注)これはフランちゃんのQED『紅魔館盗難事件』の解決編になります。
問題編を未読の方はそちらを先にお読みください。
この先、495年
↓
8
「怪盗マリサ、あなたを――QEDしてあげるわ」
フランドール様がそう宣言すると、怪盗マリサは呆れたように言いました。
「まったく付き合ってられないぜ。私は帰る」
怪盗マリサが隣に立てかけた竹箒を取って跨ろうとしたとき――
「させないわ!」
――フランドール様が動きました。
いえ、動きすら見えませんでした。
次の瞬間には尻餅をついた怪盗マリサと、
竹箒を持ったフランドール様がいました。
解決編の開始早々、退陣を願った不遜な怪盗は、
その願望を叶えることができずに終わりました。
「痛っ!いきなり何しやがる!
それに、箒も返しやがれ!」
マリサが尻の埃を叩き落としながら言いました。
フランドール様が、竹箒を眺めながら言います。
「こんな、無駄に大きな竹箒じゃ、掃除をし辛いったらないわ」
フランドール様は穂先を上にして、その穂先を掻き分けました。
すると穂先近くまで箒の柄が突き出しているのが見えました。
たしかに掃くときに柄が地面に付いて掃除がし辛そうです。
怪盗マリサが「ちっ」と舌打ちをしたのが聞こえました。
「そう、これは箒じゃなくて長い竹の筒だったのよ!
それに穂先を付けて、箒にカモフラージュしたの」
その場にいたメイドたちが感嘆の声を上げました。
フランドール様は、竹の節を絞る様に握り力を入れます。
――キュポン、音を立てて節の一つが外れました。
あえて直喩するなら『卒業証書入れ』のような音でした。
そこに現れた空洞へと指を入れて、掻き出します。
すると紙の筒のような、丸められた絵が姿を現しました。
「灯台デモクラシー……じゃなかった、何だったっけ?
そうそう、灯台下暗しよ。絵は近くに隠されてたの」
そこでフランドール様が奪い返した絵を広げます。
大きな絵で、横の長さは私の身長より長いものでした。
当然ながら『紅魔館』には紅魔館の絵が描かれていました。
「見つかっちまったもんはしょうがないな。
仕方ない。今回は、負けを認めてやるぜ」
怪盗マリサは存外に、簡単に負けを認めましさ。
その清々しさ故に、余計に怪しく感じられます。
「負けを認めるにはまだ早いわ、怪盗マリサ」
「何だ?どういう意味だ、それ?」
「なぜなら、まだ――」
フランドール様がマリサを睨めつけます。
「私の証明がまだ終了していないからよ!」
さすがの怪盗マリサもこれに面喰ったようです。
フランドール様は怪盗に、続け様に言いました。
「今から、あなた仕組んだ、もう一つのカモフラージュを暴く!」
9
「最初から、おかしいことだらけだったのよ」
フランドール様が、怪盗マリサ――というより、その場の皆に語りかけます。
「どうして、怪盗マリサが『紅魔館』なんかを狙ったのか」
そうです。その目的がわからなかったのです。
多量の金銭に変えることは期待できませんし、
それに執着するような理由が感じられません。
「でも、本当の目的は、『紅魔館』なんかじゃなかったのよ。
あの犯行予告は、言うなら、ミスディレクションだったの。
今日の一連の出来事は、本当の目的のための下準備だった」
マリサとパチュリー様以外の皆が驚愕しました。
それなら、今までの捜索は何だったのでしょう。
パチュリー様も気付いているようですが、
説明はフランドール様に譲ったようです。
「怪盗マリサの本当の狙いは『額縁』だったのよ。
なぜなら、それは絵より価値のあるものだから」
たしかに、大きな額縁は、それだけで値が張ります。
装飾に凝っていたり金でできていれば尚更でしょう。
しかし、怪盗は額縁を持っている様子はありません。
「それじゃあ、額縁は今どこにあるのですか?
すでに、持ち去られてしまったのですか?」
美鈴さんが聞くと、フランドール様は首を横に振りました。
「いいえ、まだ紅魔館の中にあるわ」
「一時的に隠されているのですね?」
私が言うと、フランドール様は得意気な様子で言いました。
「隠されてなんかいない。むしろ堂々と置かれていた。
小悪魔、あなたも、その額縁があるのを見たはずよ」
私は犯行予告を見つけてから今までの行動を振り返りました。
玄関ホールで犯行予告を見つけた後、二人にその内容を伝え、
メイドたちと美鈴さんを呼びに使用人棟へ行って、そして――
レミリア様の部屋で――私は――金縁の大きな姿見の前で――
「姿見ですね!レミリアお嬢様の部屋には大きな姿見がありました」
「そういうこと。お姉様の部屋には、あるはずのないものがあった」
今思えば、これはおかしなことです。なぜなら――
「吸血鬼は鏡に映らない。だから、姿見なんて要らないの。常識よ」
吸血鬼自身が言っているのですから間違いありません。
「額縁に鏡を入れて、クローゼットの横に立てかけることで、
大きな姿見にカモフラージュしたのよ!」
「ですが、レミリア様の部屋に置いた意味はあるのですか」
「怪盗マリサは、お姉様から姿見を譲り受けるつもりだったの。
吸血鬼には要らないものだから、無下に断ることはないでしょう。
メイド長にしても、いつの間にか現れた怪しい姿見を良しと思わない。
持って行ってくれるなら、いい厄介払いになる。双方にメリットがあるわ」
メリットがあるらしいです。
だからこそ、レミリア様とメイド長不在のこの機会を狙ったのでしょう。
「くっ、悔しいがフランドールの推理は当たってるぜ」
当たってるらしいです。
「今回のところは私の負けってことにしといてやるぜ」
「そう、それならこれで――」
フランドール様は怪盗マリサにラストスペルを放ちました。
「QED――証明終了」
エピローグ
「まさか盗んだ銀で鏡を作っていたとはね」
パチュリー様がレミリア様の部屋にある鏡をしげしげと眺めて言いました。
「銀?これって銀でできているのですか?」
パチュリー様が、レミリア様の部屋の鏡を見たいと言い、
私はそれについていったのでした。
フランドール様は、一足先に図書館に戻っていきました。
今は読書を再開しているでしょう。
美鈴さんも早々と布団に入り寝息を立てているはずです。
「でも、どうやってこんなに大きな鏡を作ったのでしょう?」
「それ自体は難しいことでは無いわ。
小悪魔、鏡を作る方法くらいなら知ってるでしょう?」
「めっきですよね。でもめっきをするためには……あ!」
怪盗マリサは恐らく、盗んだフランス窓のガラスにめっき加工を施したのです。
マリサはこの鏡を作るために、ガラスと銀細工を盗んでいったのでしょう。
そこで私は文々。新聞に書かれていた見出しのことを思い出しました。
『犯行の背後に謎の男マスター・モリチカ氏の影が!』
『マッドサイエンティスト・ニトリも犯行に関与か?』
「マスターモリチカはめっき加工に定評があるらしいわ。
マスターモリチカか科学者、あるいは両者が共犯の可能性がある。
妹様はそこまで言及しないままにQEDしてしまった。
新聞記事にさえ目を通していれば簡単にわかることなのだけどね」
「それで評価のほどは?」
「及第点には届くけど、満点には程遠いわ」
そして、私たちは大図書館へと戻りました。
「おかえり」
フランドール様が本を読んだままで言いました。
「ええ。ただいま帰りました」
パチュリー様はフランドール様の元へ寄りました。
そして――
「推理小説を読むのもいいですが、新聞を読むのもいいですよ」
そう言って、優しく笑いかけたのでした。
(終)
問題編を未読の方はそちらを先にお読みください。
この先、495年
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8
「怪盗マリサ、あなたを――QEDしてあげるわ」
フランドール様がそう宣言すると、怪盗マリサは呆れたように言いました。
「まったく付き合ってられないぜ。私は帰る」
怪盗マリサが隣に立てかけた竹箒を取って跨ろうとしたとき――
「させないわ!」
――フランドール様が動きました。
いえ、動きすら見えませんでした。
次の瞬間には尻餅をついた怪盗マリサと、
竹箒を持ったフランドール様がいました。
解決編の開始早々、退陣を願った不遜な怪盗は、
その願望を叶えることができずに終わりました。
「痛っ!いきなり何しやがる!
それに、箒も返しやがれ!」
マリサが尻の埃を叩き落としながら言いました。
フランドール様が、竹箒を眺めながら言います。
「こんな、無駄に大きな竹箒じゃ、掃除をし辛いったらないわ」
フランドール様は穂先を上にして、その穂先を掻き分けました。
すると穂先近くまで箒の柄が突き出しているのが見えました。
たしかに掃くときに柄が地面に付いて掃除がし辛そうです。
怪盗マリサが「ちっ」と舌打ちをしたのが聞こえました。
「そう、これは箒じゃなくて長い竹の筒だったのよ!
それに穂先を付けて、箒にカモフラージュしたの」
その場にいたメイドたちが感嘆の声を上げました。
フランドール様は、竹の節を絞る様に握り力を入れます。
――キュポン、音を立てて節の一つが外れました。
あえて直喩するなら『卒業証書入れ』のような音でした。
そこに現れた空洞へと指を入れて、掻き出します。
すると紙の筒のような、丸められた絵が姿を現しました。
「灯台デモクラシー……じゃなかった、何だったっけ?
そうそう、灯台下暗しよ。絵は近くに隠されてたの」
そこでフランドール様が奪い返した絵を広げます。
大きな絵で、横の長さは私の身長より長いものでした。
当然ながら『紅魔館』には紅魔館の絵が描かれていました。
「見つかっちまったもんはしょうがないな。
仕方ない。今回は、負けを認めてやるぜ」
怪盗マリサは存外に、簡単に負けを認めましさ。
その清々しさ故に、余計に怪しく感じられます。
「負けを認めるにはまだ早いわ、怪盗マリサ」
「何だ?どういう意味だ、それ?」
「なぜなら、まだ――」
フランドール様がマリサを睨めつけます。
「私の証明がまだ終了していないからよ!」
さすがの怪盗マリサもこれに面喰ったようです。
フランドール様は怪盗に、続け様に言いました。
「今から、あなた仕組んだ、もう一つのカモフラージュを暴く!」
9
「最初から、おかしいことだらけだったのよ」
フランドール様が、怪盗マリサ――というより、その場の皆に語りかけます。
「どうして、怪盗マリサが『紅魔館』なんかを狙ったのか」
そうです。その目的がわからなかったのです。
多量の金銭に変えることは期待できませんし、
それに執着するような理由が感じられません。
「でも、本当の目的は、『紅魔館』なんかじゃなかったのよ。
あの犯行予告は、言うなら、ミスディレクションだったの。
今日の一連の出来事は、本当の目的のための下準備だった」
マリサとパチュリー様以外の皆が驚愕しました。
それなら、今までの捜索は何だったのでしょう。
パチュリー様も気付いているようですが、
説明はフランドール様に譲ったようです。
「怪盗マリサの本当の狙いは『額縁』だったのよ。
なぜなら、それは絵より価値のあるものだから」
たしかに、大きな額縁は、それだけで値が張ります。
装飾に凝っていたり金でできていれば尚更でしょう。
しかし、怪盗は額縁を持っている様子はありません。
「それじゃあ、額縁は今どこにあるのですか?
すでに、持ち去られてしまったのですか?」
美鈴さんが聞くと、フランドール様は首を横に振りました。
「いいえ、まだ紅魔館の中にあるわ」
「一時的に隠されているのですね?」
私が言うと、フランドール様は得意気な様子で言いました。
「隠されてなんかいない。むしろ堂々と置かれていた。
小悪魔、あなたも、その額縁があるのを見たはずよ」
私は犯行予告を見つけてから今までの行動を振り返りました。
玄関ホールで犯行予告を見つけた後、二人にその内容を伝え、
メイドたちと美鈴さんを呼びに使用人棟へ行って、そして――
レミリア様の部屋で――私は――金縁の大きな姿見の前で――
「姿見ですね!レミリアお嬢様の部屋には大きな姿見がありました」
「そういうこと。お姉様の部屋には、あるはずのないものがあった」
今思えば、これはおかしなことです。なぜなら――
「吸血鬼は鏡に映らない。だから、姿見なんて要らないの。常識よ」
吸血鬼自身が言っているのですから間違いありません。
「額縁に鏡を入れて、クローゼットの横に立てかけることで、
大きな姿見にカモフラージュしたのよ!」
「ですが、レミリア様の部屋に置いた意味はあるのですか」
「怪盗マリサは、お姉様から姿見を譲り受けるつもりだったの。
吸血鬼には要らないものだから、無下に断ることはないでしょう。
メイド長にしても、いつの間にか現れた怪しい姿見を良しと思わない。
持って行ってくれるなら、いい厄介払いになる。双方にメリットがあるわ」
メリットがあるらしいです。
だからこそ、レミリア様とメイド長不在のこの機会を狙ったのでしょう。
「くっ、悔しいがフランドールの推理は当たってるぜ」
当たってるらしいです。
「今回のところは私の負けってことにしといてやるぜ」
「そう、それならこれで――」
フランドール様は怪盗マリサにラストスペルを放ちました。
「QED――証明終了」
エピローグ
「まさか盗んだ銀で鏡を作っていたとはね」
パチュリー様がレミリア様の部屋にある鏡をしげしげと眺めて言いました。
「銀?これって銀でできているのですか?」
パチュリー様が、レミリア様の部屋の鏡を見たいと言い、
私はそれについていったのでした。
フランドール様は、一足先に図書館に戻っていきました。
今は読書を再開しているでしょう。
美鈴さんも早々と布団に入り寝息を立てているはずです。
「でも、どうやってこんなに大きな鏡を作ったのでしょう?」
「それ自体は難しいことでは無いわ。
小悪魔、鏡を作る方法くらいなら知ってるでしょう?」
「めっきですよね。でもめっきをするためには……あ!」
怪盗マリサは恐らく、盗んだフランス窓のガラスにめっき加工を施したのです。
マリサはこの鏡を作るために、ガラスと銀細工を盗んでいったのでしょう。
そこで私は文々。新聞に書かれていた見出しのことを思い出しました。
『犯行の背後に謎の男マスター・モリチカ氏の影が!』
『マッドサイエンティスト・ニトリも犯行に関与か?』
「マスターモリチカはめっき加工に定評があるらしいわ。
マスターモリチカか科学者、あるいは両者が共犯の可能性がある。
妹様はそこまで言及しないままにQEDしてしまった。
新聞記事にさえ目を通していれば簡単にわかることなのだけどね」
「それで評価のほどは?」
「及第点には届くけど、満点には程遠いわ」
そして、私たちは大図書館へと戻りました。
「おかえり」
フランドール様が本を読んだままで言いました。
「ええ。ただいま帰りました」
パチュリー様はフランドール様の元へ寄りました。
そして――
「推理小説を読むのもいいですが、新聞を読むのもいいですよ」
そう言って、優しく笑いかけたのでした。
(終)
けれど、一種のクイズとしては面白かったです。ちなみにところどころ入るギャグもおもしろかった。