Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

三人目の貴女へ

2009/06/21 13:49:23
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縁側で霊夢が茶を飲む。
参拝客のいない神社で、そこの管理人たる巫女がする仕事などほとんどありはしない。いつか来るかも知れぬ来客のために掃除をしておいて、適当に雑草を抜いておいて、せいぜいその程度しかすることはない。残る時間はすべて霊夢のための霊夢の時間となるわけだが、別段外出することのない彼女はそのすべてを縁側にて消費するのだった。
そんな神社には若干一名の人間がよく訪れる。今日もまた遠くの空からそいつがやってくるのが見えたので、また暇人が来たわねとつぶやきながら霊夢は部屋の奥に消える。

「霊夢、また来たぜ」

台所からお茶を新しく淹れ直し、来客分の湯飲みを盆に載せて戻ってきてみれば、黒白の魔法使いは縁側においていた煎餅を勝手に食べていたところだった。
その盗人に湯飲みを差し出す。

「暇人め」

「よぅ、暇人1号」

こちらの嫌味に嫌味で返してくる暇人2号は湯飲みを受け取り、さらに煎餅を一つ。実際のところ魔理沙は趣味と実益を兼ねたキノコ・魔法の研究でそこそこには忙しいのだが、仕事と言うわけではないので暇人には違いないのだった。もっとも、仕事であるはずの霧雨魔法店のほうも依頼がこないくせに客を集めようともしないので仕事熱心とはとはいえない。
そんな暇人二人は並んで縁側に座り、茶をすする。

「異変待ち?」

「そんなところだ。が、異変以外の奴が来そうだな」

魔理沙以上の速度で飛来してくる何かを目に留め、霊夢は座ったばかりの身を再び立たせてやれやれと台所に戻っていくのだった。めんどくさがりの割にはそういうところに気を回す霊夢の後姿を見て、魔理沙はだた苦笑して見送るのだった。
そんな元最速の元に現最速がやってきた。
風が吹き抜ける。

「毎度お馴染み清く正しい射命丸ですよ~、おやおや黒白もいましたか」

「新聞勧誘はお断りだぜ」

「そう言わずに購読してくださいよ。ホットなネタをどこよりも早くお届けに参りますから」

黒白天狗が黒白魔法使いの横に座る。取材の際は片手にカメラとペン、片手にネタ帳を広げてくるがどうやら今日はその方面の用事ではないらしい。

「居座る気満々ね。どうせ今日は新聞持ってきてないんでしょうが」

文に横から湯飲みを差し出した後、霊夢は魔理沙を挟んで座った。

「異変かなにかあった?」

「異変に飢えてるなら私が直々に起こしてあげても良いですよ。適当に」

「迷惑だから是非ともやめれ」

あるとするなら異変の話だろうと思い尋ねたがそれも違ったようで、霊夢はあからさまに嫌そうな顔を文に向ける。妖怪退治の好きな霊夢も、結局のところめんどいのは嫌いなのであった。
黒白や紅白が聞き出せばゴシップネタの10個や20個くらい胸の内に秘めているだろうが、文は黙って湯飲みを傾ける。

「うん、やはり自分で家で淹れるよりおいしいですね。やはり茶葉ですか?湯加減ですか?」

「愛だぜ」

「私の愛を全身で受けてくれるのかしら?」

「私の恋心も受け取ってくれ」

ゆっくりとスペルカードを取り出した霊夢に対し、魔理沙も自身のスペルカードを掲げてみせる。

「主役二人の熱き戦いですか、これは思わぬ収穫です。さぁ私のことなど気にせずド派手にやっちゃってください」

自分に被害さえこなければ絶好のネタ。文は早速愛用のデジカメを取り出してシャッターチャンスはいつかと構えた。無論この二人が今こんなところで戦うわけもなく、そんなことは文も承知の上なので好き勝手に言葉を飛ばす。暇と言う時間を作って暇を潰しているだけ、じゃれあいの一つだ。
そんな暇潰し会場にさらに来訪者。

「面白そうね。私も混ぜてもらえるかしら?」

頭上から声がしたので3人が見上げればいつのまにやら、そこには四季のフラワーマスターが枯れない花を咲かせて屋根に座っていた。

「いつからいたのよあんた」

「そこの天狗が来た頃かしらね」

優雅に身を浮かせ、幽香は地面に降り立った。また面倒なのが来たなと表情を隠すこともしない霊夢。
花が舞う。

「ここのぐぅたら巫女は、やってきた客に茶の一つも出せないのかしら」

「ウチが欲しいのは参拝客よ。3人まとめてきてくれれば手間もないのに、協調性を持ちなさいよあんた達」

その協調性を一番持たない巫女は、文句を言いながらも三度台所に向かう。それはもう、かったるいわねこのやろうオーラが目に見えるのではと言うほどに全身から吹き出していて、これ以上素敵な巫女の機嫌を損ねるようなことをしたらそいつはタダではすまないだろう。
普通の魔法使いもそのあたりのサジ加減は心得たもの。霊夢が引っ込んだ後にやってきた来客のことについて、黙っておいてからかうようなことはしなかった。

「なら心優しい魔理沙様が、それ以上霊夢の手間が増えないようありがたい言葉を聞かせてあげよう。もう一人分追加、お茶請けはドックフードだ」

時を止めてここまでやってきていた紅魔館の忠犬を見つめ、親友に優しい言葉をかけてやる魔理沙。
その忠犬こと完全で瀟洒なメイドは片手になにやら包みを、もう片手にナイフを手にして、

「新しい紅茶のブレンドを試すのに大量の血が必要なのだけれど、いいところにいい材料があって助かったわ」

「あいにく私は和食派でね。洋食派のお嬢様方のお口には合わないと思うぜ?だからとりあえずナイフを下ろそうか」

本格的に身の危険を感じた魔理沙は咲夜をなだめようとするがメイド長は微笑を返すだけ。ただし、目は笑っていない。その視線より鋭利なナイフが飛んでくるのを幻視し、魔理沙は親友に助けを求めようと霊夢の消えた先に顔を向ければそこに追加の2人分の湯飲みを持った霊夢が戻ってくるところだった。

「うちには紅茶はないわ。白湯にする?」

「緑茶をよこしなさい。それとこれ、お嬢様から」

咲夜は手にしていた包みを霊夢に渡し、自身は縁側の隅に腰掛けた。お嬢様一筋の彼女がここに来たのはもちろんレミリアからの依頼があったからだが、ついでに自身の息抜きをするのが真の目的らしい。
霊夢も咲夜・幽香と並んで5人の真ん中に座る。霊夢が包みを広げてみると、中には洋物の焼き菓子がいっぱいに詰められていた。

「おいしそうだけど緑茶に合うかしらね」

「そう思うなら自分の飲み物を白湯にしたら?きっと良い組み合わせだから」

咲夜もきっちり嫌味を返して緑茶を一口。
また、ゆっくりと風が吹く。
盗賊魔法使いがさっそく包みの中身に手を出す。
幽香はと言うといたずらに向日葵を咲かせては花びらを風に乗せて楽しんでいた。そこに文が風を操って花びらたちを舞わせる。それ自身が生きているかのように一枚一枚別の動きを見せることすらしてみせ、幽香はその舞台にさらに芸人を増やして華やかに飾っていく。
その様子をぼけっと眺めていた霊夢だったが、ふと何かを思い出したようにため息をついた。
普段からよくため息と悪態をつく巫女だが、今のように哀愁を漂わせることはあまりない。そんないつもは見られない霊夢の様子を咲夜は目に留める。

「どうかしたの?」

「過ぎた話よ」

霊夢は一言、それだけを返す。
過ぎた話。それを知ってどうすることもないのだから、わざわざ咲夜に話すこともないと霊夢は黙る。

「あいつか?」

霊夢と同じものを見ていた魔理沙もまた同じことを思ったのだろう。
今の今まで記憶の隅っこに追いやっていて忘れてしまっていたのだから思い出したというべきか。

「まぁね」

魔理沙もまた彼女のことは知っているので隠すことはない。しかしそれきり言葉を紡ぐこともせず、上映中の舞踏会を紅白と白黒は黙って眺める。
そして魔理沙の言う『あいつ』のことを思う。魔理沙もまた『あいつ』を思う。
彼女は誰に会うこともなくただどこかに行ってしまった。だから誰も彼女のことを知らないし、この先もずっと知ることはないだろう。別の形で会うことがあったとしても気づくこともないはずだ。
紫も、映姫も、天子も。
魅魔も、アリスも、神綺も。
誰も彼女のことを知らない。
彼女はUNKNOWN。
外の世界で、誰からも忘れ去られたものは幻想郷に届く。
そこで私たちは出会い、それぞれの頭に、心にその記憶を残す。
なら、その幻想郷でも日の目を見ることのないものはどこへ向かったのか。
答えは誰も知らない。

「誰のことです?」

気になったのだろう。風を弄るのを止めて文が尋ねる。

「聞きたい?」

「私も知らない相手みたいだし、知りたいわね」

幽香も興味を持ったのか。以前から霊夢たちと知り合いである幽香ですら知らない人物がいるとなれば当然か。咲夜も口には出さないまでも耳を傾け、霊夢の言葉を待つ。
彼女について霊夢と魔理沙だけは知っている。だがこの二人も知っていることは唯の一つしかないし、その一つでさえそれ自体に何の意味も持たない。
だから忘れていいこと。この二人が彼女をこのまま記憶の底に沈めてしまっても何か問題があるわけでもない。
しかし二人は無意識のさらに奥底でそれを悟っていた。
決して忘れてはならないことだと。
それは何故か。
幻想郷、もしくはそこに住む誰かにとって何か特別な存在だったのか。
幻想郷とそこに住む者すべてにとっての特別だったのか。
何もわからない。彼女は霊夢たちに何の答えももたらしてはくれない。さりとて悩むほどの価値があるわけでもなく、今のところ彼女はそれだけの存在でしかない。

「あいつという個がどこかにいるのか細切れになって幻想郷に漂っているのか。それすら私にもわからないけど」

彼女という「個」が存在したことを証明するものは何もない。霊夢と魔理沙は彼女に会ったが、記憶の中でしかそれを証明できない。
彼女は「死んだ」のだろう。いや、最初から生まれてすらいないのかもしれない。
たとえこの先同姓同名の、姿形もまったく同じ彼女が目の前に現れたとしてもそれは彼女自身ではない。

「あんたたちにも伝えておくわ。あいつの名前を」

だからこそ、今伝えておく。
何の意味もないその名を。
この3人なら、その名の重さがわかるはずだから。
幽香はまた花を咲かせて楽しんでいる。今度は向日葵ではない別の花、ネリネと紫のアネモネを。
まだ見ぬ彼女への贈り物か。
彼女はここにはいない。どこにもいない。
いつかどこかで会うにせよ一生会うこともないにせよ、名を告げる必要性はない。個を持たない彼女はその程度の存在でしかない。
けれどこのまま人知れず彼女を死なせてしまってはいけない。誰かの心に残るのなら彼女は死なない。
どのような形であれ彼女が今も幻想郷で生きていることを、私たちは知らなければならない。

「名は」

舞い上がる花びらを見つめ、霊夢と魔理沙が同時に口を開く。
花を受けた幽香、風を受けた文、3人目を受けた咲夜へとその名を伝える為に。
霊夢と魔理沙がの名を口にした。
彼女の名は――――



 
『3人目の主人公』となるはずだった者。名は「冴月麟」。「さつきりん」が有力な読み候補。

「冴月麟」は無理な仕様として切り取った設定のうち、ZUN氏が消し忘れた(と思われる)紅魔郷exeの中でその名のみ存在するキャラ。彼女のことはZUN氏と、デバックプレイで会ったかもしれない紅魔郷出演の彼女達しか知りません。
彼女がいなくなったからこそ「花」として幽香が復活し、「風」の文ができたのかもしれません。

旧作からの移動の際に設定もろもろは一掃、キャラもリセットがかけられました。
となれば、今では名だけとなってしまった「冴月麟」は幽香・魅魔の代替として作られたキャラだったのではないでしょうか。オーソドックスなステの霊夢、高速の魔理沙、そして恐らくは低速もしくは咲夜系設定の「冴月麟」。
咲夜はだいぶ前から自機として使用することをZUN氏は考えていたらしいので、彼女がこのポジションということはないと思いますが、「月」というあたりその説も捨てがたいです。なにせ情報が名前と「花符」「風符」しかありませんから考察の進めようがないのでなんとも・・・・。
彼女とおぼしき1枚絵では手に楽器を持っているとのことですし、永夜沙まで一連の流れだったことを考えると花自機のリリカあたりとコンビを組んだのかも。

U.N.オーエン(ユナ・ナンシィ・オーエン)はフランではないのでしょうが、U.N.オーエン(アンノウン)もまたフランではなく、彼女なんでしょう。
「冴月麟」は今の幻想郷にはいませんが、いつかどこかの作品で「冴月麟」が登場するかもしれません。
暇人3号として霊夢・魔理沙とともにお茶を飲んでいたのかもしれなかった「冴月麟」・・・・・・彼女はどんな人物だったんでしょうね。
水崎
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
旧作設定はリセットしたが全く繋がりが無いわけではない
とは神主の言で、非常に曖昧なんだよね
妖々夢での霊夢とアリスの会話も旧作で会ったことを揶揄しているし
神主自身が同一人物であると言っていますし
旧作設定が完全に一掃されたわけでは無いのでしょう

仮に冴月燐が自機として出ていた場合は妖々夢での自機は4機になっていたのだろうか
それとも一作だけで消えてしまうキャラだったのか…
永夜抄に自機として出るためには妖怪との繋がりが必要不可欠
妖々夢4面にプリズムリバーが出ていますからリリカと組んで出ていても不思議じゃないですね