―霊夢の場合―
「霊夢、良い物をあげるわ」
「嫌な予感しかしないんだけど」
紫、ニコニコ。
霊夢、にがにが。
暑い日差しが、少しだけ鬱陶しい。霊夢の飲んでいるお茶は、麦茶になっていた。
こんなにも暑いというのに、紫はいつもの服だ。暑く無いのだろうか、と霊夢は思ったが、紫ならなんでもありだ、と自分を無理矢理納得させた。
「はい、これ」
「何これ?」
紫が隙間から取り出した物は、細身な全体が特徴的な作りで、前後に一つずつ車輪が付いている奇妙な物だった。一見不安定なそれを、紫は前に付いているハンドル部分を持ち、支えていた。
「自転車よ」
「何それ?」
「んー便利な機械、といったところかしらね。乗ってみれば分かるわ」
「えー……面倒」
「せっかく持って来たのだから、さぁ!」
紫に手取り足取り教えられ、とりあえず乗ってはみる霊夢。
「で、こっからどうするの?」
「漕げば良いのよ」
「アバウトねぇ……分かったわ」
霊夢は、足に力をくっと込める。
境内で自転車という、妙な光景。しかも、乗っているのが巫女だからより奇妙だ。
「あ、あれ? ちょ、霊夢!?」
「うわ……なんか変な感じ」
少しずつ、自転車が地から離れてゆく。
紫が、予想外の展開に少し慌て始めたが、もう遅い。
「わー! 紫、なんかいつもと違って凄い!」
「霊夢ー!?」
自転車を漕ぎながら、霊夢は空を飛ぶ。霊夢の能力が無意識に働いて、自転車を巻き込んでいた。
「紫ー! なんか楽しい!」
「……使い方が違うけど」
自転車にまたがって空を飛ぶ霊夢を見て、紫の脳内に、とあるメロディーが流れる。
小さい頃は、隙間さんがいて。
不思議に物を、取り出してくれた。
目を大きく見開いて、静かな境内の。
やさしさに~包まれたなら♪
きっと。
目にうつる、霊夢の行動はメッセージ。
「つまり、これは霊夢のメッセージ?」
もちろん、そんなわけない。
次の日、某烏天狗の新聞に、自転車にまたがって空を飛ぶ巫女の姿が一面に使われていた。
―早苗の場合―
早苗がまだ幻想郷へ来る前のお話。
幼き早苗は、誕生日を迎えようとしていた。
「早苗、誕生日プレゼント何が良い?」
「ふぇっ!? 神様からなんていただけませんよ!」
「神様とか関係無いよ。私は早苗を祝いたいんだ」
「でも、私は欲しい物なんて……」
むむむ、と唸る神奈子。
早苗は遠慮深い性格だ。だが、こんなにもまだ幼いのだから、本当は何かあるだろう。
「分かったよ。自転車なんかどうだい?」
「ふぇっ!?」
しかし、神様に隠し事は出来ない。
というか、たまたま早苗が欲しそうに見てるのを知っていただけなのだが。
「楽しみにしてな! 早苗!」
「あぅ……」
どう反応していいか分からない、複雑な表情を早苗は浮かべる。
そして、誕生日前日の夜。
「諏訪子、これをどう思う?」
「……馬鹿?」
「いや、自転車だけど」
「ありえないでしょ。これは」
「失礼な! 早苗に対する愛情よ!」
「行き過ぎた愛情は、ただの変態だよ」
「むぅ……早苗を喜ばせようと」
「私は止めといた方が良いと思うよ」
「良いもん! 早苗にあげるもん!」
「お前は子どもか!?」
誕生日当日。
早苗の部屋に鳴り響く音。
「うぅん……」
早苗が目を開くと、
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
早苗の部屋を、埋め尽くす数の自転車。部屋自体、そんなに広くは無いのだが、この自転車の数は異常だった。
しかも、全てのチリンチリンが鳴り響いている。
「ふぇぇぇぇぇ!」
「どうだい早苗? どんな自転車が好きか分からなかったから、世界の自転車全部集めたよ!」
「ふぇぇぇぇぇん!」
「泣く程嬉しいのね! やっぱりこのチリンチリンを全て鳴らして、誕生日の朝を迎えるという演習に感動してるのね!」
「ただの怪奇現象だ! この馬鹿神奈子!」
「ぐふぇ!?」
諏訪子の飛び蹴りを顔面に食らう神奈子。
「あぁ、もう! 何さ、この状況!」
自転車に囲まれて、身動きが取れない早苗。
鳴り響くチリンチリン。
未だに、恐怖で泣きやまない早苗。
気絶している神奈子。
頭を抱えている諏訪子。
両親がこちらに向かってくる足音。
早苗にとって、自転車が嫌いになったトラウマの誕生日でした。
―妖夢の場合―
「妖夢、紫から自転車を貰ったわ」
「はぁ……?」
「乗りなさい」
「意味が分かりません」
「自転車に乗ってみなさい。昔、妖忌は一発で乗れてたわよ」
「分かりました。乗りましょう」
自転車にまたがる――が、
「あ、足が届かない……」
「あらあら、妖夢ったら」
「仕方無いやつだな。ほら」
幽々子と妖忌が、高さを調整する。
「す、すみません……って今お師匠様居ませんでした!?」
「居ないわよ。妖忌は何処に居るか分からないじゃない」
妖夢が周りを見渡すが、気配一つ無かった。
「勘違い……か。私、寂しがってるのかな」
「ほら、妖夢。漕いでみなさい」
「あ、はい」
足に力を入れて、漕いでみる。
「うわっ! ひゃぁぅ!?」
「あらあら、妖夢ったら」
「大丈夫かー!?」
ふらふらと不安定だった妖夢は、思い切り倒れてしまった。
駆け寄る妖忌と幽々子。
膝を擦り剥いてしまったようで、薄く血が滲んでいた。
「あっ!? ゆ、幽々子さまぁ……」
幽々子が傷口を舐める。
妖忌は、絆創膏を素早く貼り付ける。
「ありがとうございます。あれ? おじいちゃん……じゃなかった、お師匠様居ませんでした?」
「居ないわよ。居るわけないじゃない。大丈夫、妖夢?」
「あ、はい。すみません」
「乗るの、止めておく?」
幽々子が首を傾げて、妖夢に尋ねる。
「いいえ、乗ります。これくらい乗れないようじゃ、お師匠様に近付けません……」
「……そ、頑張って」
「はい!」
妖夢は、自転車に勢い良く乗った。だが、そんなに勢いをつけてはバランスを崩すのは当たり前。再び、倒れてしまった。
何度も何度も挑戦し、膝を擦り剥いて、涙目になっている妖夢。
だけど、諦めない。
涙目の奥に、強い信念が見えた。
「妖忌、妖夢は真っ直ぐに育ってるわよ」
「そうですな。正直、まだまだ未熟ですが」
幽々子の隣りに座っていた妖忌が、立ち上がる。
「あら、もう行くの?」
「はい。妖夢が健やかに成長しているのを確認出来ました」
「胸はぺったんこだけどね」
「それはそれで……」
「ありよね」
「ありですな」
妖忌が去った後も、妖夢は自転車に挑戦していた。
う~う~唸り、涙目だったけれど、それはとても可愛らしかった。
そして、強かった。
「妖夢は頑張り屋さんねぇ……」
それを見て、幽々子はただ穏やかに微笑を浮かべていた。
えぇ面白かったです。魔女子さーんw
妖忌は存在をアピールしたいのか隠したいのかww
この一言にやられた……w妖夢の背丈では絶対に届かないに違いない!
霊夢が飛んでいくシーンで自転車かごの中に小さな玄爺突っ込んでE○とか思ったのは内緒です
初めての自転車ルーミア編読みたいなー。
でもいい顔しながらチャリで空飛ぶ霊夢は見てみたいかも!
5さん>
補助輪付きお子様用自転車で霊夢と一緒に練習するルーミア…てのを想像して悶えたのは内緒ですよ?
バンドーラか!
ミニサイクルで人里を闊歩するあっきゅんを幻視して萌え死にました。
というか、ゆゆ様と爺さんに一言いわせて。
このロリコンどもめ!
不思議に物を、取り出してくれた。
目を大きく見開いて、静かな境内の。
やさしさに~包まれたなら♪
きっと。
目にうつる、霊夢の行動はメッセージ。
この部分をつい歌ってしまい周りから冷めた目で見られたのは俺だけでいい
妖忌の爺さんやゆゆ様の
妖夢に対する愛情を感じましたwww
>>1様
見事に想像出来ましたw
>>2様
いえいえ、岩山更夜さんはそうですが、私はそんな大したことないですw
>>3様
あぁ! エイリアンの方の発想はありませんでした。うぅ……
>>岩山更夜様
妖夢は届かないですよねw多分w
>>5様
ちょいと予定変えたりすれば、書けるかもしれませんが、あまり期待しないで下さいね。
>>6様
おじいちゃんは心配性w
>>7様
やっぱり年頃の女の子ですからw
>>8様
素晴らしいネーミングw
>>9様
空飛ぶ自転車、あっても怖いですw
>>10様
いらっしゃいませなのです。
>>11様
それは褒め言葉ですよw
>>12様
心配なのですよw
>>謳魚様
まさかの展開すぎますw
>>14様
それは周りの人がいけないのです!
あなたは間違って無いのですよ!
>>15様
愛情がかなり溢れてます。
>>16様
意外に近くにいたりするかもしれません。