「文さんって、37だよね」
唐突なにとりの発言に、椛は眉をひそめる。
真剣勝負ならば口を紡ぐこともあるが、今は小手調べ程度の遊びの場。ついつい雑談が盤上を飛び交い、うっかりすればそちらに集中することもある。
そんな他愛ない雑談の中で、聞き捨てならない事をにとりが言ったのだ。
「文様が37?」
「うん、37」
何を言ってるのだ、この河童は。
呆れた溜息を漏らしながら、椛は指す手を休める。
「文様が37なわけないでしょ。そりゃあ確かに見た目は若いかもしれないけど、実際はかなり年期の入った天狗なわけだし、見た目で言うなら37よりも若い」
自分の事ではないが、一応は同族。
それに文とは疎遠というわけでもない。悪く言われて黙っているほど、椛は優しい天狗ではなかった。
「どこを見て37だと思ったの?」
「どこって、見たままを言ってるだけだよ」
「そんな馬鹿な。もう一度、最初からよく見て考え直した方がいいよ」
語気の荒くなる椛に対して、にとりの顔色も曇る。
「あのさ、さっきから何の話してるの?」
「何って、だから文様が37なわけないじゃんって……」
頭を掻きながら、にとりは苦笑を浮かべた。
「言っておくけど、私は年齢の事を言ったつもりはないからね」
「えっ?」
「年齢だったらさ、そりゃ椛の言うことが正しいよ。文さんは見た感じは若いし、実年齢は何百歳どころじゃない」
椛とにとりの認識はさほど変わらないらしい。
だとしたら、彼女は何の事を言っているのか。
「じゃあ、にとりはどこを見て37とか言ってるの?」
「そんなの決まってるじゃん」
あっさりと簡潔に、にとりは答えた。
「キーボード」