「ねぇ穣子、蟋蟀と蜻蛉って漢字にてるわよね」
「うーん……そういえば見た目も似てるような気がしないでもないわね」
「あら穣子。見た目は流石に似てないわよ。だって蟋蟀は空を飛ぶのよ?」
「違うわよ静葉姉さん。空を飛ぶのは蜻蛉のほうよ」
「それは穣子の思い違いよ。空を飛ぶのは蜻蛉の方だわ」
「やっぱ蜻蛉でいいんじゃないのよ!」
「あら、穣子は蟋蟀のこと言ってたんでしょ?」
「違うわよ! 私は蜻蛉の事言ってたの。間違えてるのは姉さんのほうでしょ!」
「……そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないわね」
「……どういうこと?」
「どっちであろうと大した意味はないってことよ」
「……」
「なら、始めからそんな質問するなよ」と思わず心の中でつぶやく穣子だった。
妖怪の山の山腹にあるあばら家に、二人は秋が来るまで過ごしている。
二人は去年の秋以降、厳しい冬を何とか乗り越え、麗らかな春をやり過ごし今に至る。
確かに冬も春も大変な季節ではあったが、こんなのは二人にとっては序の口に過ぎなかった。
これからいよいよ最大の難関である梅雨から夏の時期がやってくるのだ。
「静葉姉さん。今年はどうやって夏を乗り切るつもりなの?」
「いい質問だわ。穣子」
そう言うと静葉は奥から怪しい形をした像を取り出す。
「……姉さん。なにこれ?」
「ふふふ……これはね。避暑の像よ」
「避暑の像?」
「そう、この像を家の入り口に置けば暑さを避けてくれるのよ」
「こんなので?」
「そうらしいわよ 聞いたところによると」
「ふーん、で、これどこで手に入れたの?」
「こんなこともあろうかと、去年の秋のうちに森の道具屋さんから仕入れておいたのよ」
「……本当に効くのこれ?」
「それは試してみないとわからないわ」
「はぁ……」
穣子は、また姉がガラクタを買ってきてしまったのかと思わずため息をついた。
「あのさぁ。……去年も確か河童からなんかよくわかんない装置売りつけられたんじゃなかったっけ?」
「ああ、秋度を呼ぶ装置ね」
「あれってどうしたの?」
「どんな仕組みなのかなと思って分解してみた」
「……で?」
「元に戻せなくなったから道具屋さんに売りつけたわ。これを持ってるだけで幸運呼ぶって事にして」
「……詐欺じゃん、それ」
「大丈夫。だって私たち神様だもの」
「まぁそうだけど……」
「なら大丈夫よ」
何が一体どう大丈夫だと言うのか。
「……この前も神様だから大丈夫って言って勝手に人んちに上がりこんで、新米から秋度を吸い取ってたら麓の巫女に吹っ飛ばされたじゃない」
「あれは秋度が足りなかったのよ」
「そうかしら。どっちにしてもあの巫女には敵わない気がするけど」
「それもそうね」
「やっぱ、流石の姉さんもそう思うのね」
「いえ? 全然」
「どっちなのよ! はっきりしてよ」
「穣子。いい言葉を教えてあげるわ」
「へ?」
「曖昧は美徳よ」
その言葉、某裁判官が聞いたらどんな反応するものか。ちょっと気になったと同時に
もう、この姉には何を言っても無駄な気がする。そう感じつつある穣子であった。
二人の漫才のような掛け合いがとても楽しかったです。ただ本当に神様なのか疑念度が上昇(ぉ
たしかにwww
ところで最初の所の話に出てきた漢字が読めなかった・・・orz
そしてこの大層いい加減なやり取り……軽妙(やわらかいひょうげん)な言い合いにもやはり二人への愛が見えます。楽しかったです