Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

『妹姫』

2009/06/26 04:10:10
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 射命丸文が、己が発行する新聞にとある小冊子をつけたのは単なる気まぐれだった。



「嘘つけー!」
「ち、違うんです、椛さん!」
「どう考えても発行部数を不貞に上げようとする算段じゃないですか!」

 『もう少しで会えるね』――満面の笑顔の秋穣子が表紙の冊子を手に、犬走椛は文に詰め寄る。

「や、今回の是はご本人穣子さんからの依頼なんですよ!」

 後退しながら、文。言葉に嘘はない。

「ほら、彼女は神様じゃないですか! ですから、オフの時も信仰を集めたいと思われたようで!」
「む……確かに、この写真は同意の上じゃないと撮れないような……」
「でっしょ!? 私利私欲に走った訳ではないんですよ、きみぃ」

 表紙を確認しながら呟く椛に、文は胸を張り応える。
 腰に手を当てふんぞり返っていた。
 きみぃ。

 文の態度に半眼となった椛が、顔をあげ、ついと指を向ける。

「……で。今しがた背に隠した物はなんです?」
「山の裏で発見した外の本――しまったぁ!?」
「『千里先まで見通す程度の能力』!」

 叫ぶ。

 文が声を声と理解した時、既に椛は背に回っていた。

「いやいやいや! 能力関係ないじゃないですか!?」
「うわ……半裸の女性ばっかりですね。イヤらしい……」
「見ないでぇぇぇ、そんな目で私を見ないでぇぇぇ!?」

 蔑む様な視線に、文は頭を抱え耳を塞ぐ。
 ――が、一瞬後、笑顔を浮かべ、立ち直った。
 其処ならば問題はない。其処で目を留めてくれるなら何の支障もない。

「や、あっはっは、その通りでございまして。その先はもっとアレでナニなので、椛さんには刺激が強過ぎるかと」

 頁が繰られた。

「も、椛さんっ!?」

 割と早め。

「変な格好の方ばかりですね。でも、このページは文様の衣装に似てるような。あ、私と同じような服装の方も……」
「あぁ!? 純情な少女に潜む好奇心と言う名の欲望がいかんなく発揮されている!」
「わわわ、と、殿方の半裸まで!?」

 袋とじである。

「さ、流石にそれ以上は教育上見過ごせないわ! 椛、返しなさい!」

 珍しく厳しい言葉を向ける文。彼女は彼女で椛の事を考えていない訳ではない。

 顔色を変え、椛は文へと本を差し出す。

「文様……」
「椛、怒っている訳ではないの。ただ」
「この頁のタイトル、文様の小冊子と同じではないですか」

 椛のこめかみには青筋が浮いていた。

「しまっち!?」
「盗作は、いけませーん!」
「リスペクトであっがぁぁぁ!?」

 吹き飛ばされる文。
 肩で息をする椛。
 冊子の題は――。



 ――『妹姫』。



 以下、本篇。



 結局、件の小冊子は新聞とは別に発行される運びとなった。
 文の思惑はともかく、穣子が信仰を集めたいと思っているのは本心だ。
 邪心を恥じたのか、文は自費で新聞と同じ部数を刷り、流通に乗せた。

 結果。
 増刷に次ぐ増刷。
 今年の秋は豊作が約束された。

 世は正に『妹』一色。ブームは幻想郷全土に広がった。

「なんだかなぁ……。まぁ、穣子さんも満足されていますし、良しとしますか」
「ご立派です、文様。ですが、あの、瞳から流れる液体は何でしょう」
「やっぱ新聞とセットで出すんだったぁぁぁ!」



 けれど、黙って受け入れられなかった者達がいる。
 紅魔館に。廃洋館に。地霊殿に。
 各々妹を持つ姉達であった。



「稔子が可愛いのは認めるわ!」
「だけど、姉さん!」「ええ」
「最もくぁいいのはっ!」



「私の妹よ!!」



 かくして、姉達は動き始める。
 各々の信念の、妹への愛の為に。
 幻想郷を、愛の焔が包んだ――。

 暫くして。
 三者三様の冊子が出来上がる。
 過程には凄まじい弾幕戦も巻き起こされたのだが、詳細は秘す。

 書店に並べられた各々の帯は、以下の様なものであった――。

『お姉様のハートをきゅっとしてドカーン』
『姉(ね)ぇ、私の全てを騒がせて』
『お姉ちゃん、大好きっ』
『あなたは食べてもいい姉?』
『姉さん、夢幻の世界でご奉仕するわ』
『神々よりも、お姉様、貴女が降りてきて――』

 増えている。
 が、誰も気にしない。
 全ての妹は愛らしく、己が妹の好敵手たると姉達は不敵な笑みを浮かべた。

 冊子の関係者に混じって開店前の書店に潜り込んでいた椛と文だけが、首を捻る。

「あの。少なくともルーミアさんに姉妹はいなかったような」
「うん、まぁ、想像してみなよ、椛。手を広げたルーミアに『お姉ちゃん』って言われるのを」
「……。あぁ! な、何故か胸にきゅんきゅんとくるものが!」
「そのときめきは大事なものヨ? あーっしゃっしゃっしゃ!」
「や、其処の鳥。私もですが。お連れの幽香さんが頭を抱えていらっしゃいますよ」
「あれ、どれ買おうか迷ってるんだよ」

 居並ぶ皆も、一様に幽香と同じ苦悩の表情を浮かべている。

 数秒後、更に場内の苦悩は増した。

 何故か。

「くく……だが、一人足りないんじゃぁないか」
「ふふ……ええ、足りないわ。これじゃ片手落ち……」

 騒然とする場に現れる、単色に包まれたフタリの少女。
 一方は黒く、一方は白い。
 彼女達は――。

「え、魔理沙さん……じゃないですよね?」
「! 離れなさい、椛! 彼女達は危険よ!」
「正確には、両手に抱えた本が危険、だね!?」

 椛と鳥二羽の声に反応し顔をあげる幽香が、息をのむ。

「……そう。そう言う事か、リリン達」
「久しぶりね、異世界からのお客さん」
「『妹姫』。この題で私達の妹がないなんて、詐欺よ」

 『誰がリリスの子どもよ』との突っ込みを待っていた幽香が軽く凹む。
 文と椛も再度首を傾げ、ミスティアだけが肩を叩き苦笑する。
 幽香も大分染まってきた。

 ――ともかく。

 微笑み返すフタリが持った冊子の帯には――

『the Grimoire of SisterPrincess お姉ちゃん、最強の魔導書、一緒に読んで』。



 全ての妹が出そろった。
 後は雌雄を決するのみ。
 誰の冊子が最初に売り切れるか。



 オープンセサミ――言葉と共に、扉は開かれた。



 向こうから。



「お姉様……こそこそ何をやっているかと思えば」
「メル姉ぇはともかく、ルナ姉ぇまで……!」
「うーん、よく撮れたね、私からこんなポーズ」

 姉達の顔が引きつる。

「私のエロースは無意識を凌駕するのよ!?」
「ともかくって酷いなぁ」「普段の行いじゃないかしら」
「フラン! 何故貴女が外に出てい、あ、すんません、まじごめんなさい!」

 妹以外も現れる。

「ルーミアに……変な衣装を着せたりアレなポーズをさせたりしたそうだね」

 姉ではないが引きつる鳥。
 別段不健全な事をさせてはいない。
 咥えさせたアイスが溶けかけていたのは不可抗力。

「ね、ね、リグル」
「なに、ルーミア。一緒にミスチーを」
「んーと、衣装はミスチーだけど、ポーズ指定は幽香だよ?」

 わっと顔に手を当て崩れる幽香。

「魔が、魔が差したの……!」
「別の本にも幽香の名前が載ってるんだけど?」
「仕方なかった、仕方なかったのぉ……っ!」

 何がだ。

 姉を前にして、妹が構える。
 彼我の戦力差はどう見ても明らかだ。
 具体的に言うとテンションが違う。滅。

 妹は、各々のスペルカードを取り出した。

「あ、あはは。ねぇ、此処は引きましょう――ひっ」
「そ、そうね。私達、スペルカードなんて知らな――はぅっ」
「……いい機会だから、教えてあげる。魔術書を使わない私の力も、ね――‘グランギニョル座の怪人‘っ」



 魔界神の娘を機に――



「お姉様のっ」
「姉さん達の!」
「お姉ちゃんのっ!」



「ばかー!!!」



 ――妹達は、力を解放したのだった。





                      <幕>






 数日後。

「『かくして、幻想郷を覆った妹ブームは落ち着き、元の鞘に戻ったのであった』、と」

 記事の推敲を終え、文は肩に手を置き、コリを解す。
 こきこきと鳴る躰の悲鳴が、今は少しだけ心地よい。
 手元のカップを掴み、薄らと残っていた珈琲を飲みほす。

「あの、文様」

 傍らでフルーツジュース――秋姉妹からの贈り物である――を飲み、タイミングを見計らっていた椛が、おずおずと切り出した。

「それ、記事にしてもいいんでしょうか」
「いいんじゃない? いもーと様方の怒りも冷めてるだろうし」
「そういうものですか。……そう言えば、結局、あの冊子はどう?」
「全部発行者様方がお買い上げ。その後は賢者に頼んで、はいさようなら」
「賢者って八雲の紫様ですよね? ご自分の蔵書にしていそうな」
「んー、ないと思うわよ。いもーと様方、真剣に頼んでたしね」
「余計に不安なんですが。それなら、廃棄されたんでしょうか」
「無理無理。外の世界にでも流したんじゃない?」

 文の理屈は、椛にはわからなかった。

 気にしない気にしない、と軽く流し、文は立ち上がる。

「じゃあ、私は印刷所に行ってきますね。椛さんもお帰り下さいな」

 とさ。

「あ、はい。……ん、何か落とされましたよ?」
「しまっ、『風を操る程度の能力』ぅぅぅ!」
「『千厘も見極める程度の能力』っ!」
「うっわ、応用!?」

 冊子だった。
 巻き上げられ、頭上に浮く。
 椛の瞳は、正確に刻まれた文字を捉えていた。

「……『……(逢いたい)』」

 無論、表紙には、はにかんだ笑顔の秋静葉。

「文、さまぁ……?」
「ち、違いますよ、椛さん!」
「妹の次は姉ですか。ちょっと安直過ぎませんかぁ……?」

 ちちち。
 指を振る文。
 胸を張り、応える。

「姉ではありません。過去の記事に倣い神様を、しまったぁぁぁ!」
「いい加減に、しなさぁぁぁいっ!!」
「お約束ぅぅぅ!?」





 冊子の題は――『ゴッデス天国』。





                      <了>
・お読み頂き、有難うございます。

・静葉さんの冊子は作中と同じく発行され、信仰を得ました。
・後に続く女神様方の冊子も作中と同じく処理されました。アリス忙しい。
・ド直球のパロディ。懐かしいなぁ、『G‘エンジン』。袋とじには夢と希望が詰まってた。
道標
コメント



1.謳魚削除
>>「妹姫」
そんな名前のアンソロGを買った様な記憶が……。

鞠絵さんに愛を捧げまくりです(永久信仰)

幽香さんとてもぐっじょぶ、大丈夫貴女は正義。

あと静ねぇさんの本まぢ欲しいです。
2.名前が無い程度の能力削除
もうゆうかりんが駄目駄目すぎるw
これがみすちーか……っ
3.名前が無い程度の能力削除
なんかみすちーはいっつも唐突に現れるなぁ
4.名前が無い程度の能力削除
幽香が……幽香が染まっていく。
5.名前が無い程度の能力削除
みすちーがナチュラルに混じってるな。
「妹姫」の販売まだー。
6.名前が無い程度の能力削除
なんという妹オールスター、最高。
というか、とよねぇ(と、よっちゃん)このためにわざわざ月から来たのかww
7.名前が無い程度の能力削除
外の世界に流しただと‥‥‥。
8.名前が無い程度の能力削除
で、その冊子群は、どの壁サークルに委託されてるのか白状しなさいw
9.名前が無い程度の能力削除
ちょ…
その静葉さんの冊子は何処で手に入りますか?
10.名前が無い程度の能力削除
幽香がだんだんと……w