今年の冬は長かった。
そう、春が来ないのではないか。
そう感じるほどに長かった。
だが、実際に春は遠のいていたのだ。
西行寺幽々子が春度を回収していたため、幻想郷全体での冬が長かった。
異変に気づいた巫女が動き出したのはごく自然なことで。
特に何か問題があるわけではなかった。
問題があるとしたら春になると姿を消すことになるレティ・ホワイトロック。
その親友であるチルノだけだった。
「チルノ……。そろそろお別れみたいよ」
「わかってるさ! でも……でも……!」
「今年はいつもより長くいられただけでよかったじゃない……。ね?」
そう諭すようにチルノに聞くが、チルノは首を縦に振ろうとしない。
逆に首を横に振っている。
ついに異変解決の巫女が動きだしたという情報が耳に入ったのだ。
「もしかしたらずっと冬のままで、レティとずっといっしょにいられるかもしれないじゃない!」
「それは……、そうだけど……! 異変解決の巫女が動きだしたんだから無理よ……!」
「諦めたらそこで終わりなのさ!」
そんな言い争いをしている二人。
獣道へと続く雪道に二人はいた。
積もる雪とは裏腹に言い争いは熱を持っていた。
その雪道は偶然か必然か巫女が通る道だった。
言い争いの最中にチルノはハッと目を開いた。
巫女が前方からやってきたのが見えたのである。
その巫女に向かってチルノは全速力で飛び出していった。
レティはそのチルノを止めるつもりだったが、止める前にチルノは飛び出してしまった。
チルノがレティから離れ巫女と対峙している。
「弾幕ごっこで勝負さ!」
「は? 今日は手加減はしないわよ。異変解決は迅速にやったほうが賽銭も増えそうだしね」
「ぐっ。なめてると痛い目みるのさ!」
「はぁ……どうでもいいけど。いつもいつも、なんとなくそこに居たからを理由に弾幕ごっこを申し込まないでくれるかしら」
霊符「夢想封印」
巫女の周りを陰陽玉が回り出す。
それに応じるようにチルノもスペルカード宣言をする。
霧符「フロストコラムス」
その巫女に向かって氷の弾幕を広範囲に放つが、陰陽玉が全て防ぐ。
そして、少しのタイムラグの間に追跡タイプの陰陽玉がチルノに飛んでいく。
それをまともにくらい、チルノは気絶した。
巫女はそのまま雪道を進んでいく。
その進んでいく道を遮断するようにレティが霊夢の前に体を出した。
「今度は冬の妖怪……。面倒くさいわね。異変のときは相変わらず」
「私のためにあの娘が体をはったんですもの。抵抗はさせてもらうわ」
「ふーん……。何があったかは知らないけど。自分の後ろから迫ってくる弾幕ぐらいには気づくべきだったわね」
チルノとの弾幕戦で使用した陰陽玉の残りを巫女は自分の周囲より遥か遠くで待機させていたのである。
妖怪を察知できるため、この陰陽玉は便利なのだ。
何より、察知したあとは自動的に標的を追ってくれるのだから申し分ない。
速度もあるし、巫女のお気に入りのスペルカードだった。
ドゴッという音とともにレティは白い煙に包まれる。
「……スペルカードルールくらいは……守ってほしいものね……」
「異変解決の時は仕方ないの」
飛んでいく巫女を尻目に身ながらそのまま下に崩れ落ちていく。
気を失ったようだ。
チルノとレティが気を失っている間にあの巫女は異変を完全に解決していた。
幻想郷に春が戻ってきていた。
「……レティ! レティ!」
チルノがレティの肩を持ち、起こそうとしている。
それに応じるかのように、レティが起きたようだ。
起きたといっても春が近づいているし、さっきの巫女の弾幕のせいで弱っている。
「……チルノね。だから……言ったじゃない……無理だって……」
「それでも……来年までさよならなんて嫌なのさ!」
「それはね……チルノ。我が侭って言うの……よ。……私の気持ちも分かって……」
「……! ごめん……。あたいは……」
「もういいの……。いつも通り別れましょう……」
「……わかった」
そう、いつも通り。
いつも通り二人は顔を涙で濡らし、すすり泣きながら抱き合っていた。
「……さよならね……。また来年……」
「うぐっ……。レティ……!」
レティの体が薄まっていき、そして消える。
いつも通りチルノ一人が取り残される。
いつもと違ったのはその後にチルノが大声で泣き出さなかったことだった。
願わくばまた来年貴方と出会えますように。
幻想郷にはすでに春を運ぶ妖精が訪れていた。
「……わかった」
昼ドラかよwww
幻想郷では異変だからこそルールを守らなければいけないような…。