「ナズーリン、その、今いいでしょうか」
大きな図体を申し訳なさそうに縮こまらせて、寅丸星がこちらを上目遣いで見つめてくる。
上目遣いといってもまぁ、元々の背丈の違いもあってそれには失敗しているのだが。
「どうしました? ご主人様」
返答がどこか呆れ気味の声色になったとしても、仕方のないことではないだろうか。
ナズーリンが星に声をかけられたのは、寺の中でも特に人気のない裏庭だ。
配下のネズミたちを集めるためにはそれなりの場所をとる。
それにまあ、ネズミなぞ見て心安らぐものではないのだから、周囲の目を慮って
ナズーリンはよく集合場所にこの人気のない裏庭を使用していた。
聖や他の者たちもそのことを知っているので、この場所には立ち入らないでいてくれる。
その場所に、つまるところの他人の目がないこの場所に、あえて足を踏み入れてきてこの態度だ。
用件など判りすぎるほどに判っている。
内心のうんざり気味な心持を隠しもせずに対応しているのに、予想通り、この鈍感な主人は気が付いていないらしい。
あー、だのうー、だの何度も言い澱んでいる。
「ご主人様」
「ぁー、その……っえ!? あ、はい」
「質問を変えましょう。今度は何を失くしたんです?」
その言葉に観念したのか、星はさらに身を縮こまらせて打ち明けた。
「……その、毘沙門天に頂いた経典を…」
どうやったらそんなものを失くすのか。
本当に呆れるしかない。
一度この主人の頭の中を覗いてみたいものだ。ずいぶんとお気楽なお花畑でも広がっているのだろう。
「まったく、どうしてそう頻繁に物を失くすんですか」
「う…、すみません」
「宝塔の件で、さすがに懲りてくださると思っていたんですが」
「ごめんなさい…」
虎の威厳など地の底に落としてゆく星の様子に、ついつい厭味を重ねてしまう。
「聖が聞いたらどれだけ呆れることか」
「あ、あの!」
それまでの様子とは違う、突然の大きな声に、ナズーリンはぱちくりと目を瞬かせた。
眉を八の字に曲げた大きな虎が、実に心細そうに声を紡ぐ。
「そのこと、聖には…」
ああ、なるほど。
敬愛する相手には、やはり良い面を見せていたいものらしい。
承知していたはずだが、言葉が過ぎたようだ。
「心配せずとも言いませんよ」
「そうですよね。すみません疑ってしまって」
ほっと胸を撫で下ろす星の顔には安堵のほかに、ナズーリンへの信頼が伺える。
その表情が、なんとも居心地悪い。
早々にここを立ち去ってしまいたくなって、ナズーリンは話を終わらせることにした。
「それを探してくればいいんですね」
「お願いされてくれますか!」
ぱっと顔を明るくさせる星に、ナズーリンは頷いた。
「ありがとう、ナズーリン」
心から嬉しそうに星が笑った。
「貴方がいてくれて助かります」
子供のように無邪気な笑顔だった。
ダウジングが指し示した場所は、随分と遠い場所だった。
肌身離さず持っているべき経典だ。せいぜい寺内のどこかだと思っていたのに。
いつものことだが、どうしてこうも斜め上なのか。
飛行を余儀なくされたナズーリンは、部下を引き連れて目的の場所へ向かっている最中だった。
手持ち無沙汰の思考は、自然と星のことを思い浮かべさせた。
(だいたい、何故『アレ』は私に弱みを打ち明けるのか)
ナズーリンは毘沙門天から派遣された、星の監視役だ。
星の言動の是非は、ナズーリンによって決められるといっても過言ではない。
つまり、本来であれば「誰よりも弱みを見せてはいけない相手」であるはずだ。
(だというのにあの虎は)
困ったことがあれば、必ずナズーリンに相談する。
他の誰にも打ち明けられない類の話でもだ。
むしろその類のもののほうが多い。
他のものには、特に聖には、良い格好しいだというのに。
(張子の虎もいいところだ)
その張子の修復の手伝いに、何度駆けずり回ったことか。
だがナズーリンの役目を「星に毘沙門天の代理を全うさせること」と解釈すれば
この関係もあながち間違いではないのかもしれない。
ないのかもしれないが、腹立たしいことに変わらない。
いっそ次の定期報告では「問題が見受けられないため、これ以上の監視の必要なし」とでも報告しようか。
そうすればこんな徒労とはおさらばだろう。
きっと清々するはずだ。
だがナズーリンは胸中で頭を振った。
判っている。
自分は結局、例年どおりの報告を行うのだろう。
可でも不可でもない、現状を維持させるような報告を。
まったく腹立たしい。
『貴方がいてくれて助かります』
こんな徒労を、あの笑顔ひとつで許してしまいそうになる、自分自身が何よりも腹立たしかった。
っていうか星さんかわええ
こんなセリフを言われてしまったら・・・www
みなさんが喜ぶw
こんな関係、大好きです。
みんな大歓喜。
喜ぶ、最高です。
コンパロコンパロ言ってる星さんを想像して俺はさらに喜ぶ
と本気で思ってます。
いやー素晴らしい、こんな素晴らしい話はもっと書かれるべきだ
さあ、早く命蓮寺組の話を書く作業に戻るんだ!
ちゅっちゅしちまえよお前等!
これは全力で喜ばざるを得ないな
しかしこの話だとナズーリン→星→白蓮になっててナズーリンが可哀そうだよな
ということで作者はもっとナズ星SSを書くべき!!
うっかり星さんかわいいよ!
俺に良し、お前に良し、皆に良し!