Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

枕と私と枕投げ

2009/06/14 14:42:27
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 黙っていれば可愛い奴だと思うのだ。’こいつ’は。


 ’こいつ’は’こいつ’である。今、私の膝の上に図々しく居座り枕にし、昼日中からスヤスヤと寝息を立てているこいつだ。こいつのせいで私は昼寝をすることもままならず、あまつさえ足の痺れと闘う羽目に陥っている。
 別にこいつが昼間っから寝ている事はおかしい事じゃない。こいつはそういう生活をしていて然るべき類のものだ。ただまぁアレだ……何だってこんな太陽が照りつける午後にわざわざ私の家までやって来てそんな行為に及ぶかは理解しがたいものがある。自分の家の豪奢なベッドで寝ていた方が快適極楽、安眠出来ることは間違いない。棺桶の中みたいな家の中で寝ていた方がこいつらしい。私がそう勧めるとこいつはクスクスと愉しそうな笑い声を上げながら『じゃあ夜中にこっそりとやって来て布団にお邪魔した方がいいかしら? その方が’らしい’わよね?』とのたまってくれた。冗談ではない、笑えない。
 そもそもこいつはここに来るのが当然であるかのように会話を進めるのだが私にすればそこからして疑問である。こいつには嫌われるような事をした覚えはあっても気に入られる事をした記憶はない。初めてこいつが家にやって来た時はお礼参りにやって来たかと思い、お札を構えたものだった。が、こいつの方はそんな気は微塵も無かったようで、結局、無駄に暑い真夏の昼間からベタベタとまとわり付かれて無駄に暑苦しい思いをしただけだった。一体全体何を考えているのか理解不能であるが、それも致し方ない事かと思う。なんせ相手は能無しだ。
 確かこいつとは初対面の時点で『邪魔くさいから死んで頂戴』的な事をお互いに言い合って第一印象は最悪だったはずなのだけど……考えてみれば自分の周りの奴らってそんなんばっかだ。

◆ ◆ ◆

 『貴方のせいで昼も眠れないわ』。お決まりのようにぼやいていたその台詞。別にそれは普通の人にとっては普通のことだが普通じゃないこいつに言わせれば中々にロマンチックな台詞にも聞こえる。かといって思い煩いで眠れないでいるって訳でもないので結局のところそんなにロマンチックでもない。さらに言うならそんな言葉を吐いていたのも一時のことで、今やこの有様、人の迷惑なんぞどこ吹く風でぐっすりと眠っているのだから憎らしい。ああ憎たらしい。私はあんたのせいで昼寝も出来やしないじゃないか。

◆ ◆ ◆

 外見は子供に羽が生えた程度のくせして私の30倍は長生きしている、それなのに言うこと成すことは丸っきり子供なのだからこいつに仕えている奴らの気が知れない。我侭で生意気で人の言うことなんかひとっつも聞きやしない。そのくせ私が迂闊な事を言おうものならすぐさま良いように解釈して好き勝手してくれるのだから退屈しない。ではなくて、退屈させてくれ。
 特にこいつの妹がひと悶着起こしたときなんかは酷いものだった。あの件に関しては身内の問題なのだからこいつが家に帰ってあの子の相手をしてやれば良かったのだ。どこぞの魔女が雨なんて降らせるものだから結局私が駆り出される羽目になった。今では雨の中を引きずってでもこいつを連れて帰るんだったと後悔している。’悪い子’2号との壮絶な弾幕ごっこを終えて家に戻った私を待ち受けていたのは惨憺たる光景だった。大事にしまっていたとっときのお茶請けは片端から食い荒され、床には私の衣類が散らばっていた。犯人は明々白々。大声でこいつの名を呼べば箪笥の中から応える声がした。『あんたは人に面倒事を押し付けておいて何をしてるんだ』と問えば、しれっとした顔でもって『何って、あの子が貴方を引き付けてる間にちょいとドロワを……』と、その先に何を言おうとしたかは知らないし知りたくない。事実として言えるのは、その日の私は’悪い子’2号1号と立て続けに弾幕る事になったということだ。
 とまぁこの様にこいつは筋金入りの自己中に見えて、その実私の生活リズムに合わせてくれているようで……私の昼寝を妨害して自分が昼寝をしているのだからやっぱり自己中な訳だ。とはいえ・だ、最初言ったように黙っていれば可愛い奴だと思うのだ。こいつは。
 透けるような白い肌、ウェーブが掛かっていて手で掬えばハラリと解ける青白い髪、フワフワピンクのドレス、端整かつ幼さを漂わせる顔立ち、それらが調和をなし、さながら洋人形を思わせる空気を纏っている。何と言うかこう……不意打ちで抱き上げてギュッとしてワシャワシャッとしてポイッとしたくなる類の可愛さだ。
 ただ非常に残念なことに、こいつは自分がそういった扱いを受けることに対して不満ありありなようで以前そうした時などは危うく噛み付かれるところだった。自分は平気で人にくっつきたがるくせに私が同じことをすると怒るなんて不公平じゃないだろうか? こいつが言うには『ポイッとするのが余計』らしい。『じゃあ勢い余ってグシャグシャッとされたい?』と冗談で言ったら『私は別に構わないわ』とさらりと言われて言葉に詰まった。いやはや私が悪かった。勘弁してくれ。

◆ ◆ ◆

 サワサワと風が吹いてきた。縁側から私の居る茶の間へと、心地よい香りと感触を運んできた。髪の毛がフワリフワリと持ち上げられては落ち、耳の中に不規則な自然の音楽を奏でていく。あの縁側に行って陽の光を思うままに浴びてゴロリと横になれたらさぞいい気分だろうなと思う。それが出来ないのは間違いなく目下のこいつのせいだ。別にこいつを膝の上から押しのけるのは訳のないことだ。そうしたくならないのもやっぱりこいつのせいだ。
 行き場の無い不満を解消すべく、私はこいつの安眠を全力でもって妨害することにした。といっても起こしてはいけない、うるさいから。こいつが目を覚ましそうで覚まさない。夢見が悪くなってうなされる程度のいやがらせを持続的に行う必要がある。
 真っ先に思い浮かんだのは耳元で聖書を朗読することだが生憎と我が家にそんなものは存在しない、お祓い用の祝詞を永遠耳元で囁き続けてやろうかとも思ったが西洋出身のこいつが相手では効果の程は怪しい。というか正直なところ聖書の方もこいつが相手ではあまり期待できない。
 私は考え、下を見る。ふと、自然に目に付いた’それ’が私の意識を惹きつける。ああそうだ、これがいい。以前からじっくり調べたいと思っていたものだ。ちょっとくらい弄っても罰は当たるまい。いやいや呪われまい。
 私はこいつの背中から生えているそれの端を親指と人差し指でそっと摘んで持ち上げる。
 羽。空を飛ぶには小さい羽。どこからどう生えているかよく分からない羽。目より口よりものをいう羽。嬉しいときはパタパタとせわしく動くし悲しいときはダラリとぶら下がってる羽。多分そのことにこいつは気付いてない。喧嘩して、いじけて、そっぽ向いてる時は私が話しかけても大抵無視される。大抵羽の方はパタパタしているので私は迷わず背後からギュッとしてワシャワシャッとしてそれで解決。簡単だ。
 指でなぞる翼膜の感触はすべすべとしていて絹のよう。意外と伸縮性があるようで骨をひっ掴んで拡げたり畳んだりしているとピシャリと閉じてしまった。羽がへそを曲げたようだ。どこにあるかは知らない。知らないから探す。羽の先から根元に向かってそっと指を這わせる。触られるのが快か不快かは知らないが触覚は通っているようで、こいつの手に掛かる力の変化がそれを教えてくれる。時折、服の裾をギュッとする。あんたの爪でそれをやられると服に穴が空いちゃうんだけど?
 羽の付け根まで指を這わせ、生え際を確認する。多分きっと肩甲骨が発達したものだ。どうやって羽ばたいているかはさっぱりだけど私は満足して背伸びを一つ。こいつの顔を見れば何やら不満げな表情でブツブツと寝言を漏らしている。きっとお似合いの悪夢をプレゼント出来たに違いない。

◆ ◆ ◆

「おーい、起きろー」
 柔らかい頬を人差し指でプニプニする。そろそろ陽も傾いてきた事だし夕食の準備がしたい。下手に起こして機嫌を損ねると面倒なことになる。具体例を挙げると家が半壊するとか……そんな訳で出来る限り上手く起こしたい。プニプニ。
「うー……」
 不愉快そうに寝返りをうつ様子を見て自分の表情筋がだらしなく弛緩するのを感じる。きっと今の私は人が見たら笑い出すような笑顔をしているに違いない。これではいけないと両手で顔を打ち、気を引き締める。こんな所を誰かに見られでもしたら物笑いの種である。神出鬼没でお節介なあいつや呑んだくれのあいつ、黒白のあいつならその場で笑われる。逃げ足の速いあいつにでも見つかればその場は無事でも翌日の新聞の一面を飾り、幻想郷全土の空笑いを誘う事は間違いないだろう。そんな風に考えごとをしていたのがいけなかった。プニプニプ――

――カ プ ッ ――

 不意打ち。私の思考の隙間を突く鮮やかな口撃。全身の筋と神経が硬直して心臓の音だけが骨を伝い鼓膜を揺らす。あっという間に顔が上気し、体温が上がる。ドクリドクリと音が聞こえるが幸いな事に噛まれた訳ではなく、出血もない。
 咥えられただけ。第一関節と第二関節の間を挟み込まれ前にも後ろにも行けやしない。
 まぁ待て落ち着け慌てるな。ここで強引に引き抜くのは良くない……気がする。無理に引き抜こうとすればこいつの本能に火を点け反射的にがぶりとやられかねない。それはまずい、こいつは美味いと言うかも知れないが私は不味い。
 しばし――と言っても時間にして一、二分だが――自然に口を放してくれないかと待ってみる。変わらない。押して駄目なら引いてみろと言うが引くことも出来ない場合はどうしたものか? あれこれ考えた挙句、私は一つの方法を思いつく。何のことは無い。頬をプニプニしてて咥えられたなら同じ事をしてやればいいだけの話だ。残った手で頬をつつく。勿論素手ではない。こいつは指を咥えたままでしばらく辛抱していたが――

――ガ ブ ッ !――

 今度は思い切り噛み付いた。私が手に持った自分の羽に思い切り噛みついた。ほれ見たことか、食い意地張ってるからだ。肉感のない骨と皮の張り合わせを食わされたものだからすぐさまペペッと吐き出した。翼膜にはしっかり噛み跡、もとい二つの穴が空いているけど帰りに墜落したりしないだろうか?
 本人は何でもないと言うように再び寝息を立てて眠りだす。私はすっかり気疲れしてしまい、自分でも気付かぬ内に眠りに落ちた。膝の上のこいつに覆い重なるように眠りに落ちた。羽は私の頭を優しく包み込んでくれた気がした。






◆ ◆ ◆

「ファ~ァ……よく寝た……かな?」
「ん……ああレミリア、おはよう」
「ああ霊夢、もうおはようなんて時間じゃないでしょ? 何か疲れたような顔してるけどどしたの?」
「誰のせいだ……」
「私は何もしてないわよ? むしろ夢見が悪かったというか良かった気がするんだけど貴方こそ何かした?」
「さぁね。」
「まぁいいわ、羽を弄ろうが肩を揉もうが腰を揉もうが好きにしていいからもうちょっと寝かせて頂戴。夜になったら起こしてね♪」
「誰がするか。ていうか私は夜になったら寝るんだけど?」
「そう? じゃあ貴方を枕にしてばっかじゃ不公平だし私が抱き枕になろうか?」
「あんたは24時間寝てるつもりなのか……」
「心配は無用よ。霊夢が寝てる間、私は霊夢で遊んでるから♪」
「帰れ」


 本当に黙っていれば可愛い奴だと思うのだ。こいつは。
 ピンクの抱き枕を薄闇の庭先に放り投げた私はつくづくそう思った。
 『アンタのせいで夜も眠れない』なんて言うのはまっぴら御免だ。



<それをすてるなんてとんでもない!>
やおい。すいません言ってみたかっただけです。
まちみ
ななな
ししし

なんか血の気の薄い霊夢×レミリアが書きたくなってこんな感じです。
この二人の場合シリアス+殴り愛(含む流血沙汰)が醍醐味だと思ってるんですけどね。自分は。
おぜう様の羽は弄られて然るべきだと思ったんですが実際書いてみるとネタにしずらくて参りました。

何だかんだで五本目の作品。何度目かの方も始めましての方も五度目の方も読んで下さりありがとうございます。誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると幸いです。
Sourpus
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コメント



1.名前が無い程度の能力削除
>こいつが言うには『ポイッとするのが余計』らしい。
うん。私もそう思う。
もうちょっと改行使ったほうがいいと思います。ちょっと読みにくく感じました。
>この二人の場合シリアス+殴り愛(含む流血沙汰)が醍醐味だと思ってるんですけどね。自分は。
次回作はそれですね!期待しています!
2.名前が無い程度の能力削除
運命を操る事も、血を吸う事も必要ない
だって、言葉も態度も少し乱暴だけど、この霊夢さんはすでにお嬢様の虜ですもの
第3者から見たら「はいはいごちそうさま」なやり取りしてるのかもw

素敵なレミ霊有難うございました!
3.GUNモドキ削除
何というツンデ霊夢・・・。
ごちそうさまでした。
4.名前が無い程度の能力削除
なんという甘さなんだ。
けしからん、もっとやれ。
5.Sourpus削除
>>1様
改行ご指摘ありがとうございます
シリアスだとさじ加減が難しいんですよね。やり過ぎると霊夢から羽生えたりするし
次回はちょいとレミフラで痛いのやる予定なんでご勘弁をば

>>2様
客観的に見ると霊夢がレミリアで好き勝手して遊んでるだけという

>>GUNモドキ様
百合は恥じらいあってこそ。よってツンデ霊夢は正義

>>4様
レミリアが狸寝入りしてるという設定にすると若干糖度が……って言うまでも無いですね