「メイド長って怖いよね」
そんなことを妖精メイドたちが話しているのを、偶然聞いてしまった。
別に、厳しくすることでしっかりと妖精メイドたちが働くのだから、怖いなんて言われても気にしない。
「……気にしない」
自室へ戻り、ベッドにダイブしてから、ちょっと泣いた。だって、女の子だもん。
「気にしてない……気にして、無いけど」
昔は目付きも鋭くて、愛想も悪かった。それに比べたら、今は大分柔らかくなったとは思う。
なにより、感情が現れるようになった。
「何が怖いのかしら」
私のどこが怖いのだろうか。ナイフかな。顔だったら、さすがにショックで立ち直れないかも。目付きとかなら、まだ直せる。
いや、別に気にして無いけど。
「そうよ! 気にして無くても、原因を知る必要はあるわ! このままじゃあ、妖精メイドの士気にも関わるかもしれないし!」
勢いよく起き上がる。
そうよね、士気に関わるかもしれない。私が怖すぎるからという理由で、暴動が起きたら厄介だ。ハクタクの教科書に載ってしまうかもしれない。
『紅魔館で暴動が起きました。これがあの有名な紅魔館革命一揆戦争暴動だ。さぁ、何故この暴動が起きたか分かるか?』
『はい! 紅魔館のメイド長があまりにも怖かったためです!』
『はい! メイド長の愛想が悪かったからです!』
『よし、お前たち。よく勉強してきたな。偉いぞ』
『えへへ~』
『ぐふふ~』
「そんな屈辱的な歴史を残してはいけない!」
お嬢様の顔に泥を塗るようなことをしてはいけない。
よし、そうと決まったら早速私が怖がられる理由を知らなくてはならない。
こんな時に頼りになるのは……美鈴かな。相談役とか向いてそうだし。
「というわけで、美鈴アドバイスを」
「えーと……咲夜さんは別に今のままでも良いかと」
「それじゃあダメなのよ。お願い、私はどうすれば良いのかしら」
「そうですねぇ……」
美鈴がむぅむぅ唸って考えている。
私はそれを、ただ待つ。
「笑顔ですかね」
「笑顔?」
「はい。咲夜さん、あまり笑いませんから」
笑う理由が無いのに笑っても仕方無いと思うけど、美鈴が言うなら試してみようか。
「ありがとう、美鈴。とりあえず、妖精メイドに会ったら笑顔を心掛けるわ」
「あ、咲夜さん……って行っちゃった。咲夜さん、ちゃんと意識して笑えるのかなぁ……」
廊下をゆっくりと歩く。
いつもなら、仕事を効率良く済ますため、こんなことはしないのだけれど、妖精メイドに会って試してみたいから。
「あ、メイドちょーお疲れ様です」
「メイド長だーお疲れ様です」
きた!
よし、笑おう。
「フフ」
「っ!?」
「ひっ!?」
あれ、何か涙目になっている。
何故だろうか。
笑顔が足りなかったのか。
なら、さらに笑顔を。
「ふ、ふふっ……ふふふっ」
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うわぁぁぁぁん! ごめんなさい! 何かごめんなさい!」
「あ、ちょっと!?」
どこぞの烏天狗と同じくらいの速さで、目の前から消えてしまった。
泣いているのが、見えた気がする。
そんなに私の笑顔は危険なのだろうか。
そうだ! お嬢様に見てもらおう。そしてアドバイスを受けよう。お嬢様なら、逃げたりはしない筈だ。
「お嬢様、失礼します」
「咲夜か。どうしたの?」
「ふふはっ」
「っ!?」
あ、お嬢様が何か凍り付いてる。
「お、お嬢様……私、変ですか? ウフフっ」
「ひぃっ!? 咲夜、私あなたに何かしたかしら!? したなら謝るから、その表情を止めて!」
涙目でいやいやと首を振りながら、部屋の隅へと下がるお嬢様。
あ、私何か泣きそう。
ここまで拒絶されるなんて。お嬢様にまで拒絶されたら、私はどうすれば良いのだろう。
「ふぇ……うっ……」
「さ、咲夜!? 何泣いてるの!?」
「すみませ……うわぁぁぁん!」
「しかも子供泣き!? あーもう、今日の咲夜はどうしたのよ……」
「お嬢様……うわぁぁぁん!」
涙が止まらない。
泣いたのなんて久し振りだから、どうしたら良いか分からない。
そんな時、ふわりと温かい何かに包まれた。
「落ち着くまで、そうしてなさい」
「お、じょ……さま」
「まぁ、たまには良いんじゃない? 泣ける時には、たくさん泣いときなさい。でないと、笑えなくなっちゃうわよ」
「ふえぇぇぇん!」
子供みたいに、声を上げて泣いた。
お嬢様は、私より小さい身体なのに、温かくて、柔らかくて、優しいぬくもりだった。
従者としてはこんな行動、失格だろうけど、お嬢様が許してくれてるから。
だから、今だけは甘えよう。
泣いて泣いて、たくさん泣いて、泣きやんだ時には、笑えると思うから。
「やっと落ち着いたか」
「すみませんでした……」
「いや、良い。咲夜は抱え込み過ぎるからね」
結局、私が泣きやむまでお嬢様は抱き締めてくれていた。
「それより、何だったの一体? 鬼より怖い形相して入って来たかと思えば、突然泣き出すし」
「私、そんな顔してたんですか……」
笑えて、無かったのか。
とりあえず、お嬢様に全てを話す。
お嬢様は、全てを聞き終えた時、呆れた顔をしていた。
「あのね、咲夜。美鈴の言うことは、間違っては無いけれど、人には得手不得手がある」
「はい……」
「美鈴は笑顔が得意。咲夜は不得意。それは仕方無いことなの」
「は、い……」
笑顔が苦手か。
ちょっと、ショックだ。
「だけどね、咲夜。貴女の笑顔は綺麗よ」
「え?」
「あぁ、無理矢理作った笑顔じゃなくてね。たまに見せるふわりとした笑顔、あれは凄い綺麗よ。だからね、咲夜」
お嬢様の鋭い、それでいて優しさを帯びた瞳が、しっかりと私を捉える。
「咲夜、貴女が無理矢理笑わないで済むように、これからは私が、咲夜を笑わせてあげる」
「え?」
「それじゃあ、不満かしら?」
不満なわけが、無い。
私何かには、もったいないほどだ。
「いえ、そんなことはありません」
「そう、じゃあこれからも今まで通りでいなさい。私が笑わせてあげるから、ね」
「……はい。ありがとう、ございます」
震える声で、私はそれだけを言った。
あぁ、また泣きそうになる。こんなに涙脆かったかしら。
「まったく、本当に手のかかる」
「すみ、ませ……」
また、ギュッと包まれた。
泣き疲れたのか、眠くなる。
だんだんと遠ざかる意識の中、最後に見たのはお嬢様の小さくて、でも大きい手のひらだった。
「本当に、手のかかる子ね。まるで、一人娘みたい」
結局イメージ伝々はどこ行ったの?って感じです。
レミ咲もいいですが、仮にもイメージってネタで物語を始めたのであれば、イメージについてなんらかの着地点を用意しないといけないと思います。
これじゃあ咲夜さん恐がられたままだし。ぶっちゃけタイトル詐欺とも言えます
このあと、自然な笑顔をするように
なった咲夜さんがメイドたちに
慕われている様子が目に浮かびましたwww
死ぬほどワラタww
気持ちはわかる。笑い慣れない人の無理矢理な笑顔ほど怖いものは無い。