「この男を殺してください」
思わず息を飲んだ。
人間の里に買出しに出て、里を出ようとした途端にこれだ。
そんな物騒なことを私に申し出てきたのは、普通の特徴のない村娘。
「………唐突ね」
「お願いします、貴女なら彼を一瞬で苦しませずに殺してくれるはずです」
「………そいつ、何したの?」
私の問いに、この娘は戸惑う様子はなかった。
「私を裏切りました、この最愛の殿方は」
「………」
「私は今年で18になります、18になったら夫婦になろうと決めていました、でもこの方は私のことをとっくに見放していたんです」
「………聞きましょう」
「一年前から彼は隣の里にある居酒屋の娘とよく会っていました、私はそのときは特別気にしませんでした」
「ええ…」
「でも彼は、もうその時から居酒屋の娘と関係を持っていたんです」
「………」
「しかも、その娘は………まだ16だったのです」
「………ふぅん」
「私に18になるまで待てと言い、本人は二つも下の娘を愛していたんです、私は彼を許せんでした」
「でしょうね」
「私は彼を問い詰めました、もっと早くに本当のことを話してくれなかったことや、私をもう愛することはできないのかどうか」
「彼は、その娘といつのまにか本気で愛し合っていました、6年間支えあって来た私を尻目に………そして、私をもう愛してはいないとはっきりと口にされました」
「………だから、殺そうって?」
「はい、でも私は………刃物はほとんど使ったことがありません、だから貴女に……いえ、貴女のそのナイフだけでも、貸していただきたいんです」
「………そう」
愛憎ってやつか?
正直よくわからないが、私はそこまでしてやる義理はない………
しかし、この娘も気の毒ではある、殺人に結びつく動機であることもよくわかる。
どうしたものか………
「気が進みませんか?」
「当たり前よ、早々人を殺そうなんて気にはならないわ」
「………そうですよね、すいません、忘れてください」
「………貴女、どうするの?」
「………わかりません」
「じゃあ、言うけど」
「人を殺したら、貴女は罪をその細腕で背負わないといけないのよ」
「ええ………わかっています、でも私は、すぐそこで命を絶つつもりです」
「………貴女………」
「彼がいない人生なら、私はもう………」
よっぽどその男のことを愛していたんだろう。
娘は覚悟を決めているようだ。
「死んで良かったって思える死に方をしなさい」
「………」
「生きていて良かったって言うやつは私は何度か見たことがある、でも私は死んでしまってよかったって言うやつは見たことがない」
「どうせ死ぬなら、意味のある死に方を探しなさい」
「………」
「ただ悪戯にその命を散らすだけでは、もったいないわ………だって貴女は6年間も一途に一人の男を愛していくことができたんでしょ?だったら、違う男を捜して、その男に一途に尽くすのもいいわ、尽くして、その先には貴女をよく理解してくれた男がいるんだから」
「………考えて、おきます」
「ええ」
自室に戻り大きく息を吐く。ようやく今日も仕事が終わった。
おかしな日だった、少し寝つきが悪そうだな今日は…
「おーい」
声がする、どこからだ………
外からだったような気がする、カーテンを全開に広げてみるとそこには見知った顔があった。
「なにしてるの?アリス」
「なんだか入りづらかったのよ、門番すっごいピリピリしてたわ」
「ああ………また図書館の本が盗まれたんでしょ」
「そんなところでしょうね」
窓から入ってきたアリスは我が物顔で私の部屋のイスに腰掛けた。
仕方が無いのでお茶を淹れてやる。
「ありがと」
「ん」
「………魔理沙のこともそうだけどさ、最近って物騒ね」
「そうなの?」
「ええ、上白沢の学習塾がある里で盗賊が出たらしいわ」
「………へぇ、本当にいたのねそんなの」
「そうらしいわ」
確かに里なんて襲われたらひとたまりもなさそうだが…
「もちろん、上白沢が片付けたみたいだけどね」
「でしょうね」
「………それだけじゃなくてさ、私の家の周りでも結構いやなことがあってね」
「ふぅん」
少しだけアリスは神妙な表情をした。
どうやら他人事ではないらしい。
「あれなんていうんだっけ………心中ってやつ?森の中で男女の死体が発見されたのよ」
「………!!」
男女の死体………?
「どうしたの?」
「………その二人、どういう死に方をしてたの?」
「………男のほうが惨殺死体だったわ、女のほうは不明、多分薬の過剰摂取ね、死体の傍には遺書とやたら鋭利なナイフがあったわ」
「………」
私はすぐさま外出用のメイド服を調べた。
服の中に忍ばせていた小型のナイフが………
足りない。
いつのまにか盗まれていたんだ、あの娘に。
「………」
「咲夜…?」
「………馬鹿なやつ」
「どうしたの?急に」
「………」
「その心中した男女に、ナイフを渡したのは私なのよ」
「え…」
「正確にはいつの間にか盗まれていた………女のほうが一方的に殺意を持っていたの、同時に溢れんばかりの愛情もね」
「………ああ」
アリスも大体察しただろう。
間接的にとは言え、殺人に加担してしまった。
やれやれ………私も少し動揺していたんだな。
「貴女が気にすることじゃないわ」
「………気にはしてないけど」
「貴女が盗まれようが盗まれまいが、こいつらは死んでたわ」
「………」
「死体の傍にあった遺書にはね、大きくごめんなさいってだけ書いてあったわ………はじめは両親あたりにでも伝えようとしたんじゃないかと思ったけど、きっとあれは貴女宛のメッセージね」
「ごめんなさいって、言えないわよ普通なら………ごめんなさいって謝るくらいなら、きっと自分だけでも生きて貴女に直接伝えるか、殺人そのものを考え直すわ、でもこいつはやっちゃったのよ、それだけ意志が固かったってことよ」
「………ええ」
「でも、逃げの一手とも言えるかもね」
「………アリス、簡単に死ぬのね、生き物って」
「ええ、そうね」
「あ、でも咲夜」
「ん」
「私はそうそう死なないわ」
「聞いてないわよ」
「聞きたそうだったんだもの」
こいつなりの親切か。
こんなことを気にして、気分が沈んでいてはいられない。
あいつが私の言葉に耳を傾けてくれたことだけでも、良かったと思わないといけないな。
。
男の死には何の感情も持ちませんが、その存在には許せないものがありますね。
二人の女性を振り回したあげく殺人の業を背負わせ、自殺までさせてしまった。一番の罪人だと思います。
女の死は……私には女の行為を正当化する気も糾弾する資格もありませんが、ただただ哀れの一言に尽きます。
あの咲夜さんの目を盗んでナイフを抜き取る技術を持っているのには驚きましたが、それほどまでに必死だったのでしょうね。
必死で愛するあまり、殺すときも切れ味の良いナイフを選ぶことで必死に苦痛のない死をもたらそうとしたということでしょうか。
>>「………簡単に死ぬのね」
死の少女アリスがこの台詞を発すると非常に深いものを感じる今日この頃です。
深いなぁ。
しかし、所々誰が喋っているのか分かり辛い箇所があったように感じました。
僕の読解力の低さによるものかもしれませんが……
そういった描写が全く無いんですが
でも発言者は普通に理解できました。
会話メインでも、魅力ある会話だったので、つまらなくはなかったです。
最後のスペース。はいらなくね?と思いましたが氏のポリシーならば申し訳ない。
今考えると恐ろしい話ですこれは。心中やらストーカーは一途なんでしょうか、もしかしてそこまで便利な言葉ではないのかもしれないと、今気がつきました。
>>2
奇声発してない!
>>3
間違いなく俺のせいです、台詞ばかりできっとすごく読みにくい文章だと思います。
もっと情景や表情の変化や動きを言葉で表現できるといいんですが。
>>4
描写は全くないですね、ごめんなさい。
とりあえずキャラクター性をまったく持たせないようにしようとしてましたがこれはやりすぎですね。
>>5
最後の空白は、あとがきがすぐに出てくるとせわしないのではないかと思って間を空けています。
それだけ自分が最後に空気の読めないことを書いていると思っています…