私は私から届く、ある信号によって目を覚ました。
体に少し埃がついていたので次は保存状態をよくしようと明日からやるであろう仕事について思った。
「上海、おいで……」
呟くが一向に、アリス・マーガトロイドの忠実な人形。上海人形は来ない。
どうしたのかしら、と首を捻ったがすぐに理由を思い出す。
代わりの人形を何体か引き連れて私こと、アリス・マーガトロイド人形は魔法の森にあるアリスの家から飛び去った。
迷いの竹林にある永遠亭に着くと、予想以上に人妖が集まっていた。
アリス・マーガトロイドがアリス人形に施した起動の条件は一つ。アリス・マーガトロイドの死である。
魔法使いである彼女はいざという時の為に完璧なバックアップを用意していた。
アリスの知識を授け、記憶を持ち、技術を使える完璧な人形。
アリス人形は、自分自身をアリスの究極の目標である自立した人形だとは微塵も思っていないが、自身がつい先程までの時点のアリスと全くの同一人物であるとは思っている。
しかし、本物との違いが本物ではないという事実だけだとはいえ、彼女は偽物だった。アリスのものでアリス人形のものに移らないであろう唯一のものである友情の形の一部を前に、彼女は喜びと喪失の悲しみの涙を流した。
「お、おい。アリスっ!」
そうしていると、白黒の魔法使いが飛び込んできた。
「あぁ、魔理沙。私が死んじゃったみたいね、なんとも言えない思いだわ」
「そ、そ、そうなんだよ。アリスが死んで、私はどうしようかと、でもアリスが生きていて……ん?」
これほどに人は泣けるのかという位に、涙を流しながら抱きついてきた頭を反射的に撫でる。
しかし、撫でられている方は頭が正常に動きだしたのか驚いた顔で彼女を見上げた。
「ア、アリス……?」
「何よ魔理沙、人が悲しんでいるというのに――あぁ、妖怪はおろか、人間と比べても短い命だったわ」
「本当にアリスなんだな?」
「本当の私というのはどんな私のことなのかわからないわね。それに、もし私が本当のアリスじゃないです、って言ったらどうするの? 流石に一日に二回も死にたくないし、遣り残したことも沢山あるのよ」
そういうと魔理沙は頭を抱えた、わけがわからないぜ。なんて呟きも聞こえるが、当初に比べて大分落ち着いているようだ。
辺りを見回すと、当たり前だが皆が自分を注目していた。
安堵、戸惑い、怒り、そして興味。中には自分の正体についても気付いていそうな者達もいる。
レミリア・スカーレット、蓬莱山輝夜や比那名居天子が興味深そうに目を光らせ、西行寺幽々子が口元に扇を添えながら笑う。八雲紫と八意永琳、パチュリー・ノーレッジが少し驚き……いや、感心したよう。そして泣いたのか赤くなった瞳をした博麗霊夢が札を出して私に突きつけた。
「あんた、『何』?」
「『何』と言われてもね。名前を聞いているのなら私は間違いなくアリス・マーガトロイド。親がつけてくれた大切な名前よ」
「わかっている事を聞かないで、私はちょっと気が立っているのよ。こんなときに悪趣味な物を見せられて、いつもの私ならもうスペルカードの一枚や二枚は宣言してるわよ」
「お、おい。どうしたんだよ霊夢! こいつはどっからどうみてもアリスじゃないか!!」
一つ息を吐いて降参を示すように両手をあげた。
別に霊夢の脅しに屈したわけではない。彼女から守るように間に立ちふさがった魔理沙に対しての居心地の悪さに耐え切れなくなったのだ。
もう少し友達でいたかったのだが、作り物の自分には分不相応なのだろう。
「悪趣味だなんて死者の悪口はいただけないわね。それにしても全く、霊夢の勘には参ってしまうわ。一つ言わせて貰うと騙す気なんてなかったのよ。
私は贋物だけどアリスなんだから、彼女と同じようなことをとるに決まってるでしょう」
「あんたがアリスと同じですって? 冗談を言わないで」
「酷い言い草ね、あなたにとっては私は変わったかもしれないけど、私の主観ではあなたは変わってないのよ。結構ショックを受ける言葉ね」
「それで?」
「本当に酷いわ、まぁ予想は出来てたけど、当たって欲しくなかったわ。このアリス・マーガトロイド人形の心は張り裂けそうよ」
わざとらしく額に手を当てて嘆いてみるが相手は動じない。
心なんてありもしないのに。その霊夢の言葉の正当性は証明出来ないが、否定も出来ない。
実際のところ自分ですら心があるのかもわからないのだ。アリスを模倣する程度の能力を持ち、アリスを演じろと命じられた私。今の思考も、アリスがこの状況に陥れば考えるだろうと思っているが、そう思っている時点で所詮は作り物ということなのだろうか。
アリスを演じろという命令がないと何も出来ない私だが、それが下された以上、私は外的にはアリスと全くと言っていいほど変わらないのだが。
「結局の所。霊夢は私が何を言っても私を許しはしないのね」
「流石ね、話が早くて助かるわ」
「参考までに聞くけど、その理由は何かしら。歪な存在だからなんて言うと、退治しなくちゃならないヤツは幻想郷に沢山居るわよ」
「……………………」
「……友情と思っておくわ。一応言っておくと、あなたの行動は私の、いや、アリスの至上目的に反することよ」
「私がそんなヤツだってことなんて知ってるでしょ、あんたのご主人様は」
違いない。
何故か、ふふふと笑いが漏れる。
既に彼女の手に持つ札に篭められた霊力はばかばかしいまでに膨れ上がっている。どんな大妖を倒すのかと言いたい。
頼みの綱の魔理沙は『人形』という言葉のせいか呆けているし、他の友人と呼べれるような者も止めはしない。きっと私が逃げるのも止めはしないだろうが。
だが、逃げるのは無駄だろう。霊夢は本気なのだ、更に言うと自分のほうはしょうがないなんて考えてしまっているのだから。
「ちゃんと痛覚もあるんだから、痛くないようにしなさいよ。正直に言うと、とても怖いんだから私が取り乱す前にやってほしいんだけど」
「……わかったわ」
神妙に頷くと彼女はそれを放った。
スペルの宣言もされていない、純粋な破壊の本流。対する自分は無防備。
本日二度目の走馬灯を見ながら、最後の言葉を紡ぐ。
「ありがとう。良い友達を持ったわ」
その言葉を聴いたのか、顔をみっともないほどに歪めた霊夢の姿を見ることが出来た。
私が三途の川を渡れるかは知らないが、もし行けるのなら死神相手には良い土産話になるだろう。
そうして私の意識は飲まれた。
私は私から届く、ある信号によって目を覚ました。
空の境界のことを思い浮かべてしまいますね。
しかし二度目に現れた人形は会話することなく霊夢に破壊されそうw
>>1さん。
らっきょは大好きです。実際書き始めのときは全く考えていなかったのですが、粗方書き上げた時点でまるっきり橙子さんじゃねぇか! と。
没テキストファイルの海に沈めようかとも思ったのですが、量とかを削ってプチに投稿となりました。
>>2さん。
ですねぇ。ここでオリジナルっぽい要素を出すことが出来ると良いのですが力不足ですorz
>>3さん。
痛んdあぁ、すいません、マジ勘弁してください、可愛い猫さんですね、おちついt……
>>4さん。
さぁ、魔法使いの夜verの橙子さんにネコミミをつける作業に戻るんだ。
>>5さん。
そう言っていただけると幸いです。
当初は一体ずつの長さはこれくらいでアリス人形2体目~4体目くらいまで書いていたんですが、ざっくりと削ってしまいました。感想ありがとうございます。
>>6さん。
人形が続く限り永遠(厳密には違う)の存在ですからね。
没案の2体目アリスは場所を転々としながら隠れ住んでいましたよ、その間にアリス人形をさらに数体作って……
ループものは好物なのでもっと増えて欲しいです、最近増えてきたとはいえ、まだ少ないので自家発電。
ぶっちゃけ魔理沙と霊夢以外のキャラの細かな反応とかもみたいな
後は時間経過でどうなっていくのかとか
何気に気になるのはアリスの死亡理由だなぁ
一体何が起こって死んだんだろ