冗談のような話である。
輝夜と妹紅はいつものように楽しい殺し合いをしていた。
最近のお気に入りは弾幕ごっこなので殺し合いというよりは決闘といったほうがより正確な表現であろうが、少なくともそこにある殺意だけは本物である。
妹紅は輝夜に憎悪に近しい感情を抱いている。
時の中で希釈化され、理由はどこかに置いてきてしまったものの、その感情のほとんど大部分のところは因果の因の部分にあった。
なんのことはない。
蓬莱の薬である。
つまり、妹紅は永遠の命を得た契機を作った輝夜に憎しみを抱いていた。もっとも、『自分から飲んだんじゃん』と言われれば言葉に詰まるしかないのだが、それはそれこれはこれ。条件関係から言えば、輝夜が持ってこなければ蓬莱の薬を飲まなかったのだから、正当性のある憎悪であると思っている。
自業自得とかいう言葉はとうの昔に忘れてしまった。
藤原妹紅。こう見えてお姫様である。わがままプリンセスである。
では何が憎悪に駆り立てるのかといわれれば、説明が難しい。
永遠を生きるつらさを伝えることはできようもないだろう。
命は長いほうが良い、というのは一般的な感情であるものの、さすがに長く生きすぎると『生きる』という行為そのものに飽きてくるのだ。
千年に近しい時をひとりで彷徨ってきた。
そんな放置プレイ気味な状況に追い込まれたことに対する恨みもある。
だから、妹紅が輝夜に対して向ける感情は多かれ少なかれ殺意を内包していたのだった。
理解しあえる者どうしだからこそ許された、怠惰で堕落した依存に等しい感情である。
殺しあうことで理解しあえることもあるということである。
まぁ、そうはいっても``絶対に``死にはしないのだが――。
「輝夜。今日こそは決着をつけてやるわ」
「あら。決着? 永遠を得た私たちにエンドマークなんてありはしないのに」
輝夜は袖を手にやり、クククと笑う。
カリスマぶってるつもりだろうか。
「輪廻からはずれている、か」
「そうよ。私たちは永久に地をはいつくばって生きるの」
「魂ごとやきつくしてしまえばわからないでしょう」
「蓬莱の薬は永琳が作っただけあってとても純論理的な薬。澱みのない算術のように永遠を固定する。すなわち、絶対に死なない薬なのよ」
「永遠を固定か。確かにおまえはいつだって変わらない。その中二病的なところもね……」
「いやあんたも変わってないけどね」
「おまえはいつだってそうだ。私をこんな身体にしておいてまったく悪びれる様子もない」
「だからつきあってあげてるじゃない。殺し合いに。生きてるって素晴らしいってことの歪んだ確認作業に」
「ああ、感謝してるよ――感謝し輝夜!」
「シリアスが崩れた! ていうか、てるよ言うな!」
「御託はええどす」
「京都弁かよ!」
「御託はいいなもー」
「なもつけたら名古屋弁だとおもってるよこいつ」
「虚人うーっ」
「レミリア弁ですね、わかります」
そんなこんなで楽しい前口上も終わり。
いよいよ今日何度目かの殺し合い――もとい弾幕ごっこが再開される。
「いくわ。輝夜。今日こそは完全に燃え尽きてやる」
「むしろ死にたいのは貴方の方なのね。いいわ。殺してあげる!」
最初はノーマルモード。
輝夜のターン。
難題「龍の頸の玉 -五色の弾丸-」
難題「仏の御石の鉢 -砕けぬ意志-」
難題「火鼠の皮衣 -焦れぬ心-」
難題「燕の子安貝 -永命線-」
難題「蓬莱の弾の枝 -虹色の弾幕-」
これらがノーマルにおける輝夜のスペルカードである。すべて漢字。ちょっと難しいところがいかにも中二病である。
妹紅はこれらの弾幕を軽々と避けきってみせた。
いまさらノーマルなど、アルコールが入った状態でも余裕だった。
「その程度か。輝夜。次は私の――」
「いいえ。まだ私のターンは終わってないわ!」
「ちょ、おま……」
「ドロー。スペルカード」
ハードモードになると、輝夜のヤル気も一段と増す。
弾幕の速さと密度が段違いである。
神宝「ブリリアントドラゴンバレッタ」
神宝「ブディストダイアモンド」
神宝「サラマンダーシールド」
神宝「ライフスプリングインフィニティ」
神宝「蓬莱の玉の枝 -夢色の郷-」
「お気づきだろうか……」
妹紅が必死になって蓬莱の玉の枝を避けきったあと、息を切らせながら口を開いた。
「あん。なに?」
「ハードモードになると、おまえのスペルカードは中ニ臭さがアップするよな」
「かっこいいじゃない」
「かっこいいか? ライフスプリングインフィニティだぞ。いまどき中学生が必死こいて辞書ひいて調べたような名前つけてるなんて、ちゃんちゃらおかしいわ」
「辞書引いて何が悪い」
「引いたのかよ! 辞書引いてスペルカードの名前つけたのかよ!」
「だから何が悪いのよ。そもそもライフスプリングインフィニティにしろ、ブリリアントドラゴンバレッタにしろ、カッコいいじゃない。かっこよければ正義なのよ。横文字さいこーっ! カタカナマジイカス」
「だいたいほとんど弾幕の内容変わってないのに名前変える必要が……」
「いいじゃない。言霊ってやつよ。名前が強ければ、弾幕も強くなる。『サラマンダーシールド、相手は死ぬ』とか超カッケェ」
「シールドでどうやって殺せるんだよ」
「シールドで思い出したのだけど」
いつもの優雅な調子に戻る輝夜。
「ん。なんだ?」
「あなた、死にたがってたわね」
「まぁ、人並み程度には」
「もしかすると、もしかするかもしれないわ」
「なに。まさか……でしょう? 蓬莱の薬は絶対に死なないのではなかったの?」
「確かにそう言われているわね。でも、本当にそうなのかしら。言霊の力というものは本当に恐ろしいものね」
「まあ、それは認めるが……ていうか、シールドと何の関係が……」
符術の類もいわば言霊の力を紙にしみこませたものである。
言葉の力については妹紅のほうが知っている。
「例えばのお話。言葉の不可思議さの実験として、『絶対』はあるかないかという議論があるわね」
「んー。よくわからない」
「絶対は必ずあるのよ。世の中の事象を絶対があるパターンと絶対が無いパターンに分けてみて? 絶対があるパターンは絶対はあるのだから肯定される。そして絶対がないパターンは絶対が絶対に無いのだから、やはりその一点のみにおいては絶対は肯定される。ゆえにどちらのパターンにおいても絶対があるがゆえに絶対は存在する」
「その理屈はおかしい」
「なにがおかしいのかしら」
「類似の議論に『無』はあるかというような話があったな。無があるとすれば、無はあるのだし、無が無いとすれば、無いという状態において無があるということになる。よって、無は存在する」
「頭おかしいんじゃないの?」
「いやおまえが始めたんだろ」
「そうだったわ。迂闊……。とまぁ――こういうふうに言葉なんてものは所詮曖昧なのよ。『絶対』なんて言っても本当にそうだとは限らないじゃない」
「それでどうやって絶対に死なないといわれている蓬莱の薬を打倒するつもりなんだ?」
「うちの永琳――。彼女『あらゆる薬を作る程度の能力』を有しているのよね。だから、『絶対』に死んでしまう薬を作ってもらったらどうなるのかしらね」
そう言って、輝夜はウフフフフフフフフフフと怪しく笑うのだった。
妹紅も頬をつりあげて、ニヤリと笑った。
永琳は輝夜がまるで少女漫画の主人公のようにブリッコしながら、「ねーねーえーりん。作って欲しいものがあるの」とドラえもんに対するのび太のような態度で迫ってくるのを、またかといった表情で迎え入れた。
輝夜についてはいつものことであるが、妹紅もいっしょとは珍しい。
それで居住まいを正して聞いてみると――
「絶対に死ぬ薬、ですって?」
「そう。永琳作れるわよね。だって、永琳はあらゆる薬を作れるのだから。あらゆるって『すべての』ってことだよね。だから――ねぇ。お願い作ってもらえるかしら」
「作ってどうなされるのですか」
「もちろん飲んでみるのよ」
永琳の冷静な顔に、一瞬だけ動揺が走った。
普段は汗ひとつかかずに、ニトログリセリン等の危険物を扱う永琳もこのときばかりはこめかみのあたりから一筋の汗が垂れていた。
「ねぇ。永琳。作ってくれるわよね」
「あの、ですね。姫様」
「なぁに? もしかして作れないの? 作れるはずよね。あなたの能力からすれば」
「それはもちろん作れますが……」
「じゃあなんで躊躇しているのかしら」
輝夜が怪しい光を帯びた視線で見つめていると、永琳はフッと視線を下げた。
それから、脱兎のごときスピードで踵を返し、廊下へと脱出。
その間、わずかコンマ二秒。
「ちょ、にげんな。皆の者。永琳が逃げたわ。捕まえてー!」
永琳がつかまったのは約一ヵ月後である。
驚くべきことに永琳は永遠亭の中だけで鬼ごっこのような逃走を続けた。
そして今、永琳は縄でぐるぐるまきにされて、床に正座している状態である。
輝夜は冷たく、サディスティックな視線で、永琳を見下ろしている。
そして生足で永琳の顎をあげてみる暴挙。
「ご主人から一ヶ月も逃げ続けるなんてよっぽどのことなのね」
「私の薬は、純論理の塊ですからね。絶対といえば、一片の曇りもなく例外なき絶対です。ゆえに蓬莱の薬は絶対に死なない薬であり、その場合の絶対にはいかなる瑕疵が入り込むこともありません」
「ふうん。それで?」
「宇宙の 法則が 乱れる」
「かもしれないわね。でも試してみたいのよ。いいじゃない。ねぇ?」
「姫様のワガママっぷりにはほとほと呆れました。いいでしょう。そこまで言うのなら作りましょう」
永琳が肩を落として、従順な態度をとる。
輝夜は満足そうにうなづいた。
三日後、薬ができた。
輝夜は妹紅も呼んできて、二人で茶室にこもることになった。
「さて、この薬が例の絶対に死ぬ薬らしいわ」
「どうなるんだろうな。長かった旅が終わるのか。所詮は優先順位の問題になってしまうのか」
「絶対は絶対なのよ。優先順位は例外の問題じゃない。そんなの絶対ではないわ」
「だとすると――どうなるんだ。というか今さら気づいたが、これは矛盾の問題だったんだな。シールドの意味はこれだったのか」
「そうなのよ。矛盾なのよね。で、どうなるのか気になるでしょう。人間だもの」
「論理なんてものは結局人間が作り出したものだ。どうにでもなるだろう。絶対が動かせない不動だとすると、死ぬと生きるという言葉の広がりの中に逃げるしかないんじゃないか」
「うーん。そうかもしれないわね」
「矛盾にしたって、細かいところはよく覚えてないが、例えば『どんなものでも貫ける矛』と『どんなもので攻撃されても壊れない盾』であれば、なんとか逃げれる。貫かれるが、ぬるぬるっと再生する盾という設定にすればいいんだからな」
「なるほど。おもしろいこと考えるわね」
「我々は思うよりも死ぬということを知らない。だから、死と生は完全に相容れないわけではないのかもしれない」
「まあその可能性はあるわ。私たちは死を知らない。生きることすらもよくわかっていないのだから」
「しかし――試してみる価値はある」
妹紅は茶碗の中に入った濁りのある紫色をした液体を見つめる。
まずそうだ――。
しかし、死ねるのなら。
飲んでみる価値はある。
「なーに。初夜の奥さんみたいな脅えた表情をして。死ぬのが怖いのかしら」
「いまさら、そんなことはない……と思うけど」
「まあ、何千何万と死んできた経験は豊富だけど、本当に死ぬのはこれが始めてだものね。優しく殺されたいわよね。私が飲ませてあげましょうか」
「はん?」
「優しく、殺して、あげましょうか」
「輝夜。おまえ……」
「責任問題だからよ」
輝夜が膝で畳の上を歩き、茶器を片手に持ちながら、もう片方の手で妹紅の身体を抱き寄せる。
月の民の瞳は、およそ狂人じみた深みを帯びていて、妹紅は数百年ぶりに脅えに似た感情がわきあがってくるのを感じていた。
「どうしたの、死にたいのでしょう?」
「死にたいわ」
「じゃあ、飲みなさい」
輝夜が茶器の淵を妹紅の桃色の唇に近づけた。
そっと触れるざらざらとした感触。
茶器が傾き、中の液体が喉元に零れ落ちそうになったところで、妹紅は輝夜の身体を突き飛ばした。
「きゃ。やっぱり怖いんじゃない」
「そうじゃないわ。ただ、こういったことは自分の意志を優先させたかっただけ」
「だとしても、始まりがそうであったように、終わりも私の意志に服従しなさいな」
「何を言ってる」
「私にされるがままさせなさい」
「ずいぶんと傲慢な性格ね」
「所有欲が強いのよ」
輝夜は自分の分の茶器から薬を口の中に含み、妹紅の口腔を犯した。
そして――ふたりは同時に。
気絶した。
「ウドンゲ。ふたりはあれを飲んだわね」
「はい。飲んだようです」
「よろしい……」
あの薬は結局のところ、一時的な記憶を奪う薬に過ぎなかったのである。
今夜のことはコロリと忘れて、しばらくの間は、死ぬ薬についてのことも忘れてくれるだろう。
なに、たいしたことではない。
こういったことを千年の間に、まったく考えなかったということが考えられるだろうか。
輝夜は何度かはこういったことを言ってきたし、そのたびに同じような手法でしのいできたのである。
逃げたこともある種のミスディレクションにすぎない。
本当に死ぬ薬を作ったのだと思わせるためのひっかけだ。
なぜ、そうしたのか。
それを説明することはたとえ永琳であってもかなわない。絶対に死なない薬と絶対に死ぬ薬をかちあわせたらどうなるのか。論理矛盾の問題について論理を尊ぶ彼女が答えることは不遜にあたる。純粋な論理学である数学に対する不遜である。
あえて、数学的な表現をすれば、とてもカオスな状況にならざるを得ないのだろう。生きているけれど同時に死んでいる状態ということが一つの想像としてはあり得る。
しかし死んでいるか生きているか、いずれかの状態でしかありえない人間にとっては、そういう生きつつ死んでいる状態がどのような状態なのか想像の範疇を超えているといってもよかった。
冷静に考えてありえない。
なにその中二病。
そんな混沌を月の頭脳と謡われた八意永琳が許すはずもないというわけである。
もしも自分が絶対に死ぬ薬を飲んだなら――
論理を超えたところで思考を繰り返し、
そして。
思考演算は数千万回を超越した。
でも中二病はいいものだ
チャージングスターをナメるなよ。ファイナルジャスティスくらわすぞ。
世の中にはSWORD BREAKERというステキな漫画がありまして。
まあ、あらゆる攻撃を防ぐ強固な盾=あらゆる武器に勝るえげつない鈍器ではあるな
>シールドでどうやって殺せるんだよ
某冒険王ではシールドの縁に刃かなんかついててブーメランになってなかったっけ
SFCの名作Tactics Ogreでもシールドで殴れたな。なんか懐かすぃ。
某ガンダムにはバスターシールドというものがあってですね
僭越ながら私も、デジタルなモンスターの中に盾から必殺技を繰り出す者を存じております
某海賊王にはタテ男で伊達男な奴がいたっけ。ちと古いが。
某ユグドラシルの迷宮のメイン盾はシールドスマイトという技を持っていてだな
え?シールドって穴掘る機械じゃないの?当然簡単に(ry
某七竜の黄金の鉄の塊もシルドパニッシュなる技を持っているのだよ
最近の某9にはシールドアタックという技があってな
ああ見えて案外軽くてやわいらしいよ。
>シールドでどうやって殺せるんだよ
攻撃を受け止めるはずのシールドにミサイルを内蔵するという
斜め上いくMSもいたね。
EMS-10ヅダはシールドに白兵戦用ピックを装備されていてこれを展開することによって打突武器として使用できますよ。
劇中ではジム1機をこれで撃破しています。
矛盾番長は盾で相手を叩き潰す攻撃を使っていたが。
もこかわいいよもこ
シレンGB2の矛の盾の需要なめんな
某08小隊ではガトリングシールドというものがあってだな
餓狼伝の何巻かで機動隊の人が攻撃手段に使っていてだな
世界樹にはシールドスマイトっていうのがあってだな
小宇宙をよく爆発させる金ぴか天秤鎧っていうのがあってだな
鈍器かわいいよ鈍器
敵の攻撃を電撃のオマケつきで跳ね返す盾を出す呪文がありまして
ホッパード・ザ・ガントレットのこともたまには思い出してあげて下さい
ミラーシールドないとクリアできないゲームもあるんです
シールドには触れると蒸発するようなのもあってだな
ロックマン2というゲームに出てくるウッドマンというボスの武器はリーフシールドと言いまして
シールドバッシュと言ってシールドで叩く戦術がだな
とある巨人族の暴君がシールドからえげつない炎を吹き出す技を持っていてですね
電磁シールドをラム(衝角)にして敵母艦に突入した万能宇宙戦艦がですね
某光の戦士はシールドオブライトという技を使いましてですね
某ゲームのパラディンはシールドスマイトっていう技を覚えましてですね
首を絞めればいいょ
シールド使うどころか、防御姿勢だけで人を(萌え)殺せる吸血鬼だっているのだよ…うーっ☆
ちょこちょこ入ってる小ネタに一々笑ってしまったw
某獅子型機械生命体はシールド展開して体当たりしてましたが
ここまでファン○シースターゼロの武器カテゴリ「大盾」はなしと。
盾無双だぜ。
某レプリロイドのシールドはブーメランであって、その
ス○エニとディ○ニーが開発した某ゲームでは盾で攻撃する○ーフィーの姿が
稲妻系の攻撃呪文以外はほとんど無効化する鎧にブーメランとしても使える盾もついてましてですね
かのWOLはシールドを投げてますぜ
>「宇宙の 法則が 乱れる」
おいエクスデs(ry
某岩男にはシールドスタイ○なるものがありまして
大抵の敵はこれだけで倒せます
某ゲームのパラディンは武器で切る殴るより、どんな相手にも必中の盾で殴る技が一対一に特化していてですね
某ネトゲには『シールドバッシュ』や『シールドスラム』といった技があってだな…
って誰も分かんねぇかwwww
ここまでキャプテンアメリカ無し?