Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

とおりゃんせ

2009/08/13 13:42:18
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「そこなお方。道を尋ねてもよろしいですか?」


「ん?・・・ふむ、私が答えられることでしたらお答えしよう」


「ありがとうございます。社へは、こちらの参道でよろしゅうございますか?」


「間違いなくこの道だよ」


「所用ございまして、通していただきたく」


「ここより先は神聖な土地。用があるとのことだが、さりとて軽々しく足を踏み入れてよい場所ではない」


「怪しい者ではございません。この子の誕生日のお祝いに」


「なれば通るといい。ここより先は1本道、社はすぐに見えるはずだから迷いはしないだろう。しかし、おかしなものだ」


「私に不審でも?」


「手の込んだ悪戯の類かな?そうでないのであればなるほど、どうやらあなたは勘違いをされているようなのだが」


「そのような気は毛頭ございません。どうか教えていただけないでしょうか」


「ふむ、本当にご存じない様子。今年の御供はすでにおるので不要だと下には伝えていたはずなのだが、どうやら不手際があったようだ。あなたにはいらぬ苦労をかけてしまった、守矢を代表し謝罪しよう。村へは再度こちらから使者を遣わしておく」


「神官様が頭を下げるなどとんでもない。これは私の始末、お手数おかけして申し訳ありませんでした」


「その息子、大事にすることだ。帰りは怖いぞ、お気をつけなさい」


「何、怖いことなどありません。名を尋ねてもよろしいでしょうか?」


「名乗るほどのものではないよ」


「是非とも」


「八坂」


「八坂様、ありがとうございました。それでは」







「怖いながらも通りゃんせ、通りゃんせ・・・・・・終わった?」


「なんだ、見てたのかい諏訪子」


歌を口ずさみながら現れた諏訪子に視線を送って、神奈子はため息を付く。見ていたのなら早苗を呼ぶなり自分の代わりに先ほどの幽霊と語らうなりしてもらえれば、自分がこんな役をやらずにすんだのにと。


「単に出るタイミングがなかっただけ。そうか、よっぽど未練だったんだね」


「御供とはいえ自分の子を手放すんだ、悲しまないわけがないだろう」


治水整備もされず木造家屋であった昔は台風をはじめとする自然災害により簡単に人命が奪われた。それだけの技術力のないその時代にあって、信仰というものは非常に重要なものだった。大自然の力対して無力な人間たちは人柱・御供としてその身を捧げることで災害を防ごうとした。
だが無論のこと、その役目を担った者には親がいる。


「自分を捨てたことをさぞ怨んでいるだろうと、親は恐怖するわけね。行きは子供が傍らにいるからよいよい、でも帰りは怖い。悲しいね」


それらの風習は時代が移ろうに従って忌避され、姿形を変えながら次世代に引き継がれていく。
そしてやがては人々の記憶からも消え、絶える。そうして誰からも忘れ去られたモノたちはここに流れ着く。


「結局あの霊は幻想郷まで流され未練と恐怖で黄泉にも向かえず、子は子で生みの親から離されてずっとそのことを考えて。無事にいけたかな?」


「子と一緒なら怖くない」


「うん」


女性とその息子の幽霊が消えて行った方角は守矢の神社とは正反対の方向。あの親子は神社に寄ることなくもと来た道を、黄泉へと還っていった。
せめて、この先二人が離れませんように。


「時は流れ時代は変わる。信仰は薄れ、御供は不要になり、伝承の数々も風化し消えていく。幻想郷で信仰を集めても、いずれはまた」


すべては消えていく。
二人はふと、その昔の1年神主の取り決めを思い出す。


「時代がそれを許さないこともあるけど、無くなっていい風習はある。でも無くしてはいけないこともまたしかり、本当の本当に大切なものは何物に変えても守っていかないと」


「早苗かい?」


自分たちの為、信仰のためここまで付いてきてくれた風祝の名を出す。自分たちにとって守りたいものがあるとすれば、それは彼女しかいない。


「その通り。私たちが大切にすべきは早苗と信仰と、そのほかいっぱい」


「大変だねぇ」


「神様だもん、それくらい仕事しないと祀る側に申し訳たたないよ」


「それならば仕事に精を出すとしますかね」


途端に意気込む神奈子。その仕事をすっぽかしてこんなところで暇を潰していた神様がよく言うよと、諏訪子は笑う。


「その前に夕飯。それで呼びに来たんだよ、早苗が首を長くして待ってる」


「おや?ここで帰りを待ってたつもりが・・・・・・じゃあ、戻るとするか」


今を生きる二人は社に向けて歩く。
通りゃんせ 通りゃんせ




 
通りゃんせ 通りゃんせ
ここはどこの 細通じゃ
天神さまの 細道じゃ
ちょっと通して 下しゃんせ
御用のないもの 通しゃせぬ
この子の七つの お祝いに
お札を納めに まいります
行きはよいよい 帰りはこわい
こわいながらも
通りゃんせ 通りゃんせ


この歌を聴いてふと作りたくなった。
「通りゃんせ」はカゴメカゴメと同じく非常に多くの解釈があり、これはそのうちのひとつですね。調べただけでも6・7個くらいありました。埼玉が発祥とされているので守矢はどうだったかはわかりませんが。


~~「守屋」の1年神主~~
1年毎に八歳の男の子が神官に選ばれ、任期を終える度に人身御供(生贄)として殺されで新しい神官を立てていたそうです。(wiki他より)
早苗さん、女の子だから大丈夫だよね?ね?

誤字修正しました。ありがとうございます
水崎
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
誤字と思われ
〉大自然にの力
→大自然の力に

昔の歌って意味を知ると怖くなるやつが有りますよね
自分はかごめかごめと聞くとホラーのイメージしか…
2.奇声を発する程度の能力削除
怖いとしか言えません…。

とおりゃんせも苦手だし、
かごめかごめは夜聞いちゃうと眠れなくなる…orz
3.名前が無い程度の能力削除
優しい神様で良かった
4.名前が無い程度の能力削除
各々の解釈に寄って意味や性質が全く別の物に変わってしまう存在……。

唄と同じく、貴方が作品に描いた神奈子や諏訪子にも同じものを感じますね。

唄は簡単に人間を別の場所へと引き摺り込んでしまいます。おやすみの際にはご用心を。
5.名前が無い程度の能力削除
守矢というか長野方面はこういった怖い伝承多いんですよね…。

マザーグースの裏はげに恐ろしい。唄は太古から魔と共にありますからね。
6.名前が無い程度の能力削除
建御名方神は三大軍神の一柱ですからね。畏怖の対象となるためにも、少々血生臭いな伝承は付き物だったんでしょう。

神奈子は、名前と「山の神」ということから推し測るに、八坂刀売神。しかし、洩矢神と戦ったのは建御名方神。どっちなんでしょうね。
或いはどっちもかな。