「ねぇねぇ、なんかつまんない」
唐突に姫の口から発せられる言葉。
「は?」
という私の言葉は無視されてしまった。
つまり、こういうこと。面白いものを何か持って参れ、と。
「いやいや、ですから、つまらないと言われましても……」
「あら、私は気が短いのよ?」
会話が成り立たない。でも、いつものこと。
つまり、この流れは続く。面白いものが見つかるまでは。
仕方の無いこと。鈴仙やてゐに何かを持ってきてもらおう。
……あぁ、てゐだと変なものを持ってきそう。やっぱり鈴仙だけに持ってきてもらおう。
いつも本当に唐突だ。
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師匠の言葉が理解できなかった。
寝耳に真珠というか、豚に念仏というか、馬の耳に水というか。あれ、最後はあってる?
「面白いものを探してきなさい。以上」
たったこれだけ。一体どうしろと。
「ちょ、ちょっと師匠! 面白い、って言われましてもっ!」
「さっき言ったことが全てです。さぁ、探してきなさい」
きっぱりと言い切られる。どうすればいいんだろう……。
あれこれ悩んでも仕方ない。人間の里に行けば何かあるだろう。
そんな淡い希望を胸に抱き、里へと向かう。
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人間の里にたどり着く。けれど、めぼしいものは何もない。
食べ物、雑貨。そんなものばかり。
面白い? あいまいすぎてどうしようもない。
私はなんだか眩暈を覚える。ほんと、どうしよう。
することもないので、道行く人々に目をやる。
じろじろと見られるのはこの耳のせい? まぁ、いつものこと。
ぼーっとしていると、当初の目的を忘れてしまいそう。やっぱりのどかだ。平穏だ。
面白いものを探さなくちゃ……。でも、見つからないし……。
ふと、笑い声が聞こえる。そっちへと目をやる。
男の子たちが笑っている。何をして笑っているのだろう。何かを言っている。耳を澄ます。
「ふとんがふっとんだ!」
なるほど、駄洒落。ん、駄洒落?
そうか、これも面白いものだ。ようやく、見つけた…!
私は急いで永遠亭へと向かう。
…その駄洒落で、誰も笑わなかったのにも気付かずに。
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「ししょう! みつけてきましたおもしろいもの!」
「あら、意外と早い。じゃあ、姫の所へ持っていきなさい」
素っ気無く私に言い放つ。
まぁ、つまらない状態の姫に付き合えば、そうなるのも仕方の無いこと、かな。
「わかりました! では、いってまいります!」
私は、姫のところへと向かう。
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鈴仙は何かを見つけてきた。まぁ、これで少しは姫の機嫌が直るでしょう。
もとから期待はしていない。あの子、結構空回りするし……。
でも、何を見つけてきたのだろう。手に何かを持っている様には見えなかった。
まぁ、しばらくはゆっくりと休めそう。
さて、鈴仙はいつまで姫の気を紛らわせてくれるのか。
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「あら、因幡」
永琳と入れ替わりに入ってきたのは因幡。
「何か面白いものでも持ってきたのかしら」
「はい、見つけてまいりました!」
さぁ、一体なにを見つけてきたのかしら。退屈すぎて死にそうだわ。
「では、いきます!」
ものではなくて、言葉? でも、面白いのなら何でもいい。
どきどき。どきどき。
一体何を言ってくれるのかしら。
わくわく。わくわく。
因幡は、息を思いっきり吸って、こう言った。
「アルミ缶の上にあるミカン!」
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案外、というより、かなり早く鈴仙が部屋から出てくる。
一体何があったのか。もしや、前より機嫌を悪くしたんじゃ……。
「ねぇ、鈴仙。……一体何を?」
鈴仙は、涙で潤んだ目でこちらを見る。ああ、失敗したのね。
「ししょうー……。あのですね、駄洒落をですね……」
駄洒落。着眼点はいい。及第点をやりたいぐらい。
でも、この子にそんなセンスはあるのかしら。
早々に部屋から出てきたところを見ると、無いのだと分かるのだけれど。
「一体、何を言ったの? 姫に言った言葉を、そのままここで口にしなさい」
鈴仙はうつむく。一体、どんな駄洒落を言ったの……?
むしろ、ここまで涙目になる駄洒落を、私は聞きたい。
「………っ」
小さすぎる声。何も聞こえない。
「はっきりと、ゆっくりと、丁寧に、聞こえるように。さぁ、もう一度」
「……アルミカンの、上に、ある……みかん」
「は?」
まさに予想GUY。センスがあるない以前に、天才的だったわ、この子。
古典的な駄洒落。幼稚園児でも笑わない。いや、笑えない。
この子、真面目だから……。
余りにも恥ずかしかったのか、泣き出してしまった。
これはこれで可愛いのだけれど、それはまた別の話。
姫の機嫌が、どうなったのか。それだけが大切だ。
「姫は、今、どんな感じなの?」
嗚咽をこらえ、鈴仙は答える。
「それが、ですね。
『Oh...!なんてこと…! So!時を凍らせていたのは貴女だったのね!』とか
『全ての東方を過去にする!』なんて意味不明なことを言いながら不貞寝しちゃいました……」
不貞寝。ああ、起きるまでは平穏。
起きてからのことが怖いから、私は考える事を止めた。
けれど、とりあえず一言だけを口にする。
「鈴仙。貴女、セリフ取られちゃってるわよ」
すみません。名前を見たらこんな台詞を思いだしました。
駄洒落の一発ネタですか。少し話のボリュームが足りなかった気がします。ヤマとオチも弱かったですし。
……じゃなくて。
近年駄洒落をよく口にするようになった人間としては…うどんげの気持ちはよくわかる!
あの冷たい雰囲気がもうね。
それにしてもいい雰囲気。