◆流れ猫たちが大暴動!? 人里揺るがす猫異変
ある時、幻想郷中に猫が溢れかえる騒ぎがあった。
その数たるや普段の九倍(※推定)にも及び、人間の里では非常猫事態宣言が発令された。
この件では博麗の巫女も出動し、彼女はとりあえず増えた猫は捕まえて鍋にと提案したが、一部猫好きの住人達からの猛反発を受けた為これは却下される。
ただ、この増えすぎた猫達を放っておく訳にもいかず、かといって全て養うほどに猫好きの人もあまりいない。それにしてもこれは外の世界で猫の大量虐殺事件でも起こったのだろうかと皆が頭を悩ませている時、里の名士である稗田阿求さんの一言が救った。
「これは外の猫が流れてきた訳じゃないですよ。同じ猫が増えているだけみたいです」
そう言って、猫の何匹かを指定して、彼女が指摘した部分を確かめていく。
すると驚いた事に、傷や模様、その他の特徴が完全に一致していたのだ。稗田阿求さんは大変に記憶力が良く、普段から猫に接する機会も多かったためこの事に気がついたのだろう。この情報が巫女に伝わったと同時に、彼女は「それなら心当たりがあるわ。勘だけど」と言って飛んでいった。
犯人もやはり猫? その驚愕の動機とは
数時間後、巫女にぶら下げられて連れられてきたのは大妖怪・八雲紫の式神の式神、橙だった。彼女がこの事件の犯人だという。なんでこんなに猫を増やしたのかと言う詰問に対し彼女は、
「私の力を見せつけるため猫を増やせば、猫達がもっと言うことを聞くと思ったの」
と、信じられないような事を言った。補足するならば、彼女は普段から猫たちを統制しようとしていて、その為にはともかく大きな力を示す必要があると考えた。そして手近な猫に式神を貼り付けて、その数を増やしてみたのだという。ただ、いまいち効果が認められなかった為、それを繰り返し最後には増えた猫達が大暴走。猫の里から大量に脱走してしまい、それが人の里に降りてきてしまったという次第である。
この後、保護者である八雲藍さんが現場に駆け付け、術の効果を解き事態を収集された。数が戻った猫たちは無事に猫の里に戻ったようである。それにしても猫の尾が増えるというのはよく聞くが、数そのものが増えるというのは前代未聞である。この橙という式神は、今までそれほど力のない妖怪だと思われていたが、少し考えを改めてもよいかもしれない。尻を叩かれて泣いている彼女を見ながらそう思えた。
文「あれから随分と引っ掻き傷が増えましたね」
橙「なんかその台詞前にも聞いた気がするなぁ……」
文「お気になさらず。で、質問なのですが、どうやって猫を増やしたのでしょう?
少なくとも私が生きていた中では、あんなものは見たことがありません」
橙「ふーん。天狗って思ったより大した事ないんだね」
文「なるほど。今度の記事はいかに式神の式神が駄目で使えない存在かの特集に決定ですね。
それを読んだあなたの主人は、さぞかしお怒りになるでしょう」
橙「あああー! 酷い! やめてよもう。これ以上お尻が腫れたら体がお尻だけになっちゃうじゃない!」
文「お尻だけの式神になり、いやむしろ式紙に降格されて便所に流されたくなければ、さあ、答えるのです」
橙「うう……相変わらず天狗は横暴だぁ……。えーと、実はアレ、外の術なのよ」
文「外の術?」
橙「うん。外の世界では動物の数を自由自在に増やせることができるんだって。
クローン技術……だったかな? その概念を取り入れた式神を貼ったの」
文「ふむ。あれは外の魔法みたいなものでしたか……。
しかし、なんだってそんなものを貴方が?」
橙「私の主人の藍様が教えてくれたの。『我々式神は紫様の道具なのだから、あらゆる知識を瞬時に集め、覚えておかなければならない。外の世界のパソコンなる式神にも負けないようにだ。そうでないと、我々は紫様にいずれ見捨てられ、そちらの式神に役目をとって代わられてしまうだろう。橙にはまだそれだけの力がないから、私がこうして口答で伝えているが……いずれお前にも外の世界の情報収集を任せる時がくるだろう。その時はしっかりお役目を果たせるように今から努力するんだ』って言って色々教えてくれたの。その中の一つにこのクローン技術って話があったの。しっかり覚えたらお魚くれるって言ってたから、頑張って覚えたの」
文「なるほど。ちなみに他にはどんな術を?」
橙「巨大データバンクへのハッキング方法だとかその際に使う効率的なウィルスだとか色々言ってたけど……一つしか覚えられなかったから。でもお魚はもらえたよ」
文「物覚えの悪い式神ですねぇ。まあ、猫だから仕方ないですか」
橙「あー! 猫を馬鹿にするなぁ!」
文「馬鹿になんかしてはいませんよ。ただ、犬ほど忠実でもなく、やる気もなく、自由気ままに人から餌をねだって生活しているだけの猫であり、その猫たちを統率すらできない式神の式神とはいかなるしょぼい存在かを改めて記事にしようか迷っていまして」
橙「ひどい! ちゃんと答えたのに!」
文「ネタとはいくつ確保していても良いものです。で、他には何かありませんか?」
橙「ううー……。え、えーと私の主人の主人……紫様が教えてくれた事だけど。『外の世界では確実に存在しているのに、その存在が疑われる傾向のものがある。自分達に関係ない遠い物事は現実味を帯びなく、それは一つの幻想となる。月の旗。竜の石。宇宙人。それらはつまりこの幻想郷でも扱える範囲であること、起き得る事。貴方達式神は重々承知しておきなさい』って、よくわかんなかったけど、私が覚えたクローン技術もまだ外ではあまり現実味がないだろう、って藍様がその後教えてくれたんだ」
文「ふむ。月の旗はどうか知れませんが、あの竹薮の住人達はどうも宇宙人っぽいですしねぇ。確かに存在している気がします」
橙「ねぇ。ちゃんと話せること話したから、これでもう記事にはしないよね?」
文「何をおっしゃいますか。ようやくこれで記事が纏まりましたし、ちゃんと載せていただきますよ」
橙「ええー!? なんでよ、約束したじゃない!」
文「約束なんてとんでもない。一言も言っていませんよ。貴方の方からべらべらと勝手に喋っただけです。それに外の術をこちらで悪用する猫の事はしっかり社会的に制裁しなければなりません」
橙「悪用なんてしていないもん!」
文「どんな理由であれ、主旨を示されて丁寧に教えて貰っておきながら、それを自分の利己心で使用した。これを社会では悪用と呼びます。ましてや貴方は自身の力不足を棚に上げて猫を統率しようと、安易な方法をよく考えずに使い、結果は猫が里にまっしぐら。社会正義を名乗る天狗記者として、これは見逃すわけにはいかないのです」
文は口ではそう脅していたが、実はそれ程まで酷い記事にするつもりはなかった。
彼女はもうすでに罰を受けている。式神の上司はしっかりとその役目を果たし、それを悪いことだと覚えさせた。
ただ、本人に反省の色があまり見られない事から、似たような事を繰り返すかもしれない。
ならばそれに真っ先に気がついた自分が、今度は役目を担うべきだろう。射命丸は散々に彼女を脅し、コタツから出られなくなるほどにさらなる反省を促した。
幻想郷では長く生きた妖怪が多い。
彼等は先に生きてきた者としての知恵を、見識を使い、それを若い妖怪たちにそれとなく伝えていく事によって、この幻想郷の平和を維持しようとしている。
いつかこの役目を、この頼りない式の妖怪も担うようになるのだろうか。そう思うと、文はその時は是非記事にしてみたいものだと考えるのだった。
橙がかわいいし文も文らしいし、相変わらずのセリフ回しを堪能させていただきました。
ところで猫かわいいですよね猫
まさか橙がクローニングを覚えるとは…
これで頭痛なんか吹っ飛ぶ。
淡々と進むように感じるのに、実は味がある。そんなお話に感じました。
でも、猫可愛いよ猫・・・
後日談の会話含めて面白かったです
有難うございます!
→ところで猫かわいいですよね猫
もぉちろんさぁ! あの丸くなって目を細めてる姿がたまりません……。
>>2様
→全部可愛いから許すます!
可愛いは正義。握手握手。
>>3様
→これは清く正しい射命丸。
あややも正義。握手握手。
>>4様
あわわ、嬉しいです。
→まさか橙がクローニングを覚えるとは…
まだ犬や猫や人のクローンって抵抗感ありますよね。これもまた幻想。
>>喉飴氏
→文きた! これで頭痛なんか吹っ飛ぶ。
頭痛とは……氏は風邪気味でしょうか? どうか体をおいたわり下さい。
そしてこの文は自他共に認めるベストオブアヤヤーの貴方に捧げる……! 良かったらお持ち帰り(ニャ゛ー!
>>てるる氏
なんとか目標には近づけたようです。でももっと精進したい。次は軽くかつ面白く。
→でも、猫可愛いよ猫・・・
猫かわいいですヌコ……
>>7様
読了有難うございます!
→クローニング技術を実行できる橙すげぇw
これぞマジケル☆八雲ぱわー