「たまにはアリスを泣かせてみようと思う」
魔理沙は神妙な面持ちで切り出した。
「はあ」
霊夢は心底どーでもよさそうに相槌を打った。
だが魔理沙は構わず続ける。
「こうもあいつに泣かされてばっかりだと、私の気が済まん」
「へぇ、そんなにアリスに泣かされてたんだ。まあ泣き虫だもんねあんた」
ずず、とお茶を啜りながら言う霊夢。
すると、魔理沙は少しムッとした表情になった。
「……私は泣き虫じゃない」
「何言ってんのよ。ちょっといじめられたらすぐ泣くくせに」
そう言って、霊夢は魔理沙のおでこを軽くつっつく。
「……そんなことない」
そう言いながら、つっつかれたおでこを両手で押さえる魔理沙だが、もう既に泣きそうである。
やれやれ、ここで泣かれるとまた面倒なことになる。
そう思った霊夢は、はあと溜め息をひとつ吐くと、とりあえず話を戻すことにした。
「……で、どうやって泣かせるわけ? アリスを」
「それを今、考えてるところなんだ」
「そう。まあ精々頑張んなさいな」
あのアリスがそう簡単に泣くとは思えないけど、と霊夢は心の中で付け加える。
「……ところでお前、なんかいい案ないか」
いきなり他力かよ、と思わず霊夢はツッコんだ。心の中で。
「……そうね。安直だけど、死んだフリをするとか」
「それは駄目だ。そのネタはもうアリスに何回もやられた。つい最近も」
「あら。って……何回もやられてるってことは、あんたまさか、毎回引っかかって、毎回泣いちゃってるわけ?」
「…………」
魔理沙は何も言わず、下唇をきゅっと噛んで俯いてしまった。
いかん、この流れはいかんぞ。
霊夢はちょっと焦ってきた。
「じゃ、じゃあこういうのはどうかしら」
「……なんだ?」
「アリスに、『お前のことなんか嫌いだ。もう私に近付くな』とか言ってみるの。これは効くんじゃないかしら」
「…………」
魔理沙はふと考える。
もしそれと同じ台詞を、自分がアリスに言われたらどうであろうか、と。
少女想像中...
――よう、アリス!
いつものように、アリスに声を掛ける魔理沙。
――…………。
しかし、それに対するアリスの反応は、無言。
感情のこもっていない、冷たい視線を向けてくるのみ。
――ど、どうしたんだよ、アリス。
普段と違うその態度に、慌てる魔理沙。
するとアリスは、はあ、と大げさに溜め息を吐き、冷淡な口調で言った。
――私、魔理沙のこと嫌いなのよ。もう近付かないでくれる?
「――――うぅっ」
その瞬間、ドバッと、魔理沙の両目から大粒の涙が溢れた。
「え!? ちょ、なな何で!?」
いきなり泣き出した親友の姿に狼狽する霊夢。
「お、おまえが、へんなこと、いうからだろぉ……」
ドバドバ涙を流しながら魔理沙は言う。
え? 私、そんな酷いこと言ったっけ??
ものっそ焦る霊夢。
「えっと、その、ご、ごめん」
訳が分からなかったが、霊夢はとりあえず謝ることにした。
そうすることが、魔理沙が泣いた場合に最も有効であることを、霊夢は経験則で知っていた。
「うぅ……うううう」
「あああ、魔理沙、落ち着きなさい。ホラ、お茶もあるわよ。あったかいわよ。ね?」
「うぅ……ずずっ……ぬるい……」
そんなこんなで霊夢がなだめること十五分、魔理沙はようやく泣き止んだ。
「……これは……効くな……ぐすっ」
まだ赤い目をした魔理沙が、鼻をすすりながら言う。
「まあ、まさかあんたに効くとは思わなかったけどね……」
半笑いを浮かべながら、答える霊夢。
魔理沙は暫く下を向いていたが、やがて意を決したように顔を上げると、霊夢の方に向き直り、言った。
「……ありがとう。霊夢」
「へ? あ、ああ」
いきなり真顔で礼を言われ、キョトンとする霊夢。
しかし魔理沙は、真剣な表情のまま、続けた。
「私……これでアリスを泣かせてみせる」
「そ、そう。まあ、頑張って」
「おう! それじゃ、早速行って来る」
「ええ。気をつけて」
魔理沙は箒に跨り、一気に飛び去っていった。
霊夢は、魔理沙に思いっきり負けフラグが立っているような気がしたが、あえて気付かないフリをすることにした。
――それから、約三十分後。
ここは魔法の森にある、アリスの家。
「どうしたの? 急にやってきて」
「…………」
アリスは紅茶を出しながら、魔理沙に声を掛ける。
しかし、魔理沙はなぜか、何も言わない。
さっきいきなりやってきたかと思えば、ずっとこんな調子だ。
一体何があったのだろう。
アリスは不審に思う。
「魔理沙。何か悩みでもあるの?」
「…………」
いつになく優しい口調で問い掛けるアリス。
対する魔理沙は、未だ無言のまま。
さてどうしたものかしら、とアリスが天井を仰ぎ始めた頃、
「……アリス」
ようやく魔理沙が口を開いた。
「何? 魔理沙」
アリスはすぐに言葉を返す。
「……あの、な」
「うん」
魔理沙はゴクリと息を呑む。
大丈夫、大丈夫だ。
神社から此処に来るまでの間、何回もイメージトレーニングをした。
ほんのちょっと、いつもの仕返しをしてやるだけだ。
――お前のことなんか嫌いだ。もう私に近付くな。
一言。
たった一言、そう言うだけ。
ただ、それだけのことだ。
アリスが泣いたら、ごめんごめんと謝ればいい。
いつも、アリスがそうしているように。
「……魔理沙?」
不安そうな目で、アリスが魔理沙の顔を覗き込んでくる。
魔理沙は思わず、視線を横に逸らした。
アリスの顔を見ていると、言えないような気がしたからだ。
――よし。
言うぞ。
言う……。
魔理沙が覚悟を決め、例の言葉を喉元まで引っ張り上げてきた、そのとき。
……不意に、魔理沙は考えた。
――でも、もしこれで、アリスが泣かなかったら?
――それどころか、自分が想像すらしていないような返事が、返ってきたら?
そう、たとえば……。
少女想像中...
――お前のことなんか嫌いだ。もう私に近付くな。
魔理沙は、アリスの顔を見ないようにしながら、今まで一度も出したことのない、冷たい声で言い放った。
――…………。
しかし、それに対するアリスの反応は、無言。
感情のこもっていない、冷たい視線を向けてくるのみ。
――あ、アリス……?
普段と違うその態度に、慌てる魔理沙。
やがてアリスは、口元を歪めてふっと笑うと、冷淡な口調で言った。
――そう。ちょうどよかったわ。
――え……?
魔理沙の心臓が、きりりと痛む。
アリスは歪な笑みを浮かべたまま、言った。
――私も魔理沙のこと、嫌いだから。
「――――うぅっ」
その瞬間、ドバッと、魔理沙の両目から大粒の涙が溢れた。
「え? ま、魔理沙!?」
いきなり泣き出した魔理沙を見て、慌てるアリス。
自分の意図した場合ならいざ知らず、こんなタイミングで唐突に泣かれると、流石に焦る。
「ううぅ……うううう」
「ちょ、ちょっと……一体どうしたっていうのよ??」
「あ、ありす……」
「な、何? 魔理沙」
涙をぼろぼろ零しながら。
顔をくしゃくしゃにして、魔理沙が言う。
「あ、ありすは、わたしのこと……きらい……?」
「はぁ……?」
何がなんだか分からない……。
とアリスは思ったものの、とりあえず、目下、自分の言うべきことは一つしかない。
それだけははっきりと分かった。
「……魔理沙」
アリスはそっと、泣きじゃくる魔理沙を抱き寄せた。
「あ、ありす」
「……ばかねぇ。私が魔理沙を、嫌いなわけないでしょう」
「ほ、ほんと……?」
「当たり前でしょ。今更何を言ってるのよ」
「うぅ……よ、よかったぁ……」
嗚咽混じりの声でそう言うと、魔理沙もアリスの背中に両手を回した。
小さな腕で、ぎゅうっと強く、抱きしめる。
「……もう。ホントに困ったちゃんね」
まったくもってよく分からないが、とりあえず問題は解決したようだ。
アリスはそう判断し、魔理沙の頭を優しく撫でた。
「うぅ……ありすぅ」
「はいはい」
……結局、その後魔理沙が泣き止むまで、優に小一時間は掛かったという。
了
魔理沙可愛すぎるって。
魔理沙がかわいすぎるwwww
何もしてないのにダメージ食らってんぞ
この魔理沙お持ち帰りしたいわー
全部あんたのせいだwww
弱い魔理沙ってかわいい、すばらしい
アリスもっとやれ