このお話は、『頑張れ小さな女の子』シリーズの番外編となってます。
「霊夢~起きて」
「んぅ……」
もう季節は夏に近い。そのせいか、霊夢は掛布団を蹴飛ばして眠っていた。
そんな霊夢の肩を揺らすのは、ルーミア。ルーミアは既にいつもと同じ、黒を基調とした服に着替えていた。頭には、大きなリボンに見える御札。目は大きく開いており、眠気は無いようだ。
「んー……おはよ、ルーミア」
「うん、おはよう霊夢!」
眠たそうな目を擦りながら、霊夢は大きく伸びをする。
ルーミアと霊夢が一緒に住み始めてから、一週間が経った。
最初は、少し遠慮しがちだったルーミアも、今では随分と伸び伸びしている。緊張感やらが、慣れで薄まったのだろう。
「霊夢、私ね」
「うん~?」
「朝ご飯作ってみた!」
「……寝る」
「ちょっと~! 酷いよ!」
ルーミアの言葉を聞いて、霊夢は再び寝ようとする。しかし、ルーミアが霊夢をポカポカと殴り、それを妨害する。
「えぇい、鬱陶しいわ!」
「にゃー!?」
霊夢の、必殺布団包みが炸裂した。ルーミアは、一瞬で布団に捕まる。数秒後には、昆布巻きのような状態になった。
「ちょっと、苦しいよ」
「あんたが毒物を作るからよ」
「私が作ったのは朝ご飯!」
「あんたが前に作った時、人間が食べれないような物作ってたじゃない」
「前みたいに、ヤモリの尻尾は入れて無いわ」
「本当に?」
「信じてよ~!」
昆布巻き状態のルーミアが、ゴロゴロゴロゴロと暴れ回る。
霊夢は溜め息を吐きながら、ルーミアを布団から解放してやった。
「はぁ……仕方無いわね。持って来なさい。食べてあげる」
「うん!」
満面の笑みで、部屋から走り去る。ルーミアが出てゆく際に開かれた襖。開いた襖の外からは、朝の匂いや風の呟きを感じられた。
「今日も良い天気ねぇ……」
「持って来たよ!」
「あんたは朝から元気ね」
「はい! おにぎりだよ!」
「前と同じで、おにぎりか……」
「さぁ、早く食べて食べて~」
霊夢は、皿に乗っているおにぎりを一つ掴む。見た目、海苔が巻いてある、しっかりとしたおにぎりだ。手に伝わる熱さからは、まだ出来立てだということが分かる。
ゆっくりと、口元へと運ぶ。
「わくわく」
「……」
死にはしないだろう、そう勇気の言葉を心で叫び、一口。
「うそっ!? お、美味しい……」
「でしょ!」
予想に反しての美味しさが、霊夢の口内に伝わる――
「って、んなわけあるかぁ!」
「ほわぁっ!?」
わけがなかった。
「何この食感!? き、気持ち悪い……」
「隠し味に入れた、輝夜から貰った蓬莱の薬がいけなかったのかしら」
「死ぬわ! いや、死ねなくなるわ! 本当に洒落にならないじゃないのよ!」
「冗談だよ~」
ケラケラと笑うルーミア。
笑顔でルーミアを抱き寄せる霊夢。
「締め付け!」
「痛い痛い痛い!」
ルーミアの細い腰に両腕を回し、目一杯の力を入れた。ルーミアは両腕をばたつかせて、目には涙を浮かべている。
「ごめんなさい! 霊夢、ごめん!」
「反省してる?」
「うん……」
「本当はおにぎりに何入れてたの?」
「……怒らない?」
「もちろんよ」
「隠し味に、粉末にした胡瓜と砂糖と胡椒を」
「パワーアップ~」
「痛い痛い痛い!」
締め付けられる力が、先程より強くなった。痛さのあまりに、ルーミアが本格的に喚き始める。
「怒らないって言ったのに!」
「神社では私がルール」
「うそつき霊夢! くたばれいむ!」
「パワーアップ~」
「みゃあ!? ギブギブ!」
結局、ルーミアが解放されたのは数分後だった。
◇◇◇
「ご馳走さまでした」
「でしたー」
霊夢が、ちゃんとした朝食を作った。
ルーミアも美味しそうに食べていた。
二人、両手を合わせてご馳走さまでしたのポーズをする。霊夢が食器を持つと、ルーミアも食器を持つ。立ち上がり、台所へと向かう。
「落とさないようにね、ルーミア」
「分かってるよ。でも……」
「でも?」
「腰が凄く痛くて、フラフラするよ」
「あー、でもあれはあんたが悪い」
「む~いじわるだなぁ」
二人、台所に立つ。運んだ食器を、流し台に一旦置く。河童印の洗剤を使い、泡立てた。その泡を見て、ルーミアが目をきらきら輝かせる。
「あんた、泡好きよねぇ」
そんなルーミアに、霊夢はクスッと笑いながら言う。
「だって、だって楽しくない!?」
「初めてあんたをお風呂に入れた時も、泡で喜んでたわよね」
「うん! 何か面白いじゃない」
「そういうものかしらね」
「そういうものだよ」
水を流す。そして、食器を洗う。
暑い気温の中、冷たい水が心地良い。霊夢の真似をするように、ルーミアも自分の使った食器を洗う。
霊夢がちらりとルーミアを見ると、一生懸命洗っていた。
ルーミアは、霊夢と一緒に住み始めての一週間、ちゃんと使った食器は自分で洗っている。とは言っても、最初はやり方が分からずに、お皿にひびを入れてしまったりした。
だが、霊夢は怒らずに、ルーミアを褒めた。
「よく自分で洗おうとしたわね。偉いじゃない」
そう言って、笑ったのだ。
そして、ルーミアに食器の洗い方を一から教えて、今に至る。
「出来た!」
「よし、ご苦労様。私も終わり」
今では、ルーミアはしっかりと食器を洗えるようになった。その代わり、洗っている最中は集中しているため、珍しく言葉を発さなくなる。
「さて、今日の仕事をするわよ」
「おー!」
おどけた口調の霊夢に、ルーミアも乗っかる。握り拳を頭上に掲げて、叫ぶルーミア。
「今日の仕事は……」
「境内掃いてくるねー」
「こら、先読みするな」
「でも、当たってるでしょ?」
「まぁね。でも生意気」
「理不尽だよ」
「ちょっとおいで、ルーミア」
招き猫のように手招きをする霊夢から、逆に離れるルーミア。
霊夢は小さく舌打ちをする。
「何で逃げるのよ」
「さすがにもう何をされるか分かってるもん」
「何すると思う?」
「デコピン」
「正解! ルーミアは賢いわねぇ」
「え、そう?」
「ルーミアは賢いわ。よし、正解したご褒美あげる!」
「わーい!」
笑顔で霊夢の方へと向かうルーミア。
笑顔でルーミアを待つ霊夢。
そして、ギュッと霊夢に抱き付く。
「ご褒美何?」
「正解したルーミアには、八連デコピンよ」
「わーい……って、ふぁわぅわぁ!?」
見事な八連デコピンをくらい、痛さと驚きに目を大きく見開くルーミア。
「れ、霊夢酷い!」
「ちなみに、ご褒美前のデコピンは四連だったのよ。ご褒美で二倍」
「いらないよ! そんなご褒美!」
頬を膨らませて、外へと向かうルーミア。
「境内掃いてくるからね!」
「はいはい。怒ってるのに、ちゃんと仕事はするのね」
途中で麦藁帽子を被り、膨らませていた頬が緩んで微笑んだ。が、またすぐに頬を膨らませて、出て行った。
「さて、と……私は私の仕事をしましょうかしら」
◇◇◇
「終わったよ~」
「お疲れ様」
麦藁帽子をしていても、やはり暑かったのか、汗をかいて疲れきったルーミアが戻って来た。
「むぅ……私は暑い中頑張ってたのに、霊夢は汗一つかいてない」
「そりゃあ中に居たからね」
「何かずるいなぁ……」
「それがあんたの仕事でしょ。それに私も、ただ室内に居たわけじゃあないのよ」
霊夢は立ち上がり、居間から出て行く。
ルーミアは首を傾げたまま、霊夢が戻って来るのを待つ。
「はい、これ」
「うわぁ!」
戻って来た霊夢が持っていたのは、西瓜だった。いくつかに分割された西瓜が、白い皿の上に並んでいる。綺麗な赤と、特徴的な黒と緑。
ルーミアは、それを見て嬉しそうな声を上げた。
「私はこれを切ってたのよ」
「霊夢最高!」
「調子が良いわねぇ」
笑いながら、霊夢は卓袱台の上にお皿を置く。
ルーミアは落ち着き無く、そわそわとしている。
「それじゃあ」
「いただきます!」
ルーミアはすぐに手に取り、ぱくっと口に含む。まるで小動物のように、震えている。それほど美味しかったのだろう。
霊夢も一つ、手に取り食べる。
「うん、美味しい」
「美味しいねぇ」
二人、幸せそうな笑みを浮かべながら、食べる。
「甘いねぇ」
「そうね」
そう話しながら、西瓜を平らげてゆく。
「あ、そうだ。ルーミア」
「何~?」
「後でお風呂入る? 汗かいたでしょう」
「あー……うん。そうしようかな」
「じゃあ、これ食べ終わったら沸かしておくわ」
「うん、ありがとう~」
こんな二人のやりとりが続いている、新しい生活。
それはもう、日常となっていた。
良いですね~。
俺もこの中にINしたい…
すいません霊夢さん、八連デコピンはやめてください人間には耐え切れn
自分の一週間の疲れが吹き飛んだ位ですからww
思わず前の話も一緒に全部読み直しちまったぜ!
新しい生活が始まっても二人は相変わらずのようですね
楽園の巫女と宵闇の妖怪が織り成すほのぼのまったりなお話を楽しみにしてます
今度も頑張れ小さな女の子!
これからもこのシリーズをちょくちょくこうして続けていただけると嬉しいです
すっごい癒されましたヨ
なんだかんだで仲良いですw
>>2様
ありがとうございます~。
>>3様
四連デコピンでも実際やられると痛いですよw
>>4様
ほんわかほのぼの~。
それは良かったです!
>>5様
相変わらずな二人ですが、これからも頑張る小さな女の子!
>>6様
番外編はしばらく続く予定です。
>>7様
それは良かったですー。
>>8様
仲良いですもんねw
>>9様
楽しんでもらえて良かったです。
>>欠片の屑様
相変わらず、のほほんとした雰囲気を漂わせますw
>>あか。様
本当にお久し振りですw
そして、楽しんでもらえてなによりです!