題名通り、永琳と慧音がキャッキャウフフしています。
つまり百合ん百合んです。苦手な方はここでUターンお願いします。
迷いの竹林の奥深くに佇む永遠亭。
その広大な屋敷のまた奥にある部屋の前で、女性が座っていた。
絹のような白い髪を、後ろで大きく三つ編みのように束ねている。
頭の上には、彼女特有の青いナースキャップ。
「入っても宜しいでしょうか?」
永琳は畏まった調子で、襖の外から声をかける。
「どうぞ」
部屋の中から芯の通った声が聞こえる。
永琳は少し腰を上げ、軽く膝立ちで襖を開いた。
中にいるのは長い黒髪をたゆたわせた少女。座布団の上で膝を折り、微かに笑んでいた。
「失礼します」
頭を下げて、敷居を跨ぐ。開けたときと同じように、両手で襖を閉めた。
輝夜の前に移動して、再び正座。
「どうしたの? 突然畏まっちゃって」
先に声を出したのは輝夜だった。
そう言う彼女も、永琳の態度を察してか、背筋を伸ばして座っている。
元より主従関係の二人だが、幾年も共に生きてきた身、友人と言った意味合いの方が強い。
だから地上に来てからは、余程のことが無い限りこんな状況になることはなかった。
「姫にお願いがございまして」
「あなたが? 珍しいわね」
輝夜は心底驚いたように目を丸くする。
それでも崩れない雰囲気は、流石生粋の姫と言ったところか。
「お願いは姫の特技ですからね」
「私のお願いに応えられるのはあなたぐらいよ」
戯れの言葉を交わし、揃って笑みを浮かべる。
輝夜は同時に安堵した。あまりにも悪い話ならば、こんな会話も出来ないだろうから。
「それで、永琳のお願いは何かしら? あまり難しくなければいいのだけれど……」
お遊びが脱線しすぎても困るので、本題に入った。
と、その言葉を受けて永琳は顔を逸らす。珍しいことだ。
輝夜は少し慌てるが、よく見れば永琳の頬がうっすら染まっている。
最近の永琳がこんな表情をするのは、アレ関係だけだ。
「あら、どうしたの? 熱でもある?」
あり得もしないことを言ってからかう。
普段は何でも見透かされてしまって嵌めることすら出来ないが、こうなるともう年端もいかぬ少女と同じだ。
輝夜はいつもの仕返しとばかりにまた口を開いた
「お!」
のだが、先に音を出したのは永琳だった。
たった一文字なので言葉とは言えない。
珍しく永琳が言葉を荒げたので、輝夜は目を瞬かせた。
しかし、すぐに永琳の意図を理解する。下手に弁解して更にからかわれるより、話を進めようとしたのだろう。
「お?」
促す。
「お、お弁当を……」
理解した。
続けて話そうとする永琳だが、既に立ち上がって部屋を出ようとする輝夜に言葉を躊躇う。
「か、輝夜?」
かなり緊張したのだろうか、いつもの呼び方に戻っていた。
普通に教えてくれと言えば良いのに。本当に甘え下手だ。
輝夜は永琳に背を向けたまま苦笑した。
「つまりあなたのお願いは、慧音に愛情たっぷりのお弁当を持っていきたいけど、作り方が分からないから教えて欲しい、ってことね」
「い、いや……! あの、はい……」
可愛い反応を見せる永琳を愛おしむと同時に、彼女のこんな表情を引き出せる慧音を少し輝夜は羨ましく思った。
そして、自分の想い人ならどうだろうと考える。今からかっているのがあの子なら、本当の意味で顔から火が出るのだろう。
想像して、少し頬を緩める。
分かりやすい反応を返してくれるだろうことは、想像に難くない。
「輝夜……?」
不安が入り交じった声が名前を呼ぶ。
永琳からは表情を伺うことは出来ないので、どうすればいいか分からないのだろう。
輝夜は襖に手を掛ける。
「早く作り始めないとお昼になってしまうわ」
振り返って、屈託のない笑みを浮かべた。
**********
「あ、あの、別に今日持って行かなくても……」
「大丈夫。凄く上手く出来てるわ。美味しそう」
頬をうっすらと赤く染めて心配そうに眉を下げている永琳。
残念ながら、見つめる先は弁当箱。その表情のまま上目遣いでなんか見られたら卒倒するか速攻するだろう。
……そうじゃなくて。
「慧音にあげないんだったら、誰にあげるつもりなの?」
「……食べる?」
差し出される弁当。輝夜は笑った。表情は、ない。
言った永琳本人も内心焦っているようで、苦笑いを浮かべていた。
重くも軽くもない沈黙の後は、
「私が食べてどうするのよ!」
鮮やかなツッコミだった。
「だって、形も味も……」
永琳が弁当を見ながら言い訳タイムに入り始めようとした。
「慧音が初めて作ったお弁当があります」
そんな永琳を三日前くらいに置き去りにして、輝夜は突然語り始めた。
「そういえば、普段は恋人らしいことなんてしていないと気付いた慧音。
いつも頑張っている永琳にお礼と託つけて、『はい、あ~ん』なんてこと出来たらいいなぁ……なんて作ったは良かった!」
輝夜は大きな動きと表情を絡めながら熱弁を振るう。ここが舞台で客席があったなら、さながら歌劇だろう。
「少しばかり力が入りすぎたのか、永琳に食べてもらうと思うと緊張したのか、上手くできなかった!」
始めは目をパチクリさせていた永琳だが、その語りに同調し始めたのか、同じようにどこか遠くを見つめた。
決して劇場ではないのだが。
「そういえば、自分で持っていく弁当はいつも塩おにぎりとかで、ちゃんと作ったことなかったなぁ……。
料理は普通に出来るからと言って弁当を甘く見ていたか……やっぱり弁当の卵焼きは甘い方がいいなぁと、慧音はがっくりと肩を落とした」
輝夜は語りに合わせて大きく肩を落とした。
ちなみに卵焼きが甘いかしょっぱいかは全く関係ない。
「好きな人に食べてもらうんだ! 妥協は出来ない! じゃあこの弁当はどうするか?
どうせだったら自分で食べるより人に食べてもらって意見を聞いた方がいいかもしれない。
そうだ! 妹紅に食べて貰って感想を聞こう! ということで慧音のハ・ジ・メ・テ(の弁当)は妹紅(の口)に「だ、だめよっ!」」
静止の声をかけられて、輝夜は妄想語りを止めて永琳の方へ振り返る。
思わず叫んでしまったらしく、永琳は自分の口を押さえていた。顔は先程の比ではないくらい赤い。
何この乙女。
「今永琳が思っていることを慧音も思うはずよ」
朱を差したまま、永琳はやっと気がついたように輝夜を見やる。
そんな彼女に微笑むと、気まずそうに苦笑で返された。
「さて、私は妹紅のところへ行くわ。あなたは?」
「私も出かけますわ」
声色を聞いて視線を移すと、いつもの穏やかな表情が戻っていた。
……もう少しからかっておきたかったのだが。
輝夜は残念そうに、ため息を一つ吐いた。
**********
半刻後、永琳は人里の水田に向かっていた。
寺子屋は今日休みだと聞いていたので、まずは慧音の家に向かったのだが、不在。
どうしようかと考えていると、近くで遊んでいた子供達がここにいると教えてくれたのだ。
慧音のことだ、暇だから手伝う、のようなことを言ったのだろう。
永琳は想像して、不満に感じた。
彼女らしいと言えば彼女らしいのだが、もう少し考えて欲しい。
考えている間に、水田に着いた。
久しぶりに見た広い田んぼを見回して、その姿を探す。と、三つ先にそれらしき人影を見つけた。
遠目で分かりにくいが、服装はいつもと違うようだ。農作業をするのだから、当たり前か。
流石にこちらには気付いていない。声を張るのもらしくないので、とりあえずあぜ道に入って出来るだけ近づいた。
長い髪は無造作に纏め上げられている。いつもの帽子も被っていない。
珍しく見る姿は印象深くなる。
たまにはああいう慧音もいいかもしれない。ポニーテールとかも似合いそう。
そう思いながら歩いていると、ふとした拍子に目があった。
慧音はこちらに気付くと、屈んでいた身体を起こして笑顔で手を振ってくる。
……のはいいのだが、手が泥だらけだから……やっぱり顔にも飛んだらしい。
何だか微笑ましくて、永琳は頬を緩めた。
「大丈夫?」
水田から上がって来た慧音に声をかける。
「ああ、なんとか……ぺっ」
口の中にも入ったのか、苦虫を噛みつぶしたようか顔をして舌を出している。
渋面をしているというのに、何だか可愛い。子供っぽい仕草が庇護欲をそそるというか。
「まだ顔についてるわよ」
永琳は苦笑しながらハンカチを取り出した。
「大丈夫だ。汚す必要はない」
慧音は慌てて首にかけていた手ぬぐいで顔を拭こうとした。
人のハンカチを汚すことを躊躇ったのだろう。
しかし、その手は永琳の手によって遮られた。
「手が泥塗れなんだから、余計汚れるわよ」
幼子に言い聞かせるような穏やかな口調に、慧音は不服そうに口をへの字に曲げながらも大人しく従った。
普段は寺子屋で子供達を相手にしてる教師だが、こう見ると本当に子供のようだ。
悪戯心が沸いて、頬を軽く引っ張った。
「は、はんだ?ひゅうに」
引っ張られた所為で舌足らずに聞いてくる。
きょとんとした顔がまた愛おしい。
「可愛いな、って思っただけよ」
慧音は焼けた鉄板に水滴を落としたかのごとく、一瞬で真っ赤になって湯気を出した。
「か、可愛いとか」
咳払いをするように手を口許に持っていって、顔を背ける。
初々しい反応。
輝夜も昔は少しからかっただけでこんな風になっていた。
何十年も一緒にいたら、慧音も簡単にからかえなくなるのだろうか。
……いや、慧音はきっとこのままだろう。理由はないが、何となくそう思えた。
コホンと一つ咳払いが聞こえて、永琳の意識が慧音の方を向く。
「それで、どうしたんだ?」
まだ頬に若干熱を残しながら、慧音は永琳を見上げた。
永琳は心の中で眉を顰める。
恋人なのに、一緒にいるのに用事がいるのだろうか。
無自覚にそう思っている慧音が、永琳には不服だ。
「あなたにお弁当作ってきたのよ」
永琳は持っていた包みに視線を落とす。
慧音は意外そうに永琳を見た。
「どうしたの?」
「その、こういうのは珍しいと思って」
珍しい、か。
それどころか、慧音からは最初の一回以外に一度もアプローチがない気がする。
慧音自身、それには気付いていないだろう。そして、気付かせなければこんな関係が続くことだろう。
それはなんだか寂しい。
「そうね。それで、お昼は食べたの?」
「いや、まだだが……」
狼狽える慧音。表情は変えない永琳。
既に弁当を作ってきている。食事に誘われている。幾つかパターンがある。
予告無しに持ってきたのだから、仕方ないだろう。
「慧音が持ってきたのだったら、私が貰うけど」
「いや、違うんだが……」
はっきりしない。優しいのか、優柔不断なのか。
堅物の歴史家は存外柔らかくなったらしい。
「じゃあ、田植えを手伝ってくれたお礼に誘われているとか?」
歯切れが悪い慧音の言葉を待つより、はいかいいえで応えられる質問をした方が早い。
問うと、ビクリと肩が揺れた。
まるで浮気がばれた時のようだ。慧音にそんな甲斐性は無いと思うが。良い意味で。
「ああ」
眉を下げる。でも、この顔は私を断ろうとしているのではなく、相手をどうやって断るか考えているようだ。
「大丈夫よ」
永琳が慧音の一人分後ろに目を向けながら微笑む。
慧音は不思議そうに永琳の視線を追う。と、慧音の後ろには面白そうに笑う一人の若い女性。
「慧音先生、話は聞きましたよ」
「なななななな」
別に二十一ではない。
先生と呼んだということは、教え子だったのだろうか。
とにかく、当たりを引いたようだ。
「母には話しておくので、お昼はお二人でどうぞ」
「ありがとう」
完全に止まっている慧音に替わって礼を述べる。
「いえいえ。では、ごゆっくり~」
その女性は二人に会釈して、小走りで去っていった。
彼女の背は悪戯をした後に逃げ出すてゐに似ていたような気がした。
慧音を見ると、魚のように口をパクパクしている。
「ね、大丈夫でしょ?」
永琳は慧音を横から覗き込む。
しかし、反応はない。こちらを向かせる方法はいくつかあるが……やったことのないことをしてみようか。
「慧音」
朗々と。しかし淡々と。
気抜けした慧音を振り向かせる程度の声量で名前を呼んだ。
こうすれば、いつもと雰囲気が違うことぐらいには気付くだろう。
「泥を落としてきて。私は……そこで待っているから」
「あ、ああ」
一巡してから木陰を指差す。
慧音は予想通りに戸惑いながらも頷くと、その場を離れた。
**********
怒っている。
それだけは何となく分かったが、理由が分からない。
慧音は手足の泥を落としながら、ちらりと永琳の方を見た。
水場から木陰は離れていて、ここからでは立っているか座っているかくらいしか見分けられない。
今までにこんな事が無かった訳ではない。
そして私はいつも理由が分からない。だが、永琳は理不尽に怒ったりしない。確実に私に非があるのだ。
よく鈍感と言われるので、何か見落としてないかとやり取りを思い返してみるが、掠りもしない。
来る前から怒っていた?いや、手を振った時点では含みなく笑っていた。
やはり弁当を素直に受け取らなかったからだろうか。無論、断るつもりは無かった。
ただ初めてのことで頭が回らなかっただけだ。よく考えれば、断るようなそぶりに見えたかもしれない。
しかし、こんなことで永琳が怒るとも思えない。
考えれば考えるほど思考が紛糾する。
慧音は、洗い終わって濡れた手のままに両頬を叩いた。
分からないなら本人に聞くまで。案ずるより産むが易し、百考は一聞に如かずだ。
本気で混乱してしまっている慧音は、よく分からない気合いを入れて永琳の方へ向かった。
永琳は汚れないように手ぬぐいを敷いてそこに座っていた。
私の方を見て笑っている……が、笑顔が怖い。
「ま、待たせた」
隣に腰掛けようとすると、もう一枚手ぬぐいがしいてあった。
ここに座れということだろうが、なんなんだろう、この微妙な隙間は。
「どうぞ」
にっこり笑顔で促す永琳。
これはどういうことなのか。怒っているからこれ以上近づくなということか。それとも、ずらして寄ってこいということか。
こんな風に笑う永琳は、きっと何か謎掛けをしている。
正解ならきっといつも通り接してくれるだろうし、ハズレなら何も言わずに食事のあと帰ってしまうだろう。
落ち着け私。
ほんの数秒動作が止まった慧音だったが、
結果、手ぬぐいを拾った。
「汚れてもいい服だから大丈夫だ」
そう言って手ぬぐいを返し、それがあった位置とほぼ変わらない場所に座った。
確実に正解ではない。でも間違いでもない感じにしてみた。
我ながら意気地無しだなぁと、なんだか虚しくなる。
横目で顔色を伺うと、やはり笑いを含まない笑みを浮かべている。
降参だった。
「何か悪いことをしたなら謝る。お願いだからそんな風に笑うのはやめてくれ」
「嫌よ」
思いもよらない台詞に、慧音は面食らった。
「少しは自分で考えて」
「十分考えたんだが」
「答えがでないのなら不十分だということよ」
珍しく、言葉に分かりやすい刺があった。
はい、と手渡された包み。慧音は口を固く閉ざしたまま受け取った。
「初めて作ったから、保証はしないわ」
考えあぐねてへの字な口が、ポカンと開いた。
「食事、作ったことないのか?」
「研究以外のことは結構おざなりだったから」
表情が変わって、照れたように笑った。
そんな雰囲気では無いはずなのだが、胸が高鳴る。
「そう、か」
さっきからまともに話せていないような気がする。
顔を上げるのが恥ずかしくて、慧音は膝の上の弁当の包みを開けにかかった。
現れた中身は唐揚げ、卵焼き、ポテトサラダとプチトマト。下の段にはシンプルにのり弁。
切り方が目立つが、はっきり言って初めての出来ではない。やはり天才は天才か。
永遠亭が和なので、和風テイストなのかと思いきや洋風、というか王道だ。若干対象年齢が低めな気がするが。
「ちょっと子供っぽいと思ったんだけど……姫がこれにしようと」
言い訳に聞こえるが、恥ずかしさを紛らわす為に口走っているだけだろう。
既に照れきっている慧音は、妙に冷静に考える。
正直、本当に幼めだが、この弁当は初心者向けだ。
味付けもシンプルで、下手に手を加えずに出来る為、激しくひどいことにはならない。
和食の場合、過程が多くて、一つの失敗でまずいものになるかもしれない。
これを作ろうと言った輝夜は賢いなぁと思いつつ、慧音は段々余裕を持ってきた。
隣を見ると、ついさっきの自分と同じように俯く永琳。
可愛い……と思うと同時に、チャンスだと思った。普段からからかわれっぱなしなのだ。
仕返しとまでは言わないが、ちょっと悪戯をしてもいいだろう。
先程までは考え倦ねていたが、折角の好機を逃す手はない。今は後回しでも良いだろう。
「いただきます」
ついていた箸を取り出して、手を合わせる。
視線を感じるのは、平静を保とうとしながらも反応が気になるからだろう。
とりあえずおかずに手を付ける。
「……おいしい」
世辞ではなく美味しかった。ちょっと固くて焦げ目があるが、気にならない。
「しかし、想像できないなぁ」
不思議そうにこちらを見る永琳。慧音は続けた。
「永琳が四苦八苦しながら卵焼きを焼く姿は」
「そうかしら?」
妙な違和感を感じる。
言われて恥ずかしい言葉に部類されると思うのだが、永琳はさっきよりも慌てていないような気がする。
「今度は一緒に何か作るか。それでどこか……」
慧音はハッと顔を上げる。
突然つじつまが合った気がして、永琳を見ると、してやったりな笑顔を浮かべていた。
やられた。
調子に乗らせたのはわざと。永琳は自分から誘ってくれるのを待っていたのだ。
そういえば、恋人になったというのに会う機会は知り合い程度だった。
思い返せば、誘ってくれるのに乗る形ばかりだったような気がする。
「慧音?」
笑っている。促してくれている。
慧音は大きく息を吸い込んで、吐いた。
そして、永琳の目をしっかりと見据える。
「今度一緒に出掛けよう。……ふ、二人で」
折角言ったのに結局吃ってしまった。
もう自棄だと言わんばかりに、弁当を支えて思い切り近づいた。
「いいわよ?」
小首を傾げて、慧音を覗く。いつも見上げてばかりなので、かなり新鮮だった。
「さっきから真っ赤になってばかりね」
くすくすと笑われて、慧音は顔に手を当てて隠す。
一枚どころか十枚は上の永琳を嵌めるのは容易なことではない。
この場でキスでもしてみれば慌てるだろうか。
思考回路が焼き切れてしまった慧音の行動は、大胆になっていた。
「永琳」
声が平淡過ぎて、永琳は行動をピタッと止めて、慧音を見る。
その後は一瞬だった。
永琳が口許に当てていた手を強めに引っ張る。
抵抗なく前傾になる身体。
唇に暖かい感触。
予想外のことに今度は永琳の動きが止まった。
「慧音?」
「したくなったから、しただけ、だ」
永琳は目を丸くした。しかし、それもすぐに笑みに戻る。
「慧音」
またからかわれるのだろうかと警戒して振り向く慧音。
だが、永琳は予想を反した表情をしていた。
「大好きよ」
まるで生娘のように照れながら、笑っていた。
見惚れる、とはこのことなのだろう。頭のどこか冷静な部分がそう思った。
「わ、私も、好き……だ……」
「好き?」
「大好きだ。その……惚れている」
分かっている癖に。これが惚れた弱みというやつか。
しかし、別段嫌ではないし、それでもいいと思える。
私は彼女に、所謂ゾッコンというやつなのだろう。
「それで、どこに行こうか?」
尋ねるが、永琳は慧音の膝の上にある弁当に手を伸ばす。
「その話は後にしましょう」
慧音は訝しげにしながらも、されるがままに弁当を奪われた。
「今は感想を聞かせてほしいわ」
永琳は箸で唐揚げを摘むと、お決まりの台詞を口にする。
「はい、あ~ん」
一度身を引くが、素直に口を開けた。
「あ、あ~ん」
「美味しい?」
慧音は降参という意味を込めて苦笑した。
「美味しいよ。今まで食べた中で一番の味だ」
……やっぱり、一度くらい見返したいな。
そう思いながら、慧音は口に運ばれたものを再び咀嚼した。
終
えりけね良いですよね、大好きです。凄くマイナーな気がするけど…
馴れ初めを書く作業頑張ってください。期待してます。
かぐもこは更に怒濤のちゅっちゅタイムに入るが良いですー。
次回の御話に当社比350%程度のきゃっきゃうふふを勝手ながら期待してお待ち致しますです。
それではあっちで待ってます