「ねえ、静葉姉さん……秋はまだかしら?」
「穣子ったらボケちゃったの? 今は初夏よ」
「そんなのわかるわよ」
「それなら良かった。てっきり夏も春も区別つかなくなっちゃったのかと思ったわ」
穣子は、そんなわけないでしょと思わず心の中でつぶやく
「それはさておき、穣子。秋はもうすぐよ」
「すごく唐突過ぎ!」
「そう?」
「唐突過ぎよ。もっと……こう、前フリってのがあるでしょ」
「ないわ。そんなの」
きっぱり言い放つ静葉
「……で、秋が近いからどうするの?」
あきらめた穣子は、ふうとため息をついて姉を見る
「いい質問よ。さすが私の妹だわ」
「はぁ……」
「あら、だめよ。そんなため息をついたら幸せが逃げていってしまうわ」
「幸せね……もう逃げていっちゃったんじゃないの?」
「大丈夫! もうすぐ秋が来るわ」
「あのさぁ。それなんだけど……」
「なあに?」
「秋って夏の後に来るものでしょ?」
「当たり前じゃない。穣子ったらやっぱりボケたの?」
「ボケてない!」
「あら、ボケてる人ほどそう言う物よ」
「んじゃあ、私ボケたのよ」
「なんだ、やっぱりそうだったのね。仕方のない子ね」
「……待てぃ、この枯葉」
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「……で、結局何が言いたかったの? お姉さんに言ってごらんなさい」
「あのね……秋の前には夏があるのよ。静葉姉さん」
「そんなの当たり前じゃない。もう穣子ったらボケたの?」
「ボケてない!」
「ボケてる人ほどそう言う物よ」
「んじゃ私ボケたの……って何度言わすのよっ!?」
「知ってるわよ。秋の前には夏があるわ。とても暑くて苦しい夏がね」
「はぁ……」
思わずうなだれる穣子だった
そんなこんなで、もうすぐ夏がやってくる
暑くて苦しい夏だ
二人は夏はあまり好きではない
むしろ秋以外は好きではないのだが、特に夏は苦手なのだ
なによりまず暑い。そして湿気が多く不快指数が高い
だがしかし、この苦しい夏を乗り越えれば
二人に楽園が待っているのだ
このすばらしき世界、理想郷にたどり着くまでもうしばらくの辛抱だ
そう言い聞かせて二人は少ししっとりとした落ち葉の寝袋へ再びもぐった