神社の掃除をした。茶を飲んだ。
今日の仕事は終わった。
「平穏って素敵だわ」
博麗の巫女としてのお仕事は意外に暇。というか、異変がなければこの人の訪れない神社、実に寂れたままのものなのよね。ここに来るまでがむしろ験担ぎ。最悪死ぬしね。
あぁあ、暇。寝ようかしら。
おや? なんか来た……
「霊夢さん」
「文じゃない」
天狗だった。
「新聞の記事にしていいですか?」
「何を?」
「今からする取材の内容を」
「取材する許可を取りなさい」
「じゃあついでに取材もしていいですか?」
「どっちかを断ったら?」
「困ります」
「でしょうね」
なんでこいつ、いつもこんなに自由なのか。
寝ようと思ったけど、まぁいい。少しくらいなら付き合おう。
「で、取材って何?」
「ずばり、巫女装束について」
「はぁ?」
服について? なんで服?
素材も染めもいいけど、でも、特にそれ以上はないわよ。
「その巫女装束に、巫女としての、いや、プレイヤーキャラとしての力の由来があるのではないかと見るわけですよ!」
あるわけない。
少し頭痛がした。
まぁ、暇潰し。嘘吐いてやろう。
「そうよ」
「マジで!?」
元から冗談半分かい。
「えぇ、本当よ。この巫女装束の形と色とあとなんか匂いとかあと肌触りとかには呪術的な意味があるのよ」
「ど、どんな!?」
どんなのにしよう。そうね、幽香の魔法から取るとすれば。
「なんかこう、萌える何か」
「おぉ!」
自分で云っておいてなんだが、それは駄目っぽい。
「それでは、もしかしてその腋が露出されていることも!」
涼しいだけだと思う。
蒸れないのは良いことよね。でも、自重しない香りがたまに鼻まで来るわよ。汗の出る季節は嫌だ。
「その通りよ」
「ええええ!?」
自分で信じてないこと云うなって。
「腋って血管が集まってるでしょ? だから、ここに自身の力が集まってるのよ」
「おぉ!」
「だからそれを外に晒すことで、えっと、なに? その、濃いめの何かが溜まるのよ」
意味判らない。あとなんかエロい。もしくは臭そう。
でも集まるのが濃いめのお味噌汁なら……
……吐くわね。
「それが博麗の巫女としての力ですね!?」
萌える濃いめの何かが力の巫女。
そんな自分に、私はなりたい。
わけもない。
むしろ拒絶させて欲しい。
「そうなるわね」
口がぺらぺら勝手になんか云ってる。
嘘って恐い。
「こ、これは大リーグタイ記録の8年連続200安打並の大ニュースですよ! 記事にしてもいいんですか!?」
レベルが判らん。
「いいんじゃない?」
嘘だし。
「判りました! ありがとうございました!」
感謝されるとちょっと胸が痛む。
ま、いっか。
そして数日後に私は思う。
「しくじった」
頭痛い。
文の記事を見た全員が、巫女装束を着用し始めたのだ。しかも、腋空けて。
「……しかもやたら強気でムカつく」
強くなった気でいる奴が多い。それが無性に腹立つ。
「とりあえず、倒しましょう」
もう嘘は吐くまい。
この偽巫女異変を超えて、嘘の脅威を胸に刻んだ。