ハルデスヨーといいつつ、ドロップキックをかますリリーホワイトに追いかけられること3時間。
レティ・ホワイトロックは夜の蒸し暑さに耐えながら、妖怪の山の頂近くへ逃げていた。
何故彼女に追いかけられるのか、レティにはよくわからなかった。
季節は夏だった。
「ハルデスヨー!」
リリー・ホワイトは丸太を投げた。ぶおんっ、という音がした。
丸太は岩に当たって砕けた。どおん、というとんでもない音がした。
「ホワイトローック!!」
なにがホワイトロックだ。頭おかしいんじゃないだろうか。
確かにロックだけど、別に白くないし。
リリーホワイトは満足げに砕けた丸太の残骸を見下ろしていた。
「トッテモ、ハルデスヨ」
いや、春じゃねえし、夏だし。
そんな突っ込みする暇もなかった。なぜなら今は夏だからだ。レティ。ホワイトロックにしてみれば、飛んでることさえしんどいのだ。
そう、悲劇は三日前だった。
レティ・ホワイトロックは永遠亭の冷凍庫の中にいた。
さすがに⑨のように、夏も飛びまわるほど体力はない彼女は、永遠亭のクーラー代わりに冷凍室に閉じこもり、快適な夏を過ごしていた。
それはもう快適だった。ネット環境は完備されてるし、おやつも10時と3時に出される。自分は単に冷たい息を吐いているだけでいい。毎日毎日、河童式のインターネッツを見ながらアイスを食べる。そんなぐうたらした生活を送っていた。
その矢先の出来事だった。
ちょっと飲み物を取りに行こうとして、レティは冷凍室のドアを開けた。
リリーがいた。
りりーがでっかい鎌を持っていた。
「ハルデスヨー」
恐怖だった。
にっこりと笑ったリリーのハルデスヨーほど、怖いものはなかった。
3ヶ月前、散々こてんぱんにやられ、地面に埋められそうになったことを思い出した。
やめて、やめてよ、冬終わりでいいからっ、埋めるのだけはやめてっ、と何回言っても彼女は聞く耳を持たなかった。ハルデスヨ?と首を傾げ、にっこり笑って作業を再開しやがった。
「ハルデスヨー」
「春じゃないじゃんっ!夏じゃんっ!」
「ハルナンデスヨー」
リリーホワイトは笑いながら鎌をぶんぶん振り回していた。
恐怖だった。
笑いながら振り回すところが、恐怖だった。
レティは逃げた。
「ハルデスヨー」
「春じゃねえって言ってんだろうがああああ」
そんな突っ込みが彼女に通じるはずもない。
なぜなら、ハルデスヨーと、その他の聞いたことがない言葉しか耳にしたことがないからだ。
しかし、暑いぜ暑いぜ暑くて死ぬぜなこの季節、レティの妖怪としての能力は皆無に等しかった。
故にただ逃げるしか方法がなかったのだった。
「なんでっ、なんでこんな時期にっ」
「ハルデスヨー」
言葉にこそ、ハルデスヨーとしか聞こえないが、その殺気はすさまじいものがあった。
折角埋められた地面から出てきたっていうのに、また奴か。
どれだけ私を埋めたいのだろうか、とレティは思った。
そんなこんなで、幻想郷中を駆け回って、早3時間。
いい加減、レティの体力は限界に達していた。
しかし、夜が明ける前に決着をつけなければ、自分は太陽の光に解けてしまうだろう。
非常にまずい自体だった。
「ハルゥッ!!」
ぶおん、と大きな音がした。隣の岩が砕けた。リリーホワイトがスクリューパンチを出してきた。レティは間一髪でそれをかわした。
こいつ、妖精の癖にどんだけ力持っているんだと、レティは呆れた。
「ホワイトローック!!」
こいつはホワイトロックのロックの意味を、岩ではなくてぶち壊すという意味だと思っているんじゃないだろうか。
高々に腕を上げているリリーを見て、レティは呆れた。
「ハルデスヨー」
お前はそれしか言えないのか。
ガラガラ崩れた残骸の陰に隠れながら、レティはそう思った。
しかし、一体どうするべきか。このまま逃げていても、埒があかないどころか、追い詰められていくばかり。
やはりここは、攻撃に転じるしかないのだろうか。
「クリスタライズシル・・・・・・・あああ力が足りないっ!!」
おらに冷気を分けてくれ、なんて言ってもこのクソ暑い夏、誰も冷気など持っているはずもなく。
スペルカード一枚さえ出せそうにない、レティ・ホワイトロック。
今見つかったら逃げ道がない、まさに万事休すとはこのことであった。
(どうするっ、どうするレティ・ホワイトロック! 肉弾戦とか絶対無理だし、ずっとネトゲやってたし、ぐーやんとネトゲやってたしっ!アイスしか食べてないし、おかげで若干太ったし!・・・・・・はっ、そうだ!えーりんからもらったサプリメントがあったんだった!これでダイエットを成功させ・・・・・・い、いやちがうっ、今はそんな場合じゃない!ダイエットならこの3日で充分空飛んだから充分だっつーの!消費カロリーやべえっつうの!)
「ねえ穣子、もうすぐ私たちの季節ねっ」
「あと3ヶ月あるじゃん」
「とってもわくわくするわねっ」
「そう?」
「私たちの時代が来るってことじゃない」
「そんな風には思えないんだけど。つーか時代ってなによ時代って。バッカジャネーノ」
(どうするっ、どうするレティホワイトロック!カードの使い方が私の人生!しかも、イージーモード限定!泣き言を言っている暇はないわ。えーっと、えーっと、今手元にあるのは遊戯王のファラオのカードに、ウドンゲのブロマイドに、ウドンゲのぱんつ丸見え写真に、ウドンゲの風呂場での盗撮写に・・・・・・ってなんでウドンゲの写真がここにあるのよ!!)
「失望したわ、穣子」
「は?」
「そんなことを言う子だとは思わなかった」
「何の話よ」
「わかっているでしょ。私と貴方の仲だもの」
「なんでそんないきなりマジ切れモードなのよ」
「あなたがいけないのよ、穣子。お姉ちゃんを悲しませるから」
「ちょっと・・・・・・私が一体何したって言うのよ」
(あの薬師イイイイ!スペルカードとすり替えやがってええええ!!ああもう、ほかのカードはないの!!??って、げ、今あいつこっち見た!?うわうわやめてこっち来んな!・・・・・・そうそう、それでいいのよ。向こう行ってなさい。フウ、それにしても岩の中って暑いわね。さっきから若干お腹痛いのよね。お腹の中から溶け始めているのかしら。やばいやばい胃が痛い)
「いくら人気がないからって、人形の真似することないじゃないっ!」
「へぶぅっ!!!」
「お姉ちゃんは、貴方をそんな子に育てた覚えはありません!!!」
「痛ァっ!!!」
「確かにっ、私たち、上海人形よりも順位下だけどっ・・・・・・それでも個性を伸ばしていこうねって、二人で約束したじゃない!」
「(どくどくどく(鼻血が出る音))」
「CDも。DVDも、写真集まで出してっ!地底のアイドル(笑)ヤマメちゃんに対抗しようとしたじゃないっ!ねえ、あの頃の情熱はどうしたの!?あの頃二人で手を繋いでにゃんにゃんしてたあの情熱は!!!」
「どくどくどく(鼻血が出る音)」
「消えちゃったの?ねえ、穣子、消えちゃったの?返事しなさいよっ!返事しないとまたぶん殴るわよっ!!」
「・・・・・・(少女出血多量中)」
「穣子ォ!!!!」
(げっ!今気付かれた!何かまた妙な棒を持ってるし・・・・・・・日本刀!!??どっからパクったんだよあいつ!やばいっ、考えてる暇はない!とにかくなにか攻撃しなきゃ!!えーっとえーっとっ、)
「ハルデスヨー」
(キタキタキター!!)
最早、これしか手がない。
レティ・ホワイトロックは懐からカードを一枚出し、一か八かでカードを唱えた。
「マヤ!立ち上がりなさいマヤ!そんな事では、紅天女の座は上げられないわよ!!」
カードの中から、紫の薔薇がポーンと飛び出した。
花びらは、リリーホワイトにかかった。
リリーホワイトは静止した。
「このカードを唱えると、紫の薔薇の人が、紫の薔薇を運んでくれるわよ!byえーりん☆
ps、あの漫画早く完結しないかしら」
「あんの薬師いいいいいいい!!!!」
リリー・ホワイト の ふりかぶるこうげき!
レティ・ホワイトロック の さけるコマンド!
さっきまで山積みだった岩が砕けた。すなわちそれは、妖怪の山の標高が10メートルぐらい減ったことを意味していた。
空中には、二人の姿のみ。
下で喚いている秋の姉妹は正直どうでもよかった。
「ホワイトロック・・・・・・」
ガラガラと崩れる岩の中、いきなり下の名前を呼ばれ、びくっとするレティ・ホワイトロックだった。
「ハルデスヨ?」
知ってる、そんなことは知っている。アンタの脳内はいつだって春だ。
「ハルナンデスヨ?」
だから、春なんてものは3ヶ月前に明け渡したではないか。地中15メートルから自力で這い上がるのに苦労したんだぞこっちは。
35日間も飲まず食わずで死ぬかと思ったんだぞこっちは。
ああ、まずい。東の空が明るい。
翼が溶けて地に墜ちていったイカロスのように、体の中から溶けて、自分も地に墜ちるのだろうか。
じりじりと近付いてくるリリーホワイト。
少しずつ後ずさりするレティ・ホワイトロック。
一進一退の攻防は、一瞬にも永遠にも思えた。
聞こえるのは風の音。相手の息遣い。そして、秋静葉の悲痛な叫び。
じんわりと手に汗をかいていることに気が付いた。心臓の音がうるさかった。背筋がかなり寒かった。
それでもレティ・ホワイトロックは、気を吸い取られないように必死にリリー・ホワイトを見つめていた。
「リリー!!」
遠くから声がした。リリーホワイトとほとんど同じ声がした。
リリーホワイトは声のする方へ振り向いた。
全身を吸収色に染めた、黒染めの妖精こと、リリーブラック。
リリーブラックがそこにいた。
しまった、まずい、応援が来たかとレティは思った。
「「リリー!!」」
リリーは駆け出した。リリーの方へ駆け出した。
レティホワイトロックにボディーブローをかましつつ、リリーホワイトはリリーブラックの方へ全力疾走で駆け出した。
「グボァッ!!」
「リリー!!」
「リリー!!!」
レティ・ホワイトロックの胃が3パーセント溶けた。
薄れ行く意識の中、レティ・ホワイトロックは放物線状に墜ちていく。
上を見上げれば、百合の園。
リリーホワイトとリリーブラックが美しく涙を流しながら抱き合っていた。
「リリー・・・・・・」
「リリー・・・・・・」
春だった。
まさしく春だった。
ムカつくぐらい春の景色だった。
殺してやりたいと思ったが、生憎ながらレティ・ホワイトロックにその力は残っていなかった。
むしろ今が逃げるチャンスだということに、秋静葉の地点を通り過ぎたあたりでようやく気がついた。
「穣子ォ!!」
帰ろう。もう永遠亭の冷蔵庫に帰ろう。
ここは地獄だ。地上の地獄だ。早く帰ってアイス食べたい。
レティ・ホワイトロックは力を振り絞り、なんとかその場から立ち去ろうと下に向かって飛んでいった。
朝日は少しずつ昇っていっていた。残された時間は少なかった。
リリー同士が抱き合っている今こそ、生き残るチャンスである。
レティ・ホワイトロックは一生懸命飛んだ。己のエネルギーを全て使い果たすまで飛んだ。
途中で夜雀が亡霊に食べられそうになって泣いているのを見たが、助けている余裕は無かった。
バイオリンを持った幽霊が、「今日は・・・・・・気圧が高い」とか何とか言って話しかけてきたが、付き合っている暇はなかった。「無視するなんて・・・・・・激しく欝」とか言われたが、そんなことは気にしている余裕はなかった。とにかくここから逃げたかった。
命からがら逃げて、レティ・ホワイトロックはようやく永遠亭にたどり着いた。
汗がべとべとして気持ち悪い。アイスも食べたい。
レティホワイトロックは頑張って飛んだ。永遠亭の地下の階段まで飛んだ。
地下の階段に行きさえすれば、もうすぐ愛する冷凍庫だ。
永遠にも思える夜は、もうすぐ明けるだろう。
フラフラになりながら、レティ・ホワイトロックは永遠亭の廊下を飛んでいった。
「フジヤマヴォルケイノ!!!」
「なにしてんのもこたん」
「へ」
「そんなところで」
「あ、あれ」
「もこたん、誰と戦っていたの?」
「お前、こっちにいたんじゃ」
「ばっかじゃないの」
「(カチン!!!)」
「もこたんて、ほんとうに馬鹿ね」
「て、てるよに言われたかないね!!」
「てるよって言うな!もんぺのもこたん!」
「うっさい!もこたん言うな!」
「なにをー」
「やるかっ」
「「望むところよ!!」」
「きゃあっ!」
「何してんの鈴仙。そんなスイーツ(笑)みたいな声だして」
「あいたたた」
「ぱんつ見えてるよ」
「いたたたた」
「見せてんのね。うっぜー」
「み、見せてないわよ!」
「白と水色の縞々かよ」
「言わないでよ!」
「だっせ」
「うううううるさいわよっ」
「にしてもなんで・・・・・・ん?」
「滑っちゃったのよ・・・・・・ん?」
「「こんなところに水溜り?」」
――レティ・ホワイトロックが永琳に発見され、元の状態に戻るまで、丸3日かかったという。
完
秋姉妹は妖精ではない。神様だ
ガラスの仮面wwwwww吹いたwwwwwww