注意:オリジナル設定と原作設定の境界が限りなく曖昧になっておりますので、細かい設定なんて気にせず流し読みする程度のSSです。また、お笑い成分0です。
人が食われた。
当時としては日常茶飯事、とまでは言わないものの別段珍しいことではなかった。人里の外に住む妖怪達の主食は人間であって、大結界騒動の時にできたとか言われている「人間を襲わない」という制約はあっても絶対に襲うなと言うわけではないし、ルールを知らない新参や頭の弱い輩が襲ってくることもあった。絶対に襲ってはいけない、なんてことをしたら妖怪達が飢えて死んでしまうわけで、つまるところ人里からそのための犠牲者が出ることはたまにあることだった。
犠牲は人里限定ではない。人里の人間達が妖怪討伐を依頼している先、つまりは歴代の博麗の巫女達も妖怪に撃ち負かされた後にそのまま襲われるなんてこともその昔はあったそうだ。もちろん結界維持のためそれは御法度ではあるが、先刻述べたとおりルールを無視する妖怪がいるので100%の身の安全が保障されているとは言いがたい。もっとも、そんな新参者は大抵弱いので返り討ちにあうのだが。
前置きはこれくらいでいいだろう。
こんな話をしたので既にお分かりとは思う。ご想像の通りかまではわからないが、やはり犠牲者が出ていた。犠牲が出てしまったのはひどく悲しいことだが、重要なのはそれによって孤児がでてしまったこと。魔法の森の入口付近で、犠牲者の遺体と共にその娘は発見された。まだ若い、というより年齢も2桁に届くかどうかという女の子だ。
その子は私の家で預かり育てることとなった。先に断っておくが、かく言う私も彼女と同い年くらいだったためその当時の記憶はあまりない。私が知っているのは人づてに聞いた話と、そのわずかな記憶だけだ。
私の父は親族がいるかもしれないのでと彼女のことを人里に伝えた。だが彼女はというと名を尋ねてもいっこうに答えてくれなかった。名がわからぬのではたとえ親族がいたとしても見つかる可能性は薄かったが、かといってまさか名をつけるわけにもいかず、彼女は半客人扱いで私の家で過ごすことになった。
無意味なほどに喜怒哀楽の激しい子だったことは覚えている。新しい環境に慣れないためとも思ったがそれにしても四六時中不機嫌そうで、しかし恐る恐る声をかけてみればいたって普通に会話に応じてくれたりした。
ちょっとの事で怒り、ふてくされ、泣き出しては喜んでの繰り返しだったそうで大層手がかかったそうな。かといって道具屋という自分の仕事を放り出すわけにも行かない両親は、年の近い私と彼女を一つの部屋に詰め込んでおき二人で遊ばせておいたという。
そんな日々が十数日続き、彼女も環境に慣れてきたかというころ。ようやく引き取り手が見つかった。
親族かどうかはわからない。すぐに引き取りにと店を訪れた巫女装束の人に連れられ、名も知らぬ彼女は店を後にした。また遊ぼうねと二人で約束した記憶はあるのだが、それ以降彼女は私の前に姿を見せることはなかった。いかに妖怪が人間を襲わないようにと取り決めがあっても、ただの子供が単身博麗神社まで遊びに行くというのは少々骨が折れる。むしろ妖怪に骨ごと食われる。
そう、彼女の家は博麗神社。巫女の後継として彼女は引き取られていったのだ。
それから数年程経っただろうか、当代の巫女が危篤という話が人里に瞬く間に広まった。かなり年を召されていたらしいので天命が近かったのだろう。
それが12代目の巫女だったか。正直これが何代目なのかなど誰も把握はしていないだろうし興味もない。私にとって重要なのは、たかが10歳ちょっとと私とそう年も変わらぬあの時の彼女が、当代巫女に代わり『博麗霊夢』として巫女につくということだった。
しかも現在は2人で住んでいる。当代巫女がこのまま亡くなってしまえば彼女は一人なのではないか?
おかしい。絶対におかしい。私と年の変わらぬ少女がたった一人で家に住んで妖怪退治をするなんて。遊ぶ暇だってないじゃない。たかが数日を共に過ごした名無しの不思議少女は、私にそう考えさせるだけの魅力があったのだ。何故かはわからないが、とても惹きつけられた。
彼女について父親と議論したのは覚えている。しかし返ってくる言葉は「誰かは継がなければならないのだから仕方ない」「私たちにはどうしようもない」というものばかり。
確かにその通りではあったが、数日とはいえ面倒を見た娘に対する言葉としては冷たすぎる。誰かはやらなければならないのはわかる。でもうちでまた引き取って面倒見るくらいいいじゃない、妖怪くらいマジックアイテムや魔法でぶっ倒してやると噛み付いてやった。
魔法の存在を知ったばかりの私は魔法で何でもできると思っていた。魔法は何でも可能にしてくれるものだと信じてやまなかったのだ。このときの私は魔法など一つも扱えていなかったので当然そんなことができるはずもなく。それに、魔法やマジックアイテムを嫌っている父親相手にこの話題を振ってしまったのは失敗であった。
さらに後日、トドメとばかりに別の道具店から買ったマジックアイテムを引っさげ喜び勇んで妖怪退治に出かけたのがまずかった。妖怪に丸呑みされる一歩手前で逃げ出して帰ってきた私に対し、父親は怒符・愛の拳骨を発動。この一件で父親はさらに魔法を嫌うようになってしまった。
そして1ヵ月後。当代巫女が亡くなった。
その一月の間も互いに引かないものだから、この頃になると親子関係の修復は誰の目から見ても絶望的だった。この親にしてこの子ありと言ったところか。たかが魔法の議論ごときで家庭崩壊かと思われる人もいるだろう。確かに10歳そこらの娘とその父親の言い合いでは子供の喧嘩と変わらないかもしれないが、それにしても霧雨家の父親は魔法が大嫌いだった。もしかしたら過去、似たような件で父に何かあったのかもしれないがそんなことは私には関係ない。
当代巫女が亡くなった事は私の思考をさらに加速させた。子供の短絡的な思考故に家出したいと考えていた。魔法も覚えたい、彼女と会いたい、遊びたい、そのほかもろもろの思考はあったが、そのための手段は一つだった。あの子に会いに行って一緒に遊ぶという最初期の目的は、魔法を覚えて彼女を助けるということに変わっていた。目的と手段が入れ替わるとはこのことか。
父と最後の一発大喧嘩を演じた後、私は家を飛び出した。
家出した、もしくは勘当された私は最初に香霖堂に寄った。人里内を除けば、丁度あの娘が発見されたあたりに建てられたこの香霖堂くらいしか安心して眠れる屋根つきの家がなかった為だが、へんてこグッズ・多少のマジックアイテムも揃えてあるので装備品調達にはもってこいだった。
しかし父と親交のある香霖の家に長期間泊まる訳にもいかない。使えそうなマジックアイテム、魔法使いっぽい衣装と箒、さらにミニ八卦炉まで香霖からもらった私は魔法の森で空き家となっている家を教えてもらい、そこに住むことに決めた。キノコの胞子による幻覚は魔力を高めると言うし、修練するには良い場所だろう。森の瘴気に耐えられなくなったらぽっくり逝ってしまうそうだがその辺は幻想郷に住む人間、誰でも多少の耐性はあったりする。
妖怪がわんさかいる魔法の森に、現状魔法の使えない魔法少女が一人住まいすると聞いた香霖は全力で引きとめてきたがそこはそこ。夜に香霖が眠ったのを確認し、堂々と店を後にして新居へと移った。後日談であるが、霧雨家を飛び出したあと何日待っても帰ってこないどころか目撃証言すら絶えた娘を心配して、父は捜索願を出して懸命に娘を探していたとか何とか。
新居へ移った私は資金確保の為まず始めに「霧雨魔法店」を開店。看板も設置。経営についてはすでに父の横で見ているのでぬかりなし。果報は寝て待てと言うし、あとは客が来るまで待とう。
次に妖怪の出にくい昼間を利用してキノコ採取と魔法研究。いや、キノコは最初食料調達の為だったのだが、魔法に転用可能と知って採取に励んだ。日中に店長のいない店じゃ経営にならないじゃないかと、それに気づくのはかなり後になってからである。気づいた後も開き直ったけど。
そして家に持ち帰ったキノコで魔法研究。順調に魔法使いとしての道を歩みだした私だったが・・・・、
だがその日、危惧していたことがとうとう起こった。
先ほど瘴気の話をしたと思うがこれは言葉にした以上に結構危険な代物で、弱小妖怪くらいは避ける強さ。どういうことかと言うと、つまり森にいる妖怪は他地域に居を構える妖怪たちよりは強い。そして妖怪立ちの時間である夜ではないとはいえ、吸血鬼でない以上妖怪は出る(いや、吸血鬼だって普通に日傘差して歩くことを後で知ったが)。現状身を守る術を持たない私がそれらに遭遇した際に逃げ切れるかと聞かれるとネガティブ。
しかし私は、ある日森の中そいつと出会ってしまった。
そして・・・・・・・・
「完全復活まであと少し時間がかかるの、それまではこいつと遊んでてね。じゃ~ね~」
「あ、こら。待ちなさい!」
「魅魔様のところには行かせないよ~」
「えぇい、邪魔よ。落ちついて急いで倒してあげるからさっさと倒れなさい」
「いろいろとひどいわ。ん、巫女って言ってたけどあなた」
相手は妖怪(正確には悪霊)、そしてそれを倒しにきた巫女。
しばらく顔を見てなかったからすぐに分からなかった。お前が霊・・・・
「急いでんのよ、どきなさい!」
感動の再会のはずは、しかし同じく顔と名前を覚えていなかった巫女によって一蹴されてしまうのだった。
「魔梨沙っていうのね」
「待って、魔理沙よ」
「どおでもいいわぁ」
その後も霊夢が私のことを思い出すこともなく、結局はじめまして私魔理沙と言いますと挨拶するところから始まることとなった。まぁ霊夢も覚えていないし、私もあの時名前を聞かず仕舞いだったので初めましてといえなくもない。
出会った相手が魅魔様だったことは幸運だった。森で遭遇した魅魔様の元で鍛え、霊夢のお供の亀に手強いと言わせしめるほど強くなった私は今こうして霊夢の横に並んでいる。
神社に行くたび嫌そうな顔を向けて茶菓子でもてなしてくれる彼女。私を友人として認めてくれた彼女。
地霊殿で会ったさとり妖怪は、「霊夢は紫のことは信用している」と彼女の心を読んだそうだ。つまり、そのほかの者についてはさして信用はしていないということ。
私はまた霊夢とこうしていられることがうれしいが、彼女のほうはどう思っているのだろうか。幸い日常生活の中で、今に至るまで弾幕で神社から叩き出されたりとかはしていないので嫌っているなんてことは多分ない・・・・と思うが、当人に直接聞くのもなんだかな。
でも嫌な時は嫌ときっぱりすっぱりばっさりあっさり言う、それが霊夢だ。それならこのままでいいかな。自分の好きなことをして好きな奴と遊べる、他に理由なんてなくそれでいい。
そういえば香霖に八卦炉のメンテナンスを頼まないと。大事な商売道具だし、遊び道具だ。せっかくだから霊夢も誘っていくかな。
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これでも記憶力はいいほうだと自負しているのだけど、そんな私も思い出せない事柄がいくつかある。
博麗霊夢を名乗ってはいるが、別に私は博麗家に生まれたわけではない。そこは覚えているのだが、では私が最初に住んでいた場所とあなたの両親はと聞かれると、そこはまるで記憶に残っていない。もっとも、物心ついた頃には既に神社にいたのでここが実家だといえなくもないのだけど。
役にも立たない過去の記憶についてはこの辺でいいでしょう。とにかく私は博麗の巫女となった。
同時に孤独の始まりでもあった。
先代巫女の葬儀は人里の人たちが手伝ってくれたが、それが終われば炊事洗濯神社の掃除から妖怪退治。10歳を越えたくらいの娘がやるには少々荷の重い内容な気はするが、別に苦手なものがあるわけでもなく問題はなかった。自分の仕事に怒り、呆れ、それでもこなして疲れ果てた頃、それらは既に生活リズムの一部として組み込まれていて太陽が東から昇って西に沈むくらいの不変さですべてを機械的にこなすようになっていた。布教活動をしていたわけでもないから徐々に参拝客は減り、元より幻想郷のこんな隅っこに建つ神社やそこにいる巫女に用事のあるものなどほとんどいない。すべてがどうでもよかった。
それでも楽しいことはある。時折舞い込んでくる妖怪退治の依頼だ。しかし、人間を簡単には襲えないルールと博麗の巫女を倒してはいけないと言う決まりが既に存在していた幻想郷で、今で言う「異変」を起こすような妖怪はごくごくたまにしかいなかった。それも大半は新参や頭の足りていない妖怪ばかりで、私を満足させられるような相手は靈異伝の時の悪魔どもくらいだった。やっぱりつまらない。
自分の生活にどんどん色彩がなくなっていく、そんな時に転機が訪れる。
「全人類への復讐」などと圧倒的なスケールの野望をのたまいながら異変を起こした魅魔と、その手下A。
手強いことは手強かった、その点では楽しめた。魅魔とは靈異伝からの付き合いだし、彼女も神社周辺によく漂っている。が、どうせ手下Aのほうとはこれっきりだろうと思っていたら、後日神社を訪問してきてはじめましてと挨拶してきたのには驚いた。あれだけノされておいて懲りないのかコイツは。
面白いじゃないの。
年も近く、人間と言うこともあって付き合う分には妖怪を相手にするよりは気も楽だったわ。今思えばあのころはきゃっぴきゃぴのうっふうふだったが、この前その話題を当人に振ったらそれには触れないでくれと頭を抱えながらうなっていた。女の子なんだし別にいいじゃないのと思ったが、どうも地雷臭がしたので今に至るまで口外はしていない。おっと話がそれたわね。
兎にも角にもそれ以後、手下Aこと魔理沙は暇さえあれば神社にやってくるようになった。魅魔もこの付近にいつもいるようなものなのでそのせいかもと思ったが、とっくに弟子は止めていたらしかった。純粋に私に会いに来てくれるというのがうれしかった。かといって唯一の人の楽しみ、妖怪いびり・・・語弊があるわね、妖怪退治の仕事まで横から掻っ攫っていくのはいただけない。依頼や異変があるたび、どっちが先に動くかとけん制しあった。
ここまでくると、彼女は私の友人だと認めざるを得ない。まさか博麗の巫女にこのような相手ができるとは先代も思ってはいなかったろう。嘘吐き、狡猾、窃盗癖と明らかに魔法使いにとって不要なスキルばかり会得している変な奴だが、根はいい奴だと察してはいたので彼女との付き合いをやめる気はなかった。
貴重な友人を得た私は、以降孤独から開放された代わりに大いに暇な時間を持て余すようになる。機械的に日々を過ごしている間は無為に過ぎていた時が、魔理沙がやってくることで時が経過していること感じられるようになったのだ。それゆえ
「あ~、今日も何もない・・・・。何かないの?こう、どひゃーっと。あんたが異変起こせば」
「霊夢のサンドバッグになれっていうわけ?暇ね」
気力のない妖怪達は滅多に異変を起こさないから、こっちもだらける一方だったわ。
だから吸血鬼異変とその際に作ってくれと言われた決闘ルールの話は水を得た魚と言うべきかしら。なんか違うけどそんな感じ。妖怪達が喜びそうな、かつこっちも遊び感覚で思う様楽しめるようなものをいくつか考案したうちの一つがスペルカードルールだった。ここまで馬鹿受けするとは思わなかったけどね。
こういった決闘方法は主に私が楽しめればそれでよかったけれど、もう一つだけささやかな理由がある。
どれだけルールを取り決めても博麗の巫女を倒してはいけないと言う原則は残る。だから私が命を落としたりする危険性は皆無だが、彼女はそういうわけには行かない。生身の人間で、博麗でもない魔理沙。幽香や魔界神なんかとも戦ってきた魅魔お墨付きの実績はあるから心配は要らないかもしれないが、弾幕も当たりどころが悪ければ死に至る。このルールで少しでも危険が減ればと思ったのは事実で、私にとって魔理沙という人間はそれだけの価値を持った人になっていた。
まどろっこしいのは嫌いだからはっきり言おう。魔理沙と一緒にいるのは楽しい。危険だからあまり異変解決には乗り出して欲しくはない。神社が倒壊したせいで金がやばいのに、収入源である仕事を横取りされるのは困る。魔理沙がいないと張り合いがないからいてほしい。全部が全部本当で、ぐちゃぐちゃ。
何故彼女が私のところに来てくれているのか。魔法だって覚えるのは相当苦労しただろう、妖怪にやられかけたことだってあるはず。それでもなお彼女は折れず。異変解決に喜び勇んで出て行くあたり弾幕ゴッコは好きなのだろうが、そのためだけに身を危険にさらしてここまでするのだろうか。ある意味では、紫の脳みその中身よりもずっと魔理沙のことがわからない。
だからかもしれない。労せず力を持った私と自力で力を得た魔理沙、生い立ちからして自分とは違う彼女のことをもっと理解したくて私は彼女を拒むことをしないのかも。
理由なんてどうでもいいわね。とにかく今が楽しいから文句もなし。
その魔理沙に誘われ霖之助さんの店まで行くことになった。道中人里に立ち寄って空きっ腹を埋めておく。
人里に下りるとどうしても気にしてしまうことが一つ。私のわずかな記憶の中にある家とそこに住む家族のことだ。
家のほうは何かの店を開いていたようで、そしてそこで私とそう年の変わらぬ少女と遊んでいた記憶がある。それが私の本当の家族だったのかもしれないし何かの用事でしばらく預けられていただけかもしれない。でもその時一緒にいた少女のことは何故か頭から離れず。くやしいことに名前も顔も思い出せない、残っているのは一緒にいて楽しかったという感覚的な記憶。
人里まで足を運んだ時にはついその家を探してしまう。本当におぼろげで、そんなことを経験したのかと疑問に思ってしまうくらい曖昧な記憶
だから、たとえその家が目の前にあったとしても気づかないかもしれないけど。今日もまた、無駄と知りつつも気づけば一軒一軒目線で追って確認してしまう。
「あ、あ~、霊夢」
振り返ると、ものすごく言いづらそうにしている魔理沙。そうだった、この先は魔理沙のおじさんのいる店がある。勘当された身の魔理沙は近づきたくもないだろう。
「道間違えたわ、ごめん」
「いや、こっちこそ」
「あ~?何であんたが謝るのよ」
しどろもどろな魔理沙をどつき、香霖堂へ続く道を通る。
あの時、その家にいた少女。私とそう年も変わらないであろう彼女にできることならまた会いたい。隣にいる普通の魔法使いは小賢しい上に大嘘吐きときているが、きっと魔理沙に似てやさしい奴に違いない。もっとも、博麗の巫女たる私と普通に遊んだりすることは叶わないだろうけど。あの時の少女への思いはあるが、今は隣にいる魔理沙のことを大切にしよう。一緒にいて楽しいと思えるこの魔理沙が魔法を使えないただの人里の一少女だったら、彼女と友達になることもなかったはず。本当に得がたい奴なのだから。
・・・・・・にしても。
「暑いわね、衣装替えしようかな」
「またツケか?そしてたかられた香霖は夜に泣きながら酒杯を傾けるのであった」
「一人で飲むだなんて、そんなのもったいないわ。お酒もいただいていきましょう」
「もちろんだ」
「霊夢か、あぁ丁度よかった」
「慧音?素敵なお賽銭箱はあっちよ」
「それは決め台詞なのか・・・?ちょっと頼みがあるんだが。どうも最近やってきたらしい新参妖怪がこの付近で暴れているらしくてな」
「退治?それくらい慧音がやればいいじゃない」
「霊夢は動かないみたいだから私が行くぜ」
「・・・・だれが動かないって?巫女の仕事だもの、もちろん行くに決ってるわ」
巫女と魔法使いが空を舞う。
「決まりだな。どっちが早く見つけられるかな?」
「もちろん今度も私がもらうわよ。迷惑天人が家をぶっ壊してくれて以来、神社の財政きびしいんだから」
「早めに終わらせて、香霖の家で祝杯だ」
「早く終わらせるだなんて、そんなのもったいないわ。弾幕ゴッコを楽しみましょ」
「もちろん」
「勝負よ!」
「勝負だ!」
人が食われた。
当時としては日常茶飯事、とまでは言わないものの別段珍しいことではなかった。人里の外に住む妖怪達の主食は人間であって、大結界騒動の時にできたとか言われている「人間を襲わない」という制約はあっても絶対に襲うなと言うわけではないし、ルールを知らない新参や頭の弱い輩が襲ってくることもあった。絶対に襲ってはいけない、なんてことをしたら妖怪達が飢えて死んでしまうわけで、つまるところ人里からそのための犠牲者が出ることはたまにあることだった。
犠牲は人里限定ではない。人里の人間達が妖怪討伐を依頼している先、つまりは歴代の博麗の巫女達も妖怪に撃ち負かされた後にそのまま襲われるなんてこともその昔はあったそうだ。もちろん結界維持のためそれは御法度ではあるが、先刻述べたとおりルールを無視する妖怪がいるので100%の身の安全が保障されているとは言いがたい。もっとも、そんな新参者は大抵弱いので返り討ちにあうのだが。
前置きはこれくらいでいいだろう。
こんな話をしたので既にお分かりとは思う。ご想像の通りかまではわからないが、やはり犠牲者が出ていた。犠牲が出てしまったのはひどく悲しいことだが、重要なのはそれによって孤児がでてしまったこと。魔法の森の入口付近で、犠牲者の遺体と共にその娘は発見された。まだ若い、というより年齢も2桁に届くかどうかという女の子だ。
その子は私の家で預かり育てることとなった。先に断っておくが、かく言う私も彼女と同い年くらいだったためその当時の記憶はあまりない。私が知っているのは人づてに聞いた話と、そのわずかな記憶だけだ。
私の父は親族がいるかもしれないのでと彼女のことを人里に伝えた。だが彼女はというと名を尋ねてもいっこうに答えてくれなかった。名がわからぬのではたとえ親族がいたとしても見つかる可能性は薄かったが、かといってまさか名をつけるわけにもいかず、彼女は半客人扱いで私の家で過ごすことになった。
無意味なほどに喜怒哀楽の激しい子だったことは覚えている。新しい環境に慣れないためとも思ったがそれにしても四六時中不機嫌そうで、しかし恐る恐る声をかけてみればいたって普通に会話に応じてくれたりした。
ちょっとの事で怒り、ふてくされ、泣き出しては喜んでの繰り返しだったそうで大層手がかかったそうな。かといって道具屋という自分の仕事を放り出すわけにも行かない両親は、年の近い私と彼女を一つの部屋に詰め込んでおき二人で遊ばせておいたという。
そんな日々が十数日続き、彼女も環境に慣れてきたかというころ。ようやく引き取り手が見つかった。
親族かどうかはわからない。すぐに引き取りにと店を訪れた巫女装束の人に連れられ、名も知らぬ彼女は店を後にした。また遊ぼうねと二人で約束した記憶はあるのだが、それ以降彼女は私の前に姿を見せることはなかった。いかに妖怪が人間を襲わないようにと取り決めがあっても、ただの子供が単身博麗神社まで遊びに行くというのは少々骨が折れる。むしろ妖怪に骨ごと食われる。
そう、彼女の家は博麗神社。巫女の後継として彼女は引き取られていったのだ。
それから数年程経っただろうか、当代の巫女が危篤という話が人里に瞬く間に広まった。かなり年を召されていたらしいので天命が近かったのだろう。
それが12代目の巫女だったか。正直これが何代目なのかなど誰も把握はしていないだろうし興味もない。私にとって重要なのは、たかが10歳ちょっとと私とそう年も変わらぬあの時の彼女が、当代巫女に代わり『博麗霊夢』として巫女につくということだった。
しかも現在は2人で住んでいる。当代巫女がこのまま亡くなってしまえば彼女は一人なのではないか?
おかしい。絶対におかしい。私と年の変わらぬ少女がたった一人で家に住んで妖怪退治をするなんて。遊ぶ暇だってないじゃない。たかが数日を共に過ごした名無しの不思議少女は、私にそう考えさせるだけの魅力があったのだ。何故かはわからないが、とても惹きつけられた。
彼女について父親と議論したのは覚えている。しかし返ってくる言葉は「誰かは継がなければならないのだから仕方ない」「私たちにはどうしようもない」というものばかり。
確かにその通りではあったが、数日とはいえ面倒を見た娘に対する言葉としては冷たすぎる。誰かはやらなければならないのはわかる。でもうちでまた引き取って面倒見るくらいいいじゃない、妖怪くらいマジックアイテムや魔法でぶっ倒してやると噛み付いてやった。
魔法の存在を知ったばかりの私は魔法で何でもできると思っていた。魔法は何でも可能にしてくれるものだと信じてやまなかったのだ。このときの私は魔法など一つも扱えていなかったので当然そんなことができるはずもなく。それに、魔法やマジックアイテムを嫌っている父親相手にこの話題を振ってしまったのは失敗であった。
さらに後日、トドメとばかりに別の道具店から買ったマジックアイテムを引っさげ喜び勇んで妖怪退治に出かけたのがまずかった。妖怪に丸呑みされる一歩手前で逃げ出して帰ってきた私に対し、父親は怒符・愛の拳骨を発動。この一件で父親はさらに魔法を嫌うようになってしまった。
そして1ヵ月後。当代巫女が亡くなった。
その一月の間も互いに引かないものだから、この頃になると親子関係の修復は誰の目から見ても絶望的だった。この親にしてこの子ありと言ったところか。たかが魔法の議論ごときで家庭崩壊かと思われる人もいるだろう。確かに10歳そこらの娘とその父親の言い合いでは子供の喧嘩と変わらないかもしれないが、それにしても霧雨家の父親は魔法が大嫌いだった。もしかしたら過去、似たような件で父に何かあったのかもしれないがそんなことは私には関係ない。
当代巫女が亡くなった事は私の思考をさらに加速させた。子供の短絡的な思考故に家出したいと考えていた。魔法も覚えたい、彼女と会いたい、遊びたい、そのほかもろもろの思考はあったが、そのための手段は一つだった。あの子に会いに行って一緒に遊ぶという最初期の目的は、魔法を覚えて彼女を助けるということに変わっていた。目的と手段が入れ替わるとはこのことか。
父と最後の一発大喧嘩を演じた後、私は家を飛び出した。
家出した、もしくは勘当された私は最初に香霖堂に寄った。人里内を除けば、丁度あの娘が発見されたあたりに建てられたこの香霖堂くらいしか安心して眠れる屋根つきの家がなかった為だが、へんてこグッズ・多少のマジックアイテムも揃えてあるので装備品調達にはもってこいだった。
しかし父と親交のある香霖の家に長期間泊まる訳にもいかない。使えそうなマジックアイテム、魔法使いっぽい衣装と箒、さらにミニ八卦炉まで香霖からもらった私は魔法の森で空き家となっている家を教えてもらい、そこに住むことに決めた。キノコの胞子による幻覚は魔力を高めると言うし、修練するには良い場所だろう。森の瘴気に耐えられなくなったらぽっくり逝ってしまうそうだがその辺は幻想郷に住む人間、誰でも多少の耐性はあったりする。
妖怪がわんさかいる魔法の森に、現状魔法の使えない魔法少女が一人住まいすると聞いた香霖は全力で引きとめてきたがそこはそこ。夜に香霖が眠ったのを確認し、堂々と店を後にして新居へと移った。後日談であるが、霧雨家を飛び出したあと何日待っても帰ってこないどころか目撃証言すら絶えた娘を心配して、父は捜索願を出して懸命に娘を探していたとか何とか。
新居へ移った私は資金確保の為まず始めに「霧雨魔法店」を開店。看板も設置。経営についてはすでに父の横で見ているのでぬかりなし。果報は寝て待てと言うし、あとは客が来るまで待とう。
次に妖怪の出にくい昼間を利用してキノコ採取と魔法研究。いや、キノコは最初食料調達の為だったのだが、魔法に転用可能と知って採取に励んだ。日中に店長のいない店じゃ経営にならないじゃないかと、それに気づくのはかなり後になってからである。気づいた後も開き直ったけど。
そして家に持ち帰ったキノコで魔法研究。順調に魔法使いとしての道を歩みだした私だったが・・・・、
だがその日、危惧していたことがとうとう起こった。
先ほど瘴気の話をしたと思うがこれは言葉にした以上に結構危険な代物で、弱小妖怪くらいは避ける強さ。どういうことかと言うと、つまり森にいる妖怪は他地域に居を構える妖怪たちよりは強い。そして妖怪立ちの時間である夜ではないとはいえ、吸血鬼でない以上妖怪は出る(いや、吸血鬼だって普通に日傘差して歩くことを後で知ったが)。現状身を守る術を持たない私がそれらに遭遇した際に逃げ切れるかと聞かれるとネガティブ。
しかし私は、ある日森の中そいつと出会ってしまった。
そして・・・・・・・・
「完全復活まであと少し時間がかかるの、それまではこいつと遊んでてね。じゃ~ね~」
「あ、こら。待ちなさい!」
「魅魔様のところには行かせないよ~」
「えぇい、邪魔よ。落ちついて急いで倒してあげるからさっさと倒れなさい」
「いろいろとひどいわ。ん、巫女って言ってたけどあなた」
相手は妖怪(正確には悪霊)、そしてそれを倒しにきた巫女。
しばらく顔を見てなかったからすぐに分からなかった。お前が霊・・・・
「急いでんのよ、どきなさい!」
感動の再会のはずは、しかし同じく顔と名前を覚えていなかった巫女によって一蹴されてしまうのだった。
「魔梨沙っていうのね」
「待って、魔理沙よ」
「どおでもいいわぁ」
その後も霊夢が私のことを思い出すこともなく、結局はじめまして私魔理沙と言いますと挨拶するところから始まることとなった。まぁ霊夢も覚えていないし、私もあの時名前を聞かず仕舞いだったので初めましてといえなくもない。
出会った相手が魅魔様だったことは幸運だった。森で遭遇した魅魔様の元で鍛え、霊夢のお供の亀に手強いと言わせしめるほど強くなった私は今こうして霊夢の横に並んでいる。
神社に行くたび嫌そうな顔を向けて茶菓子でもてなしてくれる彼女。私を友人として認めてくれた彼女。
地霊殿で会ったさとり妖怪は、「霊夢は紫のことは信用している」と彼女の心を読んだそうだ。つまり、そのほかの者についてはさして信用はしていないということ。
私はまた霊夢とこうしていられることがうれしいが、彼女のほうはどう思っているのだろうか。幸い日常生活の中で、今に至るまで弾幕で神社から叩き出されたりとかはしていないので嫌っているなんてことは多分ない・・・・と思うが、当人に直接聞くのもなんだかな。
でも嫌な時は嫌ときっぱりすっぱりばっさりあっさり言う、それが霊夢だ。それならこのままでいいかな。自分の好きなことをして好きな奴と遊べる、他に理由なんてなくそれでいい。
そういえば香霖に八卦炉のメンテナンスを頼まないと。大事な商売道具だし、遊び道具だ。せっかくだから霊夢も誘っていくかな。
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これでも記憶力はいいほうだと自負しているのだけど、そんな私も思い出せない事柄がいくつかある。
博麗霊夢を名乗ってはいるが、別に私は博麗家に生まれたわけではない。そこは覚えているのだが、では私が最初に住んでいた場所とあなたの両親はと聞かれると、そこはまるで記憶に残っていない。もっとも、物心ついた頃には既に神社にいたのでここが実家だといえなくもないのだけど。
役にも立たない過去の記憶についてはこの辺でいいでしょう。とにかく私は博麗の巫女となった。
同時に孤独の始まりでもあった。
先代巫女の葬儀は人里の人たちが手伝ってくれたが、それが終われば炊事洗濯神社の掃除から妖怪退治。10歳を越えたくらいの娘がやるには少々荷の重い内容な気はするが、別に苦手なものがあるわけでもなく問題はなかった。自分の仕事に怒り、呆れ、それでもこなして疲れ果てた頃、それらは既に生活リズムの一部として組み込まれていて太陽が東から昇って西に沈むくらいの不変さですべてを機械的にこなすようになっていた。布教活動をしていたわけでもないから徐々に参拝客は減り、元より幻想郷のこんな隅っこに建つ神社やそこにいる巫女に用事のあるものなどほとんどいない。すべてがどうでもよかった。
それでも楽しいことはある。時折舞い込んでくる妖怪退治の依頼だ。しかし、人間を簡単には襲えないルールと博麗の巫女を倒してはいけないと言う決まりが既に存在していた幻想郷で、今で言う「異変」を起こすような妖怪はごくごくたまにしかいなかった。それも大半は新参や頭の足りていない妖怪ばかりで、私を満足させられるような相手は靈異伝の時の悪魔どもくらいだった。やっぱりつまらない。
自分の生活にどんどん色彩がなくなっていく、そんな時に転機が訪れる。
「全人類への復讐」などと圧倒的なスケールの野望をのたまいながら異変を起こした魅魔と、その手下A。
手強いことは手強かった、その点では楽しめた。魅魔とは靈異伝からの付き合いだし、彼女も神社周辺によく漂っている。が、どうせ手下Aのほうとはこれっきりだろうと思っていたら、後日神社を訪問してきてはじめましてと挨拶してきたのには驚いた。あれだけノされておいて懲りないのかコイツは。
面白いじゃないの。
年も近く、人間と言うこともあって付き合う分には妖怪を相手にするよりは気も楽だったわ。今思えばあのころはきゃっぴきゃぴのうっふうふだったが、この前その話題を当人に振ったらそれには触れないでくれと頭を抱えながらうなっていた。女の子なんだし別にいいじゃないのと思ったが、どうも地雷臭がしたので今に至るまで口外はしていない。おっと話がそれたわね。
兎にも角にもそれ以後、手下Aこと魔理沙は暇さえあれば神社にやってくるようになった。魅魔もこの付近にいつもいるようなものなのでそのせいかもと思ったが、とっくに弟子は止めていたらしかった。純粋に私に会いに来てくれるというのがうれしかった。かといって唯一の人の楽しみ、妖怪いびり・・・語弊があるわね、妖怪退治の仕事まで横から掻っ攫っていくのはいただけない。依頼や異変があるたび、どっちが先に動くかとけん制しあった。
ここまでくると、彼女は私の友人だと認めざるを得ない。まさか博麗の巫女にこのような相手ができるとは先代も思ってはいなかったろう。嘘吐き、狡猾、窃盗癖と明らかに魔法使いにとって不要なスキルばかり会得している変な奴だが、根はいい奴だと察してはいたので彼女との付き合いをやめる気はなかった。
貴重な友人を得た私は、以降孤独から開放された代わりに大いに暇な時間を持て余すようになる。機械的に日々を過ごしている間は無為に過ぎていた時が、魔理沙がやってくることで時が経過していること感じられるようになったのだ。それゆえ
「あ~、今日も何もない・・・・。何かないの?こう、どひゃーっと。あんたが異変起こせば」
「霊夢のサンドバッグになれっていうわけ?暇ね」
気力のない妖怪達は滅多に異変を起こさないから、こっちもだらける一方だったわ。
だから吸血鬼異変とその際に作ってくれと言われた決闘ルールの話は水を得た魚と言うべきかしら。なんか違うけどそんな感じ。妖怪達が喜びそうな、かつこっちも遊び感覚で思う様楽しめるようなものをいくつか考案したうちの一つがスペルカードルールだった。ここまで馬鹿受けするとは思わなかったけどね。
こういった決闘方法は主に私が楽しめればそれでよかったけれど、もう一つだけささやかな理由がある。
どれだけルールを取り決めても博麗の巫女を倒してはいけないと言う原則は残る。だから私が命を落としたりする危険性は皆無だが、彼女はそういうわけには行かない。生身の人間で、博麗でもない魔理沙。幽香や魔界神なんかとも戦ってきた魅魔お墨付きの実績はあるから心配は要らないかもしれないが、弾幕も当たりどころが悪ければ死に至る。このルールで少しでも危険が減ればと思ったのは事実で、私にとって魔理沙という人間はそれだけの価値を持った人になっていた。
まどろっこしいのは嫌いだからはっきり言おう。魔理沙と一緒にいるのは楽しい。危険だからあまり異変解決には乗り出して欲しくはない。神社が倒壊したせいで金がやばいのに、収入源である仕事を横取りされるのは困る。魔理沙がいないと張り合いがないからいてほしい。全部が全部本当で、ぐちゃぐちゃ。
何故彼女が私のところに来てくれているのか。魔法だって覚えるのは相当苦労しただろう、妖怪にやられかけたことだってあるはず。それでもなお彼女は折れず。異変解決に喜び勇んで出て行くあたり弾幕ゴッコは好きなのだろうが、そのためだけに身を危険にさらしてここまでするのだろうか。ある意味では、紫の脳みその中身よりもずっと魔理沙のことがわからない。
だからかもしれない。労せず力を持った私と自力で力を得た魔理沙、生い立ちからして自分とは違う彼女のことをもっと理解したくて私は彼女を拒むことをしないのかも。
理由なんてどうでもいいわね。とにかく今が楽しいから文句もなし。
その魔理沙に誘われ霖之助さんの店まで行くことになった。道中人里に立ち寄って空きっ腹を埋めておく。
人里に下りるとどうしても気にしてしまうことが一つ。私のわずかな記憶の中にある家とそこに住む家族のことだ。
家のほうは何かの店を開いていたようで、そしてそこで私とそう年の変わらぬ少女と遊んでいた記憶がある。それが私の本当の家族だったのかもしれないし何かの用事でしばらく預けられていただけかもしれない。でもその時一緒にいた少女のことは何故か頭から離れず。くやしいことに名前も顔も思い出せない、残っているのは一緒にいて楽しかったという感覚的な記憶。
人里まで足を運んだ時にはついその家を探してしまう。本当におぼろげで、そんなことを経験したのかと疑問に思ってしまうくらい曖昧な記憶
だから、たとえその家が目の前にあったとしても気づかないかもしれないけど。今日もまた、無駄と知りつつも気づけば一軒一軒目線で追って確認してしまう。
「あ、あ~、霊夢」
振り返ると、ものすごく言いづらそうにしている魔理沙。そうだった、この先は魔理沙のおじさんのいる店がある。勘当された身の魔理沙は近づきたくもないだろう。
「道間違えたわ、ごめん」
「いや、こっちこそ」
「あ~?何であんたが謝るのよ」
しどろもどろな魔理沙をどつき、香霖堂へ続く道を通る。
あの時、その家にいた少女。私とそう年も変わらないであろう彼女にできることならまた会いたい。隣にいる普通の魔法使いは小賢しい上に大嘘吐きときているが、きっと魔理沙に似てやさしい奴に違いない。もっとも、博麗の巫女たる私と普通に遊んだりすることは叶わないだろうけど。あの時の少女への思いはあるが、今は隣にいる魔理沙のことを大切にしよう。一緒にいて楽しいと思えるこの魔理沙が魔法を使えないただの人里の一少女だったら、彼女と友達になることもなかったはず。本当に得がたい奴なのだから。
・・・・・・にしても。
「暑いわね、衣装替えしようかな」
「またツケか?そしてたかられた香霖は夜に泣きながら酒杯を傾けるのであった」
「一人で飲むだなんて、そんなのもったいないわ。お酒もいただいていきましょう」
「もちろんだ」
「霊夢か、あぁ丁度よかった」
「慧音?素敵なお賽銭箱はあっちよ」
「それは決め台詞なのか・・・?ちょっと頼みがあるんだが。どうも最近やってきたらしい新参妖怪がこの付近で暴れているらしくてな」
「退治?それくらい慧音がやればいいじゃない」
「霊夢は動かないみたいだから私が行くぜ」
「・・・・だれが動かないって?巫女の仕事だもの、もちろん行くに決ってるわ」
巫女と魔法使いが空を舞う。
「決まりだな。どっちが早く見つけられるかな?」
「もちろん今度も私がもらうわよ。迷惑天人が家をぶっ壊してくれて以来、神社の財政きびしいんだから」
「早めに終わらせて、香霖の家で祝杯だ」
「早く終わらせるだなんて、そんなのもったいないわ。弾幕ゴッコを楽しみましょ」
「もちろん」
「勝負よ!」
「勝負だ!」
だけど読む前に文字が多くて、うわってなったことも白状しておきます。