Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

虧月抄

2009/07/23 18:44:35
最終更新
サイズ
1.38KB
ページ数
1

分類タグ

月は嫌い。
月はわたしを見下ろして、嘲笑うから。

だけど、満月だけは特別。
だって。
満月の夜には、彼女に逢えるから。



わたしは、人ではない何か。
いつだって、人に逐われてばかりいる。人の里へは近づけない。
でも、人と交われないわたしにだって、友達はいる。

彼女は、人里の守護者。
満月の下でだけ人ならざるモノになる彼女は、
望の夜、人目を避けて、里を出る。
その時だけ、彼女はわたしの許を――人外の巣窟を訪れる。
人の間で生きることをあきらめたわたしにも、
彼女とともにすごすことができる。



わたしは、彼女にとって慈しむべき数多のうちの一人で。
彼女は、わたしにとってのたった一人で。

それでもいい。彼女に逢えるなら、何だっていい。
彼女に逢える。ただそれだけでいい。



彼女に逢える、満ち月の夜。
それは、月の盈虧を一めぐり数える間に、一度。たった一夜だけ。
その一夜は、いつだってまばたきみたいに短い。

だから。
わたしは今日も、満月を待つ。



なのに。



なのに。



今夜は、月が満ちない。
望の夜なのに、月が満ちない。
彼女が、来てくれない。



彼女が来ない、望の夜。
一人、膝を抱える夜。
どうして、こんな時に限って。
どうして。
どうして、こんなにも、こんなにも、夜が永い!



異変を起こそうか。月が満ちたまま欠けぬ異変を。
そんなことを考えて、すぐ止めた。
異変があれば、彼女は里へと行ってしまう。
人を守りに行ってしまう。
わたしのところへは、来てくれない。



わたしはただ、待つばかり。
次の望夜を、待つばかり。

次の望月は……満ちるといいな。
 永夜抄の裏側、妹紅の独白です。
 2年近く前の原稿をひっぱりだしてきたものです。慧音と妹紅が会うのは満月の夜のみという設定も、最近はほとんど見かけませんね(もとよりレアでしたが)。
 言葉のリズムをきっちりつくりたかったのですが、うまくいきませんでした。大切にしたい要素なので、今後とも精進していきます。
mizu
[email protected]
http://usagiyatukitosakura.web.fc2.com/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
永夜以降は少し丸くなって慧音と頻繁に会うようになった、とか妄想したら萌えた