月は嫌い。
月はわたしを見下ろして、嘲笑うから。
だけど、満月だけは特別。
だって。
満月の夜には、彼女に逢えるから。
わたしは、人ではない何か。
いつだって、人に逐われてばかりいる。人の里へは近づけない。
でも、人と交われないわたしにだって、友達はいる。
彼女は、人里の守護者。
満月の下でだけ人ならざるモノになる彼女は、
望の夜、人目を避けて、里を出る。
その時だけ、彼女はわたしの許を――人外の巣窟を訪れる。
人の間で生きることをあきらめたわたしにも、
彼女とともにすごすことができる。
わたしは、彼女にとって慈しむべき数多のうちの一人で。
彼女は、わたしにとってのたった一人で。
それでもいい。彼女に逢えるなら、何だっていい。
彼女に逢える。ただそれだけでいい。
彼女に逢える、満ち月の夜。
それは、月の盈虧を一めぐり数える間に、一度。たった一夜だけ。
その一夜は、いつだってまばたきみたいに短い。
だから。
わたしは今日も、満月を待つ。
なのに。
なのに。
今夜は、月が満ちない。
望の夜なのに、月が満ちない。
彼女が、来てくれない。
彼女が来ない、望の夜。
一人、膝を抱える夜。
どうして、こんな時に限って。
どうして。
どうして、こんなにも、こんなにも、夜が永い!
異変を起こそうか。月が満ちたまま欠けぬ異変を。
そんなことを考えて、すぐ止めた。
異変があれば、彼女は里へと行ってしまう。
人を守りに行ってしまう。
わたしのところへは、来てくれない。
わたしはただ、待つばかり。
次の望夜を、待つばかり。
次の望月は……満ちるといいな。
月はわたしを見下ろして、嘲笑うから。
だけど、満月だけは特別。
だって。
満月の夜には、彼女に逢えるから。
わたしは、人ではない何か。
いつだって、人に逐われてばかりいる。人の里へは近づけない。
でも、人と交われないわたしにだって、友達はいる。
彼女は、人里の守護者。
満月の下でだけ人ならざるモノになる彼女は、
望の夜、人目を避けて、里を出る。
その時だけ、彼女はわたしの許を――人外の巣窟を訪れる。
人の間で生きることをあきらめたわたしにも、
彼女とともにすごすことができる。
わたしは、彼女にとって慈しむべき数多のうちの一人で。
彼女は、わたしにとってのたった一人で。
それでもいい。彼女に逢えるなら、何だっていい。
彼女に逢える。ただそれだけでいい。
彼女に逢える、満ち月の夜。
それは、月の盈虧を一めぐり数える間に、一度。たった一夜だけ。
その一夜は、いつだってまばたきみたいに短い。
だから。
わたしは今日も、満月を待つ。
なのに。
なのに。
今夜は、月が満ちない。
望の夜なのに、月が満ちない。
彼女が、来てくれない。
彼女が来ない、望の夜。
一人、膝を抱える夜。
どうして、こんな時に限って。
どうして。
どうして、こんなにも、こんなにも、夜が永い!
異変を起こそうか。月が満ちたまま欠けぬ異変を。
そんなことを考えて、すぐ止めた。
異変があれば、彼女は里へと行ってしまう。
人を守りに行ってしまう。
わたしのところへは、来てくれない。
わたしはただ、待つばかり。
次の望夜を、待つばかり。
次の望月は……満ちるといいな。