昔々、竹取の翁がいたのだが、どうにも竹の売れ行きが悪いので芝を刈ることにしたら妻が桃を拾ってきたそうな。
竹? 知らんよ。
「うぉぉぉぉぉい!」
猿人が如き雄叫びと共に、竹を割りながら一人の少女が登場する。名を蓬莱山輝夜。地球では何と呼ばれるのか微妙に楽しみにしていたわけだが、どうせもう拾ってくれる者などいないのだから元の名前で通すことにした。
さて、輝夜。竹を割って登場したのは良いのだけれど、そこで体力を使い果たしてしまったらしく、ぜえぜえと苦しそうに呼吸を繰り返す。運動不足、かっこわるい。ちなみにこれは都で流行っている流行語であり、今年の流行語大賞にもノミネートされた言葉である。
しばらく息を整えていた蓬莱山輝夜。呼吸が落ち着いてくると、今度は再び怒りがぶり返したようだった。真っ二つに割れた竹を踏みにじりながら、天に向かって高らかに叫ぶ。
「何で、誰も拾ってくれないのよーっ!」
魅力がないとは言わせない。なにせ、黄金の竹なのだ。人間であるならば誰しも、黄金という名前の響きに魅せられるものである。
だというのに、この一年間、誰も輝夜が住まう竹を割ってくれるものはいなかった。唯一、雀が何羽か叩きにきたぐらいだ。
「何なの。まさか、黄金の竹ぐらいじゃ最近の人間は目にも止めてくれないのかしら」
単に人が通りかからなかっただけのことであるが、そんな事情を知らない輝夜からすれば魅力不足という結論に落ち着くのも無理あるまい。
「やっぱり竹じゃなくて、私が直接居るべき……いや、さすがにそれは駄目か」
竹林に佇む一人の美女。どう考えても妖怪フラグがビンビンである。迂闊に近づいてくるものなど、おそらくいまい。
などと輝夜は考えているものの、実際に佇めば確実に若い男性諸君は引っかかることであろう。黄金も魅力的だが、美しい女性もまた違った意味で魅力を秘めているのだ。
「とすればやはり、もっとインパクトを重視すべきね」
竹林の中に光る竹。いくら黄金色に光っているとはいえ、それは所詮誰にも想像できる範疇のことだ。もっと、人の度肝を抜くようなアピールをしなくてはならない。
輝夜は考え、そして答えを導き出した。
昔々、竹取の翁がいたのだが、せっかく育てた息子が鬼を倒すとか言って出て行ったので、暇な時間を紛らわせるように久々に竹林に行ってみたら『楽に儲けたいあなた! 今すぐここの竹にアクセス! アクセス!』と書かれた看板が所狭しと並べられていた。
胡散臭いので帰った。
「何故、何故なのよ……。どうして誰も竹を割ってくれないの!」
当たり前の話なのだが、頭に血がのぼっている輝夜にはとんと検討もつかなかった。
悔しげに地面を叩き、やってこない者達を呪う。
「まさか、これでもまだインパクトが足りないというの!」
インパクトという面でなら、これで充分に効果はあった。ただその方向性が胡散臭く、逆に人を近寄らせなかっただけのこと。
正しい方向に使ったのなら、確実に今頃は畳の上で寝られただろう。
竹の中は狭く、はっきり言って寝心地は最悪だった。
「いや、そもそも足りないのはインパクトじゃないのかもしれない。そうよ、きっともっと別のものが足りないんだわ!」
さも名案が浮かんだとばかりに顔を明るくする輝夜。しかし、その前途に広がるのは確実に踏み出してはいけない類の未来である。
「やっぱり今の時代、ただインパクトがあるだけじゃ駄目よね。こうもっと、スリルとかが無いとお客さんは満足してくれないわ」
満足させてどうなるのか。輝夜は完全に道を誤っていた。
「ふふふ、見てなさいよ地球の人間め。私があなた達にとびっきりの恐怖を味合わせてあげるわ!」
力強く拳を握りしめ、輝夜はまだ見ぬ人間達にそう宣言した。
それはどちらかというと、地球侵略に来た宇宙人が言うべき台詞である。
昔々、竹取の翁がいたのだが、鬼退治に出た息子が目も眩むような財宝を持って帰ってきたので億万長者になり、そういえば竹林に変な看板があったなとSPを連れて訪れてみれば、竹が竹槍を構えて襲ってきた。
無論、逃げたとも。
まさか己の身を槍として?
何が死ぬってそりゃ私の腹筋がww