Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

なんでもない日

2009/08/17 23:03:42
最終更新
サイズ
3.48KB
ページ数
1

分類タグ

 トントントン、スタタタ、トン。

 トンタカトン。

 包丁がまな板の上を踊る音を聞いて藍は目を覚ました。

「あら、おはよう、藍。眼が覚めたのなら顔を洗っていらっしゃいな」
「ふぁい……ゆかりさま」

 寝ぼけた頭をフリフリとさせて、藍は洗面所で顔を洗い、チョコ味の歯磨き粉で4本目の永久歯を磨き上げたところで大変なことに気がついた。

「ゆ、か、り、さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
「あらあら、はしたないわよ、藍――」

 藍は目覚めたばかりだというのに全力疾走し、台所で包丁を躍らせている紫を確認すると思いっきり右ストレート。
 飛ぶ飛ぶ、飛ぶ紫。くるくる、くるりと頭から壁に突き刺さる。

「うぼぁっ!!」
「あ、ほんものだ。私の妄想が生み出した理想の紫様じゃなかった」



「あのね、藍。夢かどうか確認するのって、せめて自分の顔をつねるもんじゃないの?」

 壁から生えた紫の下半身が藍を優しく諭す。黒い勝負下着は丸見えだった。

「ごめんなさい紫様。黒幕をぶち殺せば儚い夢から覚めると思ったんです」
「とにかく……引き抜いて頂戴。せっかく貴女の為にご飯を作っていたと言うのに」
「恐縮です」
「ええい! 下着だけを引き抜くな!」



 程なくして、無事救出された紫は藍をテーブルの前に正座させる。驚くことに藍にはお咎めなしだった。ご飯ができるまで待ってて頂戴、と再びエプロンをつけて台所に立つ。

「一体どこで教育を間違えたのかしらねぇ」
「あいにくと紫様に育てられた記憶はありませんが……」

 恐る恐る藍は紫に進言する。

「貴女が忘れてるだけよ、ちっちゃい時なんかおっぱいおっぱいって、私は出ないと言うのに」
「ぅ……」
「ほら御覧なさい、身に覚えがあるじゃないの。全く……無理やり吸い付いたりしてね、牙がとがってるし、舌はヤスリみたいだったし、とれてなくなっちゃうかと思ったわよ」
「すみません……」
「でも、私は――」

 エプロン姿の紫が料理皿を藍の前にトン、と置いた。

「貴女がまっすぐな娘に育ってくれてとても幸せよ?」
「紫様……!」
「くす、誕生日おめでとう、藍」



「時々私は、紫様がどこまで本気なのか分からなくなる。こんなことを言うと式失格と言われるかもしれないけれどね。もしかしたら、さっきの懲罰なのかもしれないし、もしかしたら本気で、私のことを祝ってくれてるのかもしれない。けど、うん、ごめんなさい。わかってたんです。でもちょっとは夢見たって良いじゃない、八雲藍。紫様が料理が得意だっていう夢を……」
「何を小声でぼそぼそと言ってるのよ、藍」

 藍の皿には虹色でウネウネと蠢く何かが鎮座していた。

「何すか、これ?」
「藍の大好きなネコマンマよ!」
「嘘だ! ネコマンマは瘴気吐き出しながら助けて……なんて言いません! 食べ物ですらねぇ!」
「お茶目なゆかりんアレンジよ。ゆかりんマンマ。食べると残機が増えるわよ」
「むしろ一発でゲームオーバーですって!」
「さぁ、いつものように毛穴という毛穴から、お食べ」
「絶対怒ってますよね!?」
「何のことかしらぁ~?」

 紫は隙間を用いて藍を羽交い絞めにすると無理やり藍の口腔に流し込んだ。



 藍は寝転がり、大きくなったおなかを擦っている。油断するとクリーチャーが腹を突き破り、誕生しそうなのだ。自分の誕生日が命日だなんて、死神でも白けてしまうジョークには、したくない。

「それじゃ、ゆかりん出かけてくるけど元気でお留守番してるのよ。もっとも……おなかいっぱいで動けないだろうけど」
「胸がいっぱいです、はい」
「くす、水入らずね」
「?」
「ごめん遊ばせ、藍。……良き日を」

 紫はトコトコと屋敷の外に歩いて出て行った。静寂を取り戻した八雲の屋敷。たまにはこんな日も悪くは無いだろう。紫様のひねくれ具合ときたら本当にすばらしいものだ。誕生日プレゼント=休日だなんて今時どこぞの丁稚ではあるまいに、と一人笑う。

 耳をくすぐるのは草木の息吹。

 畳の井草の香りを吸い込み、障子から漏れる光を瞼の裏に感じる。

 やがて玄関から聞こえてくるだろう可愛い喧騒を期待して、藍は夢うつつにまどろむ。

 なんて素敵で幸せな日――。
「藍様、お誕生日おめでとうございますっ!」
チープ喫茶
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
なんつー誕生日だwww
2.名前が無い程度の能力削除
イイハナシダナー?
3.名前が無い程度の能力削除
いい話…なのかなぁ?