※黒日記からの続きになります
―月―日
『永遠亭から戻ってきて
私は久しぶりに門の前に向かった
そしたら部下達に少し怒られてしまった
まあ、仕方が無い今の私にこの場に立つ資格は無いのだから』
・・・
「門番長!?」
部下だった者の一人が門の前で日向ぼっこしていた私に近寄ってくる
「こんな所で何してるんですか?」
「日向ぼっこですよ…」
私はそう言いながら、再び門の前を向こうとすると
他の門番隊の皆も私の傍によってきた
「駄目ですよ、此処だと何時誰が攻撃してくるか分かりませんから」
「大丈夫です…こんな昼間に攻撃してくる者は居ませんよ?」
「それは…」
「それに、門番隊の皆が強い事は私が良く知ってますから」
元部下が口を止めたのを確認してから言葉をかけた
「ですよね?『現』門番長殿?」
「は、はい!」
・・・
『私は門番長の職を辞任した
知らず知らずとはいえ、薬に手を出していた事もそうだが…』
・・・
「めーりん!」
背中から聞こえて来た声に私が体だけを振り向かす
「あ、妹様」
傘を差した妹様が私に向かってきた
「『あ、妹様』…じゃないよ、此処だと危ないって何度も言ってるのに」
口元をへの字に曲げた妹様の姿は可愛いのだが
どうやら、本当に怒っているようだ
「あははっ…日向ぼっこぐらい良いじゃないですか」
「だからって、何時誰に攻撃されるか分からない門の前は駄目!」
妹様がそう言って怒ると、私の背中に回り
「それじゃあ、めーりん庭まで運ぶね?」
「…はい!美鈴隊長を庭までお願いします」
「私の意志は無視ですか?」
私が乗っている車椅子の背中を妹様が押し始めた
・・・
『薬の打ちすぎにより大量吐血をした私は一命を取り留めた
だが、その代わりに体全身が一気に衰えてしまった
そのために脚がうまく動かなくなってしまった事…
これこそが、門番長を辞任を決めた決定的な理由だった』
・・・
「ごほっ…ごほっ」
「めーりん、大丈夫?」
少し咳き込んだ私の背中を妹様が擦ってくれる
「大丈夫ですよ…少し咳き込んだだけですから」
私がそう言って微笑むと、妹様が心配そうな顔をしながらも
「なにかあったら遠慮しないで言ってね?」
そう言って再び車椅子を押してくれた
・・・
『一応は自分の手で車椅子を動かす事は出来るし
多少無理をすれば飛ぶ事も出来るが
永遠亭に居る時、妹様が私の車椅子を押してくれたのがきっかけで
今でも妹様が私の車椅子を押して貰っている
無論、私はそんな恐れ多い事をしなくても良いと言ったのだが
妹様が自分の意志で行なってるのでお願いしている』
・・・
「めーりん着いたよ」
「ありがとうございます妹様」
庭の一角に連れて来てもらうと
そこにはテーブルと日除けが準備されていて
「…絶好の読書日和ね」
パチュリー様が一足先に席に座りながら本を読んでいた
「お勧めの本はありますか?」
「少し待ちなさい…」
パチュリー様がそう言うと、
隣に積まれている本の塔から数冊の本を取り出した
・・・
『庭での読書会を提案したのはパチュリー様であった
自分の足であまり動けなくなった私に
パチュリー様は、お勧めの本を薦めてくるようになった
それはありがたい事なのだが、車椅子だと図書館に行くのは少し辛いのだ
その事をパチュリー様に言ってみると
次の日から庭で本を読む事が決まったのだ』
・・・
「……ふぁ?」
ふと、気が着けば辺りは暗くなって来ていた
周りに居た筈のパチュリー様と妹様も姿が見えなくなっていて
「あら?目を覚ましたかしら」
自分の傍で編み物をしている咲夜さんの姿があった
その姿を見て、自分が眠っていた事に気づいた
「すいません、うっかり居眠りしちゃいましたね」
「ええ、気持ち良さそうに眠っていたわ」
咲夜さんがそう言いながら手にしたナイフを持ち
「リンゴあるけど食べるかしら?」
いつの間にか用意したリンゴをお皿の上に置いてくれた
「それじゃあ一つ頂きます」
兎の形にカットされたリンゴを私は口に運んだ
・・・
『紅魔館に戻ってから眠る時間が更に増えた
人と話をしている間でも、ふっと眠りに着く事が出てきた
門の前に立たなくなったために
額にナイフが刺さる事や怒られる事は無くなった
その代わり、咲夜さんと一緒に要る時間が少しだけ増えて
気が着けば寝起きに咲夜さんがいる事が多くなっていた
そして、ちょっとしたお茶会と雑談をする事が増えた事は嬉しかった』
・・・
「…そろそろ、お嬢様の食事を作る時間ですね」
「あら?もうそんな時間?」
リンゴを一つ摘んで咲夜さんと話をしていたら
いつの間にか真っ暗になっていた
「それでは咲夜さん…私はそろそろお部屋に戻りますね」
「…一人で戻れるの?」
「大丈夫ですって」
多分、車椅子の事を心配しているのだと思うが
手の力はまだ残っているのだ
自分の部屋に戻るくらいならなんとも無い
「それじゃあ、部屋に戻りますね」
「…ええまたね、美鈴」
私は咲夜さんに背を向けて自分の部屋に向かう事にした
「ありゃ?」
もう少しで自分の部屋に着く所で車椅子の調子がおかしくなった
どうやら、ちょっとした段差に引っかかったみたいだった
(やれやれ、少し力を籠めないと)
私はそう思って手に力を入れようとした時
「美鈴、手伝ってあげるわ」
誰かが自分の車椅子を後ろからそっと押してくれた
そのおかげで段差を無事に乗り越える事が出来た
感謝の言葉をかけるために私は背中の人物に謝った
「すいません、お嬢様」
「このぐらいなんでもないわ、それよりも部屋まで戻るみたいね?」
「あ、はい…」
私がそう言うとお嬢様は微笑を浮かべて
「部屋まで押して行ってあげるわ」
私の車椅子を押してくださった
・・・
『お嬢様には感謝してもしきれない
長らくこの御屋敷に住まわせてくれた事もそうだが
永遠亭から出る事を決めた時、これ以上周りに迷惑をかけまいと
屋敷を出る事を決意していたのだが
『そんな身体で何処に出て行くというの!?この馬鹿門番!』
『も、もう門番じゃないですって…』
『黙れ!お前も私の物だ!勝手に出て行くことなぞ私が許さん!』
お嬢様にその話をしたら烈火のごとく怒られた
結局、屋敷を出る事は出来なくて
お嬢様に特別にあてがわれた部屋で過ごさしてもらっているのだ』
・・・
「さあ、着いたわよ」
「どうもすいません、お嬢様」
頭を下げようとしていた私の額にお嬢様が指を当てる
そのせいで頭を下げることが出来ない
「美鈴…貴方に頭を下げることを禁止するわ」
困惑している私に対してお嬢様がそう告げた
「で、ですけど…わざわざお嬢様のお手を煩わせて…」
慌てている自分の口にお嬢様が人差し指を当てると
「こんな時ぐらい煩わせなさい!」
そう言ってくださった
「…長い間紅魔館に尽くしてきたのよ…こんな時ぐらい煩わせなさい」
お嬢様がそう言って、部屋から出て行こうとしていた
「私達のせいで貴方がそんな身体になってしまった原因は私にもあるから
この言葉を言う資格があるかどうかわからないけど…」
お嬢様が部屋から出る間際に小さな言葉で
「…貴方も紅魔館の家族じゃない…」
そう言ってくださった
・・・
『お嬢様が部屋から出て行ってから私は静かに泣いた
皮肉な事に、こういう事になって初めて
私はこの屋敷の皆に必要とされているのだと知った
だから、最後になると思われる今日
この日記を自分の部屋に残そうと思う』
―――
「ふぅ…」
日記を書くのも一苦労だが
書ききる事が出来てよかった
「…何とか…書けました」
自分に時間が無い事は永遠亭に居た時に気づいていた
長いズボンとゆったりとした服を着ているから
周りからは気づかれて居ないと思うが
今の私の身体はボロボロになっていた
筆を取っている手も、枯れ木のようにボロボロになっている
脚は既に力が入らず立とうとしても震えるだけ
薬を使っていた際に、殆ど食事を取らなかったために
身体は既に肋骨が見えるまでに凹んでいた
つまり…老化が見られていたのだ
長らく精神的に辛い状態が続いていたのだが
薬の多用のために胃穿孔による吐血が切欠だった
妖怪にとって肉体的な事よりも、精神的な事は致命的
精神的なストレスが真っ先に出てくる胃に来たのは
身体からの最終警告だった
多分、何も言わなかったが永遠亭の薬師も既にわかっているに違いない
そうでないと、この身体で退院できたはずが無いのだ
「…さあ、そろそろ向かいますか」
お嬢様からあてがって頂いた部屋にあるベッドに
書いた日記を置いてから、私は両足で立ち
窓から外に飛び出した
理由は二つ…
自分が老けていく姿を紅魔館の皆に見せたくないから
(まあ、私も女性ですしね)
そして、もう一つの理由は
自分が死ぬ姿を紅魔館の皆に見せたくないため
(…屋敷で完全に死ぬ姿を見せるよりは姿を消して、
何処かでまた会える可能性を感じれる方が…)
そして、何時かまた何処かで会えると思う方がはるかに幸せである
ああ、体が苦しくなってきた…
でも、屋敷からははなれる事が出来た…
大丈夫、またきっと帰ってこれるから
(絶対に…また…この……紅魔…館に…)
最後に私は紅魔館を一目見てから
冷たい湖の中に落ちて行った
深く深く静かな水の中
私の意識は静かに消えて行った
なんかじんとくるお話でした。これで黒日記の評価が落ちるとは思いません。つうか上がるでしょ?
脱字?
>ちょっとしたお茶会と雑談をする事が増え(た/る)事は嬉しい事だった
灰色の空気がよかったです。
さぁ、今回はどんなコメント群になるのか!w
皆のコメントまで楽しみになる脇役さんの作品はマジパネェっす。
閻魔がそれを許していいのか?
さっぱりして読みやすい上、「本編では」流れに無理がなかった。
後書きが完全に蛇足。
しかも転生を履き違えてるから、余計に不自然。
勿体ない…
さすがにみなさんもSSに夢を持って読んでる訳ではないし、二次作品と割りきっていると思うので、バッド臭いならバッド、ハッピーっぽいならそれっぽい伏線を入れとく…等、無理に方向転換する必要は無いと思いますよ。
多分、この作品を読んだ人の中には、後書きを読む前までなら、バッドでもこういう形があるか…と納得する人もいるんじゃないかなと思います。
何が言いたいかっていうと、後書き無しのバッドが、自然な流れで良い印象って事です。
もしかしたら、記憶を持ったまま別の人妖として生まれるのかも知れない。あるいは、完全に新生して次なる人生の中で勉強すべしとの事なのかも知れない。
名もない妖怪あたりに転生して紅魔館に就職し、館の皆から“紅美鈴”の思い出を語られる彼女なんてものを想像しました。
やはりあなたは大物かもしれません。
ていうか、だからまた美鈴のせつない姿に全俺が泣いた;;
これはちび美鈴フラグなんじゃないか!?と。
湖のほとりで発見されるちび美鈴、紅魔館に連れられ今までの反動で恐ろしく過保護に扱われるちび美鈴。
紅美鈴が違う意味で苦労する暖かい?未来を幻視しましたw
取って付けた感がありありで美鈴が痛々しい
なんというか、どうかと思う
転生ちび美鈴でも、別人美鈴でもいいので、記憶を持って生まれ変わらないと紅魔館組がものっそい切ないです
もし作者殿の筆がのるなら、後日談が見てみたいです
掛け合いを想像したらグランマって呼べそうな気がした。
安楽椅子の似合う美鈴ってのも見てみたいなぁ、っておもってみたり。
今更な上に本編に関係ない、コメントに対する批判で申し訳ないのですが、
批判してるバカども、批評するときくらいコテハン使え。名前を隠さないと批評もできんのか。