「あーづーいー」
「にとり、大丈夫?」
河童は夏が苦手だ。
水気のある梅雨の季節はいい。湿気も濃霧も大歓迎だ。人間的に不快指数の高い気候も、水気さえあれば河童には極楽である。
しかし、猛暑はだめだ。河の水も枯れ果てそうな、乾ききった夏は死ねる。お皿が乾くと河童は死んでしまうのだ。
「でも、にとりってお皿……」
「無いけどー。それでも乾燥はだめなのー」
にとりは頭に皿の無い河童であるけれども、やっぱりこう湿度の低い日々が続いては干涸らびてしまう。
「はい、氷」
「ふひー。雛、ありがと~……」
額に氷嚢が当てられて、その冷たさににとりは歓声をあげた。ああ、気持ちいい。
ベッドの傍らで、横になったにとりを覗きこんで、雛は心配そうに目を細めた。
「無理してここまで来なくても、河にいれば……」
「やーだーよー」
ここは雛の家である。ついでに言えば雛の自室である。そのベッドには雛の匂いが残っている。至福である。
自分の匂いも残ってるんだろーか、とちょっと考えて照れくさくなったのは内緒だ。
「……暑いのより、雛に会えない方が、やだ」
雛のリボンの端を掴まえて、そんなことを囁いてみる。
雛は真っ赤になって、「……もう、にとりってば」と苦笑した。
ああ、幸せ。
「そうだ、雛」
「なに?」
「一緒に河に行こうよ。水浴び、水浴び」
そうだ、どうしてこんないい方法を思いつかなかったのだろう。暑さで思考が鈍っているらしい。
「み、水浴び?」
「雛だって暑いでしょー? 夏だってのにそんな格好だし」
相変わらずヒラヒラフリフリのゴスロリファッションで、しかし雛は涼しい顔。
「私は、平気だけど」
「いーから! ほら水浴び行こうよ、そんな暑そうな服脱いでさ、河でふたりでぐへへ」
「……厄いわ」
合法的に雛を脱がせてあんなことやこんなことを、って煩悩がだだ漏れしてしまった。
「にとりの……えっち」
赤らんだ頬を膨らませて、雛は少し拗ねたように言った。ピチュった。主に自分の理性が。
ああもう雛ってば可愛すぎるんだから押し倒していいよね!?
がばっと氷嚢を跳ね上げて起きあがろうとして、けれど途端に眩暈がしてにとりはばったりとベッドに倒れ込む。
「に、にとり、本当に大丈夫?」
「うーあーうー……」
駄目だこりゃ。陽が傾いて暑さが引くまでは動けそうにない。
まあでも、こうして雛に看病してもらえるなら、それもいいかなぁと思ったりする。
いや、遊びに来て倒れて看病されてるってのもはた迷惑な話ではあるが。
「そうだ、お風呂に水を張ってくるわ」
「あー……それがいいかも」
水風呂か、名案である。
「ついでに雛と洗いっことかうへへ」
「……今日は本当に厄いわね、にとり」
軽く睨まれた。いやごめんなさいちょっと調子に乗りました反省。
くるくると雛は部屋を出て行く。その背中を見送って、額の氷嚢の位置を直しながら、にとりは天井を見上げて息をついた。
「えへへ……ひな」
暑いのは苦手でも、やっぱりこうして雛と一緒にいると顔のにやけが止まらないのだ。幸福はあらゆる不快に勝るのである。
と、そこに雛が困り顔で戻ってきた。随分早い。
「……ねえにとり、ポストにこんなチラシが」
「うぇ?」
雛が差し出したそれには、《取水制限のお知らせ》の文字が躍っていた。
――そういえば、ここ数日の猛暑で山の湖の水量が減ってて水不足の懸念がどうとか里で聞いた記憶がががが。
「水を張ろうと思ったら、水道から水が出なくて」
「まーじーでー」
想定外である。どっと疲れた息をついてにとりは脱力した。
「やっぱり河に行こうよー」
「起きあがれないんでしょ」
心配げに雛はこちらを覗きこんでくる。頬に触れる手が冷たくて気持ちいい。
「雛が抱っこしてくれればいいじゃんー」
「……前にそれで目を回したじゃない、にとり」
そうでした。雛ってば自分を抱っこしたままくるくる回るのである。バターになって溶けるかと思った。
「うー……」
結局、陽が傾くまでこのままか。まあそれでもさほど文句は無いにしろ――。
「……ねえ、にとり」
「うん?」
「水分が、足りないのよね?」
「ひな?」
雛が不意に目を細めて、にとりに覆い被さるようにその顔を寄せた。吐息が近い。思わずドギマギ。
いやちょっと雛、顔近いよホントに、このままだとキスしちゃうよ、ねえってばさ――。
とか思ってたら本当にキスされた。
「んむっ――」
「……ん、ちゅ、む」
雛の唇が押し当てられる。その柔らかさと、ひやりとした感触ににとりが思わず目をつむると、
――唇が薄く開いて、そこから雛の舌が滑り込んできた。
「んっ、ふぁ、む……っ、ちゅ、ぅ」
唇を舐め、歯をなぞるようにくすぐる。その湿った感触に抗えず、にとりが唇を開くと、そこから口内まで雛の舌が侵入してきた。
にとりの舌を絡め取るように吸って、雛の舌はにとりの口内を余すところなく蹂躙していく。
擦れ合う唇と唇の端から唾液が一筋こぼれて、シーツに小さな染みを作った。
「ぷぁ、んむ、ちゅぅ、……んぷ」
「んっ、んんんっ――んく、ぅ」
開いた唇から流し込まれたのは雛の唾液。それをにとりが飲み干すと、雛は一度唇を離した。
つ、と銀色の糸がふたりの間に一筋引いて、雛の細い指がそれをすくう。
ぼんやりとした視界で見上げた雛の顔は、艶然とした微笑をたたえている。
「ひ、な……?」
「ふふっ、厄いわ、にとり……」
ぎし、とベッドがのしかかる雛の重みで軋んだ。
――あ、あれ? なんで襲われてるの私?
疑問が頭を過ぎったけれど、暑さと雛にのしかかられたのとで動けないのではどうしようもなかった。
「私が、厄を吸ってあげるから」
「むしろ流し込まれてる気が――んむっ」
暑さにやられていたのは、やっぱり自分だけじゃなかったのかもしれない。
――夏だから仕方ないか、と雛の唇の感触を味わいながら、にとりはぼんやりと思った。
「にとり、大丈夫?」
河童は夏が苦手だ。
水気のある梅雨の季節はいい。湿気も濃霧も大歓迎だ。人間的に不快指数の高い気候も、水気さえあれば河童には極楽である。
しかし、猛暑はだめだ。河の水も枯れ果てそうな、乾ききった夏は死ねる。お皿が乾くと河童は死んでしまうのだ。
「でも、にとりってお皿……」
「無いけどー。それでも乾燥はだめなのー」
にとりは頭に皿の無い河童であるけれども、やっぱりこう湿度の低い日々が続いては干涸らびてしまう。
「はい、氷」
「ふひー。雛、ありがと~……」
額に氷嚢が当てられて、その冷たさににとりは歓声をあげた。ああ、気持ちいい。
ベッドの傍らで、横になったにとりを覗きこんで、雛は心配そうに目を細めた。
「無理してここまで来なくても、河にいれば……」
「やーだーよー」
ここは雛の家である。ついでに言えば雛の自室である。そのベッドには雛の匂いが残っている。至福である。
自分の匂いも残ってるんだろーか、とちょっと考えて照れくさくなったのは内緒だ。
「……暑いのより、雛に会えない方が、やだ」
雛のリボンの端を掴まえて、そんなことを囁いてみる。
雛は真っ赤になって、「……もう、にとりってば」と苦笑した。
ああ、幸せ。
「そうだ、雛」
「なに?」
「一緒に河に行こうよ。水浴び、水浴び」
そうだ、どうしてこんないい方法を思いつかなかったのだろう。暑さで思考が鈍っているらしい。
「み、水浴び?」
「雛だって暑いでしょー? 夏だってのにそんな格好だし」
相変わらずヒラヒラフリフリのゴスロリファッションで、しかし雛は涼しい顔。
「私は、平気だけど」
「いーから! ほら水浴び行こうよ、そんな暑そうな服脱いでさ、河でふたりでぐへへ」
「……厄いわ」
合法的に雛を脱がせてあんなことやこんなことを、って煩悩がだだ漏れしてしまった。
「にとりの……えっち」
赤らんだ頬を膨らませて、雛は少し拗ねたように言った。ピチュった。主に自分の理性が。
ああもう雛ってば可愛すぎるんだから押し倒していいよね!?
がばっと氷嚢を跳ね上げて起きあがろうとして、けれど途端に眩暈がしてにとりはばったりとベッドに倒れ込む。
「に、にとり、本当に大丈夫?」
「うーあーうー……」
駄目だこりゃ。陽が傾いて暑さが引くまでは動けそうにない。
まあでも、こうして雛に看病してもらえるなら、それもいいかなぁと思ったりする。
いや、遊びに来て倒れて看病されてるってのもはた迷惑な話ではあるが。
「そうだ、お風呂に水を張ってくるわ」
「あー……それがいいかも」
水風呂か、名案である。
「ついでに雛と洗いっことかうへへ」
「……今日は本当に厄いわね、にとり」
軽く睨まれた。いやごめんなさいちょっと調子に乗りました反省。
くるくると雛は部屋を出て行く。その背中を見送って、額の氷嚢の位置を直しながら、にとりは天井を見上げて息をついた。
「えへへ……ひな」
暑いのは苦手でも、やっぱりこうして雛と一緒にいると顔のにやけが止まらないのだ。幸福はあらゆる不快に勝るのである。
と、そこに雛が困り顔で戻ってきた。随分早い。
「……ねえにとり、ポストにこんなチラシが」
「うぇ?」
雛が差し出したそれには、《取水制限のお知らせ》の文字が躍っていた。
――そういえば、ここ数日の猛暑で山の湖の水量が減ってて水不足の懸念がどうとか里で聞いた記憶がががが。
「水を張ろうと思ったら、水道から水が出なくて」
「まーじーでー」
想定外である。どっと疲れた息をついてにとりは脱力した。
「やっぱり河に行こうよー」
「起きあがれないんでしょ」
心配げに雛はこちらを覗きこんでくる。頬に触れる手が冷たくて気持ちいい。
「雛が抱っこしてくれればいいじゃんー」
「……前にそれで目を回したじゃない、にとり」
そうでした。雛ってば自分を抱っこしたままくるくる回るのである。バターになって溶けるかと思った。
「うー……」
結局、陽が傾くまでこのままか。まあそれでもさほど文句は無いにしろ――。
「……ねえ、にとり」
「うん?」
「水分が、足りないのよね?」
「ひな?」
雛が不意に目を細めて、にとりに覆い被さるようにその顔を寄せた。吐息が近い。思わずドギマギ。
いやちょっと雛、顔近いよホントに、このままだとキスしちゃうよ、ねえってばさ――。
とか思ってたら本当にキスされた。
「んむっ――」
「……ん、ちゅ、む」
雛の唇が押し当てられる。その柔らかさと、ひやりとした感触ににとりが思わず目をつむると、
――唇が薄く開いて、そこから雛の舌が滑り込んできた。
「んっ、ふぁ、む……っ、ちゅ、ぅ」
唇を舐め、歯をなぞるようにくすぐる。その湿った感触に抗えず、にとりが唇を開くと、そこから口内まで雛の舌が侵入してきた。
にとりの舌を絡め取るように吸って、雛の舌はにとりの口内を余すところなく蹂躙していく。
擦れ合う唇と唇の端から唾液が一筋こぼれて、シーツに小さな染みを作った。
「ぷぁ、んむ、ちゅぅ、……んぷ」
「んっ、んんんっ――んく、ぅ」
開いた唇から流し込まれたのは雛の唾液。それをにとりが飲み干すと、雛は一度唇を離した。
つ、と銀色の糸がふたりの間に一筋引いて、雛の細い指がそれをすくう。
ぼんやりとした視界で見上げた雛の顔は、艶然とした微笑をたたえている。
「ひ、な……?」
「ふふっ、厄いわ、にとり……」
ぎし、とベッドがのしかかる雛の重みで軋んだ。
――あ、あれ? なんで襲われてるの私?
疑問が頭を過ぎったけれど、暑さと雛にのしかかられたのとで動けないのではどうしようもなかった。
「私が、厄を吸ってあげるから」
「むしろ流し込まれてる気が――んむっ」
暑さにやられていたのは、やっぱり自分だけじゃなかったのかもしれない。
――夏だから仕方ないか、と雛の唇の感触を味わいながら、にとりはぼんやりと思った。
ああ、熱い。ああ、熱い。
あ、いや雛がかわいくてかわいくて悶えました。
いいぞ、もっとやれ
相変わらずあなたのにと雛は甘いですありがとうございました。
でも、この暑さは大好きです!
このSS投稿する場所を間違えていませんか?
更に暑くなってしまったぞ!
どうしてくれるんだ!
しかしにとりんと雛さんならいっかなーとか思ったり。
でも危ないのです。