「マスタァーッスパァークゥゥゥーッ!!」
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
吸血鬼の住まう館として有名な紅魔館。今日も今日とてその門前では、悲痛な叫び声と共に閃光が天高く昇っていた。
「じゃ、通してもらうぜ」
「うっ……うぅ……」
閃光の発生源である霧雨魔理沙はニカッ、とボロ雑巾と化した紅美鈴に笑いかけ、鼻歌なんぞを口ずさみながら門を潜っていった。まぁ、これから自分の本棚に新たな参考書が加わると考えれば上機嫌にもなろうか。
さて、これでボロ雑巾、もとい美鈴の連敗記録にも新たな数値が刻まれ、そろそろ門番としての自信とプライドが砂と化して吹き飛んでしまいそうだから困る。というか、既に自信の方はこれでもかというほどに粉砕されているが。
「うぅ……魔理沙といい霊夢といい、どうして私の周りにはこんなにとんでもない人間がいるのかなぁ…」
「あら、私も人間なのだけれど、まさかそのとんでもない人間とかに含まれていたりするのかしら?」
美鈴の愚痴が呼び水となったのか、その場に姿を現した人物が一人。メイド服に身を包んだ彼女こそ、美鈴的人間じゃないランキングぶっちぎりの一位に君臨する十六夜咲夜その人だ。
「さっ、咲夜さんっ!?」
予想だにしなかった人物の登場と発言に、慌ててボロ雑巾からの復活を遂げブンブンと首を横に振る美鈴。
「いっ、いえいえ! 咲夜さんはとんでもない人間なんて(レベルの)もんじゃありませんよ!」
トスッ、と軽い音を立てて美鈴の眉間に突き刺さるナイフ。音こそトスッだが、その痛みはそんな表現で表せるレベルを超えているというのは、今まさに美鈴が声にならない悲鳴をあげてのたうち回っているのを見ていただければ分かるだろう。
「いったぁ……否定したのに何故この仕打ち…」
「あなたの考えくらい手に取るように分かるわ。私は括弧内の台詞も見逃さないわよ」
一歩間違えば殺人事件に発展しそうな光景の後でこんな会話ができるのだから、両名流石としか言いようがない。常人ならいったぁどころか即死間違いなしなので注意。まぁ、日常で眉間にナイフが突き刺さるような体験があるなら是非とも聞きたいところではあるが。
「あ、あはは…流石咲夜さん…」
「褒め言葉として受け取っておくわ。貴女も流石ね、美鈴」
「え、何がですか?」
「魔理沙の門通過タイムアタックも順調にニューレコード誕生じゃない。また頭痛の種が増えるわ。もうそこら中開花してるっていうのに、ねぇ?」
「あ、ははははははは……すみません」
瞬時に土下座。これが人間同士や妖怪同士ならまだしも、人間と妖怪の構図なのだから妖怪の威厳などあったものではない。プライドはどこ逝った美鈴。
「全く……いい加減一度くらいは止めてもらわないと困るわよ。パチュリー様は恨めしげな視線向けてくるし、お嬢様も紅魔館全体の威厳に関わるってご機嫌斜めだし」
ドスッドスッ、と小気味いい音を立てて、美鈴にボディブローが決まっていく。そのキレの良さたるや、あの明日のなんとやらのキャラですら太鼓判を押してくれそうなほどだ。
「というか何より」
「な、何より?」
「このままじゃ貴女、雑魚キャラとして確立してしまうってことよ」
ズドンッ。
入った。入りました、綺麗なアッパーもとい昇竜拳が。文句無しのK.O.。言霊というのは時としてとんでもない力を発揮するらしい。
「ざ……雑魚……」
「えぇ、雑な魚と書いて雑魚ね。その内ワンボスと同じ扱いになるんじゃないかしら。要するに、あの⑨以下」
「うわ耐え難い苦痛だコレ!!」
「分かったかしら? 貴女が今どれほど追い込まれた立場にいるのか?」
「ハイッ! 紅美鈴、精進いたします!」
自衛隊ばりの見事な敬礼。そこまで⑨以下は嫌なのか。嫌だろうな、うん。
そんな美鈴の様子を見て、咲夜はフッと微笑を浮かべた。
「よろしい。なら次こそは止めてみて頂戴ね」
言うべきことは言ったとばかりにその場を立ち去ろうとする咲夜。
「あ、咲夜さん、ちょっと待ってください」
だが、振り返った直後に美鈴に呼び止められてしまった。
「何? まだ言われ足りない?」
「いえもうそれは十分にというかむしろもっと短縮していただきたいくらいですが……じゃなくて、咲夜さんにちょっと渡したいものがあって」
「渡したいもの?」
咲夜が首を傾げると、美鈴は嬉しそうに笑って頷いた。
「ちょっと、こっち来てもらえますか?」
そう言って美鈴は、返事も聞かずにそそくさと歩き出してしまう。まだ屋敷内での仕事が残っているからできれば早々に戻りたいのだが、と内心思いつつも、美鈴の先ほどの嬉しそうな顔と今の軽快な足取りを見ているととても嫌だとは言えず、黙ってそれについていくことにした。
数十歩としない内に目的の場所へは辿り着いた。
そこはまさに、庭園と呼ぶに差し支えない場所であったろう。
色とりどりの花々がそれぞれに雄々しく咲き誇り、それでいて自己主張の激しいものなど一つとして存在していない。枯れ花一つなく、それが定められし運命のように完璧な色の並びを見せ、見る者を魅了する。
それはまるで花畑に迷い込んだかのような錯覚。否、本物の花畑でもここまでの美しさは保ててはいまい。言うなればこれは芸術の類。花壇というキャンパスに花という色を加えた結果として生まれた作品だ。
そんな光景を目の当たりにして、咲夜は文字通り目を奪われた。屋敷に庭園があることは知っていたが、まさかここまでのものとは思っていなかったのだろう。
「どうですか、咲夜さん?」
前を歩いていた美鈴は振り返り、少し得意げな笑顔を見せる。
「もしかしてこれ……貴女が?」
「えぇ、門番の仕事で暇が出来た時にちょいちょい手を出してたらこんなことに」
門番の仕事に暇なんかない、と普段なら叱る所であるが、こんなものを見せられたあとじゃとてもそんな気にはなれない。ちょいちょい手を出した程度でここまでのものを作れるのならば、今頃この世は花畑で満ち溢れている。
だからこれは、ある意味で美鈴の努力の結晶。仕事のことは褒められたものではないが、そんなものを見せられて誰が怒る気になどなれようか。
「で、どうですかね咲夜さん。我が自慢の庭の園は」
「そうね……悪くないんじゃない?」
素直に綺麗と言えない自分に少し呆れる。
「あはっ、ありがとうございます」
太陽のような笑顔。そんな言葉でも心から純粋に喜んでくれる美鈴に、咲夜はちょっと恥ずかしくなった。
「それで、これが要件?」
「いえいえ、渡したいものがあると言ったじゃないですか」
そう言うと、美鈴は小走りで傍らの花壇まで行くと、一つの鉢植えを持って咲夜の下へ帰ってきた。
「はい、どうぞ咲夜さん」
笑顔でそれを差し出す美鈴。
「これって……アイリス?」
眼前に突き出された立派に花を咲かせた濁りの無い白色の花を受け取りながら、咲夜は自信なさげに尋ねる。
「わ、よく知ってますね。流石咲夜さん」
私なんかつい先日知ったばかりなのに、と頭を掻く美鈴。もしかしたらちょいちょい手を加えていただけというのは本当なのかもしれない。
「コレも貴女が育てたの?」
「はい、つぼみだったものが“昨夜”咲いたんですよー」
ドスッ。
「何故ナイフ……」
「寒い」
「狙ったわけじゃないんですけど……」
「それで、なんで私に? こう言っちゃなんだけど、花を愛でるような趣味はあまり無いわよ私?」
昔、と言っても紅魔館に来てからのことだが、とりあえずテキトーに水やりまくれば育つでしょう、という大量水理論の結果、一週間と経たずに数十本の薔薇を全滅させた記憶が蘇る。そりゃ室内の日当たりゼロ空間で風通し皆無じゃ、蝉よりも先に命果てるってもんだ。
「大丈夫ですよ。アイリスは丈夫な花ですから、日当たりのいい窓際に置いて適度に水を与えてやればそれなりに咲き続けますよ。それに、なんなら何もせず、ただ飾っておいてもらうだけでもいいんです」
「?」
美鈴の意図がイマイチ掴めず、首を傾げる咲夜。そんな咲夜に、美鈴は輝かんばかりの笑顔を見せて言う。
「アイリスの花言葉は――優雅。なんとも咲夜さんにぴったりだと思いませんか?」
その言葉と笑顔を見て咲夜は。
――静かにクスリ、と微笑んだ。その笑顔の、なんと持つ花と合うことやら。
「まぁ、昨夜咲いたからっていうのも半分ごめんなさい嘘です嘘ですからナイフしまってください」
ナイフをしまって、今度は溜め息。言わないでおけば綺麗に締まったというのに。
「ま、貰うだけ貰っておくわ。枯らしても文句は言わないでよね」
「はい、私としてはお渡しできただけで満足なので、後は咲夜さんのお好きなように」
「そう、じゃああの人形の娘のところへ行ってくるわ」
「すみません、やっぱ少しは飾ってもらえますか」
「冗談よ」
苦笑して、咲夜は振り返る。
「じゃあ、私は仕事に戻るわね」
「はい、引きとめちゃってすみませんでした」
「いいわよ、お陰でいいもの見れたし。たまには来てみようかしら、ここ」
「歓迎しますよ」
「門番」
「はい門番です……」
ずーん、と瞬間的に重い空気を纏う美鈴。先の敗北の記憶が蘇ってきたのだろうか。
「……ま、今度門番兼庭師にしてもらえないかお嬢様に言ってみるわ」
「え……?」
「そうすれば、貴女がこっちに来て私の案内をしても大丈夫でしょ?」
「……咲夜さん」
感激して瞳が潤みだす美鈴に背を向けて、咲夜は歩き出した。
「あ、そうそう」
「はい?」
「これ、ありがと」
一度立ち止まり、植木鉢を軽く持ち上げて、振り返ることもなくぶっきらぼうに一言。
「……はいっ」
それでも美鈴にとっては、十分すぎるほどの感謝の言葉だった。
そして今度こそ咲夜は、立ち止まることなく庭園を後にした。
――その顔を真っ赤に染めながら。
美鈴は気付かなかったが、何故多忙にも関わらず、咲夜は門の前を訪れたのだろう。
例えば、こうは考えられないだろうか。
屋敷の中から立ち上る閃光だけが見えて、それを美鈴がモロに喰らっただろうことは想像に難くなくて。とすれば、当然美鈴が怪我しているかもしれない可能性もあるわけで。居ても立ってもいられなくなって、ちょっとだけ、ひと目だけ様子を見に行けないだろうか、と。
そんな風には、考えられないだろうか。
「全く……ずるいわよ。人に心配かけといて、あんな笑顔見せて」
ブツブツと、誰に言うわけでもなく呟く。その顔は、歩くたびに赤みを増していって。
「それに……絶対知らずに渡してるんでしょうね」
手元に抱えた鉢植えの中で優雅に咲き誇るアイリスを見て溜め息。
アイリスの花言葉は優雅。確かに間違ってはいない。
だけど、その他にもいくつか。例えば――、
―――あなたを、大切にします。
後日。
同じ花を小悪魔などに渡している美鈴を見かけた咲夜が致死量ギリギリのナイフを突き立てていった話は余談である。
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
吸血鬼の住まう館として有名な紅魔館。今日も今日とてその門前では、悲痛な叫び声と共に閃光が天高く昇っていた。
「じゃ、通してもらうぜ」
「うっ……うぅ……」
閃光の発生源である霧雨魔理沙はニカッ、とボロ雑巾と化した紅美鈴に笑いかけ、鼻歌なんぞを口ずさみながら門を潜っていった。まぁ、これから自分の本棚に新たな参考書が加わると考えれば上機嫌にもなろうか。
さて、これでボロ雑巾、もとい美鈴の連敗記録にも新たな数値が刻まれ、そろそろ門番としての自信とプライドが砂と化して吹き飛んでしまいそうだから困る。というか、既に自信の方はこれでもかというほどに粉砕されているが。
「うぅ……魔理沙といい霊夢といい、どうして私の周りにはこんなにとんでもない人間がいるのかなぁ…」
「あら、私も人間なのだけれど、まさかそのとんでもない人間とかに含まれていたりするのかしら?」
美鈴の愚痴が呼び水となったのか、その場に姿を現した人物が一人。メイド服に身を包んだ彼女こそ、美鈴的人間じゃないランキングぶっちぎりの一位に君臨する十六夜咲夜その人だ。
「さっ、咲夜さんっ!?」
予想だにしなかった人物の登場と発言に、慌ててボロ雑巾からの復活を遂げブンブンと首を横に振る美鈴。
「いっ、いえいえ! 咲夜さんはとんでもない人間なんて(レベルの)もんじゃありませんよ!」
トスッ、と軽い音を立てて美鈴の眉間に突き刺さるナイフ。音こそトスッだが、その痛みはそんな表現で表せるレベルを超えているというのは、今まさに美鈴が声にならない悲鳴をあげてのたうち回っているのを見ていただければ分かるだろう。
「いったぁ……否定したのに何故この仕打ち…」
「あなたの考えくらい手に取るように分かるわ。私は括弧内の台詞も見逃さないわよ」
一歩間違えば殺人事件に発展しそうな光景の後でこんな会話ができるのだから、両名流石としか言いようがない。常人ならいったぁどころか即死間違いなしなので注意。まぁ、日常で眉間にナイフが突き刺さるような体験があるなら是非とも聞きたいところではあるが。
「あ、あはは…流石咲夜さん…」
「褒め言葉として受け取っておくわ。貴女も流石ね、美鈴」
「え、何がですか?」
「魔理沙の門通過タイムアタックも順調にニューレコード誕生じゃない。また頭痛の種が増えるわ。もうそこら中開花してるっていうのに、ねぇ?」
「あ、ははははははは……すみません」
瞬時に土下座。これが人間同士や妖怪同士ならまだしも、人間と妖怪の構図なのだから妖怪の威厳などあったものではない。プライドはどこ逝った美鈴。
「全く……いい加減一度くらいは止めてもらわないと困るわよ。パチュリー様は恨めしげな視線向けてくるし、お嬢様も紅魔館全体の威厳に関わるってご機嫌斜めだし」
ドスッドスッ、と小気味いい音を立てて、美鈴にボディブローが決まっていく。そのキレの良さたるや、あの明日のなんとやらのキャラですら太鼓判を押してくれそうなほどだ。
「というか何より」
「な、何より?」
「このままじゃ貴女、雑魚キャラとして確立してしまうってことよ」
ズドンッ。
入った。入りました、綺麗なアッパーもとい昇竜拳が。文句無しのK.O.。言霊というのは時としてとんでもない力を発揮するらしい。
「ざ……雑魚……」
「えぇ、雑な魚と書いて雑魚ね。その内ワンボスと同じ扱いになるんじゃないかしら。要するに、あの⑨以下」
「うわ耐え難い苦痛だコレ!!」
「分かったかしら? 貴女が今どれほど追い込まれた立場にいるのか?」
「ハイッ! 紅美鈴、精進いたします!」
自衛隊ばりの見事な敬礼。そこまで⑨以下は嫌なのか。嫌だろうな、うん。
そんな美鈴の様子を見て、咲夜はフッと微笑を浮かべた。
「よろしい。なら次こそは止めてみて頂戴ね」
言うべきことは言ったとばかりにその場を立ち去ろうとする咲夜。
「あ、咲夜さん、ちょっと待ってください」
だが、振り返った直後に美鈴に呼び止められてしまった。
「何? まだ言われ足りない?」
「いえもうそれは十分にというかむしろもっと短縮していただきたいくらいですが……じゃなくて、咲夜さんにちょっと渡したいものがあって」
「渡したいもの?」
咲夜が首を傾げると、美鈴は嬉しそうに笑って頷いた。
「ちょっと、こっち来てもらえますか?」
そう言って美鈴は、返事も聞かずにそそくさと歩き出してしまう。まだ屋敷内での仕事が残っているからできれば早々に戻りたいのだが、と内心思いつつも、美鈴の先ほどの嬉しそうな顔と今の軽快な足取りを見ているととても嫌だとは言えず、黙ってそれについていくことにした。
数十歩としない内に目的の場所へは辿り着いた。
そこはまさに、庭園と呼ぶに差し支えない場所であったろう。
色とりどりの花々がそれぞれに雄々しく咲き誇り、それでいて自己主張の激しいものなど一つとして存在していない。枯れ花一つなく、それが定められし運命のように完璧な色の並びを見せ、見る者を魅了する。
それはまるで花畑に迷い込んだかのような錯覚。否、本物の花畑でもここまでの美しさは保ててはいまい。言うなればこれは芸術の類。花壇というキャンパスに花という色を加えた結果として生まれた作品だ。
そんな光景を目の当たりにして、咲夜は文字通り目を奪われた。屋敷に庭園があることは知っていたが、まさかここまでのものとは思っていなかったのだろう。
「どうですか、咲夜さん?」
前を歩いていた美鈴は振り返り、少し得意げな笑顔を見せる。
「もしかしてこれ……貴女が?」
「えぇ、門番の仕事で暇が出来た時にちょいちょい手を出してたらこんなことに」
門番の仕事に暇なんかない、と普段なら叱る所であるが、こんなものを見せられたあとじゃとてもそんな気にはなれない。ちょいちょい手を出した程度でここまでのものを作れるのならば、今頃この世は花畑で満ち溢れている。
だからこれは、ある意味で美鈴の努力の結晶。仕事のことは褒められたものではないが、そんなものを見せられて誰が怒る気になどなれようか。
「で、どうですかね咲夜さん。我が自慢の庭の園は」
「そうね……悪くないんじゃない?」
素直に綺麗と言えない自分に少し呆れる。
「あはっ、ありがとうございます」
太陽のような笑顔。そんな言葉でも心から純粋に喜んでくれる美鈴に、咲夜はちょっと恥ずかしくなった。
「それで、これが要件?」
「いえいえ、渡したいものがあると言ったじゃないですか」
そう言うと、美鈴は小走りで傍らの花壇まで行くと、一つの鉢植えを持って咲夜の下へ帰ってきた。
「はい、どうぞ咲夜さん」
笑顔でそれを差し出す美鈴。
「これって……アイリス?」
眼前に突き出された立派に花を咲かせた濁りの無い白色の花を受け取りながら、咲夜は自信なさげに尋ねる。
「わ、よく知ってますね。流石咲夜さん」
私なんかつい先日知ったばかりなのに、と頭を掻く美鈴。もしかしたらちょいちょい手を加えていただけというのは本当なのかもしれない。
「コレも貴女が育てたの?」
「はい、つぼみだったものが“昨夜”咲いたんですよー」
ドスッ。
「何故ナイフ……」
「寒い」
「狙ったわけじゃないんですけど……」
「それで、なんで私に? こう言っちゃなんだけど、花を愛でるような趣味はあまり無いわよ私?」
昔、と言っても紅魔館に来てからのことだが、とりあえずテキトーに水やりまくれば育つでしょう、という大量水理論の結果、一週間と経たずに数十本の薔薇を全滅させた記憶が蘇る。そりゃ室内の日当たりゼロ空間で風通し皆無じゃ、蝉よりも先に命果てるってもんだ。
「大丈夫ですよ。アイリスは丈夫な花ですから、日当たりのいい窓際に置いて適度に水を与えてやればそれなりに咲き続けますよ。それに、なんなら何もせず、ただ飾っておいてもらうだけでもいいんです」
「?」
美鈴の意図がイマイチ掴めず、首を傾げる咲夜。そんな咲夜に、美鈴は輝かんばかりの笑顔を見せて言う。
「アイリスの花言葉は――優雅。なんとも咲夜さんにぴったりだと思いませんか?」
その言葉と笑顔を見て咲夜は。
――静かにクスリ、と微笑んだ。その笑顔の、なんと持つ花と合うことやら。
「まぁ、昨夜咲いたからっていうのも半分ごめんなさい嘘です嘘ですからナイフしまってください」
ナイフをしまって、今度は溜め息。言わないでおけば綺麗に締まったというのに。
「ま、貰うだけ貰っておくわ。枯らしても文句は言わないでよね」
「はい、私としてはお渡しできただけで満足なので、後は咲夜さんのお好きなように」
「そう、じゃああの人形の娘のところへ行ってくるわ」
「すみません、やっぱ少しは飾ってもらえますか」
「冗談よ」
苦笑して、咲夜は振り返る。
「じゃあ、私は仕事に戻るわね」
「はい、引きとめちゃってすみませんでした」
「いいわよ、お陰でいいもの見れたし。たまには来てみようかしら、ここ」
「歓迎しますよ」
「門番」
「はい門番です……」
ずーん、と瞬間的に重い空気を纏う美鈴。先の敗北の記憶が蘇ってきたのだろうか。
「……ま、今度門番兼庭師にしてもらえないかお嬢様に言ってみるわ」
「え……?」
「そうすれば、貴女がこっちに来て私の案内をしても大丈夫でしょ?」
「……咲夜さん」
感激して瞳が潤みだす美鈴に背を向けて、咲夜は歩き出した。
「あ、そうそう」
「はい?」
「これ、ありがと」
一度立ち止まり、植木鉢を軽く持ち上げて、振り返ることもなくぶっきらぼうに一言。
「……はいっ」
それでも美鈴にとっては、十分すぎるほどの感謝の言葉だった。
そして今度こそ咲夜は、立ち止まることなく庭園を後にした。
――その顔を真っ赤に染めながら。
美鈴は気付かなかったが、何故多忙にも関わらず、咲夜は門の前を訪れたのだろう。
例えば、こうは考えられないだろうか。
屋敷の中から立ち上る閃光だけが見えて、それを美鈴がモロに喰らっただろうことは想像に難くなくて。とすれば、当然美鈴が怪我しているかもしれない可能性もあるわけで。居ても立ってもいられなくなって、ちょっとだけ、ひと目だけ様子を見に行けないだろうか、と。
そんな風には、考えられないだろうか。
「全く……ずるいわよ。人に心配かけといて、あんな笑顔見せて」
ブツブツと、誰に言うわけでもなく呟く。その顔は、歩くたびに赤みを増していって。
「それに……絶対知らずに渡してるんでしょうね」
手元に抱えた鉢植えの中で優雅に咲き誇るアイリスを見て溜め息。
アイリスの花言葉は優雅。確かに間違ってはいない。
だけど、その他にもいくつか。例えば――、
―――あなたを、大切にします。
後日。
同じ花を小悪魔などに渡している美鈴を見かけた咲夜が致死量ギリギリのナイフを突き立てていった話は余談である。
つまり咲夜さんはただのドSで純粋に美鈴をハードなプレイで(トストストストスッ
>> 同じ花を小悪魔などに渡している美鈴を見かけた咲夜が致死量ギリギリのナイフを突き立てていった
咲夜さんww
二次設定でしか話作れないのか?
めーさくいいよめーさく