☆文化水準とか、そういう細かいことは問題ではないと思います☆
☆それでもよろしければ☆
彼岸のとある一軒家で閻魔が目を覚ます。
うんっと伸びをして、できる限りゆっくりと静かにベッドを出る。役目を果たせなかった目覚ましの頭を軽く撫でる。
「ふむ、今日もいい天気ですね」
カーテンを開き、満足げに青空を見上げる映姫。
「さて、いろいろ済ませてしまいますか」
映姫はエプロンを着け、気合いを入れる。
調理というものは、とかく手際が勝負である。火をおこし、時間の経過に任せられる工程は別の作業の合間に挟み込んでいく。
火の通りにくい物は先に、そうでない物は後に回す。
味は薄めに付けて、足りなければ足す程度。薄めるよりも濃くする方が手間はかからない。残り火でお湯を沸かしておけば、珈琲も待たずに飲める。
出来上がった弁当を布で包んで、映姫はにっこりと微笑む。
朝食は、昨日の夕食の残りと、多めに作った弁当用の総菜で。
新聞に目を通しながら、優雅な朝食。
小食な映姫は、残ったおかずにラップを掛ける。
次はアイロンがけ。
仕事着にハンカチ、靴下。手早くアイロンを掛けていく。自分が着ない分はハンガーに。
余勢を駆って、夏物の私服も一気に始末してしまう。
閻魔という職に就く映姫は、身だしなみにも妥協しない。
余った時間を利用して、庭の手入れに移る。
最近手に入れたピーマンとフルーツトマトの出来映えに喜び、つぼみを付けた紫陽花に心を馳せる。
秋を待つ躑躅を丹誠込めて剪定し、庭の隅に作られた菜園に根菜の種を蒔く。
名に冠する四季が、ここには確かにあった。
庭いじりでかいた汗を流し、本格的に出かける準備を開始する。
ヘアメイクと化粧を開始。とはいえ、髪は短く化粧にもこだわりのない映姫。
梳かしながら髪を乾かし、化粧水とファンデーションで整えて紅を引くだけ。
軽めに香水を振りかければ、いつもの閻魔が完成する。
仕事道具の確認をしてから、映姫はベッドの方向へ視線を向けて。
温もりとの別れを惜しむような表情を浮かべる。
「さあ、行きますか」
※
※
※
始業後まもなく、部下の死神がぱたぱたと走ってくるのが見えた。
「四季様~」
そちらを見ないように務めながら、自らの執務室へ向かう。
死神は、そんなことにはお構いなしで映姫との距離を縮めてくる。
「待って下さいよ~」
歩幅の違いは、移動速度にも大きな影響を与えたようで、案外あっさりと死神が追いつく。
もしかしたら、距離を操ったのかもしれない。
「どうかしましたか、小町」
素知らぬ顔で問いかける。これからの会話の流れを殆ど把握しているにもかかわらず。
「四季様に、一言文句を言いたくて」
「就業時間中に、わざわざ此方までやって来る理由としては、いささか弱い気もしますが。貴女の仕事は船頭でしたよね、確か」
グッと言葉を詰まらせる小町。
「う、それを言われると弱っちゃうんですけど」
「分かっているなら仕事に戻ること。それが今、貴女にできる善行です」
「は……いやいや! 誤魔化されませんよ。毎日毎日これじゃ、あたいの心臓が持ちません。今日こそは言わせてもらいます」
小町は覚悟を決める。
映姫にしても、小町との会話を楽しんでいたい気持ちはあるものの、仕事は映姫を待ってはくれないので、名残惜しいがこれ以上余計な茶々入れはしない。
「四季様」
「起こしてくれないのは仕方ないにしても、目覚ましを止めるのはやり過ぎです」
☆それでもよろしければ☆
彼岸のとある一軒家で閻魔が目を覚ます。
うんっと伸びをして、できる限りゆっくりと静かにベッドを出る。役目を果たせなかった目覚ましの頭を軽く撫でる。
「ふむ、今日もいい天気ですね」
カーテンを開き、満足げに青空を見上げる映姫。
「さて、いろいろ済ませてしまいますか」
映姫はエプロンを着け、気合いを入れる。
調理というものは、とかく手際が勝負である。火をおこし、時間の経過に任せられる工程は別の作業の合間に挟み込んでいく。
火の通りにくい物は先に、そうでない物は後に回す。
味は薄めに付けて、足りなければ足す程度。薄めるよりも濃くする方が手間はかからない。残り火でお湯を沸かしておけば、珈琲も待たずに飲める。
出来上がった弁当を布で包んで、映姫はにっこりと微笑む。
朝食は、昨日の夕食の残りと、多めに作った弁当用の総菜で。
新聞に目を通しながら、優雅な朝食。
小食な映姫は、残ったおかずにラップを掛ける。
次はアイロンがけ。
仕事着にハンカチ、靴下。手早くアイロンを掛けていく。自分が着ない分はハンガーに。
余勢を駆って、夏物の私服も一気に始末してしまう。
閻魔という職に就く映姫は、身だしなみにも妥協しない。
余った時間を利用して、庭の手入れに移る。
最近手に入れたピーマンとフルーツトマトの出来映えに喜び、つぼみを付けた紫陽花に心を馳せる。
秋を待つ躑躅を丹誠込めて剪定し、庭の隅に作られた菜園に根菜の種を蒔く。
名に冠する四季が、ここには確かにあった。
庭いじりでかいた汗を流し、本格的に出かける準備を開始する。
ヘアメイクと化粧を開始。とはいえ、髪は短く化粧にもこだわりのない映姫。
梳かしながら髪を乾かし、化粧水とファンデーションで整えて紅を引くだけ。
軽めに香水を振りかければ、いつもの閻魔が完成する。
仕事道具の確認をしてから、映姫はベッドの方向へ視線を向けて。
温もりとの別れを惜しむような表情を浮かべる。
「さあ、行きますか」
※
※
※
始業後まもなく、部下の死神がぱたぱたと走ってくるのが見えた。
「四季様~」
そちらを見ないように務めながら、自らの執務室へ向かう。
死神は、そんなことにはお構いなしで映姫との距離を縮めてくる。
「待って下さいよ~」
歩幅の違いは、移動速度にも大きな影響を与えたようで、案外あっさりと死神が追いつく。
もしかしたら、距離を操ったのかもしれない。
「どうかしましたか、小町」
素知らぬ顔で問いかける。これからの会話の流れを殆ど把握しているにもかかわらず。
「四季様に、一言文句を言いたくて」
「就業時間中に、わざわざ此方までやって来る理由としては、いささか弱い気もしますが。貴女の仕事は船頭でしたよね、確か」
グッと言葉を詰まらせる小町。
「う、それを言われると弱っちゃうんですけど」
「分かっているなら仕事に戻ること。それが今、貴女にできる善行です」
「は……いやいや! 誤魔化されませんよ。毎日毎日これじゃ、あたいの心臓が持ちません。今日こそは言わせてもらいます」
小町は覚悟を決める。
映姫にしても、小町との会話を楽しんでいたい気持ちはあるものの、仕事は映姫を待ってはくれないので、名残惜しいがこれ以上余計な茶々入れはしない。
「四季様」
「起こしてくれないのは仕方ないにしても、目覚ましを止めるのはやり過ぎです」