博麗霊夢はふと疑問を抱いてしまった。
「ドロワーズも下着なんだから、見られたら恥ずかしい部類に入るんじゃないかしら……」
空中で弾幕ごっこをやる霊夢たちにとって、ドロワーズは必需品とも言える。
いつ流れ弾幕が飛んでくるかわからないような状況で地上から覗かれるような心配は皆無とも言えるが、そこはそれ、乙女の心情的な問題である。
ズボンを履けばいいのだが、女の子としてスカートを履きたいという心情が優先されてしまう。
そこでドロワーズですよ!
見せることが前提の下着。
そのため、必要最低限ながらも装飾が施されることもある下着。
これならば戦える!
それが幻想郷の常識であった。
しかし昨日、東風谷早苗に「この幻想郷では常識に囚われてはいけないのです!」と力説されたことにより、妙な洗脳を受けてしまったのであった。
つまり、今まで自分が常識と思っていたことには、幻想郷においては常識ではなくなるかもしれない。
ひょっとして、ドロワーズは恥ずかしくないとうのは常識ではない?
「うわあ……」
そう考えると、これまでの行動を思い出して顔を真っ赤にする霊夢であった。思えば、ドロワーズを履いていることをいいことに、里でも平気で飛んでいたような気がする。
下から見たらドロワーズが丸見えだ。
「きゃー!」
畳の上でじたばたなぞしてみる。
どうしよう、もうドロワーズは履けない。しかし、今更巫女装束を袴にするのも嫌だ。
なら、いっそのこと下はズボンに……いやいやいや、それは見栄えが悪い。
「あーもう、どうしたらいいのよ!」
「そんな霊夢にいいものを持ってきたわ!」
突然スキマが開き、いつものように八雲紫が現れた。
「なんだ紫か……」
胡散臭げに紫を見る。
「で、いいものって何よ。期待しないで見てあげるから」
「いやん、いつもながら冷たい言葉。でも、そこがいいのよねー」
くねくねしながら取り出したのは、どう見てもパンツにしか見えないきわどい縞縞柄の下着だ。霊夢に知識があったなら、ローレグという言葉を思い浮かべたかもしれない。
「なに、そのこっ恥ずかしい下着は?」
ほんの少しだけ、それを装着した自分を想像して霊夢は頬を染める。
「ズボンよ」
「はあ!?」
あっけらかんと言う紫に、霊夢は思わず呆れた声をあげた。これをズボンと呼ぶのはどう考えても無理があるだろう。
「こんなのがズボンなわけないじゃない? 誰が見たってパンツ……」
「これは外の世界で入手したのよ」
紫の言葉に霊夢は黙る。外の世界のものには多少興味はある。
「これはね、ただのズボンじゃないの。大空を自由に飛び、敵と戦う選ばれし少女たちのみが身に纏うことを許される戦闘アイテムなのよ!」
「な、なんですって!?」
霊夢は衝撃を受けた。まさか外の世界にそのような戦闘アイテムがあるとは。
「で、でも……」
「外の世界ではね、戦意高揚のため、選ばれし少女たちをモデルとしたアニメーションと呼ばれる広報制作物まであるのよ」
そう言いながら取り出したのは、これまた外の世界で入手したポータブルDVDプレイヤーだ。もちろん霊夢にはその機械が何であるか分からないが、次の瞬間映し出された映像に釘づけになった。
そこには、ウィッ○ーズと呼ばれる魔法少女たちが縦横無尽に空を駆けて敵を倒す映像が映し出されていた。
何より注目すべきはその下半身。
紫が持ってきたようなパンツを恥ずかしげもなく履いている。しかも、別の映像では「パンツじゃないから恥ずかしくないもん!」などと断言している。
「こ、これは……!」
「どう? この娘たち、素敵でしょう? ドロワーズが恥ずかしくても、これなら恥ずかしくないわ。外の世界の誇り高き戦士たちが着用しているものだから」
霊夢は言葉も出せないでいる。
「霊夢、あなたは常識に縛られない思考の持ち主のはず。新しい可能性を試してみるのもいいんじゃない?」
「大丈夫、外の世界のアイテムってことを広めれば、貴女が流行の最先端になるわ」
「これはズボンよ。パンツじゃないから恥ずかしくないのよ?」
「貴女の可能性、私に見せてくれない?」
みょんみょんみょんみょん
言葉の魔力は言霊となり、霊夢の瞳にはいつしかぐるぐるとした渦巻き模様が現れ始めていた。
「そっかー、恥ずかしくないんだー」
翌日、霊夢は出撃準備を整えた。上は今まで通りの巫女装束だが、下半身は縞パン、もとい、縞ズボン一丁だ。
「大丈夫……パンツじゃないから恥ずかしくない……」
よしと気合を入れると、霊夢は出撃するのであった。
しばらくして。
「スキマババアはどこだあああああああ!!??」
烈火の如く怒り狂った霊夢の咆哮が博麗神社に響き渡った。
しかし、パンツじゃないから恥ずかしくないというなら、仕方ありませんか。
幻想郷風に言えば、『パンツじゃないから恥ずかしくはあんまりない!』ですかね?
あれ? こんな歌詞をどこかで聴いたような・・・・・・
何でそこで「下着が恥ずかしいなら穿かなきゃいいじゃない」と言わn(夢想封印