タイトル 「悪戯心理(トリック・マインド)」 鈴仙・優曇華院・イナバ
この数日、てゐの素行をそれとなく見てきましたが、本当に驚くことばかりでした。
これまで永遠亭で起きた一連の悪戯はてゐの仕業ではなく、なんと他の兎達の仕業だったのです。
朝から晩まで私達の目を盗んで悪戯することばかり考えているようなのです。
信じられないかもしれませんが、てゐはそんな兎たちの悪戯を抑止するよう動いていました。
先日スコップを持って竹林を歩くてゐを尾行しました。その時見つけた落とし穴は数知れず……。
そして私は見てしまいました。その数々の落とし穴をてゐ自らがこっそり埋めていたのです。
驚くべきなのか呆れるべきなのか、たった一人でよくもまぁやるもんだと感心しました。
よく見かけるスコップを持つてゐは、穴を掘っているのではなく埋めている姿だったようです。
さて、私は一つの疑問がありました。なぜてゐはこんなことをするのだろうかというものです。
そもそも私達は、てゐが悪戯をするということの意味を深く追及したことがあったでしょうか。
ああ見えて彼女は長く生きてます。悪戯という幼い遊びに精を出すのは何かおかしくないだろうか。
そう、おかしいのです。私達は「悪戯は全部私がやった」というてゐの言葉を無条件で信じていました。
てゐが兎達に慕われる理由、私の言うことを兎達がなかなか聞いてくれない理由。
付き合いの長さでは決してないでしょう。私とてゐの間には明確な差異があるのです。
それがこの「悪戯との接し方」であるに違いありません。
てゐのように決して兎達の悪戯を咎めず、何も言わずに悪戯の後始末をする保護者のような振る舞い。
竹林を穴だらけにし、言いつけはろくに守らず、目を離すとすぐにどこかへ行ってしまう。
そんな兎達のトップとして長年過ごしてきた彼女の懐の広さは一体どれほどのものなのか。
挙げ句、お師匠さまに「悪戯は全部私がやった」と開き直る姿は、ある意味では勇ましくも見える。
そしてそれは、本当はてゐのやった悪戯ではなく本来叱られるはずの兎を庇った行為。
私には馬鹿げているとしか思えないそんな言動が、兎達の目にはカリスマ的に映ってしまうのでしょう。
例え、てゐが兎達の悪戯を暗に窘めていたとしても、てゐはあくまで兎達の味方なのです。
そう考えれば私の言うことを聞いてくれない理由も説明がつきます。私は悪戯を叱っている側なのです。
兎たちにはそれが面白くないに違いありません。それは前々から知っていました。
それでも、良くないことは良くないと言い続けることで、いつか信頼を得ることができるはず。
そんな夢みたいな妄想は今日で終わりです。私も兎達に混じることで信頼を勝ち取ろうと思います。
このレポートを書いている今そう決意しています。
しかしいきなり悪戯に参加するのは兎達も困惑するでしょう。まずは徐々に溶け込んでいきたい。
兎達との距離を縮めるために笑って許して貰えるお茶目くらいならやってみようかな、と思います。
手始めに寝ている姫さまの鼻にポップコーンを詰め込んだのは私です。鼻の奥行きに驚きました。
私が悪戯をしても、お師匠さま、どうぞ笑って許してください。
お師匠さまにはポップコーンよりも小さい小豆を用意していますゆえ。
――小豆って……これはオチをつけたつもりなのかしら。
永琳が部屋へ戻ると、鈴仙に頼んでいた薬草とレポート用紙が机の上に置かれていた。そういえば提出期限は今日までだったなと思い出し、相変わらずの珍妙なタイトルに苦笑いしながら永琳はレポートを読み始めた。それが数分前のこと。
提出されたレポートを改めて読み返し、永琳は疲れたように目頭を揉んだ。レポートをファイルへ綴じる。これは兎たちに智慧をつけてやるという、ずっと以前にてゐと交わした約束の一環である。永琳はレポートを課すことで兎たちに考える力をつけてやろうとした。が、きっちりレポートを提出するのはどういう訳か約束の兎たちに含まれない鈴仙だけであった。兎レポートと書かれたファイルにあるのは全て鈴仙のものだ。やる必要の無いレポートをわざわざやってくる鈴仙の勤勉さは評価する。文章の整合性や主張の一貫性。読みやすさを配慮したレイアウト、その他諸々まだまだ文章の書き方は下手なものの、最初の頃と比べると目覚ましい進歩だ。いつもは文字数が足りずに一行ずつ開けていたのに、今回のテーマは鈴仙にとっては書きやすかったのかレポート用紙びっちりと字が埋まっている。
構成は悪くなかった。
まず最初に自分が見たこと――この場合はてゐの意外な一面に触れ、それについて自分はどう思い、そしてそこから何を考えどうするべきか、という教科書みたいな構成は十分に及第点だ。しかし内容が拙い。主人公の天晴れな生き様を書いた文学作品を読んで「自分も聖人君子のように生きていきたい」と書いてしまうような思春期真っ盛りは恥ずかしいが、こんな風に不良宣言されてもそれはそれで困る。
――何より、こんなことでポップコーンを詰められた輝夜が不憫すぎる。
輝夜はかんかんであった。寝ぼけて口と鼻を間違えたのではないかというてゐの言葉に揶揄の響きを見つけ、犯人はこいつ以外いるわけがないと昨日は一日中てゐを追いかけ回していた。
悪戯加減の知らない鈴仙も鈴仙だが、わざわざ損な役回りを演じるてゐもてゐだ。そして悪戯は全ててゐがやっていると思っていた自分も自分である。みんな不器用というか間抜けというか。
今度はこめかみを揉む。てゐへの評価を改めねばなるまい。
ノックをする音が部屋に響いた。
「お師匠さまー、きましたー」
この際だ、ポップコーンの是非は捨て置こう。既にてゐを折檻してあるのに、わざわざ蒸し返すのはてゐとて望まないだろう。
「入って良いわよ」
しかし小豆、お前はダメだ。
*
怒声と涙声が部屋に溢れる。
その部屋の戸はさっきまできっちりと締められていたはずなのに、今はなぜか僅かだけ開いている。そこから一枚の紙がすきま風のようにひらりと忍び込んできた。中の二人は怒ることと泣くことに夢中で気づけない。
その紙には、こんなことが書いてある。
タイトル 「いたずら」 てゐ
鈴仙が薬草とレポートを持って部屋に入るのが見えた。
そういえば今回のテーマは「いたずら」だ。
鈴仙のレポートは明らかに字数が足りていないようだったので、一行ごとに書き足しを行った。
筆致を真似するのが大変だった。
<了>
この発想力に脱帽……!
縦読みを警戒して読んだのに、まさかその手で来るとは……!
くそう、と舌打ちをして読み進めること数分。
これには驚きました!
てゐの手法の鮮やかなこと鮮やかなこと。
まさにお見事の一言です。
こういうトリックは教えられてから読み返すのが楽しいですね
騙された! 面白かったです。
二度読み直して二度楽しめました
最後のてゐのネタバレがなければ、
気がつきませんでした。
驚きで開いた口がふさがらない。
本当すごいです。
いやー、ネタばれするまで見破れんかった。参りました。
てか、ものすごく自然に騙された!!
この発想は絶賛ものですね~。
あとがきの経験は私もありますね~;
あの瞬間に噴き出た汗の量は、どんな真夏日でも再現できないんですよね~;
正に「こ の 発 想 は な か っ た」
げに恐るべきは、てゐの真骨頂…!
お見事っ!
脱帽どころか脱毛する勢いです。
てゐ焦ってるだろうなあw
鼻にポップコーンを詰め込まれた姫様が見てぇwww
これはすごいwww
しかしなんで誰も姫様の鼻の奥行きにツッコまないんだ?
作者さんすげえ、と思う前に永琳にばれずにこれをやってのけたてゐのその手腕と発想に、すげえと思ってしまったわけです。
もちろん、これを考えた作者さんの手腕と発想にも脱帽です。
なんともてゐらしい、手の込んだ悪戯だw