この文章は厳密に言えば東方SSではなく、絵版のほうにある8672の絵の一シーンです。
本当は掲示板の描き手側のコメント欄に載せるつもりが、予想外に長めになって書き込み限度オーバーになってしまったのでこちらに載せさせて頂きました。
なので、ここから下に進んでいただける方はその点に注意していただけると幸いです。
一秒でも足を出すのが遅かったら前にこけてしまいそうなくらい、上半身を倒す。右腕を全力で前にふり出すと同時に、腰を思い切り振り、左足が床を蹴り飛ばす。
廊下を横に並んで歩く奴らの間を走り割り、声をかけてくる奴になんて気にする暇もなく、僕はただひたすらに屋上目掛けて走っていた。
一瞬だけ左腕についた腕時計を流し見る。
「――」
既に限界ぎりぎりな体に鞭を打って、気持ち足に入れる力を増やす。子供の頃からあまり運動が得意でなく、未だに体育の時間になるとため息が絶えない僕だけど、今はそんな事を言っている場合じゃない。
自分では驚く程に早く流れる景色の先、ようやく階段がある廊下の曲がり角が見えた。
曲がり角を直角ドリフトよろしく曲がり、階段を5段跳びに駆け上がる。
「ああもう――」言っても仕方がないとは分かりつつも、気づけば声に出していた。「どうしてこんな日に限ってぇっ!!」
どうして僕がこんな必死になって走っているか。理由は簡単だ。
先月から付き合い始めた先輩と、「帰りのHRが終わったら屋上で待ち合わせて一緒に帰ろうね」と約束をしていたのだ。
どうしてこんなにも焦らないといけないか。その理由も非常に簡単だ。
帰りのHRが担任の話で長引いた。確かに元々話しを始めると長いことで有名な担任ではあるけれど、ここ一ヶ月程はそんなこともなく、早めに終わってくれていたから、今日だって何の心配もせずに先輩と約束をしたっていうのに――!
「高々体育祭があるからってあんなに張り切らなくってもいいじゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
体育祭だ。大切なことなのでもう一度言う。高々『体育祭』だ。それなのにあの担任は「今年はうちのクラスが全クラストップだうわははははは!」とか言い出して、創意工夫で売り上げも変わるだろう文化祭ならいざしらず、どうやったら体育祭において勝利を物にすることができるかを懇々と1時間も語られてしまった。
お陰で先輩には少し遅れそうと連絡することもできず、今頃は屋上で一人待ちぼうけを食っているに違いない。
それと、こんなにも急いでいる理由は待ち合わせに遅れているからだけじゃない。校舎の外では、雨が降っていた。時期も時期だし、きっと、普段なら何も気にすることはなかっただろう。
だけど、少なくともあの先輩と付き合い始めてから、僕は自分にとっての『普段』を感じる機会がなくなってしまった。
――もうちょいっ。
階段をもう屋上の扉まで一つの階段を上りきるだけ。一歩、二歩、三歩――到着。
扉に手をかける。お願いだから、と先輩の顔を頭に浮かべながら、僕は屋上への扉を開いた。
「先輩……」
こんなにも遅れたというのに、たった一ヶ月で僕の全てとなった先輩は、屋上の真ん中で、約束通り、僕を待っていてくれた。
傘も差さずに。
「先輩っ」
「ん、よー……うやく、来たね」背中を向けたままそういう先輩は、両手を後ろ手に組んで、一歩、二歩、とゆっくり屋上の端へと歩いていく。「もー、結構待ったんだよ?」
先輩が足を止める。僕も走って先輩の傍へと駆け寄る。
「ごめ、えっと、ごめんなさい! 担任の話が長くってそれで」
「ん、そっかそっか。あなたは私より先生の話のほうが大切なわけか。そっかそっかぁ~」
「いや、そんなことあるわけないじゃないですかっ! そりゃ、もちろん約束してたのに何も言う事なくこうして待たせてしまって悪いって思ってますけど、でも、でも」
大きく息を吸う。
「僕は、先輩のためなら死ねますッ!」
普段なら恥ずかしくて絶対に言えないような言葉だけど、冷たい雨に濡れて透けたブラウス越しに見える先輩の肩を見ていると、自分でも気がつけば言葉に出していた。
「上手く言えないですけど、えっと、だから、先輩――」
「……んふふー……」
「え……?」
「うっそだよん」
「え? あ、嘘?」
「うん、う、そ♪ 別に怒ってなんてないよ? でも、少しくらいなら意地悪してもいいかなー? って」
「先輩、でも、そんなに濡れて――」
「んー? 雨、気持ちよかったよ?」
「あ……」
言いながら振り返った先輩に、思わず見とれてしまった。
「ん? 何かついてる?」
「いや、あの……」
言葉が出ない、そんな状況は話には聞いたことがあったけど、まさか自分に訪れるなんて想像もしなかった。
普段は純白色の、天使の羽のようなブラウスは満遍なく濡れて、木目細かな先輩の肌に、まるでタコの吸盤のようにくっ付いている。肩に掛かる程度に伸ばされた髪もやはり所などなく、今は先輩の小さな頬にくっ付いて、その先は口まで伸びている。スカートも、ストッキングも、濡れてないところなんてない。
「んー?」言葉が出てこない僕の顔を、先輩が覗き込んでくる。「ね、私の顔、何か、ついてる?」
吐息が掛かる距離に先輩の顔があって、思わず見てしまった鎖骨部分を流れる雨のしずくに、喉を鳴らした。
「えっと、せん、ぱいあの……」
「んー?」
先輩も分かってやっているんだろうけど、それを指摘する余裕はない。先輩は、戸惑う僕を見て、妖艶に笑った。
「ほーら、言いたいことがあるなら言ってほしいかな?」
本当は掲示板の描き手側のコメント欄に載せるつもりが、予想外に長めになって書き込み限度オーバーになってしまったのでこちらに載せさせて頂きました。
なので、ここから下に進んでいただける方はその点に注意していただけると幸いです。
一秒でも足を出すのが遅かったら前にこけてしまいそうなくらい、上半身を倒す。右腕を全力で前にふり出すと同時に、腰を思い切り振り、左足が床を蹴り飛ばす。
廊下を横に並んで歩く奴らの間を走り割り、声をかけてくる奴になんて気にする暇もなく、僕はただひたすらに屋上目掛けて走っていた。
一瞬だけ左腕についた腕時計を流し見る。
「――」
既に限界ぎりぎりな体に鞭を打って、気持ち足に入れる力を増やす。子供の頃からあまり運動が得意でなく、未だに体育の時間になるとため息が絶えない僕だけど、今はそんな事を言っている場合じゃない。
自分では驚く程に早く流れる景色の先、ようやく階段がある廊下の曲がり角が見えた。
曲がり角を直角ドリフトよろしく曲がり、階段を5段跳びに駆け上がる。
「ああもう――」言っても仕方がないとは分かりつつも、気づけば声に出していた。「どうしてこんな日に限ってぇっ!!」
どうして僕がこんな必死になって走っているか。理由は簡単だ。
先月から付き合い始めた先輩と、「帰りのHRが終わったら屋上で待ち合わせて一緒に帰ろうね」と約束をしていたのだ。
どうしてこんなにも焦らないといけないか。その理由も非常に簡単だ。
帰りのHRが担任の話で長引いた。確かに元々話しを始めると長いことで有名な担任ではあるけれど、ここ一ヶ月程はそんなこともなく、早めに終わってくれていたから、今日だって何の心配もせずに先輩と約束をしたっていうのに――!
「高々体育祭があるからってあんなに張り切らなくってもいいじゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
体育祭だ。大切なことなのでもう一度言う。高々『体育祭』だ。それなのにあの担任は「今年はうちのクラスが全クラストップだうわははははは!」とか言い出して、創意工夫で売り上げも変わるだろう文化祭ならいざしらず、どうやったら体育祭において勝利を物にすることができるかを懇々と1時間も語られてしまった。
お陰で先輩には少し遅れそうと連絡することもできず、今頃は屋上で一人待ちぼうけを食っているに違いない。
それと、こんなにも急いでいる理由は待ち合わせに遅れているからだけじゃない。校舎の外では、雨が降っていた。時期も時期だし、きっと、普段なら何も気にすることはなかっただろう。
だけど、少なくともあの先輩と付き合い始めてから、僕は自分にとっての『普段』を感じる機会がなくなってしまった。
――もうちょいっ。
階段をもう屋上の扉まで一つの階段を上りきるだけ。一歩、二歩、三歩――到着。
扉に手をかける。お願いだから、と先輩の顔を頭に浮かべながら、僕は屋上への扉を開いた。
「先輩……」
こんなにも遅れたというのに、たった一ヶ月で僕の全てとなった先輩は、屋上の真ん中で、約束通り、僕を待っていてくれた。
傘も差さずに。
「先輩っ」
「ん、よー……うやく、来たね」背中を向けたままそういう先輩は、両手を後ろ手に組んで、一歩、二歩、とゆっくり屋上の端へと歩いていく。「もー、結構待ったんだよ?」
先輩が足を止める。僕も走って先輩の傍へと駆け寄る。
「ごめ、えっと、ごめんなさい! 担任の話が長くってそれで」
「ん、そっかそっか。あなたは私より先生の話のほうが大切なわけか。そっかそっかぁ~」
「いや、そんなことあるわけないじゃないですかっ! そりゃ、もちろん約束してたのに何も言う事なくこうして待たせてしまって悪いって思ってますけど、でも、でも」
大きく息を吸う。
「僕は、先輩のためなら死ねますッ!」
普段なら恥ずかしくて絶対に言えないような言葉だけど、冷たい雨に濡れて透けたブラウス越しに見える先輩の肩を見ていると、自分でも気がつけば言葉に出していた。
「上手く言えないですけど、えっと、だから、先輩――」
「……んふふー……」
「え……?」
「うっそだよん」
「え? あ、嘘?」
「うん、う、そ♪ 別に怒ってなんてないよ? でも、少しくらいなら意地悪してもいいかなー? って」
「先輩、でも、そんなに濡れて――」
「んー? 雨、気持ちよかったよ?」
「あ……」
言いながら振り返った先輩に、思わず見とれてしまった。
「ん? 何かついてる?」
「いや、あの……」
言葉が出ない、そんな状況は話には聞いたことがあったけど、まさか自分に訪れるなんて想像もしなかった。
普段は純白色の、天使の羽のようなブラウスは満遍なく濡れて、木目細かな先輩の肌に、まるでタコの吸盤のようにくっ付いている。肩に掛かる程度に伸ばされた髪もやはり所などなく、今は先輩の小さな頬にくっ付いて、その先は口まで伸びている。スカートも、ストッキングも、濡れてないところなんてない。
「んー?」言葉が出てこない僕の顔を、先輩が覗き込んでくる。「ね、私の顔、何か、ついてる?」
吐息が掛かる距離に先輩の顔があって、思わず見てしまった鎖骨部分を流れる雨のしずくに、喉を鳴らした。
「えっと、せん、ぱいあの……」
「んー?」
先輩も分かってやっているんだろうけど、それを指摘する余裕はない。先輩は、戸惑う僕を見て、妖艶に笑った。
「ほーら、言いたいことがあるなら言ってほしいかな?」
だいっ!すきー!
でも主人公のあたふたしている様が何か凄く可愛i(ry