太陽が真上に、ヒマワリも真上に向いたころ、幽香は霧雨邸に出かけた。お気に入りの傘で、太陽の弾幕をはじきながら。
霧雨邸に到着し、傘をたたんで扉をノックしようと手を上げると、家の中から声が聞こえてきた。
幽香はノックをしようとしていた手を止め、耳をそばだてた。
声の主は、アリスだった。
怒気を含んだ声が扉越しに響いてくる。
やがてその声が止まり、足音が幽香の元へ近づいてきた。それを感じ取ると幽香は扉から離れ、死角に身を隠した。
飛んで行くアリスを見ながら、なぜ自分は隠れたのだろう、隠れるようなやましいことをしていたのか。そう幽香は自問していた。
その問いに対する答えが出ないまま、再び霧雨邸の前に立つ。
扉は、開いていた。
ノックをするために強く握っていた手から力が抜け、中の様子を見るために今度は目に意識が向いた。
中では魔理沙が床に座り込み、割れた食器を片づけていた。
その雰囲気はとても気安く声をかけられるような雰囲気ではなかった。
一呼吸。その様子を眺め、開いた扉をノックした。
コンコン
「あらやだ、こんな真昼間から痴話げんか?若いわね」
幽香はいつもの微笑を崩さず、魔理沙を見下ろした。
「関係ないだろ」
魔理沙は一度だけ幽香に目をやると、再び床に向かった。
「ま、いいわ」
家の中に入り、適当に腰をかけながら片づけを続けている魔理沙を眺めていた。
「で、何か用か?私は見ての通り多忙なんだ」
「特に用事はないわ。森の上を通ってたら人形使いの娘が飛び出てきて、どうしたのかと思って見に来ただけよ」
表情は、変わらない。
「野次馬か、帰れよ」
魔理沙は意に介さず床を片づけている。
「来客だというのに、ここはお茶も出さないのかしら?」
「……飲んだら帰れよ」
片づけを中断し、立ちあがった。魔理沙が台所に向かったのを確認した幽香は、魔理沙がさっきまで座り込んでいた床に座り、割れた食器を片づけ始めた。
魔理沙がお茶を入れて戻ってくるころには、床はすっかり片づけられていた。
「余計なことするなよ」
「散らかっているのを見ながら飲むお茶なんて美味しくないでしょ?」
「……ありがとう」
「あら、かわいい」
「からかうなよ」
「ふふふ……」
それから魔理沙はアリスに対する愚痴を並べた。やれわがままだの、自分の価値観を押し付けるだの。
それを、幽香は微笑んだまま聞いていた。机の下の手は固く握られていたが、顔には決して出さなかった。
本人に悟られるのだけは、彼女のプライドが許さなかったのだ。
ポッドのお湯が冷めた頃、幽香は席を立った。
「そろそろお暇しようかしら」
「そうか、長話につき合わせて悪かったな」
「いいのよ。私からここに来たんだから」
「今日は何か用事があったんじゃなかったのか?」
「……今日はもういいわ」
魔理沙とともに玄関まで出てきた幽香は、一瞥した。
「じゃ、人形使いの娘と仲良くね」
「どうだかな」
幽香を見送った魔理沙は家に入る前に一度振り返り、扉を閉めた。
霧雨邸を後にした幽香は、家に帰るやベッドに突っ伏した。そのまま、時間にして数分間。幽香は自分が霧雨邸でとったらしからぬ行動について考えていた。
言い訳なんてせずに、会いに来たって言えばよかったのに。
ベッドから体を起こして思い出すのは、アリスの事を楽しそうに話す魔理沙の顔。
それが、幽香にはたまらなく眩しく見えた。
窓から外を見るとヒマワリが、沈みかけている太陽に向かって顔を向けていた。
「私も、あなたと同じように太陽に片思いすることしかできないのかしら」
だんだんと滲んでいくヒマワリを眺めながら、呟いた。
室内に響くのは、自分の嗚咽をする音だけだった。
暗くなっていく世界。幽香もまた、その暗くなっていく世界に落ちていった。
頬に一筋の線を残して。
自分としては読みやすかったです。
幽香⇒魔理沙⇔アリス
ってな感じかな?
次回もすごく気になる自分がいますw
ありがとうございます。
乙女っていいですよね。
>2さん
頑張ってください!
>ふぶきさん
そんな感じです。
とりあえず次で終わらせようと思っています。
>4さん
そうですね……なってほしいですね……
コメントありがとうございました!もう一つだけ書いて終わらせようと思います。