「終わったわ、こいし」
「……はっ!? 寝てた……」
姉の声で飛び起きる。
机に突っ伏して眠っていたので、首が痛い。肩も痛い。腰も痛い。あぁ、老婆っぽい! これは若くない!
「疲れてたんでしょう。ご苦労様」
「うん……あ、ごめん! 手伝ってたのに!」
そういえば、私お姉ちゃんの仕事手伝ってたんだっけ。いけない。すっかり寝ちゃった……
「いいのよ。もう閻魔様から与えられていた書類は片づいたから。さっきお燐に届けて貰ったわ」
うぅ。役に立てなかった。
次の機会では、もっと頑張らないと。
「お疲れさま、お姉ちゃん」
「えぇ。それじゃぁ、こいし。ちょっと綺麗な朝日でも拝みに往きましょうか」
「えっとね、今時計見たけどもう八時だよ。直視できないよ」
まさか、お姉ちゃんこんな時間まで仕事してたの!?
普段は睡眠時間長めなんだから、徹夜なんか全然出来ないハズなのに!
「じゃあ代わりに朝ご飯を食べに行きますか」
日の出代わりが朝ご飯という部分に強くツッコミを入れたかったものの、とりあえずそれは堪えた。
というか、寝ないでいいの?
「あ、うん。いいよ。でも大丈夫?」
「かなり眠いわ」
「無理しなくいいよ」
顔色良くないし。
「そうね。博麗神社に往きましょう」
「……なんで?」
姉が心配になってきた今日この頃。
というわけで、博麗神社に来ました。
お茶貰いました。
平和。
私はお腹空いたけどそこは云わない。
フラフラしてる姉が、なんか食べたら戻しそうだったから。
「ねぇ、霊夢さん」
「何?」
お姉ちゃんが霊夢に話し掛けた。
さっきから料理の作り方の話題が続くけど、寝惚けてるんだろうか、霊夢がうんざりするくらい話題が一貫しない。
「大好き」
霊夢が盛大にお茶を噴き出した。
私も盛大に噴き出した。
ついさっきまで美味しいピクルスの作り方を真剣に説いていた口からそんな言葉が漏れるとは!
ピクルスを作る材料に小麦粉とか云っていた口からそんな言葉が漏れるとは!
「けほっ、けほっ、何よ突然?」
「ってこいしが云ってたわ」
呼吸を整えてた私がまた噴き出した。
「はっ!? え、私!? 云ってないよそんなこと!?」
「心の声で」
「お姉ちゃん私の心読めないんだよね!?」
「うん」
素直に頷かれました!?
「それ矛盾してる!」
「そんな些末なことはどうでもいいのよって霊夢が」
「思ってないわ」
「じゃあこいしね」
「ええええええええええええええええええええ!?」
理不尽!
「自由ね、あんた」
「案外そうなのよ」
「ええええ、えっと、ね、ねつ造反対!」
「違うわ。私は妹の心の代弁者よ」
「私が訴えたら勝てる程度の詐称ですが!」
「うるさい黙れ代弁者様に口出しするとはいったい何様だ貴様」
「私が本人! ご本人様!」
「証拠は?」
「えええええええええええええええええええええええええええ!?」
開いた口が塞がりません。助けてください閻魔様。
「姦しい姉妹ね」
「まったくね」
「なんでお姉ちゃんが同意してるの!? お姉ちゃんのことだよ!?」
「気にしたら負けだと思ってるわけね」
「云うこと云うこと全部お姉ちゃんの心の声だよね!? 押し付けないでよ!」
ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……叫び続けで苦しい……
「……っていうかさ、キャラ的にと云うか妹的にと云うか能力的にと云うか、弄るのって私の役割だよね。お姉ちゃんと私、役割が逆だと思うんだ」
妹が姉を困らせるのが本来の家族の有り様だと思うんだ。私は。
「人を見た目と生まれた順番と能力とで判断するんじゃありません。そんなんだから変な格好で無意識な能力を持った妹キャラは扱いづらいとか云われるんですよ」
「変な格好じゃない! たった今見た目と生まれた順番と能力で判断された! それに扱いづらいとか云われたことない!」
「ツッコミが長いわ」
「がー!」
ストレス溜まる! おのれ、寝不足な姉め!
「霊夢助けてー」
「私事なかれ主義」
「永世中立国だってヨーロッパの国家統合体に加盟したりしてるんだよ!」
「えらく古いニュースね」
「げ、幻想郷だから!」
……なんか無茶苦茶云ってる気がする。
と、何故か姉が優しく私の肩に手を置いた。
「こいし。自分でも最初から無理があるなって思ってる言い訳は云わない方がいいわよ」
「こういう時に限って心を察さないで!」
私の顔が熱い! 冷めなさい!
ぱたぱた扇いでみるけど効果なし。
「妹大好きね、さとり」
「我思う。故にこいし可愛い」
「意味は判らないけど妹煩悩なのは判ったわ」
「霊夢さんには判らないですか」
私も意味判らないんですけど!
「霊夢、騙されないで! あの姉は自分の趣味全開の同人誌を描いておいて「妹のリクエストで」とか平然と言い切るような悪鬼羅刹なの! 調伏して!」
「失礼ね。私とこいしは趣味が似てるからじゃない。いい? 私×こいしとこいし×私ならどっちが好きか云ってみなさい」
「その問いは一瞬だって悩んだら負けっぽいので悩まず云います! どっちも御免被る!」
「ちなみに私はどっちも可です」
「困ったことに聞いてません!」
「つれない妹だわ」
何故かしら泣きたい!
横を見ると、どこか同情した顔で霊夢がこっちを見ていた。
「やたらとハイテンションね。姉の方」
「それは、たぶん徹夜明けだからかなぁ」
「……ナチュラルハイだったのか」
そんな気はした。と、霊夢が呟いた気がした。
と、姉がまた霊夢に話し掛ける。
「霊夢さん」
「何?」
「お姫様はキスで呪いがフィーバータイム」
「悪化してるように聞こえるんだけど」
「というわけでこいしとキスしてください」
「「意味が判りません」」
ハモった。
「色々言葉が足りませんでしたね。こいしと一緒に私の頬にキスしなさい」
「「丁重にお断り申し上げます」」
ハモハモ。
「あぁん、ナイスリインカーネーション」
「はい?」
「……コンビネーションって云おうとしたんじゃないかと」
「ざっつらいっ」
誰かこの人を止めて!
「ねぇ、こいし」
「何?」
「ふと思ったんだけどさ」
「うん」
霊夢は頬をかりかりと掻いてから口を開く。
「なんでさとり寝ないの?」
「お姉ちゃん! もう寝て良いんだよ! お仕事終わってるんだよ!」
「それは本当なの!?」
しまった、すっかり忘れてた!
なんで私わざわざ寝惚けてる人に付き合ってたんだろう!
「そうよ! 閻魔様に任された天国往きリストと地獄の労働管理表と中有の道の露店の売り上げ&素行管理帖のチェックは終わっていたの!」
「な、なんだっ……ぐー」
がくん。そういう音と共に姉の首は傾き、そのまま縁側に寝転んで寝息を立て始めましたとさ。
……私何してたんだろう。
「寝た……一瞬で」
呆れられた。私だって呆れたい。でも身内なので恥じらうことしかできない。
「あぁ、なんかドッと疲れた」
「一応お疲れ様って云っておくけど、なんで途中で気付かないのよ」
「やぁ、なんか忘れてたっていうか……お姉ちゃんの勢いが強すぎたから」
強いて云うなら。
「……なんか無意識に付き合ってた」
「難儀な能力ね」
オチも良かったb
ここに真理を見ました。
このテンポ大好き!
さとり様普段に何をするんですかww
同人誌はきっとこいし×さとりですね、 分かりました。
こいしちゃんがんばれ、超がんばれ。
>妹が姉を困らせるのが本来の家族の有り様だと思うんだ。私は。
依姫と夢月が何かを訴えたがっているようです。