─動物は、激しく求めるものである
地霊殿のとある一室、空の部屋。
ペットがわんさかとひしめく地霊殿の中でも、力ある彼女に与えられた特別なもの。
彼女の仕事は火焔地獄跡の管理──地獄炉の見張りやってまーす!おくうって呼ばれてるけど、うにゅって呼んでもいいよ☆──
仕事に終わりなどないが、落ち着いたら部屋で休むこともある。
彼女は今、休養を取っていた。
「ふー、お腹すいたよー」
おやつ時だなぁ。そう呟いて主人の元へ行かんと腰を上げた空は、二つの音を聴き取った。
「こんこん。入るよ」返事を待たないその声の主は、扉を開けて入ってきた。
「お燐!」
「お空ってばさー、今お腹すかしてさとり様におやつたかりに行こうとしたでしょ」
「なんでわかるの?」
「見てたから」
部屋で一人っきりの彼女の姿を扉の鍵穴から覗くのはいかがなものか、なんてことは二人とも考えてはいなかった。
「でさぁ、その紙袋何?すごいわくわくなんだけどぉ」
「じゃじゃーん。あたいが先にもらってきたよ、おやつ。あの黒くて、硬かったり、柔らかかったりするもの…さぁ、何でしょう?」
「えぇ?うーん…海苔の佃煮?」
「そんなのがおやつってなんか悲しくない!?」
「じゃあ、味海苔?」
「まず海苔から離れようよ。更にヒント…甘くて蕩ける、女の子は皆大好きなものだよ」
「私女だし、オンナ」
「見栄張らなくていいから、ね?あたいもそろそろ食べたくて仕方ないんだ」
「ちょっと待って…わかった!かりんとうね?」
「惜しい、結構惜しいよ…ていうか最初のヒント覚えてる…?」
「何だっけ?」
「もぉっ。正解はチョコレートでした~」
袋から取り出されたのは燐の手のひらより少々大きい、長方形の箱。
中には、小粒の丸いチョコレートがぎっしり詰まっていた。それはまるで黒光りの宝石。
溶けちゃうから早く食べないとね、と先に手を伸ばしたのは燐だった。
「あぁ、これだねぇ…普通に生活していたらこんなもの味わうことはできないよ」
幻想プチシキ!『人型の猫はチョコレートを食べても平気なのよ』─紅魔館附属大図書館館長 パチュリー・ノーレッジによる
その他、こたつでみかん、すき焼きのネギなどの項目もある。
「このプチシキって本じゃなくて館長の言葉なの?本から引用しない?普通」
お空は最もな突っ込みを入れた。
しかし返事は返ってこない、突っ込みは空を切る。空だけに。
「まぁいっか。いただきまーす」
粒を一つ手に取り、口の中へ放り込む。ポリポリと小気味良い音を立てて、咀嚼する。
口の中で、空の歯や舌に蹂躙されるそれは、みるみるうちに形を変え、もはや原型を失ってしまった。
中々に粘りを覚えるそれは口の中で糸を引き、すぐに切れる。
仄かに香る苦味は、彼女らに感じ取られるほどの強いものではないが、隠れし甘みの引き立て役。
蕩けるチョコレートの甘い香りが口腔、そして鼻腔を満たす。
砂糖とは違う、しつこくない甘み。チョコレートを創り出した人は神と崇めてもいい、彼女らはそう思っているかもしれない。
「あまーい」、二人は頬を押さえて、その至福の味による悦びを満面の笑みで体現する。
「さとり様ってたまに変わったおやつくれるけど、どうしてるんだろう?」
「あぁ、それね。何だか朝、牛乳を取りに行ったら牛乳箱の隣に置いてあるっていうの」
「…狐とか助けたのかしら?」
「さとり様は知らないって言ってたけど…」
『さとりん萌え』──九尾の狐による
今もなお地上の動物達の間にはさとりの噂が広まり続けている。
「さすがさとり様、動物からモテまくりってことか~」
「なんだか不穏な空気がするけどね…」
「その時はその時、私たちが護るから大丈夫!」
「それもそうね。あたいらのさとり様には手出しさせない」
お燐が言い終え、お空はチョコレートを二つ、口へ放り込む。
先の悦びが二倍、彼女の口腔に広がる。
「あっ、お空がそんなにホイホイ食べちゃうからもう残り少ないじゃん。まだ5個しか食べてないのに~」
「先手必勝、猿も気から落ちる」
「意味わかんないしっ!それ最後の一個~!」
お空の細長い指につままれた黒光りの宝石は、指からの拘束を解かれるに従って自由落下してゆく。
下にはあーんと広がるお空の口。無情にも、チョコレートはその中へ吸い込まれていった。
「あぁぁぁ!」
「ふっふっふ…あまーい」
「お空…後悔先に立たずって諺、覚えておきな!」
燐の眼にギラリと鋭い光が宿る。
じゅるりと舌なめずりをし、お空目掛けて飛び掛る。
「きゃあ!何すんのさー!」
「…こうするのさ」
─動物は、激しく求めるものである
燐は空を押し倒し、跨り床に組み伏せる。
心なしか、お互いの服がはだけているように見えた。
ガラリと変わった雰囲気は、二人の露出した肌を艶めかしく照らし、互いの気持ちを昂揚させる。
思わず、空の肩を抑えつける燐の手に力が入る。
「誘ってる…絶対誘ってるよ、その顔」
「やだ…絶対渡さないんだからっ…」
「もう遅いよ?舌、噛んだら酷いんだからね」
燐が空の顔との距離を縮め、強引に空の唇を貪る。
化粧などはしない、飾り気のない彼女だけれど、可愛い顔をしている。
きっと化粧を教えてあげたらもっと美しくなるだろう。いいや、今のままが一番だろうか。
この辺りで化粧に通じているものと言って思い浮かぶ人物はいない。むしろ好都合。
そのぷるんとした、健康的なピンク色の唇を執拗に舐る。
空は小さく嬌声を漏らし、固く噤んでいた口の力を緩めてしまった。
燐はここぞと言わんばかりに舌を突き出し、空の口腔内へ侵入する。
「んっ…ふぅっ…」
「んぅ、ぅぅ」
口内(なか)で往生していたチョコレートが、ふたつの舌に蹂躙される。
もうトロトロに蕩けてしまったチョコレートが、二人の舌に絡みつく。
それは短く糸を引き、切れる。短く糸を引き、切れる。
舌が舌を求める。絡み、解けるに従って、引いては、切れる。
脳を麻痺させる甘美な味──ヤミツキになりそう。
唇と唇の離別を惜しみながら、互いは一度、離れた。
「ちゅっ…はぁ」
「はぁっ…はぁ…」
「最高だよ…お空…」
「う…ん、やばいかも…」
「でも…このままじゃあ、おさまりがつかないんだよねぇ?」
「はぁ、…まだ、口の中が甘いよ…?」
「お空のくせに、誘惑(さそ)うのが上手になったねぇ!」
二人は、完全にそのシビレの虜になってしまった。
──動物は、激しく求め合うものである
夕。
「さとり様、今日のお夕食はなんですか?」
「とんかつ揚げてみたんだけど」
「とんかつ?そりゃいいですね。お腹が鳴る~」
薄桃色のエプロンを掛け、台所に立っていたさとり。
とんかつを切り分けて、キャベツが待っている皿に盛り付ける。
サクサクという音が、少なからず食欲を増長させる。
「お燐、お空、運んで」
「は~い」
足取り軽く、料理が盛り付けられた皿をとっとっ、と運ぶ。
そして四人が席について、欠かさない挨拶をする。
「「「「いただきます」」」」
ある者はソースを手に取る。ある者はケチャップを手に取る。
どうしてタルタルソースは無いの?というのはまた別のお話。
「ちょっと、お燐のでかくない?」
「いやそれはない」
「絶対多いし…」
「いやそれはない」
「じゃあ換えろ」
「いやそれはない」
「ズルいぞー!」
「お空、食事のときくらいはね…」
第二ラウンド、開始。
糖分高いです!
はわわわわ!
最初から最後まで面白かったですぜ。
こいしちゃん探すの大変だったぞw
無意識すぎるww
へるぷみーこいしさん!(しかし本文の何処にも見つけられなかったのでライフが零になりましたorz)
ぐっ……空さとと…………燐こいが……ジャス…ティス……ッ!…………かはっ
>そして四人が席について、欠かさない挨拶をする
ここか、ここかこいしw無意識すぎるよwww
もっとやれ
ということでもっと踏み込んだ作品をですね(ry
甘かったぁぁぁぁ!
ところで、とんかつにケチャップはマッチするの?
ところで、とんかつには塩コショウっすよね?
とんかつには味噌でしょう、味噌かつ美味いですよ。
もっと作品の話しろよ、とんかつにはチョコレートだな。あれ?
うにゅの誘い受けの破壊力は異常。
とんかつは醤油。
ウスターと中濃、ケチャップをブレンドすると美味いんだぜ…?
おりんくうが甘すぎてその旨みも吹っ飛んだけどなぁっ!