Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

エクストラな彼女達

2009/06/15 18:40:09
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 闇の中、風見幽香は考える。

 闇とは元始からあり続ける、或いは元始とともに生まれた事象。
 にもかかわらず、今も、そして恐らくこれからもあり続けるモノ。
 揺れる花々の影、仄暗い洞窟、真夜中――闇は何時でも感じられる。

 けれど――闇の中、風見幽香は考える。

 それらは全て嘘り、もしくは眷属。
 どの様な闇であろうと、傍らには光が存在する。感じさせる。
 元始の、真の闇――闇のイデアとも言うべきか――はそうそうあるものではない。

 そう、真の闇の中、風見幽香は考える。

(『能力』は大したものなのよね……)

 大妖と呼ばれる幽香と言えど、今、自身を包むほどの闇を感じた事は、そうない。
 彼女だからこそ落ちついた思考も保たれているが、仮に他の者であれば、妖怪だったとしても恐怖にかられるであろう。
 闇より生じ、闇へと還る。一般にそう称される妖たちにとって、闇とは、生であり死であった。

 パンっ。
 弾幕を弾いた破裂音。
 感じられる妖力だけを頼りに、幽香は容易く、向かい来る弾幕を闇へと還した。

(でも、弾幕は……。『能力』故の単調さ……それか、性格か。後者ね)

 苦笑いを浮かべながら、瞬時に判断を下す。

 評されたのは、彼女の視線の先にいるであろう少女。

「うー……どうして当たらないの! もうっ!」
「さっきから同じ場所から撃ってるじゃないの」
「そーなのかー?」

 宵闇の妖怪、ルーミア。

 闇の向こう、首を傾げている様が想像出来て、幽香は微苦笑のまま続ける。

「そうなのよ。
 加えて、妖気も隠していないからある程度の方向は絞れるし。
 いくつか教えたわよね? もしできるようならやってみなさい。
 あと、弾の流れが綺麗過ぎるわ。もう少しばらけさした方がいいでしょうね」
「そーなのかー!」

 ほんとにわかっているのかしら――闇の中ゆえ、風見幽香は微笑した。



 幽香とルーミアは今、弾幕戦を行っている。
 常日頃、挨拶代わりに交わされる弾幕『ごっこ』ではない。
 強くなる事を望んだルーミアの為の、有り体に言えば模擬戦であった。



「場所を移して……」

 ルーミアが動く。

「妖気を隠して……」

 忠告を受け入れ実行する。
 その様に、幽香は舌を巻く。
 言葉の通り、ルーミアの妖気はかき消えた。

 否。展開する闇と同調させていた。既に、幽香にはルーミアが何処にいるのかわからない。

(簡単にできるものじゃない筈なんだけれど……こうなると少し厄介ね)

 意識を周囲に張り巡らせる。
 闇の中とは言え、対処の仕様はあった。
 弾幕の発射から飛来までのコンマ数秒で弾き落とす。

 汎用性はない。‘最強の妖怪‘風見幽香だからこそできる芸当だ。

(さぁ、きなさい、ルーミア)

 思うと同時。

 闇が震える。

「――闇符!」

 刹那、幽香は跳躍する。
 跳ねる、翔ける、飛ぶ。
 姿も妖気も見えない闇の中、正確に相手の位置を掴んでいた。

 弾幕が発射される寸前に――。

「‘ディマーケイ――」
「こら、ルーミア」
「ぴぎゃっ」

 幽香は微苦笑しながら、ルーミアの額に指を弾いて優しくあてた。




 弾幕戦を終え、幽香はルーミアに反省点を述べる。

「ルーミア。
 弾幕ごっこじゃないんだから、声は出さなくていいのよ?
 それと、弾幕云々じゃなく、貴女はもう少し駆け引きを覚えるべきね。
 例えば、撃ちながら周囲を囲むとか。出来るでしょ。
 ……ルーミア?」
「んぅ、幽香の膝、柔らかい」
「あのね。……いいけど」

 幽香は大木に寄りかかり、ルーミアは膝の上に頭を乗せていた。

 否。乗せさせられていた。

「うー……もっとやってたいのに、眠い……」
「駄目よ。弾幕戦は一日一時間まで」
「お休みの日は追加ぴぎゃ」

 何時だってお休みでしょ――こつん、と頭に拳をあてる。

 そのまま、幽香はルーミアの髪を手で梳く。柔らかく、柔らかい。

「……馴れない力の使い方をしていたから、消耗も激しいようね」
「うぁ、ばれてたのかー。いい方法だと思ったのになぁ」
「悪くはないわ。相手によっては反則的な方法だもの」

 ルーミアが行っていたのは、闇のくりぬき。
 目標を捉える一瞬のみ、自身の視線の先だけ闇を払っていた。
 幽香の言うとおり、人間、或いは妖怪でさえ、気付かないであろう。

 そんな方法を、ルーミアはやってのけていた。

 けれど、首を振る。

「悪いよ。幽香に効かないんじゃ意味がないもん」

 ふるふる。

「……幽香ぁ?」
「る、ルーミア、その、目を閉じて首を振るのは、反則よ?」

 震える声で幽香。
 顎があげられていた。
 首を片手で叩いている。とんとん。

 ルーミアは、小首を傾げた。

「そーなのふぁぁぁ」
「……そうなのよ。ほら、暫く、寝ていなさい」
「んぅ、ふぁ、あふ……うん。ねぇ、ゆうかぁ……」

 せめて口に手を当てなさい――幽香は伝えようか否か、迷う。
 結局、彼女は声を出さなかった。
 彼女の声を聞くために。

 落ちる瞼に抗いもせず、ルーミアは口だけを開く。



「つきあってくれて、ありがと。だいすき」



 そして、遂には口も閉じられ――笑顔のまま、意識を落とした。



「……もう。また、反則」

 呟き、また髪を撫でる。



 ――幽香は知っている。
 ――ルーミアが強くなりたいと願っている理由を。
 ――それは、彼女と彼女が交わした約束。笑顔の為の誓い。



「寝る時は、『お休み』でしょう」

 髪は柔らかく、撫でる手も柔らかい。



 ――幽香は知っている。
 ――ルーミアの言葉は単純で、そのままの意味である事を。
 ――それは、『love』ではなく『like』。けれど、それでも、彼女は。



「ねぇ、ルーミア」

 撫でていた手を口にあてる。
 浮かべる表情を覚られないために。
 もう片方の手は、――向けられていた。



 ――零れた言葉に表情を変えながら。
 ――手に残るルーミアの匂いを感じながら。
 ――脳裏に刻まれた、特別な笑顔を思い出しながら。




 ――彼女は、風見幽香は、花の大妖は、蜜を溢れあっしゃっしゃ!

「蜜って! 幽香ってばエロい!」

 鳥に。
 彼女達の対面、空瓶を拡声器代わりに絶好調な夜雀に。
 ミスティア・ローレライに、その手は向けられていた。

「あの鳥、焼き鳥にしていい? いいわよね? レアじゃなくてウェルダン気味に」
「――うわ、たんま!? 今回に関しては私にも言い分がある! 店の前でいちゃつきやがって!」

 ね!? と、傍らにいるもうヒトリの少女に同意を求める鳥。もとい、ミスティア。

「えーと……確かにちらほらお客さん来てたみたいだし、ミスチーの言い分も強ち外れてはないかなぁ」
「ありがと、リグルー! ほっら、聞いた!? やっぱ私悪くなぁっがぁぁぁ!?」
「でも、セクハラは駄目」

 少女、‘蟲の王‘リグル・ナイトバグは有無を言わさず鳥を沈めた。もう鳥でいいや。

 彼女達は突然現れたのではない。
 言葉通り、幽香とルーミアは夜雀屋台の前方で模擬戦を行っていた。
 営業妨害も甚だしい。

 悪い事したわね――思いつつ、幽香は呟いた。

「リグル、私の分も残しておいて」
「や、もう、のた打ち回ってるんだけど」
「うふ。声を上げられるうちはまだ元気じゃないの」

 目だけが嗤っている。幽香りんまじ外道。

「寝ているから良かったけど、万が一にでもルーミアに聞こえていたら悪影き……何?」

 冷や汗を流しつつ、それでも、リグルはくすりと笑んだ。

「んー……なんとなく、だけどね」

 幽香とルーミアの会話を聞いて。
 幽香のルーミアに対する態度を見ていて。
 幽香がルーミアを想う心を思い、感じて。

 リグルは、悪戯気に、軽やかに、告げる。

「ミスチーに似てきたなぁって」

 幽香は、無表情で、重く、伝える。

「……ねぇ、リグル。
 私達妖怪は肉体的負荷よりも精神的負荷の方が堪える時があるの。
 特に、私の様な長生きの妖怪にとっては致命傷なのよ。つまりね。私を苛めて楽しい?」
「そこまで!?」

 割と本気でリグルはそう思っていた。
 割と本気で幽香はそう返した。

「よりによって、鳥に似てきたなんて……」
「目頭押さえるほどかな……?」

 だってそうしないと零れてしまうから。

「えっと、でもさ、さっき、首を叩いてしたよね? あれってさ、はな」

 幽香は、声が届く前に耳を塞いだ。

「聞こえない聞こえない!
 ――って、しょうがないじゃない!
 ルーミア、ただでさえ可愛いのに、あんな可愛い仕草を見せられたら……ねぇ!?」

 何処かで聞いた事のある同意の求め方だ。

「うん。やっぱり、似てきてる」

 悪意のない宣言に、幽香は震えた。

「リグル、ねぇ、そんなに苛めないで……?」
「そのつもりはなかったんだけど、ふふ」
「え……?」

 何時の間にか傍まで来ていたリグルに、顎を指で絡め捕られる幽香。
 自然と視線は上を向き、直視する。
 蟲の王は、微笑んでいた。

 太陽の光を背に受け、優しいそよ風に髪を揺らされながら、リグルは口を開く。



「幽香。普段の君は綺麗だけど、今の君は可愛いよ。もう少し、苛めてもいい?」



 きゅんっ☆

「だ、駄目よ、リグル! その笑みは反則よ!? 少しだけならいいわ!」
「さっき、語彙が単純化してたよね。是もミスチーっぽい」
「その方面はほんとにぐさっとくるから止めて!?」

 喚く幽香。だが、リグルは構わず、続けた。

「だ、め。――さぁ、もっと可愛い君を、私に見せて」

 きゅきゅんっ☆



 ――じゃねぇよ、と心の内で呟くのは、未だ屋台の床に突っ伏している鳥。

「あー……リグル、スイッチ入っちゃってるなぁ」

 何のスイッチか。ジゴロ。



「そんな君に似合う向日葵が咲いている場所があるんだ。今度、見に行かない?」
「そ、そうね、私の方は一週間後位なら大丈夫よっ!?」
「静葉と穣子に私は何回会えばいいんだろう」
「え……どういう意味?」
「一日千秋」

 きゅん、ぎゅぎゅんっ☆



 ――言ってる場所って幽香の生息地じゃないのかなぁ。
 ――そも、向日葵って咲いて、あー、今咲いてそう。
 ――と言うか、ルーミア良く起きないなぁ。

 などと、様々な思いを胸に折り畳み。

 一般的な評価では『格好いい』リグルと『可愛らしい』幽香に。

 誘う彼女に明確な期日を告げる彼女に、ミスティアは微苦笑を向ける。



「……私の『特別』はなんなのかねぇ」



 なんとはなしに零れた呟きは、未だ続けられる姦しい喧騒に、流された――。





                      <了>
・お読み頂きありがとうございます。

・ルーミア:可愛い幼女 Exルーミア:めっちゃ可愛い幼女。
・リグル:可愛い少女 ExリグルA:王子様 ExリグルB:お姫様。
・幽香:綺麗で優しいいじめっ子なお姉さん Ex幽香:乙女。

・リボン? なにそれ美味しい?
・ルーミアのリボンは美味しそうですが。ルーミアは美味しそうですが。食べちゃいt(闇の中にいる
道標
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
ミスチーの笑い方が大好きです、相変わらずいいなぁコイツラw
2.名前が無い程度の能力削除
相変わらず駄目だなぁ、このみすちー。しかも伝染性だったですか。
おー、こわいこわい
3.名前が無い程度の能力削除
やっぱこのみすちーはいいなぁw

本気で嫌がってるゆうかりんに乾杯
というかリグルがまともに大活躍ってのはほぼ初?
4.名前が無い程度の能力削除
なんかキャラ崩れすぎ
5.名前が無い程度の能力削除
もうドレスは手に入ったかい?
みすちーさんや
6.名前が無い程度の能力削除
あなたの作品は毎度毎度さすが過ぎる。が毎度思っていて言わなかったことを一つだけ。

屋台に床はないと思われ。
7.名前が無い程度の能力削除
ゆうかりんマジ乙女