☆注意点 輝夜と妹紅が結婚してます☆
☆もう、シリーズ物ですと宣言してしまった方が楽かもしれない罠☆
☆それでもよろしければ☆
「お祭りに行きましょう」
「やだ」
返事は簡潔に分かり易く、妹紅はたった二文字で拒絶の意志を示す。
ここは迷いの竹林近くに建つ妹紅の家、すでに妹紅一人の家では無くなっているのだが。
もう一人の住人である輝夜は、突如お気に入りの公園に出来たセンスの欠片もないオブジェを見るような目で妹紅を見つめる。
ここは、嫌そうな顔をしながらも乗ってくる所でしょう。
輝夜の目つきが、暗にそう告げていた。
「ここは、嫌そうな顔をしながらも乗ってくる所でしょう」
「言うのかよ!?」
あまり自制心とは縁のない暮らしをしてきた姫様に、我慢とか忍耐とかいう言葉は通用しない。
もっとも、そんな我儘姫様と暮らしている妹紅も、一筋縄ではいかないもので。
「ったく、そんなに祭に行きたきゃ薬師や兎達と行ってくればいいだろ」
と、つれない返事。
輝夜は腰に手を当てて、休日のお父さんのように寝転がる妹紅を叱りつける。
「それじゃ意味がないのよ。私が最初に言った言葉を忘れたの?」
「あー『貴女は、誰? 道に迷ったの?』だったっけか」
妹紅の返答に、一瞬だけ輝夜の動きが止まる。僅かに震える輝夜の唇から、動揺を含んだ音が漏れる。
「それは、私が貴女に初めて出会ったときの台詞ね。……何故、そんなことを覚えているの?」
「どこにお前を憎むためのネタが転がってるか解らないだろ。刻み込まれてるんだよ、不本意ながら」
妹紅は座布団を枕にしながら、ぶっきらぼうに答える。
なぜだか輝夜は、自分の体温が上昇するのを感じた。しかしそれも一時のこと、すぐに精神を建て直し、話を戻す努力をする。
「そうじゃないわ。私は『お祭りに行きましょう』と言ったのよ」
「ああ、さっきの話か。だから薬師や兎達と……」
「永琳やイナバ達は、一緒に行ってはくれないわ」
繰り返されそうだった妹紅の言葉は、輝夜の意外な一言に遮られた。
「へ? なんでだ? あいつら何か、別の用事でもあるのか?」
「いいえ。でもきっとそうなの。永琳は私の従者で、イナバ達はペットだもの」
そんなの、理由にならないだろ。
そう言おうとして。
「永琳もイナバ達も『連れて行って』はくれるかもしれないけれど、『一緒に行って』はくれないわ」
「そ」の口の形をしたまま、妹紅が固まる。
そこから、一番無駄のない動きで輝夜に問う。
「それは、違うものなのか?」
「ええ、私にとっては」
千年以上昔の会話を互いに覚えている。その、恥ずかしくなるような事実には気づかなかった振りをした。
※
※
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「よう! 今日は嫁さんも一緒なんだな」
「ほっとけ!」
りんご飴を売る屋台の店主と軽快にやり合う。
顔なじみなのだろう、すまんすまんと謝る店主から渡された売り物を両手に持って、輝夜の元に戻ってくる。
「ほら」
「……?」
輝夜は、差し出されたりんご飴を不思議そうに見つめる。
「なんだよ、いらないのか?」
「これは、何?」
輝夜から放たれた言葉に若干の目眩すら感じながら、妹紅は現状を把握する。
世間知らずのお姫様は、どうやらりんご飴を知らないらしい。
「りんご飴。お菓子というか、食べ物だよ」
こうやって食べるんだ、と妹紅が実践してみせる。
しばらくそんな妹紅を興味深そうに見ていた輝夜は、意を決して手にしたりんご飴を口に運ぶ。ぺろり。
「甘い」
「そりゃそうだろ、りんご飴ってのは甘いんだ」
驚きに目を見開いた輝夜へと妹紅が言う。
「妹紅は、きっとたくさんの『当たり前』を知っているのね」
「ずっと引きこもってたお前よりはな。大体、お前がもうちょっと活動的なら、探すのにも苦労せずに済んだんだ」
「月の追っ手に怯えて暮らす日々だったもの。苦労してくれて嬉しいわ」
「糖分が脳に回りすぎたか。かち割って洗浄してやるから頭をこっちに出せ」
「出来るものならやってみなさい」
きゃいきゃいと駆け回るふたりに、そっと道を空ける通行人達。その歩調が、むず痒さのために速くなるのも仕方ない事であった。
※
※
※
人混みを抜けた先の広場に見知った顔を発見する。
困惑と思案を貼り付けた顔に違和感を覚えながら、ふたりは声を掛けるべく近づいていく。
「よう、こんなところで会うなんて珍しいな」
「え、あ、妹紅さん」
声を掛けられた少女──魂魄 妖夢は、ほっとした表情をする。
「どうした、迷子にでもなったのか?」
言ってから、妹紅と輝夜は顔を見合わせて笑う。
「子供じゃありません」
ふて腐れたように返す妖夢。それを見てさらにふたりの笑いが大きくなる。
その昔、どこかで交わしたやりとりだった。
それから妖夢に詳しく話を聞けば、どうやら主に祭で見せ物をしてくるように命じられたということで。
幽々子の気まぐれはいつものことであったし、大抵の無茶は気合いと努力で乗り越えてきた妖夢である。
今回も、演目を考えて人里までやってきたはいいものの、どうにも恥ずかしさが先に立って踏ん切りがつかずにいるらしい。
「なんだ、そんなことか」
「そんなことってなんですか! これでも結構真剣に悩んでるんですよ!?」
「分かってるよ。でもさ、割と簡単に解決できそうな悩みだったから、つい、ね」
言うと、妹紅は大きく息を吸い込んで。
「さあさあ、よってらっしゃい見てらっしゃい! 白玉楼庭師兼剣術指南役の剣技の冴え、見ずに帰るのはもったいない逸品だよ!」
妹紅はパンパンと手を打ち鳴らし、道行く人々にアピールする。何事かと振り返る通行人たち。
そこで妖夢が慌てて止める。
「ちょ、ちょっと待って下さい、わ、わ、私、まだ心の準備が……」
「こういうのは開き直ったもん勝ちなんだよ。どうせ一人で悩んでたって、踏ん切りなんか付かないさ。だったら私のせいにして始めちゃえばいい」
説得力があるんだかないんだか分からない理屈をこねる妹紅。
それに輝夜も同調する。
「そうね。私以外の存在が妹紅を恨むのは歓迎しないけれど、私も貴女の剣技を見てみたいわ」
ついでに歪んだ独占欲を発揮する。
妖夢は、しばし考え込む仕草をしてから。
「……はい。もう、戻れませんよね」
微妙に後ろ向きな返事をする。しかし決意は固まったようだった。
かくて、妖夢のお披露目が始まった。
輝夜は受け取った桜色の紙を手に、上空へと飛ぶ。
「では、行きます!」
妖夢が大地を蹴ると同時に、輝夜は紙を手放した。
「一枚が二枚」
しゃらん、と鍔鳴りが聞こえたかと思うと、舞い降りてくる紙が綺麗に二分割される。
「二枚が四枚」
妖夢が声を発し、腕を閃かせるたびに紙は細かく、小さくなっていく。
見物人たちは、その神秘的とも言える光景に言葉を失っていた。
「四枚が八枚、八枚が十六枚……」
空を駆ける速度が上昇する。夜空に亀裂を作らんばかりの一閃は、次々と銀色の軌跡を描いて人々を魅了する。
そんな光がはたと途切れる。
いつの間にか妖夢が地面にかがみ込んで、納めた刀に手を掛けながら大きく力を溜めている。
「千と二十四!」
言葉と共に飛び上がった妖夢は、これまで以上の動きで刀を走らせる。
それと同時に、細かく刻まれた紙が散り、漆黒の空に広がっていく。
はらはらと、風にさらされつつ降り注ぐ桜色の中、妖夢は地面に降り立つと見物人に向かって一礼する。
「西行寺御庭番手製の季節外れな桜吹雪、気に入って頂けたなら幸いです。ありがとうございました」
直後、周囲から拍手と喝采が巻き起こった。
「輝夜!」
妹紅が叫ぶ。
「なにかしら!?」
輝夜が叫び返す。
「いくら何でも」
気遣わしげな様子の妹紅が、世界を一変させる事実を告げる。
「その格好で空を飛ぶのは、無理があったんだって。流石に黒とか引くわ!」
「? 何のこと?」
「下着。見えてるぞ」
直後、周囲からもう一度拍手と喝采が巻き起こった。
※
※
※
「お前、急速落下しながらの蹴りはひどいだろ。私じゃなかったら死んでるぞ」
「なんで死なないのよ」
それはともかく。
妖夢と別れ、祭の喧噪にも慣れてきた頃、またも見知った人影を発見する。
妖怪の賢者と呼ばれる幻想郷屈指の妖怪、八雲 紫が胸の前に何かを抱きかかえながら歩いてくる。
にこにこと、普段のすまし顔とは似ても似つかない表情で楽しげに通りを進む。
しかし、抱きかかえられているモノの正体を知ったとき、ふたりは一刻も早くこの場を去るべきだったと後悔した。抱えられたものが言う。
「……見世物じゃないわよ」
「いや、その、すまん」
妹紅はとっさに謝ってしまう。紫に抱えられた霊夢は、仏頂面を隠そうともせずふたりを睨みつける。
「まあ、ラブラブね」
と、輝夜。
頼むから混ぜっ返すな、相手をするなと妹紅がアイコンタクトを送るも無視される。
「いい加減降ろしなさいよ、もう逃げないから。これじゃ晒し者じゃないの」
「駄目ですわ。きちんと神楽の時間まで捕まえておくように、と上白沢さんにも頼まれましたし」
ぐっと霊夢を抱く腕に力を込める。
「こんなに良い抱き心地なんですもの」
はーなーせー、と真っ赤になって暴れる霊夢。しかし、妖怪と人間の力の差は絶対的で。
拗ねた子供とそれをあやす母親といった体で幸せオーラを振りまきながら去っていく。
「何だ、ありゃ」
「あれもひとつの愛の形ね。他人の気がしないわ」
「そこは、しておけ。頼むから」
そんなやりとりの後、輝夜がせがむように両手を広げる。
「ほら」
「聞きたくないが、聞いてやる。なんのつもりだ?」
「状況把握能力が欠如してるのね、可哀相に。あんなに愉しそうなこと、真似したくなるに決まっているじゃない」
さっさと来なさい、という輝夜の側頭部に、妹紅渾身の回し蹴りが炸裂した。
※
※
※
「首がもげたらどうするのよ」
「むしろ消し飛ばすくらいのつもりで蹴ったんだがな。死ななかったお前が、ちょっと怖いよ」
それはともかく。
夜も更けた現在、ふたりは祭のにぎわいから離れた広場の隅で並んで腰を下ろしていた。
人が持つ熱で埋め尽くされた祭の会場とは違い、そこは静けさと涼しさが同居する場所だった。
「疲れたわ」
「そうか」
それきり、ふたりとも黙り込む。それは心地よい沈黙だった。
他人には伝わらない無言の言葉で。隣にいる存在を当たり前なんだと思って。
なんとなく、ただなんとなく時を過ごしていた。
面と向かって伝え合うなんて、どちらにとってもあり得ないことだし、指摘されても否定するに違いないけれど。
輝夜は、ほんの少しだけ勇気を出して、気持ちの欠片を見せてみる。
「……ありがとう」
「気持ち悪い」
即答。僅かな動きで、視線で、呼吸で。輝夜が何を言い出すのか分かっているとしか思えない即答。
それを自覚してしまったから、妹紅は輝夜の顔が見られなくなった。
「うん、わかってる」
きっと花のような笑顔なのだろう、見られないことが惜しくなるような。
妹紅は代わりに、夜空に咲き始めた大輪の花を見ていた。随分と程度は落ちるが仕方ない。
「また、来年も来ましょうね」
「やなこった」
これも、即答。
途中の紫と霊夢にもニヤついてしまった私はもう手遅れなのでしょうかね。
いや、甘いだけじゃなくてお話内容もテンポ良いし面白いし、うん、実に良いですね。まさに良いですね。
なんて歯痒い二人!!最初の会話覚えてるとか、もう…ね!!
出会いの言葉を覚えてるとか流石すぎる
ゆかれいむで一本書きません?w
困難を二人で乗り越える度に深まる絆。我が儘で素直な輝夜はいち早く憎しみがべつな感情に変わっていることに気付く。
そしてもこうは未だこのもやもやの正体がつかめないでいた……そんなある日の物語。(脳内イメージ)
割烹着の輝夜とか一つの布団で寝る二人とか妄想は尽きない。うん、パーフェクト!!
シリーズ化希望
シリーズ化してしまえばいいと思います
あーもう、ジタバタせざるを得ない!!
妖夢の演技じゃなくて輝夜のパンツしか見ていなかった妹紅に乾杯!!w
胸がぐわぁってなったわ!