朝の陽射しが部屋を包み、起こすことを躊躇わせるこの時間。
八雲紫の式神である、八雲藍は暖かな布団の中で重き瞼を微かに開けた。
「…ん、もう朝か…。朝食を作らないと…」
家事は藍の担当である。
彼女の主人である、紫は夜行性で夕方から夜が活動時間である。
従って、藍が家事を放棄すれば全員が困るという話になる。
「さて、起きなければ…ん?」
起きようと、体を動かしてみるが左腕が妙に重い。
藍はその理由が大凡分かっているため、
布団をそっと退けてみた。
すると、案の定藍の式神である、橙が左腕を抱き枕にして熟睡していた。
「こら、橙。離れなさい」
顔をにやけさせて「離れなさい」と言われても、説得力は皆無である。
「んー。らんしゃまの腕、暖かーい…」
と、呟いてまた夢の世界へ旅立ってしまった。
頭でも叩いて無理矢理離すことは可能である。
だが、それでは橙がかわいそうだし、自分がそうしたくないのである。
もし、橙に嫌われてしまったら…。なんて思ったら手が出せるわけがない。
「仕方ない…。橙が起きるまで待つとするか…」
橙が起き、八雲家の活動し始めたのは午後に入ってからだった。
「さぁ、橙。今日の勉強を始めるぞ」
藍は毎日橙に、勉強を教えているのだ。
藍の考えでは、「八雲家になるなら、少しでも博識であったほうがよい」
というものらしい。
「えー、勉強きらーい…」
素直に勉強してくれたら苦労はしないのは、どこの親も変わらないだろう。
「えー、じゃない」
橙の嫌そうな顔を見てると、どうしても甘やかしたくなるが、
彼女の将来の為、ガマンするしかなかった。
「じゃあ終わったら遊んでくれますか?」
「まじめにしたらね」
勉強さえしてくれれば、遊ぼうが甘えてこようが、
構わない、寧ろウェルカムである。
昼食を終え、勉強をし始めたのだが…。
「だから、橙。111×111=111じゃないだろう」
「だって1×1=1じゃないですか。だから多くなっても…」
こんな具合で、さっきからまったく進まない。
「1桁の場合はそうかもしれないが、多くなると数も変わるんだ」
問題に悪戦苦闘中の橙の顔もずっと見ていたいが、
それだと、勉強の意味がなくなってくる。
「そっか、繰上げになるんだ!」
悩んでいた顔が、一瞬でぱぁっと明るくなった。
この顔はいつ見てもかわいいものである。
そして時間が経ち、橙の勉強も区切りのいい所で終わった。
「よく頑張ったな、偉いぞ」
自分で考え、、頭を撫でてやる。
「えへへ、らんしゃまの手気持ちいいですー…」
目を細め、私に擦り寄ってくる橙が堪らなく愛しくなる。
「さて、約束だ。何して遊ぶ?」
橙がまじめに勉強してくれたので、こちらも約束を守らなければならない。
「うーん…。らんしゃまの尻尾で遊びたいんですけど…ダメですか?」
手を前で組み、目をキラキラさせて頼む橙。
そんな上目遣いでお願いされたら、断れるわけないだろう。
「あー、分かった。好きにするといい」
自分が親ばかだってことぐらい分かってる。
けど、橙の喜ぶ顔を見てると親ばかでもいいかな…って思ってしまう。
「えへへ、らんしゃまの尻尾ー」
顔は見えないが、多分幸せな顔をしてることだろう。
私の尻尾で幸せになれるのなら、毎日でも構わないと思っている。
もふもふ。
夕刻が近くなり、今晩の晩御飯の食材を買いに行こうとすると、
そっと、私の裾を掴み「私も行くー…」とでも言ってるかのように、
目が語っていた。
「橙は今日は何が食べたい?」
化け狐と、猫又という種族問題を除けば、
二人は人間の一般家庭のそれと、然程変わらないだろう。
「らんしゃまの作る料理だったらなんでもいいですよ」
嬉しいことを言ってくれるが、親にとってそれは困る注文の1つである。
「じゃあ今日はカレーにしようか」
そういって橙と二人、夕暮れに沈む町を歩くのだった。
晩御飯を終え、お風呂に入ろうとしてた時だった。
「らんしゃまと一緒に入りたいんですけど、いいですか?」
いくら同姓で、家族だからといっても気恥ずかしいものもある。
かと言って、断る理由もない。
「いいぞ。入ろうか」
服を脱ぐ際、彼女の細やかな肌に目がいってしまった。
さすがにこれ以上は危ない種類に入ってしまう。
できるだけ、目を逸らして入るようにした。
「ねぇ、らんしゃま。どうして私のこと見てくれないんですか?」
「え?ちゃんと見てるよ?」
さすがに1回も目を合わせてないと、そう思うのも無理はない。
「私のことが嫌いになったんですか?だから顔を合わせないんですか?」
あぁ…、余計な邪念が彼女を傷つけてしまったようだ。
これでは親失格だな…。
「そんなことないよ。私は橙のこと大好きだよ」
たかが、肌に目をやったぐらいで何を怯えていたのだろうか。
「私もらんしゃまのこと大好きです!」
この子は本当にいい子だ。できればずっとこうやって甘えててほしいが…。
それは難しいというものだろう。
何れこの子も成長し、今のように甘えなくなるだろう。
だから、今この時を堪能しなければならない。
そう思いながら私は、体を洗うために風呂から上がるのだった。
「さて、もうそろそろ寝るか」
現在の時刻は深夜に回ろうとしている。
明日も早起きな為、そろそろ寝なければならない。
布団に潜って半刻は過ぎた頃。部屋に橙が入ってきて、
「らんしゃま…。怖いから一緒に寝ていいですか…?」
大方、怖い夢でも見たのだろう。
朝に橙が腕に絡まってたのも頷ける。
「ああ、いいよ。一緒に寝ようか」
そういうと、橙は昨日のように
左腕に小さな手と足を絡ませてきた。
「やっぱりらんしゃまの腕あったかいです…」
妖怪の結婚制度はどうなってるんだっけ?と、
くだらないことに深く考えるのも最近多くなった。
何れ橙が好きな人も出てくるだろう。
そうなれば私はお役御免となるのだろう。
それはそれで、寂しいが橙が幸せならそれでいい。
「おやすみ、橙」
「おやすみなさい、らんしゃま」
そういって私は意識を手放した。
「ねぇ、私の事忘れてない!?晩御飯は?ねぇ藍?」
その日、紫は1日中彼女らに忘れられていたそうな。
「いいわよ…。一人で晩御飯食べるから…。味噌汁美味し」
八雲紫の式神である、八雲藍は暖かな布団の中で重き瞼を微かに開けた。
「…ん、もう朝か…。朝食を作らないと…」
家事は藍の担当である。
彼女の主人である、紫は夜行性で夕方から夜が活動時間である。
従って、藍が家事を放棄すれば全員が困るという話になる。
「さて、起きなければ…ん?」
起きようと、体を動かしてみるが左腕が妙に重い。
藍はその理由が大凡分かっているため、
布団をそっと退けてみた。
すると、案の定藍の式神である、橙が左腕を抱き枕にして熟睡していた。
「こら、橙。離れなさい」
顔をにやけさせて「離れなさい」と言われても、説得力は皆無である。
「んー。らんしゃまの腕、暖かーい…」
と、呟いてまた夢の世界へ旅立ってしまった。
頭でも叩いて無理矢理離すことは可能である。
だが、それでは橙がかわいそうだし、自分がそうしたくないのである。
もし、橙に嫌われてしまったら…。なんて思ったら手が出せるわけがない。
「仕方ない…。橙が起きるまで待つとするか…」
橙が起き、八雲家の活動し始めたのは午後に入ってからだった。
「さぁ、橙。今日の勉強を始めるぞ」
藍は毎日橙に、勉強を教えているのだ。
藍の考えでは、「八雲家になるなら、少しでも博識であったほうがよい」
というものらしい。
「えー、勉強きらーい…」
素直に勉強してくれたら苦労はしないのは、どこの親も変わらないだろう。
「えー、じゃない」
橙の嫌そうな顔を見てると、どうしても甘やかしたくなるが、
彼女の将来の為、ガマンするしかなかった。
「じゃあ終わったら遊んでくれますか?」
「まじめにしたらね」
勉強さえしてくれれば、遊ぼうが甘えてこようが、
構わない、寧ろウェルカムである。
昼食を終え、勉強をし始めたのだが…。
「だから、橙。111×111=111じゃないだろう」
「だって1×1=1じゃないですか。だから多くなっても…」
こんな具合で、さっきからまったく進まない。
「1桁の場合はそうかもしれないが、多くなると数も変わるんだ」
問題に悪戦苦闘中の橙の顔もずっと見ていたいが、
それだと、勉強の意味がなくなってくる。
「そっか、繰上げになるんだ!」
悩んでいた顔が、一瞬でぱぁっと明るくなった。
この顔はいつ見てもかわいいものである。
そして時間が経ち、橙の勉強も区切りのいい所で終わった。
「よく頑張ったな、偉いぞ」
自分で考え、、頭を撫でてやる。
「えへへ、らんしゃまの手気持ちいいですー…」
目を細め、私に擦り寄ってくる橙が堪らなく愛しくなる。
「さて、約束だ。何して遊ぶ?」
橙がまじめに勉強してくれたので、こちらも約束を守らなければならない。
「うーん…。らんしゃまの尻尾で遊びたいんですけど…ダメですか?」
手を前で組み、目をキラキラさせて頼む橙。
そんな上目遣いでお願いされたら、断れるわけないだろう。
「あー、分かった。好きにするといい」
自分が親ばかだってことぐらい分かってる。
けど、橙の喜ぶ顔を見てると親ばかでもいいかな…って思ってしまう。
「えへへ、らんしゃまの尻尾ー」
顔は見えないが、多分幸せな顔をしてることだろう。
私の尻尾で幸せになれるのなら、毎日でも構わないと思っている。
もふもふ。
夕刻が近くなり、今晩の晩御飯の食材を買いに行こうとすると、
そっと、私の裾を掴み「私も行くー…」とでも言ってるかのように、
目が語っていた。
「橙は今日は何が食べたい?」
化け狐と、猫又という種族問題を除けば、
二人は人間の一般家庭のそれと、然程変わらないだろう。
「らんしゃまの作る料理だったらなんでもいいですよ」
嬉しいことを言ってくれるが、親にとってそれは困る注文の1つである。
「じゃあ今日はカレーにしようか」
そういって橙と二人、夕暮れに沈む町を歩くのだった。
晩御飯を終え、お風呂に入ろうとしてた時だった。
「らんしゃまと一緒に入りたいんですけど、いいですか?」
いくら同姓で、家族だからといっても気恥ずかしいものもある。
かと言って、断る理由もない。
「いいぞ。入ろうか」
服を脱ぐ際、彼女の細やかな肌に目がいってしまった。
さすがにこれ以上は危ない種類に入ってしまう。
できるだけ、目を逸らして入るようにした。
「ねぇ、らんしゃま。どうして私のこと見てくれないんですか?」
「え?ちゃんと見てるよ?」
さすがに1回も目を合わせてないと、そう思うのも無理はない。
「私のことが嫌いになったんですか?だから顔を合わせないんですか?」
あぁ…、余計な邪念が彼女を傷つけてしまったようだ。
これでは親失格だな…。
「そんなことないよ。私は橙のこと大好きだよ」
たかが、肌に目をやったぐらいで何を怯えていたのだろうか。
「私もらんしゃまのこと大好きです!」
この子は本当にいい子だ。できればずっとこうやって甘えててほしいが…。
それは難しいというものだろう。
何れこの子も成長し、今のように甘えなくなるだろう。
だから、今この時を堪能しなければならない。
そう思いながら私は、体を洗うために風呂から上がるのだった。
「さて、もうそろそろ寝るか」
現在の時刻は深夜に回ろうとしている。
明日も早起きな為、そろそろ寝なければならない。
布団に潜って半刻は過ぎた頃。部屋に橙が入ってきて、
「らんしゃま…。怖いから一緒に寝ていいですか…?」
大方、怖い夢でも見たのだろう。
朝に橙が腕に絡まってたのも頷ける。
「ああ、いいよ。一緒に寝ようか」
そういうと、橙は昨日のように
左腕に小さな手と足を絡ませてきた。
「やっぱりらんしゃまの腕あったかいです…」
妖怪の結婚制度はどうなってるんだっけ?と、
くだらないことに深く考えるのも最近多くなった。
何れ橙が好きな人も出てくるだろう。
そうなれば私はお役御免となるのだろう。
それはそれで、寂しいが橙が幸せならそれでいい。
「おやすみ、橙」
「おやすみなさい、らんしゃま」
そういって私は意識を手放した。
「ねぇ、私の事忘れてない!?晩御飯は?ねぇ藍?」
その日、紫は1日中彼女らに忘れられていたそうな。
「いいわよ…。一人で晩御飯食べるから…。味噌汁美味し」
だがそれがいい、和むのぜ。