失敗も後悔も、多分人より量は少ないだろう。そういうことから、遠ざかって生きてきた。
でも、質だけは誰よりも勝っていると、これだけは断言できる。
何故なら、私が始まった事自体が失敗で、その瞬間から今日までが後悔なのだから。
私の周りは誰も彼も、そんな考えはやめろ、と真剣な顔で言ってくるけれど。
そう思わないでいい生を望むことくらい、いいなと思うことくらい、少しだけ考えてみるくらい、しないとやっていられない。
そんなもの、私にも、もちろん誰にも、あり得ないってわかっているけれど。
薄暗い部屋、見果てぬ天井を正面に目を覚ます。広い、広い、一人には到底広すぎるシーツの海。
ごろり、と、仰向けを横にすれば、寝床横の机に置いてある鉢植えが見えた。
本当にお節介な、あの紅い髪に貰った花。
貰った時は、めんどくさそうな態度をとってみたけれど、本当は、何か生きているものを育てられるかもしれないのは、とても嬉しくて。
嬉しくて、絶対に壊さないように、何よりも優しく、優しく、大切に育てて、育てると思って。
そうしたら、わずか三日で枯らしてしまった。
私と紅髪のやり取りを知らない、銀髪のメイドに話を聞いてみれば、「水のやりすぎですわ」とのこと。
視線を、もう一度天井へ逸らして。
寝転がったまま、考える。
どうしてこうも、私のすることっていうのは上手くいかない。
生まれた時からそうで、そういう日々が繋がって、ここまで来て。
もう、いっそ何もかも止めてみたくなる。
そう思ったところで、そんなことが出来るはずもなく。
ただ、そういうことを、そんなもんだと、割り切って、諦められるわけでもなくて。
目を閉じる。
紅髪の門番から貰った花は、ちゃんと無事に大きくなって。
綺麗な花を咲かせたその周りは、それからもっと沢山、貰って、育てて、色とりどりに咲かせた花に囲まれて。
私はその花畑で、久々にいい気分を味わっていた。私の、私が作った、私が生み出せた、花畑だ。
いつまでも、日々がこんな風に続いてくれればいい。
夢だって、気づいていても。
また、今度は目を閉じたまま、頭だけが起き上がる。
音が聞こえる、水が地面を打つ音、それが地下へ響く音。
薄く目を開けて、視線と首を動かして、やたら豪華な柱時計を見やる。
時計は止まっていた。刻まれない時刻はわからない、外の様子も、何もかも。
少しだけ、脳裏をまたいつもの顔が掠めていったけれど。
今は、何時だろうか。
それだけ言葉にして思うと、また目を閉じてしまった。
どうやらまた、朝は繋がって、私の日々も繋がって。
起きて行かなければ、遅刻してしまったら、みんな心配するだろうか。
いいさ。心配させてしまえ、今日は、今日は休む。休日だ。
そんなことより、私は夢の続きを見たいんだ。
何も壊さなくて、失敗しなくて。
望むものを生み出せて、花も枯れなくて。
そんな風に生きられたら、どんなにかいいだろう。
いいでしょう、私はそれを見つけたの。
閉じた瞼の裏側で。
もしかしたら、そろそろ顔を出さなけりゃ、みんな本当に心配し出す頃かしら。
銀のメイドは、花のことを、門番へ話してしまったかもしれない。私の過失なのに、自分のことのように、あの門番は落ち込むんだろう。
図書館から持ち出した本も返していない。続きものの途中だから、その内いつまでも返ってこないのに、変なところ神経質な魔女は怒るだろうか。
何より己の趣味の茶飲みに付き合わない妹を、あの姉がいつまでも放っておいてくれるか。
いいや、私は起きないぞ。休日なんだ、そう決めて――。
離れないのは、頭の中で騒がしいのは。
駄目だ、眠れやしない。
上手くいかないことばかりで、そんな日々が嫌で。
いっそのこと止めてみたら、なおさら酷い一方で。
寝床の上に胡坐をかいて、閉じたままのドアを見つめる。
音が聞こえる、誰かが話し合う声と、近づく足音と。
それは、こんな私でも、誰かの朝を繋いでいるということだろうか。
破壊も、失敗も全部切り離して生きられるなんて、雨の降らない日なんて、そんなことも、そんな日もないのだ。
もう、話声と、足音はすぐそこ、ドアが破れるんじゃないかというほどのノックと共に。
「妹様、そろそろ起きていただかないと。 いつまでも作り終えた食事の時間を止めておくわけにもいきませんので」
「フランドール様、すいませんでした、ちゃんと育て方を伝えなかった私のせいです……今度は初心者にも育てやすいので、私もちゃんと教えますから、ね?」
「ちょっと! まさか史記の列伝だけランダムに抜き出して持っていったまま返さないなんてレベルの高い嫌がらせを受けるとは思わなかったわ! 大体、いつもいつも……」
溜息をついて。
遅刻でもいいから、出て行くべきか。
もしまた、ここに戻ってくるまでに覚えていたら。
「フラン、大体において、姉の誘いを断るなんてことは許さないわよ。 お前がいなけりゃ、茶がつまらないんだ」
また、門番に花を貰おう。時計は、魔女に修理させよう。
気の抜けた笑いと共に、もう一度寝転んで。
「むむ!? 待ちなさい、もしかしたら、ここまで起きてこないってことは、何か起きられない理由があるのかもしれないわ……」
「ありえますわね」
「何と!? それは一体!?」
「何なのパチェ!?」
あと二回寝返りをしたら、試しに起きてみるとしようか。
「そう、あの子の名誉のために、ちょっと婉曲的な表現をすれば……世界地図的な……」
「マジェェェ!? 495歳にもなってぇ!?」
「そ、それは一大事! 早くシーツを洗わなくては!」
「フランドール様、恥ずかしがることはありません! よくあることですよ!」
あと三回寝返りしたら、今度こそ起きてやる。
起きて、全員ぶん殴る。
でも、質だけは誰よりも勝っていると、これだけは断言できる。
何故なら、私が始まった事自体が失敗で、その瞬間から今日までが後悔なのだから。
私の周りは誰も彼も、そんな考えはやめろ、と真剣な顔で言ってくるけれど。
そう思わないでいい生を望むことくらい、いいなと思うことくらい、少しだけ考えてみるくらい、しないとやっていられない。
そんなもの、私にも、もちろん誰にも、あり得ないってわかっているけれど。
薄暗い部屋、見果てぬ天井を正面に目を覚ます。広い、広い、一人には到底広すぎるシーツの海。
ごろり、と、仰向けを横にすれば、寝床横の机に置いてある鉢植えが見えた。
本当にお節介な、あの紅い髪に貰った花。
貰った時は、めんどくさそうな態度をとってみたけれど、本当は、何か生きているものを育てられるかもしれないのは、とても嬉しくて。
嬉しくて、絶対に壊さないように、何よりも優しく、優しく、大切に育てて、育てると思って。
そうしたら、わずか三日で枯らしてしまった。
私と紅髪のやり取りを知らない、銀髪のメイドに話を聞いてみれば、「水のやりすぎですわ」とのこと。
視線を、もう一度天井へ逸らして。
寝転がったまま、考える。
どうしてこうも、私のすることっていうのは上手くいかない。
生まれた時からそうで、そういう日々が繋がって、ここまで来て。
もう、いっそ何もかも止めてみたくなる。
そう思ったところで、そんなことが出来るはずもなく。
ただ、そういうことを、そんなもんだと、割り切って、諦められるわけでもなくて。
目を閉じる。
紅髪の門番から貰った花は、ちゃんと無事に大きくなって。
綺麗な花を咲かせたその周りは、それからもっと沢山、貰って、育てて、色とりどりに咲かせた花に囲まれて。
私はその花畑で、久々にいい気分を味わっていた。私の、私が作った、私が生み出せた、花畑だ。
いつまでも、日々がこんな風に続いてくれればいい。
夢だって、気づいていても。
また、今度は目を閉じたまま、頭だけが起き上がる。
音が聞こえる、水が地面を打つ音、それが地下へ響く音。
薄く目を開けて、視線と首を動かして、やたら豪華な柱時計を見やる。
時計は止まっていた。刻まれない時刻はわからない、外の様子も、何もかも。
少しだけ、脳裏をまたいつもの顔が掠めていったけれど。
今は、何時だろうか。
それだけ言葉にして思うと、また目を閉じてしまった。
どうやらまた、朝は繋がって、私の日々も繋がって。
起きて行かなければ、遅刻してしまったら、みんな心配するだろうか。
いいさ。心配させてしまえ、今日は、今日は休む。休日だ。
そんなことより、私は夢の続きを見たいんだ。
何も壊さなくて、失敗しなくて。
望むものを生み出せて、花も枯れなくて。
そんな風に生きられたら、どんなにかいいだろう。
いいでしょう、私はそれを見つけたの。
閉じた瞼の裏側で。
もしかしたら、そろそろ顔を出さなけりゃ、みんな本当に心配し出す頃かしら。
銀のメイドは、花のことを、門番へ話してしまったかもしれない。私の過失なのに、自分のことのように、あの門番は落ち込むんだろう。
図書館から持ち出した本も返していない。続きものの途中だから、その内いつまでも返ってこないのに、変なところ神経質な魔女は怒るだろうか。
何より己の趣味の茶飲みに付き合わない妹を、あの姉がいつまでも放っておいてくれるか。
いいや、私は起きないぞ。休日なんだ、そう決めて――。
離れないのは、頭の中で騒がしいのは。
駄目だ、眠れやしない。
上手くいかないことばかりで、そんな日々が嫌で。
いっそのこと止めてみたら、なおさら酷い一方で。
寝床の上に胡坐をかいて、閉じたままのドアを見つめる。
音が聞こえる、誰かが話し合う声と、近づく足音と。
それは、こんな私でも、誰かの朝を繋いでいるということだろうか。
破壊も、失敗も全部切り離して生きられるなんて、雨の降らない日なんて、そんなことも、そんな日もないのだ。
もう、話声と、足音はすぐそこ、ドアが破れるんじゃないかというほどのノックと共に。
「妹様、そろそろ起きていただかないと。 いつまでも作り終えた食事の時間を止めておくわけにもいきませんので」
「フランドール様、すいませんでした、ちゃんと育て方を伝えなかった私のせいです……今度は初心者にも育てやすいので、私もちゃんと教えますから、ね?」
「ちょっと! まさか史記の列伝だけランダムに抜き出して持っていったまま返さないなんてレベルの高い嫌がらせを受けるとは思わなかったわ! 大体、いつもいつも……」
溜息をついて。
遅刻でもいいから、出て行くべきか。
もしまた、ここに戻ってくるまでに覚えていたら。
「フラン、大体において、姉の誘いを断るなんてことは許さないわよ。 お前がいなけりゃ、茶がつまらないんだ」
また、門番に花を貰おう。時計は、魔女に修理させよう。
気の抜けた笑いと共に、もう一度寝転んで。
「むむ!? 待ちなさい、もしかしたら、ここまで起きてこないってことは、何か起きられない理由があるのかもしれないわ……」
「ありえますわね」
「何と!? それは一体!?」
「何なのパチェ!?」
あと二回寝返りをしたら、試しに起きてみるとしようか。
「そう、あの子の名誉のために、ちょっと婉曲的な表現をすれば……世界地図的な……」
「マジェェェ!? 495歳にもなってぇ!?」
「そ、それは一大事! 早くシーツを洗わなくては!」
「フランドール様、恥ずかしがることはありません! よくあることですよ!」
あと三回寝返りしたら、今度こそ起きてやる。
起きて、全員ぶん殴る。
たしかにフランちゃんを思いながら聴いてると紙芝居ちっくなPVが見えた気がしました。
誰か描いてくれませんかね。