其処の不思議な人間さん、隣、宜しいかしら。
あぁ、ありがとう。いえ、頼んだのは此方なんだから、そんなに恐縮されても困るわ。
あ、それ以上先に行くと席から落ち、落ち、あー。
腰、大丈夫? しこたま打ちつけたように見えたのだけど……。
いえ、信じない訳じゃないの。だから、こんな往来で服を捲りあげないで。
可愛らしい下着が見えちゃっているわ。……あら、里では今、ドロワーズを穿いていないのね。
んぅ、こほん。メイド……あぁいえ、給仕さん、私と此方のキティに冷たい紅茶をお願い。
ふふ、意外そうな顔をしているわね。それとも、心外かしら。
貴女と同じような年頃に見えるだろうけど、遥かにお姉さんなのよ。
だって、私、吸血鬼なんだもの。
自己紹介がまだだったわ。私はフラン。フランドール・スカーレット。
……よく知っているわね。私が地下室にいたのって、もう随分と昔よ。
幻想郷縁起の、あれは確か、そう、稗田阿求が書いた版でも読んだのかしら。
あぁ、阿求っていう人間は……それも、知ってると。やっぱり、貴女は不思議な人ね。
ええ、確かに私は我が家の地下室に閉じこもり、閉じこめられていた。
だけど、それはもういいの。客観的に考えて、厄介な『力』を扱い切れていなかったんですもの。
こうやって自由に動けるようになったのは、博麗の巫女や守矢の風祝の、心を開いた親友の、そして、姉の――。
と。この話は長くなるわ。とてもじゃないけど待っている間には終わらない。
……その言い方だと、貴女も誰かを待っているのね。こんなに可愛らしいキティを待たせるなんて、悪い人。
あら、私が待っているのは悪い人ではないわ。
だって、お姉様を待っているんだもの。
人じゃない。
……そうよ、レミリア・スカーレット。『紅い悪魔』。『永遠に紅い月』。
うぅん、どうやらまた、齟齬があるようね。あの時代の知識なら当然なのかしら。
でも、考えてみて頂戴。私が貴女と同年代の容姿なのに、姉が幼いままでいる訳がないでしょう?
……どう、かしら。少女と言われると難しいわね。でも、女性って呼ばれるのも早い気がするわ。
……随分と食いついてくれるわね。
私に姉の話をさせてくれるつもり?
言っておくけど、さっきの話と負けず劣らず長くなるわよ。
ええ、長くなるわ。だって、誰も――親友でさえよ?――聞いてくれないんだもの。
『フランの惚気は長すぎる』って。こいしも私の事、言えないのに。
しょうがないじゃない。愛するお姉様のお話なんだから。
ふふ、顔が真っ赤よ。妹が姉を愛するのは当然じゃなくて?
でしょう? 尤も、貴女が思い描いたような感情でもあるのだけれど。
あぁ、ごめんなさい、怒らないで、ね、怒らないで。
お願いだから、私にお姉様のお話をさせて頂戴な。
何から話そうかしら。そうだ、ざっと簡単にお姉様についてを語っていくから、その後、細部を追っていきましょう。
まずは、そうね、さっきちらっと出たけど、容姿からね。
身長は私より少し上、体重も同じく、具体的に言うと――。
あら、耳を塞いでどうしたの? ははぁ、ダイエットか何かしていて聞きたくないのね。
私の友人も昔はよくそうしていた。今でも偶によぎるのか、時々見かけるけど。その度、保護者たちに苦笑いされているわ。
いいわ、じゃあ、体格は流しましょう。
あ、でも、是だけは言わせて。胸は私の方が大きいの。
此処だけ、私はお姉様より大きいわ。そう言うと、お姉様は微苦笑するのよ。
微苦笑。或いは、美苦笑。美しい苦笑いね。
お姉様は美しいわ。どんな言葉を並べたって陳腐に聞こえるほど、美しい。
何かと比較してどうこう言うのは好きじゃないけれど――だって、双方に失礼でしょう?――敢えて比較するなら、お姫様ね。
……そうよ、永遠亭のお姫様。蓬莱山輝夜。
それと、地底の橋姫。水橋パルスィ。
彼女たちとお姉様を評して、『幻想郷三大美人』って言われているの。
比較って言ったけど、サンニンの美しさは方向性が違うのよね。
輝夜は和、パルスィは大陸、お姉様は洋。だから、同列にされているわ。
勿論、私はお姉様が誰よりも美しいと思っているけれど。ふふ、きっと、贔屓目ね。
今日、お姉様が里に出てきているのは、輝夜に化粧品を選んで貰っているのよ。
……ん、違うわ、早合点しないで。
お姉様や輝夜が化粧をするのは、他者を慮っての事。
初めてお姉様たちを明るい陽の元で直視したら、貴女の様な人間じゃ気が違ってしまうわ。
言ったでしょう? お姉様は美しいの。まさに人智を超えた美しさ。絶対の美、なのよ。
中々に耐えてくれるのね、嬉しいわ。パチェなんてこの程度で奥に引っ込んでしまうのよ。代わりに小悪魔が聞いてくれるけど。
次は、あぁ何を話しましょう! 力がいいかしら。そうしましょう。
所謂戦闘能力。もともと、吸血鬼は出鱈目な身体能力の持ち主らしいの。その上、お姉様は更に磨きをかけたわ。
力は鬼と同等、速さは天狗を捉え、テクニックは遂にあのアリスを超えたのよ!
とはいえ、経験の差があるからか、最凶妖怪との戦績は五分だけど……。
……私? 私が一でお姉様が九よ。『力』を使ってこれだもの。嫌になっちゃう。ならないけど。
あん、だけど、戦闘能力に特化している訳じゃないわ。
知力は勿論のこと、知識だって蓄えたし、貴女たちとはまた違った知恵もつけている。
結界の大妖獣八雲藍と討論して、知識の乙女パチェと含蓄を深め、人の守護者藤原妹紅と議論したり!
肉弾戦と違って、此方に勝った負けたは余り関係ないわ。テーゼにアンチテーゼ、ジンテーゼと周り廻って発展するの。
そう言う、露骨に勝敗が決まるのはアレね。そう、私たちの遊び。華麗なる闘劇。弾幕ごっこ。
ある時、お姉様はスペルカードを一新されたわ。昔ので残っているのは、二枚だけ。
紅魔‘スカーレットデビル‘と神槍‘スピア・ザ・グングニル‘。後者は私がお願いしたのよ。
……何故って? それは最初の話と深くかかわってくるから――。
……あ、そっちか。一新した理由ね。
いつだったかしら。お姉様は、戯れに紅霧異変を再現したの。
当然のように、博麗の巫女はやってきたわ。そして……結果だけ言うと、お姉様は借りを返した。
『あいつに返したかったわね』――一緒にやってきた早苗に微苦笑でそう零していたのを、覚えているわ。
あぁ……日差しが強くなってきちゃったわね。気化しちゃう。
……や、そんなに慌てないで。日陰に入るだけで大丈夫だから。我ながらいい加減なものよね。
でも、ふふ、お姉様は違う。日光が平気な訳じゃないわ。気化したそばから細胞レベルで回復しちゃうの。
今のメイド長はちょっと落ち着きがないから、『耐性がついたのかもね』なんて笑っていたわ。姉ながら化け物よね。
……にんにく? 今朝の朝食はガーリックトーストよ。鰯の頭? 昼食だったわ。私は苦くて食べてもらったけど。
ははぁ、貴女はつまり、弱点を知りたいのね。日光さえも克服した吸血鬼の弱点を。
簡単よ。流水を跨げばいい。泳ぐなり走るなり飛ぶなりして。
そうすれば、時間稼ぎにはなるわ。お姉様が水を蒸発させるまでの僅かな時間だけど。
あぁ、山の渓谷ならもう少しは芽があるわね。椛がスペルカードルールを提案すれば、貴女は逃げ切れるかもしれないわ。
でも、安心して? そもそもお姉様はそんな乱暴者じゃない。
思慮深く、高貴で、慈愛に満ちた為政者。この前、あはっ、友人の閻魔に怒られていたわ。
……それも、たぶん、あのフタリの影響だと思うと少し悔しいんだけどね。一人と一妖。『幻想の結界』。
……うぅん、なんでもないわ。弱点だったわね。ある事にはあるんだけど。
いいわ、貴女は何処となく、私の初めての友達二人に似ている。
だから、教えてあげる。
ふふ、うふふ、それはね――。
――あ。見て、ほら、お姉様よ。お買い物が終わったのかしら。
あぁ!? 見てとは言ったけどそんな凝視しないで! 真っ直ぐに見ちゃうと危険だってば!
気が違……わぁ、平気のへーざね。うん。貴女は屋台のマスターにも似ているわ。そんな目をしてるの。
こほん。さっきの。弱点よ? 実演してあげるわ。
だけど、やっぱり、直視しては、じっと見てはいけない。
きっと、貴女は、待ち人を待っていた事すら忘れてしまうから――。
お姉様! こっちよこっち! いいえ、待っていないわ。此方のキティと楽しく過ごしていたもの。
む。妬いてすらくれないのね。あぁ! 子ども扱いしないで!
いいわ、いいわ。
お姉様がそのおつもりなら、私にも考えがある。
うふふ、トラウマを使うのは、私の親友だけじゃ、お姉様の親友だけじゃないわ。
もう、遅い、遅いわ! 聞きなさい!
――魔符‘全世界ナイトメア‘っ!!
<幕>
フランドール――フランがそう叫ぶと、彼女の言葉通り、‘美しい‘としか表現できないレミリアは、顔を紅潮させ、口に手を
あてる。
続けて「紅符」と発言したフランだったが、レミリアの武力的介入により其処で止まってしまった。
武力とはつまり、フランの肩に打ちつけられる両の握り拳。
ぽかぽかぽか。
「うー! フラン、言わないでってば!」
うー、って。
これ、もう。
もう……っ。
か、可愛い……――私が思わず恍惚の息を零したのも致仕方なしと言えよう。
「ふーん。貴女はレミリアみたいな女(ヒト)が好みなのね。ふーん」
仕方ないんだから、お願いだから、その目は止めてくれなさい。まだ頬を抓られた方がマシだわ。
「十四時四十五分。十五分の遅れよ」
「待っている事も忘れていたくせに」
「あぁん、怒らないで、メリー!?」
このあと。
私こと宇佐見蓮子と待ち人ことマエリベリー・ハーンは、美しいスカーレット姉妹の館に厄介する事となった。
何故かレミリアに気に入られた私は数度ちょっかいをかけられ、その度、フランは可愛らしく頬を膨らませ、メリーが「幻想郷
離婚よ!」などと騒ぐ羽目になるのだが。うん、まぁ、その夜は燃えました。
……人さまの家で何やってんだか。いやいや。ナニを。いやいや。人じゃない。
ともかく! それはまた、別のお話――。
<了>
強いて言うなら分量を十倍ほどにしてこの一日の詳細な内容を書き加えてあると
更にどうしようもない感じになったと思い魔s
未来ですねぇ……霊夢が死んじゃってるのは悲しいですが
そして最後だけだけどこれはいい蓮メリ
まさか道標氏の書く蓮メリが見れるとは……正直出てこないと思ってた
お嬢様も妹様も、交友関係が広がったようでなにより。
三大美人の人選と理由は納得。
確かにパルスィは『可愛い』より『美人』のカテゴリーに入るかと。
激しく同意!ですです。
お嬢様、ばんざい。
あと姫さまの名前が出て来て嬉しいのです。
みすちー主催同好の士の会とか見てみたい。何人集まるやら
あ
名状しがたい良い気分になってしまいました。
神鬼「レミリアストーカー」とか(ピチューン
完璧過ぎて近寄り難くすらあるけれど、親しみやすさは残っている。
このお嬢様には恋愛感情より先に強烈なアコガレが先立つ。素敵。
もえました!