Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

東方小話・第九集

2009/06/07 23:40:18
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◇紅茶の話


 外の世界。
 そこのとあるカフェで蓮子とメリーが紅茶を楽しんでいた。

「いい? 二十一世紀でのおいしい紅茶の淹れ方はまず沸かしたての酸素を失っていないお湯を使うの、その時硬水の使用は避けるわ。それで勿論良質のリーフティーを用いなきゃ駄目ね、うん、それで1杯に2gを目安にたっぷりと茶葉を使う。容器も重要よ、高温を保って入れるため、ポットをよく温めておくわ。それから3~4分蒸らして抽出する。ああ、絶対にプラスチックのカップは用いないでね。ミルクを入れる場合はお茶よりも先に冷たいまま入れるのもポイント、砂糖を入れるなら最後ね。で、熱い時より60~65℃ぐらいが飲み頃。あ、忘れてた。ポットを温めるときは4分の1量ほどの水を入れて、から電子レンジ……だったけな? それで1分加熱するとよかったのよ。これには科学的根拠もあるわ。次に二十二世紀での方法だけどね」

「紅茶が冷めてしまうわ」

 そう言ってメリーは、紅茶を一口含む。
 知識は実用をもって尊しとされる。またその実用を妨げてはならない……そんな言葉が浮かんだが、めんどくさいので、メリーはその一言で済ませた。






















◇糸の話



 地底へ繋がる穴。
 そこには土蜘蛛のヤマメと、釣瓶落としのキスメが常駐していた。

「おっと、危ないよキスメ」

 誤って壁にぶつかる勢いで落ちていくキスメに、ヤマメが手からシュバっ、と助け糸を投げつけた。

「私の糸は丈夫だからね。もう安心さ」

 ほっとして頷くキスメが、壁のギリギリまで到達し──桶が粉砕した。

 中身のキスメだけが涙を降り撒きながら、ヤマメの方に戻っていった。

 丈夫な糸とは、良く伸びる糸である。
 どこまで伸びるか解るまで、安心してはならない。
 
























◇想う話


 地底への門。
 そこの番人を務める橋姫のパルスィが、今日も門を出入りする者達に嫉妬していた。

「ああ……妬ましい。楽しそうで妬ましい。きっと買い物に行くんだ妬ましい」

 パルスィが親指の爪を噛む。

「ああ……妬ましい。疲れてそうで妬ましい。きっと遊び疲れてその帰りに違いない妬ましい」

 パルスィが上腕をに爪を立てた。

「ああ……妬ましい。今にも死にそうで妬ましい。きっと苦しみ藻掻いて何も考えずに死ねるのが妬ましい」

 パルスィが腕を振り上げてふくらはぎを打った。

「おっす。ご苦労さん。今日も問題ないよ。ほれ、弁当と薬箱」
「……ああ、その余裕が妬ましい」

 差し入れに来た鬼の勇儀が、二つの包みを渡す。
 キッ、と彼女を睨んでから、パルスィは小さな包みを開けて、おにぎりを食べ始めた。そしてぼそりと礼を言う。

 どんな形であれ、他人を多く想う者は、その分他人に想われる事だろう。 

























◇▲の話


 
 天界。
 そこには天人くずれの天子が、今日も暇そうに過ごしていた。

「あーあ。……あれからお父様に怒られて軟禁されちゃうし、
 あれだけ虚仮にしたのに地上人はやってこないし……なんなのよもう」

 八つ当たり気味に桃にかぶりつきながら、天子は独り言を続ける。

「大体さぁ、地上の妖怪とか人間とかって思ったほど強くなかったし、
 最終的に私が勝ったんだからもっとこう……崇めよ讃えよって、感じよね。
 そう、私が一番強いのよ。凄いじゃない、えふん!」

 その独り言も、周りに聞く者は誰もいない。
 それに益々腹が立った天子は、食べかけの桃を空に向かって──高く高く放り投げた。

 確かに、頂点とは素晴らしいものだろう。
 しかし、それ故に横に並んでくれる者は誰も居ないのだ。
 それに気が付いた時、彼女はまた地上に降りることが出来るかもしれない。















 
◇浮く話



 温泉。
 ある異変から不定期に湧いている、地底からの恵みである。

「お、今日は上手い具合に湧いてるな……湯加減も丁度良いぜ」

 魔理沙がご満悦そうに頷いて、そこらの岩場の影を探す。
 すると、岩陰の一つに、なにやら衣類が落ちていた。

「先客のものか。お、これはなんか見覚えがあるが……おお?」

 ヒラヒラした衣類の一つを持ち上げると、なんと、魔理沙の体が浮き上がった。

「おお! 面白いなこれ。よし、せっかくだから持ち帰って研究してやろう──」

 宙でそう呟いた魔理沙の下から、影が迫る。
 温泉から飛び出し、拳を突き上げた衣玖が、あらん限りの声を上げて衣服泥棒を撃退した。

 上空では、ネタに困って飛んでいた射命丸が、その決定的瞬間を捉える事に成功していた。


 欲に、または危機に際した場合、理性が浮きがちになるので気をつけたい。
 その多くは、代償を払うことになるからだ。
 
 









◇廻る話


 妖怪の樹海。
 普段誰も通りかからなそうな場所で、流し雛人形の厄神、鍵山雛は今日もくるくると厄を集めていた。

「ワン♪ トゥ♪ スリー♪」

 回る。

「アン♪ ドゥ♪ トロワ♪」

 回る。

「暗♪ 剣♪ 殺♪」 

 回る。

「ハウマクウンタラデッタ・ソウテンアンジャクコウテン・ハァアアアソワカ!!」

 一定量の厄が集まり、辺りに黒い閃光が迸った。

「…………」
 周りに誰もいない事を確認してから、また雛は回り始める。

「……あれには近寄れないわねぇ」  

 木の陰から、人形遣いのアリスがそっと溜息をついた。















◇夢の話



 冥界の白玉楼。
 そこには西行寺家のお嬢様・幽々子と庭師の妖夢が住んでいる。

「──という訳で、目の前においしそうなご飯があってもなぜか食べられないのです!
 もう悔しくて悔しくて……」

 変な箱に閉じ込められて
 飛び出たところでは絵が宙で躍り
 変な格好をした二人が変な話ばかり続けている

 真っ白い壁の無骨な建物
 見た事ない食べ物 植物 明かり窓
 眠ってしまって次に起きたら 前には自分とそっくりな女の子が!

 朝ご飯を食べながら、先程から妖夢は今朝見た夢の話を続けている。
 幽々子は頷きながら、予備の釜飯を黙々とよそっていた。

「──という訳で、目が覚めました」
「不思議な話ねぇ」

 話が終わって、二人はお茶を飲む。
 ……妖夢は少々、不思議に思った。
 なんでこんなくだらない夢の話を、お嬢様は最後まで聞いてくれたのか。

 訊ねてみても、面白かったわよ、としか言わなかった。

「──おはよう。あら、ご機嫌は如何? 庭師さん」

「あ……お、おはようございます」
「あらあら。私は無視なのかしら紫ちゃん」
「貴方は顔を見ただけでごきげんと解るわねぇ」

 急にスキマから出てきた紫が、挨拶を交わす。

「今、妖夢から夢の国のお話を聞いていたの」

「ふふ、そうなの。それは興味深いお話ねぇ」
「えー……と。でも、所詮、夢の話ですよ?」

「ええ。だからオモシロク」「──キョウミブカイのよねぇ」

 二人が、うふふふふ、と笑って──同時に妖夢の方にふりむいた。


 夢か現か幻か。
 自分では夢だと想っていたものが、他人は現実だと想っている事もある。
 
 貴方の現実は、私の夢であり、私の夢は、貴方の現実である
 さあ、夢を現実に、現実を夢に変えてみよう

 さすれば夢現の意識の狭間から、幻想への招き手が伸びてくるかもしれない

 
  
   
 













 
 ぼー……っとしていると気持ち良いです。


 これから読む方 → 東方のアンニュイな小話です。あくびや深呼吸のお供にどうぞ。

 もう読まれた方 → お疲れ様です。軽く腕でも伸ばしながら、ぼんやりと頭休めに。

 前のも読んだ方 → いつも有難うございます。次回、一つの節目としてお送りします。
  
ネコん
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
哀れキスメw

頂点とは唯一であり、唯一とは他がないことを指しますからね
天子はいつ地に堕ちる事が出来るのか
2.万葉削除
相変わらずの含み具合。お茶のお供……と思いましたが時間が時間なので明日また読ませて頂きます。小話大好きです!
さてさて、衣玖さんの記事が載った文々。新聞はいつ出やるのでしょう?
3.名前が無い程度の能力削除
ん?魔理沙が羽衣を持っている…衣玖さんはいきなり温泉から出てくる…
はっ!ってことは衣玖サン現在スッパ(ぴちゅーん

タオル巻いてるんですねわかります
4.GUNモドキ削除
取りあえず射命丸さんには写真を焼き増ししていただきたいです。

あと、厄神様はスーパー系www
5.名前が無い程度の能力削除
羽衣を取られると結婚しなければならないとか何とか
……まさか!?
6.岩山更夜削除
キスメに吹きましたw
そして、天子の話にうまいなぁ、と驚嘆。

射命丸さんはいくら払えば写真を焼き増ししてくれるんでしょうか?