闇の中、風見幽香は考える。
闇とは元始からあり続ける、或いは元始とともに生まれた事象。
にもかかわらず、今も、そして恐らくこれからもあり続けるモノ。
揺れる花々の影、仄暗い洞窟、真夜中――闇は何時でも感じられる。
けれど――闇の中、風見幽香は考える。
それらは全て嘘り、もしくは眷属。
どの様な闇であろうと、傍らには光が存在する。感じさせる。
元始の、真の闇――闇のイデアとも言うべきか――はそうそうあるものではない。
そう、真の闇の中、風見幽香は考える。
(『能力』は大したものなのよね……)
大妖と呼ばれる幽香と言えど、今、自身を包むほどの闇を感じた事は、そうない。
彼女だからこそ落ちついた思考も保たれているが、仮に他の者であれば、妖怪だったとしても恐怖にかられるであろう。
闇より生じ、闇へと還る。一般にそう称される妖たちにとって、闇とは、生であり死であった。
パンっ。
弾幕を弾いた破裂音。
感じられる妖力だけを頼りに、幽香は容易く、向かい来る弾幕を闇へと還した。
(でも、弾幕は……。『能力』故の単調さ……それか、性格か。後者ね)
苦笑いを浮かべながら、瞬時に判断を下す。
評されたのは、彼女の視線の先にいるであろう少女。
「うー……どうして当たらないの! もうっ!」
「さっきから同じ場所から撃ってるじゃないの」
「そーなのかー?」
宵闇の妖怪、ルーミア。
闇の向こう、首を傾げている様が想像出来て、幽香は微苦笑のまま続ける。
「そうなのよ。
加えて、妖気も隠していないからある程度の方向は絞れるし。
いくつか教えたわよね? もしできるようならやってみなさい。
あと、弾の流れが綺麗過ぎるわ。もう少しばらけさした方がいいでしょうね」
「そーなのかー!」
ほんとにわかっているのかしら――闇の中ゆえ、風見幽香は微笑した。
幽香とルーミアは今、弾幕戦を行っている。
常日頃、挨拶代わりに交わされる弾幕『ごっこ』ではない。
強くなる事を望んだルーミアの為の、有り体に言えば模擬戦であった。
「場所を移して……」
ルーミアが動く。
「妖気を隠して……」
忠告を受け入れ実行する。
その様に、幽香は舌を巻く。
言葉の通り、ルーミアの妖気はかき消えた。
否。展開する闇と同調させていた。既に、幽香にはルーミアが何処にいるのかわからない。
(簡単にできるものじゃない筈なんだけれど……こうなると少し厄介ね)
意識を周囲に張り巡らせる。
闇の中とは言え、対処の仕様はあった。
弾幕の発射から飛来までのコンマ数秒で弾き落とす。
汎用性はない。‘最強の妖怪‘風見幽香だからこそできる芸当だ。
(さぁ、きなさい、ルーミア)
思うと同時。
闇が震える。
「――闇符!」
刹那、幽香は跳躍する。
跳ねる、翔ける、飛ぶ。
姿も妖気も見えない闇の中、正確に相手の位置を掴んでいた。
弾幕が発射される寸前に――。
「‘ディマーケイ――」
「こら、ルーミア」
「ぴぎゃっ」
幽香は微苦笑しながら、ルーミアの額に指を弾いて優しくあてた。
弾幕戦を終え、幽香はルーミアに反省点を述べる。
「ルーミア。
弾幕ごっこじゃないんだから、声は出さなくていいのよ?
それと、弾幕云々じゃなく、貴女はもう少し駆け引きを覚えるべきね。
例えば、撃ちながら周囲を囲むとか。出来るでしょ。
……ルーミア?」
「んぅ、幽香の膝、柔らかい」
「あのね。……いいけど」
幽香は大木に寄りかかり、ルーミアは膝の上に頭を乗せていた。
否。乗せさせられていた。
「うー……もっとやってたいのに、眠い……」
「駄目よ。弾幕戦は一日一時間まで」
「お休みの日は追加ぴぎゃ」
何時だってお休みでしょ――こつん、と頭に拳をあてる。
そのまま、幽香はルーミアの髪を手で梳く。柔らかく、柔らかい。
「……馴れない力の使い方をしていたから、消耗も激しいようね」
「うぁ、ばれてたのかー。いい方法だと思ったのになぁ」
「悪くはないわ。相手によっては反則的な方法だもの」
ルーミアが行っていたのは、闇のくりぬき。
目標を捉える一瞬のみ、自身の視線の先だけ闇を払っていた。
幽香の言うとおり、人間、或いは妖怪でさえ、気付かないであろう。
そんな方法を、ルーミアはやってのけていた。
けれど、首を振る。
「悪いよ。幽香に効かないんじゃ意味がないもん」
ふるふる。
「……幽香ぁ?」
「る、ルーミア、その、目を閉じて首を振るのは、反則よ?」
震える声で幽香。
顎があげられていた。
首を片手で叩いている。とんとん。
ルーミアは、小首を傾げた。
「そーなのふぁぁぁ」
「……そうなのよ。ほら、暫く、寝ていなさい」
「んぅ、ふぁ、あふ……うん。ねぇ、ゆうかぁ……」
せめて口に手を当てなさい――幽香は伝えようか否か、迷う。
結局、彼女は声を出さなかった。
彼女の声を聞くために。
落ちる瞼に抗いもせず、ルーミアは口だけを開く。
「つきあってくれて、ありがと。だいすき」
そして、遂には口も閉じられ――笑顔のまま、意識を落とした。
「……もう。また、反則」
呟き、また髪を撫でる。
――幽香は知っている。
――ルーミアが強くなりたいと願っている理由を。
――それは、彼女と彼女が交わした約束。笑顔の為の誓い。
「寝る時は、『お休み』でしょう」
髪は柔らかく、撫でる手も柔らかい。
――幽香は知っている。
――ルーミアの言葉は単純で、そのままの意味である事を。
――それは、『love』ではなく『like』。けれど、それでも、彼女は。
「ねぇ、ルーミア」
撫でていた手を口にあてる。
浮かべる表情を覚られないために。
もう片方の手は、――向けられていた。
――零れた言葉に表情を変えながら。
――手に残るルーミアの匂いを感じながら。
――脳裏に刻まれた、特別な笑顔を思い出しながら。
――彼女は、風見幽香は、花の大妖は、蜜を溢れあっしゃっしゃ!
「蜜って! 幽香ってばエロい!」
鳥に。
彼女達の対面、空瓶を拡声器代わりに絶好調な夜雀に。
ミスティア・ローレライに、その手は向けられていた。
「あの鳥、焼き鳥にしていい? いいわよね? レアじゃなくてウェルダン気味に」
「――うわ、たんま!? 今回に関しては私にも言い分がある! 店の前でいちゃつきやがって!」
ね!? と、傍らにいるもうヒトリの少女に同意を求める鳥。もとい、ミスティア。
「えーと……確かにちらほらお客さん来てたみたいだし、ミスチーの言い分も強ち外れてはないかなぁ」
「ありがと、リグルー! ほっら、聞いた!? やっぱ私悪くなぁっがぁぁぁ!?」
「でも、セクハラは駄目」
少女、‘蟲の王‘リグル・ナイトバグは有無を言わさず鳥を沈めた。もう鳥でいいや。
彼女達は突然現れたのではない。
言葉通り、幽香とルーミアは夜雀屋台の前方で模擬戦を行っていた。
営業妨害も甚だしい。
悪い事したわね――思いつつ、幽香は呟いた。
「リグル、私の分も残しておいて」
「や、もう、のた打ち回ってるんだけど」
「うふ。声を上げられるうちはまだ元気じゃないの」
目だけが嗤っている。幽香りんまじ外道。
「寝ているから良かったけど、万が一にでもルーミアに聞こえていたら悪影き……何?」
冷や汗を流しつつ、それでも、リグルはくすりと笑んだ。
「んー……なんとなく、だけどね」
幽香とルーミアの会話を聞いて。
幽香のルーミアに対する態度を見ていて。
幽香がルーミアを想う心を思い、感じて。
リグルは、悪戯気に、軽やかに、告げる。
「ミスチーに似てきたなぁって」
幽香は、無表情で、重く、伝える。
「……ねぇ、リグル。
私達妖怪は肉体的負荷よりも精神的負荷の方が堪える時があるの。
特に、私の様な長生きの妖怪にとっては致命傷なのよ。つまりね。私を苛めて楽しい?」
「そこまで!?」
割と本気でリグルはそう思っていた。
割と本気で幽香はそう返した。
「よりによって、鳥に似てきたなんて……」
「目頭押さえるほどかな……?」
だってそうしないと零れてしまうから。
「えっと、でもさ、さっき、首を叩いてしたよね? あれってさ、はな」
幽香は、声が届く前に耳を塞いだ。
「聞こえない聞こえない!
――って、しょうがないじゃない!
ルーミア、ただでさえ可愛いのに、あんな可愛い仕草を見せられたら……ねぇ!?」
何処かで聞いた事のある同意の求め方だ。
「うん。やっぱり、似てきてる」
悪意のない宣言に、幽香は震えた。
「リグル、ねぇ、そんなに苛めないで……?」
「そのつもりはなかったんだけど、ふふ」
「え……?」
何時の間にか傍まで来ていたリグルに、顎を指で絡め捕られる幽香。
自然と視線は上を向き、直視する。
蟲の王は、微笑んでいた。
太陽の光を背に受け、優しいそよ風に髪を揺らされながら、リグルは口を開く。
「幽香。普段の君は綺麗だけど、今の君は可愛いよ。もう少し、苛めてもいい?」
きゅんっ☆
「だ、駄目よ、リグル! その笑みは反則よ!? 少しだけならいいわ!」
「さっき、語彙が単純化してたよね。是もミスチーっぽい」
「その方面はほんとにぐさっとくるから止めて!?」
喚く幽香。だが、リグルは構わず、続けた。
「だ、め。――さぁ、もっと可愛い君を、私に見せて」
きゅきゅんっ☆
――じゃねぇよ、と心の内で呟くのは、未だ屋台の床に突っ伏している鳥。
「あー……リグル、スイッチ入っちゃってるなぁ」
何のスイッチか。ジゴロ。
「そんな君に似合う向日葵が咲いている場所があるんだ。今度、見に行かない?」
「そ、そうね、私の方は一週間後位なら大丈夫よっ!?」
「静葉と穣子に私は何回会えばいいんだろう」
「え……どういう意味?」
「一日千秋」
きゅん、ぎゅぎゅんっ☆
――言ってる場所って幽香の生息地じゃないのかなぁ。
――そも、向日葵って咲いて、あー、今咲いてそう。
――と言うか、ルーミア良く起きないなぁ。
などと、様々な思いを胸に折り畳み。
一般的な評価では『格好いい』リグルと『可愛らしい』幽香に。
誘う彼女に明確な期日を告げる彼女に、ミスティアは微苦笑を向ける。
「……私の『特別』はなんなのかねぇ」
なんとはなしに零れた呟きは、未だ続けられる姦しい喧騒に、流された――。
<了>
闇とは元始からあり続ける、或いは元始とともに生まれた事象。
にもかかわらず、今も、そして恐らくこれからもあり続けるモノ。
揺れる花々の影、仄暗い洞窟、真夜中――闇は何時でも感じられる。
けれど――闇の中、風見幽香は考える。
それらは全て嘘り、もしくは眷属。
どの様な闇であろうと、傍らには光が存在する。感じさせる。
元始の、真の闇――闇のイデアとも言うべきか――はそうそうあるものではない。
そう、真の闇の中、風見幽香は考える。
(『能力』は大したものなのよね……)
大妖と呼ばれる幽香と言えど、今、自身を包むほどの闇を感じた事は、そうない。
彼女だからこそ落ちついた思考も保たれているが、仮に他の者であれば、妖怪だったとしても恐怖にかられるであろう。
闇より生じ、闇へと還る。一般にそう称される妖たちにとって、闇とは、生であり死であった。
パンっ。
弾幕を弾いた破裂音。
感じられる妖力だけを頼りに、幽香は容易く、向かい来る弾幕を闇へと還した。
(でも、弾幕は……。『能力』故の単調さ……それか、性格か。後者ね)
苦笑いを浮かべながら、瞬時に判断を下す。
評されたのは、彼女の視線の先にいるであろう少女。
「うー……どうして当たらないの! もうっ!」
「さっきから同じ場所から撃ってるじゃないの」
「そーなのかー?」
宵闇の妖怪、ルーミア。
闇の向こう、首を傾げている様が想像出来て、幽香は微苦笑のまま続ける。
「そうなのよ。
加えて、妖気も隠していないからある程度の方向は絞れるし。
いくつか教えたわよね? もしできるようならやってみなさい。
あと、弾の流れが綺麗過ぎるわ。もう少しばらけさした方がいいでしょうね」
「そーなのかー!」
ほんとにわかっているのかしら――闇の中ゆえ、風見幽香は微笑した。
幽香とルーミアは今、弾幕戦を行っている。
常日頃、挨拶代わりに交わされる弾幕『ごっこ』ではない。
強くなる事を望んだルーミアの為の、有り体に言えば模擬戦であった。
「場所を移して……」
ルーミアが動く。
「妖気を隠して……」
忠告を受け入れ実行する。
その様に、幽香は舌を巻く。
言葉の通り、ルーミアの妖気はかき消えた。
否。展開する闇と同調させていた。既に、幽香にはルーミアが何処にいるのかわからない。
(簡単にできるものじゃない筈なんだけれど……こうなると少し厄介ね)
意識を周囲に張り巡らせる。
闇の中とは言え、対処の仕様はあった。
弾幕の発射から飛来までのコンマ数秒で弾き落とす。
汎用性はない。‘最強の妖怪‘風見幽香だからこそできる芸当だ。
(さぁ、きなさい、ルーミア)
思うと同時。
闇が震える。
「――闇符!」
刹那、幽香は跳躍する。
跳ねる、翔ける、飛ぶ。
姿も妖気も見えない闇の中、正確に相手の位置を掴んでいた。
弾幕が発射される寸前に――。
「‘ディマーケイ――」
「こら、ルーミア」
「ぴぎゃっ」
幽香は微苦笑しながら、ルーミアの額に指を弾いて優しくあてた。
弾幕戦を終え、幽香はルーミアに反省点を述べる。
「ルーミア。
弾幕ごっこじゃないんだから、声は出さなくていいのよ?
それと、弾幕云々じゃなく、貴女はもう少し駆け引きを覚えるべきね。
例えば、撃ちながら周囲を囲むとか。出来るでしょ。
……ルーミア?」
「んぅ、幽香の膝、柔らかい」
「あのね。……いいけど」
幽香は大木に寄りかかり、ルーミアは膝の上に頭を乗せていた。
否。乗せさせられていた。
「うー……もっとやってたいのに、眠い……」
「駄目よ。弾幕戦は一日一時間まで」
「お休みの日は追加ぴぎゃ」
何時だってお休みでしょ――こつん、と頭に拳をあてる。
そのまま、幽香はルーミアの髪を手で梳く。柔らかく、柔らかい。
「……馴れない力の使い方をしていたから、消耗も激しいようね」
「うぁ、ばれてたのかー。いい方法だと思ったのになぁ」
「悪くはないわ。相手によっては反則的な方法だもの」
ルーミアが行っていたのは、闇のくりぬき。
目標を捉える一瞬のみ、自身の視線の先だけ闇を払っていた。
幽香の言うとおり、人間、或いは妖怪でさえ、気付かないであろう。
そんな方法を、ルーミアはやってのけていた。
けれど、首を振る。
「悪いよ。幽香に効かないんじゃ意味がないもん」
ふるふる。
「……幽香ぁ?」
「る、ルーミア、その、目を閉じて首を振るのは、反則よ?」
震える声で幽香。
顎があげられていた。
首を片手で叩いている。とんとん。
ルーミアは、小首を傾げた。
「そーなのふぁぁぁ」
「……そうなのよ。ほら、暫く、寝ていなさい」
「んぅ、ふぁ、あふ……うん。ねぇ、ゆうかぁ……」
せめて口に手を当てなさい――幽香は伝えようか否か、迷う。
結局、彼女は声を出さなかった。
彼女の声を聞くために。
落ちる瞼に抗いもせず、ルーミアは口だけを開く。
「つきあってくれて、ありがと。だいすき」
そして、遂には口も閉じられ――笑顔のまま、意識を落とした。
「……もう。また、反則」
呟き、また髪を撫でる。
――幽香は知っている。
――ルーミアが強くなりたいと願っている理由を。
――それは、彼女と彼女が交わした約束。笑顔の為の誓い。
「寝る時は、『お休み』でしょう」
髪は柔らかく、撫でる手も柔らかい。
――幽香は知っている。
――ルーミアの言葉は単純で、そのままの意味である事を。
――それは、『love』ではなく『like』。けれど、それでも、彼女は。
「ねぇ、ルーミア」
撫でていた手を口にあてる。
浮かべる表情を覚られないために。
もう片方の手は、――向けられていた。
――零れた言葉に表情を変えながら。
――手に残るルーミアの匂いを感じながら。
――脳裏に刻まれた、特別な笑顔を思い出しながら。
――彼女は、風見幽香は、花の大妖は、蜜を溢れあっしゃっしゃ!
「蜜って! 幽香ってばエロい!」
鳥に。
彼女達の対面、空瓶を拡声器代わりに絶好調な夜雀に。
ミスティア・ローレライに、その手は向けられていた。
「あの鳥、焼き鳥にしていい? いいわよね? レアじゃなくてウェルダン気味に」
「――うわ、たんま!? 今回に関しては私にも言い分がある! 店の前でいちゃつきやがって!」
ね!? と、傍らにいるもうヒトリの少女に同意を求める鳥。もとい、ミスティア。
「えーと……確かにちらほらお客さん来てたみたいだし、ミスチーの言い分も強ち外れてはないかなぁ」
「ありがと、リグルー! ほっら、聞いた!? やっぱ私悪くなぁっがぁぁぁ!?」
「でも、セクハラは駄目」
少女、‘蟲の王‘リグル・ナイトバグは有無を言わさず鳥を沈めた。もう鳥でいいや。
彼女達は突然現れたのではない。
言葉通り、幽香とルーミアは夜雀屋台の前方で模擬戦を行っていた。
営業妨害も甚だしい。
悪い事したわね――思いつつ、幽香は呟いた。
「リグル、私の分も残しておいて」
「や、もう、のた打ち回ってるんだけど」
「うふ。声を上げられるうちはまだ元気じゃないの」
目だけが嗤っている。幽香りんまじ外道。
「寝ているから良かったけど、万が一にでもルーミアに聞こえていたら悪影き……何?」
冷や汗を流しつつ、それでも、リグルはくすりと笑んだ。
「んー……なんとなく、だけどね」
幽香とルーミアの会話を聞いて。
幽香のルーミアに対する態度を見ていて。
幽香がルーミアを想う心を思い、感じて。
リグルは、悪戯気に、軽やかに、告げる。
「ミスチーに似てきたなぁって」
幽香は、無表情で、重く、伝える。
「……ねぇ、リグル。
私達妖怪は肉体的負荷よりも精神的負荷の方が堪える時があるの。
特に、私の様な長生きの妖怪にとっては致命傷なのよ。つまりね。私を苛めて楽しい?」
「そこまで!?」
割と本気でリグルはそう思っていた。
割と本気で幽香はそう返した。
「よりによって、鳥に似てきたなんて……」
「目頭押さえるほどかな……?」
だってそうしないと零れてしまうから。
「えっと、でもさ、さっき、首を叩いてしたよね? あれってさ、はな」
幽香は、声が届く前に耳を塞いだ。
「聞こえない聞こえない!
――って、しょうがないじゃない!
ルーミア、ただでさえ可愛いのに、あんな可愛い仕草を見せられたら……ねぇ!?」
何処かで聞いた事のある同意の求め方だ。
「うん。やっぱり、似てきてる」
悪意のない宣言に、幽香は震えた。
「リグル、ねぇ、そんなに苛めないで……?」
「そのつもりはなかったんだけど、ふふ」
「え……?」
何時の間にか傍まで来ていたリグルに、顎を指で絡め捕られる幽香。
自然と視線は上を向き、直視する。
蟲の王は、微笑んでいた。
太陽の光を背に受け、優しいそよ風に髪を揺らされながら、リグルは口を開く。
「幽香。普段の君は綺麗だけど、今の君は可愛いよ。もう少し、苛めてもいい?」
きゅんっ☆
「だ、駄目よ、リグル! その笑みは反則よ!? 少しだけならいいわ!」
「さっき、語彙が単純化してたよね。是もミスチーっぽい」
「その方面はほんとにぐさっとくるから止めて!?」
喚く幽香。だが、リグルは構わず、続けた。
「だ、め。――さぁ、もっと可愛い君を、私に見せて」
きゅきゅんっ☆
――じゃねぇよ、と心の内で呟くのは、未だ屋台の床に突っ伏している鳥。
「あー……リグル、スイッチ入っちゃってるなぁ」
何のスイッチか。ジゴロ。
「そんな君に似合う向日葵が咲いている場所があるんだ。今度、見に行かない?」
「そ、そうね、私の方は一週間後位なら大丈夫よっ!?」
「静葉と穣子に私は何回会えばいいんだろう」
「え……どういう意味?」
「一日千秋」
きゅん、ぎゅぎゅんっ☆
――言ってる場所って幽香の生息地じゃないのかなぁ。
――そも、向日葵って咲いて、あー、今咲いてそう。
――と言うか、ルーミア良く起きないなぁ。
などと、様々な思いを胸に折り畳み。
一般的な評価では『格好いい』リグルと『可愛らしい』幽香に。
誘う彼女に明確な期日を告げる彼女に、ミスティアは微苦笑を向ける。
「……私の『特別』はなんなのかねぇ」
なんとはなしに零れた呟きは、未だ続けられる姦しい喧騒に、流された――。
<了>
おー、こわいこわい
本気で嫌がってるゆうかりんに乾杯
というかリグルがまともに大活躍ってのはほぼ初?
みすちーさんや
屋台に床はないと思われ。