慮って
ナズーリンはよく集合場所にこの人気のない裏庭を使用していた。
聖や他の者たちもそのことを知っているので、この場所には立ち入らないでいてくれる。

その場所に、つまるところの他人の目がないこの場所に、あえて足を踏み入れてきてこの態度だ。
用件など判りすぎるほどに判っている。


内心のうんざり気味な心持を隠しもせずに対応しているのに、予想通り、この鈍感な主人は気が付いていないらしい。
あー、だのうー、だの何度も言い澱んでいる。

「ご主人様」
「ぁー、その……っえ!? あ、はい」
「質問を変えましょう。今度は何を失くしたんです?」


その言葉に観念したのか、星はさらに身を縮こまらせて打ち明けた。


「……その、毘沙門天に頂いた経典を…」

どうやったらそんなものを失くすのか。

本当に呆れるしかない。
一度この主人の頭の中を覗いてみたいものだ。ずいぶんとお気楽なお花畑でも広がっているのだろう。


「まったく、どうしてそう頻繁に物を失くすんですか」
「う…、すみません」
「宝塔の件で、さすがに懲りてくださると思っていたんですが」
「ごめんなさい…」

虎の威厳など地の底に落としてゆく星の様子に、ついつい厭味を重ねてしまう。

「聖が聞いたらどれだけ呆れることか」
「あ、あの!」

それまでの様子とは違う、突然の大きな声に、ナズーリンはぱちくりと目を瞬かせた。
眉を八の字に曲げた大きな虎が、実に心細そうに声を紡ぐ。

「そのこと、聖には…」

ああ、なるほど。
敬愛する相手には、やはり良い面を見せていたいものらしい。
承知していたはずだが、言葉が過ぎたようだ。

「心配せずとも言いませんよ」
「そうですよね。すみません疑ってしまって」

ほっと胸を撫で下ろす星の顔には安堵のほかに、ナズーリンへの信頼が伺える。
その表情が、なんとも居心地悪い。
早々にここを立ち去ってしまいたくなって、ナズーリンは話を終わらせることにした。

「それを探してくればいいんですね」
「お願いされてくれますか!」

ぱっと顔を明るくさせる星に、ナズーリンは頷いた。

「ありがとう、ナズーリン」

心から嬉しそうに星が笑った。

「貴方がいてくれて助かります」

子供のように無邪気な笑顔だった。






ダウジングが指し示した場所は、随分と遠い場所だった。

肌身離さず持っているべき経典だ。せいぜい寺内のどこかだと思っていたのに。
いつものことだが、どうしてこうも斜め上なのか。


飛行を余儀なくされたナズーリンは、部下を引き連れて目的の場所へ向かっている最中だった。
手持ち無沙汰の思考は、自然と星のことを思い浮かべさせた。


(だいたい、何故『アレ』は私に弱みを打ち明けるのか)

ナズーリンは毘沙門天から派遣された、星の監視役だ。
星の言動の是非は、ナズーリンによって決められるといっても過言ではない。
つまり、本来であれば「誰よりも弱みを見せてはいけない相手」であるはずだ。

(だというのにあの虎は)

困ったことがあれば、必ずナズーリンに相談する。
他の誰にも打ち明けられない類の話でもだ。
むしろその類のもののほうが多い。

他のものには、特に聖には、良い格好しいだというのに。

(張子の虎もいいところだ)

その張子の修復の手伝いに、何度駆けずり回ったことか。


だがナズーリンの役目を「星に毘沙門天の代理を全うさせること」と解釈すれば
この関係もあながち間違いではないのかもしれない。

ないのかもしれないが、腹立たしいことに変わらない。

いっそ次の定期報告では「問題が見受けられないため、これ以上の監視の必要なし」とでも報告しようか。
そうすればこんな徒労とはおさらばだろう。
きっと清々するはずだ。




だがナズーリンは胸中で頭を振った。

判っている。
自分は結局、例年どおりの報告を行うのだろう。
可でも不可でもない、現状を維持させるような報告を。


まったく腹立たしい。




『貴方がいてくれて助かります』

こんな徒労を、あの笑顔ひとつで許してしまいそうになる、自分自身が何よりも腹立たしかった。
こんな関係だったら、俺が喜びます。


>>ALL
うぉぉ!? 予想以上のコメ数ありがとうございます!!
溢れ出る妄想を形にして勢いのまま投稿したはいいけど小心者なせいで数日怖くて逃げてた俺歓喜!!!
「もっと読みたい」とのコメントに調子に乗って、次作をあげました。
よければ読んでやってください。
サバトラ
http://sabatiger.blog119.fc2.com/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
俺も喜ぶ、誰だって喜ぶ
2.名前が無い程度の能力削除
俺も大喜び!
3.名前が無い程度の能力削除
お、俺だって喜ぶ!
4.名前が無い程度の能力削除
負けるものか!俺だって喜ぶよ!
っていうか星さんかわええ
5.名前が無い程度の能力削除
こんな関係だったら、ひたすら床を転げ回って悶絶し続けます
6.名前が無い程度の能力削除
俺はうれしい
7.名前が無い程度の能力削除
これは喜ばざるを得ない。
8.名前が無い程度の能力削除
俺大・歓・喜
9.名前が無い程度の能力削除
喜ぶしかないでしょ。
10.名前が無い程度の能力削除
『貴方がいてくれて助かります』
こんなセリフを言われてしまったら・・・www

みなさんが喜ぶw
11.名前が無い程度の能力削除
星さん可愛すぎ。
こんな関係、大好きです。
12.てるる削除
俺はもう本望だ・・・
13.名前が無い程度の能力削除
星の口調がツボすぎる。
みんな大歓喜。
14.名前が無い程度の能力削除
もう星さんがすっかりうっかりキャラにw
喜ぶ、最高です。
15.名前が無い程度の能力削除
>ずいぶんとお気楽なお花畑でも広がっているのだろう。
コンパロコンパロ言ってる星さんを想像して俺はさらに喜ぶ
16.名前が無い程度の能力削除
ちょっと気弱な星さんがいい。喜ぶよ!
17.非共有物理対削除
なずりんと星がちゅっちゅしてれば世界って幸せなんじゃね?
と本気で思ってます。
18.名前が無い程度の能力削除
なにこのナズ星、めちゃくちゃ愛らしいんですけど
いやー素晴らしい、こんな素晴らしい話はもっと書かれるべきだ

さあ、早く命蓮寺組の話を書く作業に戻るんだ!
19.名前が無い程度の能力削除
よし、もっと星ナズするんだ!!
20.名前が無い程度の能力削除
ちょ、って事は千年以上こんな関係続けてるってことですかい?

ちゅっちゅしちまえよお前等!
21.名前が無い程度の能力削除
これは喜ばざるをえないw
22.名前が無い程度の能力削除
あまりの星の可愛さに3回読み返してしまった
これは全力で喜ばざるを得ないな

しかしこの話だとナズーリン→星→白蓮になっててナズーリンが可哀そうだよな
ということで作者はもっとナズ星SSを書くべき!!
23.名前が無い程度の能力削除
氏のナズ星をもっと読みたいと心から思った!
うっかり星さんかわいいよ!
24.名前が無い程度の能力削除
奴らは喜ぶ。俺も喜ぶ。
25.名前が無い程度の能力削除
星ナズは天下の宝塔!
俺に良し、お前に良し、皆に良し!
26.名前が無い程度の能力削除
みんな喜ぶ、みんな幸せ、世界は平和
27.名前が無い程度の能力削除
俺だって喜ぶ。誰だって喜ぶ。みんな喜ぶ。