その日、何時もどおり境内の掃除をしている博麗霊夢の前に降り立った射命丸文は、迷惑など全く省みる事無く自慢の羽根を辺りに撒き散らした。
無論、霊夢はげんなりした顔で文を見たが、その時一つの異変に気付く。いや、異変というには大袈裟な、本当に些細な変化。
文は、鼻に掛けたそれを自慢げに見せびらかせた。
「どうです、霊夢さん。この眼鏡をみて、どう思います?」
「すごく……(瞳が)大きいです。」
「すいません、それ何かのネタですか?」
「……なんでもないのよ。気にしないで。(なんだ、こいつノンケか……)」
あんまりなリアクションを取られた文だったが、気を取り直し、今一度眼鏡をアピールする。
「どうですか? なんだか知的に見えませんか?」
「まぁ見えなくもないわね……ていうか、最初からそう言って欲しかったんでしょ?」
「あややや。流石霊夢さん。手厳しい。」
「それより突然どうしたのよ、眼鏡なんてして。目の悪い天狗なんて前代未聞よ?」
「いやいや、それは偏見というものです。確かに千里眼は天狗の特技ですが、私には出来ませんよ。まぁそれでも人間に比べればよっぽど良いですが。」
「だったらなに? イメチェン?」
「ええ、そんなところです。」
「……本当に?」
「本当です。」
「何だか裏がありそうね……」
「ええ、ありますよ。」
思いっきりが良すぎる文に対し、霊夢は訝しげな視線を送った。
「そんな大したことではありませんよ。私の新聞のお得意様からの依頼でしてね。眼鏡の良さをアピールして欲しいと頼まれたんです。
その方はお店を経営されてますから、報酬として、この伊達眼鏡と、新聞の店頭販売を約束してくれました。」
こと嬉しそうに話す文を尻目に、霊夢はそんな事だろうと思った、と言いながらやれやれと首を振った。
「ですから、霊夢さんもどうぞ、試しに掛けてみてください。」
そう言って文は、自身が掛けていた眼鏡を霊夢に差し出した。
「私が?」
「そうです。」
「……似合うのかしら……。」
渋々といった様子で、しかしその実心中では結構ドキドキしてたりする霊夢は、若干の期待に胸を膨らませながら、おずおずと眼鏡を掛けた。
「ど、どうかしら?」
「似合ってますよ、霊夢さん! いやいや、私なんかよりずっと知的に見える!」
「そ、そう?」
お世辞と分っていながらも、満更でも無い様子で仕切りに眼鏡を掛け直したりする霊夢。すかさず手鏡を出す文は、本当にセールスに来たかのようだ。
「きっとお店に行けばもっとお似合いの眼鏡が……」
「なにしてるんだ、二人とも?」
そこへ新たなカモが。否、小さな鬼がひょっこり現れた。
霊夢とお揃いの巫女服に、箒を持たされているところを見ると、掃除を手伝わされていたらしい。
「これはこれは、萃香さん。どうですか、萃香さんも試しに。」
そう言って、眼鏡を掛けた霊夢を指す。
「どうしたんだ、霊夢。眼鏡なんて掛けて……目でも悪くしたのか?」
「違うわよ、これは伊達眼鏡。ちょっとしたファッションよ。」
「ふ~ん……。」
萃香の反応は薄く、あまり興味が無いようだった。鬼である彼女には、“伊達”という言葉自体に、好感が沸かないのであろう。
「とにかくアンタも掛けてみなさいよ。」
「い、いいよ私は~。」
「「良いから、良いから♪」」
何時の間にやらノリノリな霊夢と、元々掛けさせるつもりでいた文に押し切られる形で、仕方なく萃香も眼鏡を掛けた。
「…………。」
「…………。」
「?」
何故か訪れた沈黙に、首を傾げるしかない萃香。
やがて霊夢が、ぼそりと呟いた。
「…………恐ろしく似合わないわね。」
一方的に勧められ、挙句には似合わない等と言われれば、萃香でなくとも怒って当然であろう。
「う、うるへぇ~~!!」
憤慨する萃香を、まぁまぁと何とか宥めようとする文。
そこへ図らずも助け舟を出すかのようなタイミングで、ぱっくりとスキマが開いた。
当然そこから現れる人物など彼女しかいない。
「あら、女三人揃うと姦しいとは本当ね。一体何を騒いでいるのかしら?」
「紫ぃぃ~~、こいつらが苛める~~。」
二人の体格差から、紫に泣き縋る萃香の姿は、親子のそれに見えなくもないのだが、いかせん巫女服に眼鏡は流石に浮きすぎていた。
「もはや、コスプレね。」
「霊夢がさせたんだろうがぁ!!」
本気で憤慨する萃香に、流石の霊夢も、悪かったわねと謝った。
「あら、眼鏡なんて掛けてたの。」
此処にきて漸く紫が眼鏡に気がついた。
その機を逃さす、文がセールストークを繰り出す。
「お二人には、モニターになって貰ってたんです。どうですか、紫さんも是非!」
ずいずいと迫ってくる文に全く動じず、紫は萃香から眼鏡を取り上げると、自分で掛けて見せた。
「ふふふ、どうかしら?」
「「「おおおっ!!」」」
「流石、妖怪の賢者といったところでしょうか。掛け値なく似合ってます。」
「眼鏡だけに?」
「…………萃香さん、私を滑らせてどうしたいんですか?」
「霊夢はどう? この眼鏡、私に似合っているかしら?」
自信満々に見せびらかす紫に対し、霊夢は厳かに頷いた。
「ええ、とっても。なんて言うか……そう、伊達眼鏡をしているというよりそれはまさに老眼きょ、」
ガッ!
「……霊夢? 今の言葉は特別聞かなかった事にしてあげる。だから取り消しなさい、良いわね?」
「い、イエス・マム!!」
霊夢の顔面を鷲掴みにし、青筋を立てながら差し迫る紫の姿は、雄々しくも荒々しい、まさしく妖怪のあるべき姿だった。
((流石、妖怪の賢者……))
思うぬ形で大妖怪の片鱗を見た一同だった。
「そう言えば、さっきから気になってたんだけど。」
「なんですか?」
「この眼鏡をアンタに譲ったっていうお店のお得意さんって……ひょっとして霖之助さん?」
「そうですよ。」
「へぇ……」
(霖之助さんって……)
(あいつって……)
(あの方って……)
(((眼鏡フェチだったんだ……)))
パチュリーや慧音や永琳や幽香や神奈子や衣玖や豊姫やメリーにもかけたいなぁ。
あれ、眼鏡似合う人って乳が大きい……?
レティさんとか藍様も似合いそうだ
お姉さんみたいで
あれ、たしかに胸おっきい人は眼鏡が似合う…
あと、アリスも眼鏡が似合いそう!