「ただいま……って何してるのよ?」
最愛の妻の待つ新居に戻ると、部屋の隅でしゃがみガードしている可愛い生き物が居た。
事情を聞こうにも、泣きじゃくるばかりで全く要領を得ない。
「ほら、泣いてばかりじゃ分からないわよ?」
背中をそっとさすりながら、優しく宥める。
辛抱強く続けていると、ようやく嗚咽混じりの弱々しい声で事情を話し始めた。
「あのね……たまには……えぐ……お嫁さんらしいことしようと思ったの……」
スキマを使って家の中をみると、台所はぐちゃぐちゃ、風呂場は不夜城レッドをぶっぱした跡がある。
「でも……全然……ひっぐ……上手くいかなくて……」
まあ仕方ないだろう。ついこの間まで箱入りのお嬢様をやっていた彼女が、急に家事をしだしても上手く出来ないだろう。
「こんなダメなお嫁さん……えぐ……要らないよね…………」
せっかく落ち着いてきたのに、また泣き出しそうになっている。
こういう時にちゃんとフォローを入れてこそ夫だろう。
「大丈夫よ」
その言葉に、俯いていた彼女がピクリと反応する。
「ご飯も出来てないし、お風呂も沸いてない。でもね……」
彼女の両頬をそっと掴んで上を向かせる。
泣きはらした真っ赤な目が痛々しい。私が帰って来るまで苦悩を想像すると、心が痛い。
「“あなた”はいつだって居るわ」
そんな苦悩を忘れてしまえるように、唇にそっと優しいキスを落とす……
八雲レミリア
「おはよう、霊夢」
のんびりと縁側でお茶を飲んでいると、よく知った声が耳に飛び込んで来る。
神出鬼没の胡散臭い妖怪、八雲紫だ。
「珍しいわね、あんたが歩いて来るなんて」
妙なスキマとやらを使ってやってくることが多いのだけれど、今回は歩いてここまで来ている。一体どういう風の吹き回しだろうか。
「私が一緒だからよ」
「へっ?レミリア??」
よく見れば、紫の日傘の影にもう一人居た。
彼女はこの前の紅魔異変の首謀者の吸血鬼で、ブチのめしたら妙に懐かれてしまい困っている。
それはそうと、日傘の相合い傘は珍しいが、この二人が仲睦まじく並んでいるのは、さらに珍しい。
この二人が一緒にいると、たいてい私の所有権を巡って争っている気がする。私は誰かの物になった覚えは無いのだけれど。
それがどうだ、仲良く一つの傘に収まって挙げ句手まで繋いでいる。
「何?新手の異変か何か?」
「結婚するのよ」
「はぁ? 誰がよ?」
「私ね」
「私よ」
「ふーん……」
あの二人の夫になるだなんてよっぽどの物好きだろう。
たまに来るだけでも鬱陶しいのに、一緒に暮らすだなんて考えたくもない。
「で、誰と?」
「レミリアね」
「紫よ」
「へぇ……って、ええっ!?」
「今日はその報告に来たのよ」
「えっと……罰ゲーム?」
「そんなんじゃないわよ!」
一番可能性の高い選択肢を上げたのだが、レミリアは語気を荒げて否定する。
さらに紫の手を引き自分の方に顔を向けさせると、背中の翼で少し飛び上がり……
「なっ――」
目の前で紫に口づけして見せたのだ。
紫なら演技でやりかねないが、レミリアにそんな器用なことが出来るとは思えない。
私に向き直った顔も、無理している様子もない、いつものレミリアだ。
「……本気、なのね」
「もちろんよ」
「まあ、不幸になる人間が減るのは良いことよね」
「ええ、私達は幸せよ」
「……」
お前らのことじゃ無いんだよ。と悪態を付きたくなるが、グッと堪える。ここで話を拗らせても、面倒なだけだ。
「で、いつまで居座るつもり?用事は終わったでしょ?」
「あら、霊夢。新しいお母さんとちゃんとお話しておかないと」
「何の話だ。何の」
「だって、私にとってあなたは娘みたいなものだし……」
「あんたみたいな胡散臭い母親を持った覚えはないわ」
「そういうことだから、お母さんって呼んでくれても良いわよ?ママでも良いわね」
「黙れ、クソ吸血鬼」
「まあ霊夢。どこでそんな汚い言葉覚えたの?おか……っと危ないわねぇ」
黙って陰陽玉を投げつける。
当たるかどうかはともかく、今の私の気持ちを代弁してくれるはずだ。
「今日の霊夢はご機嫌斜めみたいね」
「誰のせいだと思ってるのよ!」
「日を改めましょうか」
「そうね」
喚く私を無視して紫がレミリアを抱え上げる。
大人しく紫の腕の中に収まるレミリアが妙に腹立たしい。
「それじゃ、また来るわね」
「次こそはお母さんと呼ばせてみせるわ」
「黙れ!二度と来るな!」
怒号と共に打ち出された針は空を切った。
二人はすでにスキマの奥に消えた後。
「……全く何なのよ」
面白くない。
散々人に付きまとっておいて、いざとなったら自分達でくっ付くなんて。
「面白くないわ……」
冒頭のれみりゃと拗ねる霊夢がめっさ可愛い。
ちと短いので、もそっと量が欲しいが。
新しい組み合わせの可能性を感じました。
もっと妄想してくれお願いします。
貴方の妄想力は神かwwwww