◇子供の話
寺小屋。
人間が住む小さな里にある、小さな学舎である。そこでは半獣の慧音が、人間の子供たちに歴史を教えていた。
「────そして幻想郷は人の世から隔離された。
先程まで話した事の通り、様々な要因がこの時代に重なっていたのがわかると思う。
さて、今日はこれで終わりだ。明日からは大結界が張られた以後の幻想郷の事を勉強しよう」
日直の子供が、きりつ、きょうつけ、れい、と号令を発し、
ありがとうございました、と全員の声が唱和される。
「けーねせんせー」
慧音の授業をうける生徒の中でもひときわ小さい子供が、教科書を整理している彼女を呼んだ。
「せんせーは、なんでコドモにベンキョーおしえるの?」
おもに人の子供に授業を行う事に対する疑問だろう。この質問は時折親から聞かれる。
だから答えも用意されていたが──慧音はこの子に合わせてわかりやすい言葉を選ぶことにした。
「それは、先生も子供だからだよ」
「せんせーが、こども?」
「ああ、みんなこの幻想郷の子供さ。だから、一緒に歴史を勉強したいんだ」
「うーん?」
首をかしげる子供を見て慧音は苦笑する。やはり、わかりやすく言うのは難しい。
「さて、お腹が減ったな。一緒にお弁当でも食べよう」
「うん!」
慧音が昼食に誘うと、子供は嬉しそうに頷いた。
◇指示の話
境界の家。
結界の狭間にあるその家に、大妖怪・八雲紫とその式神である八雲藍が住んでいた。
「────いい? 東の境の波長が甘くなっているからそれを補修して、
それから冥界の境もいつも通りに。また最近外から入ってくる物品に
猛毒ガスが含まれてるのがあるから、それも見つけたら処分してそれから」
「はい。はい」
藍が、宙に浮かせた式紙に律儀に書き取らせていく。
「家の掃除は満遍なく。お夕飯はハンバーグがいいわ。目玉焼き乗せた熱々の。
迷い込んだ人間は迷い家に送りこんで橙にじゃれつかせておきなさい。日課の巫女の退治を忘れないこと。
全ては計画通り。早くこいつ何とかしないと」
「また寝言ですか」
藍が、布団の中にいる紫の鼻をつまんで黙らせる。
そして寝言表と書かれたファイルに紙を閉じた。
◇成功の話
玄武の沢。
かって溶岩が固まってできたその岩場は所々六角形の溝があり、まるで亀の甲羅のように見える。
「夏場はやはり、この辺りは涼しいな」
魔理沙が魔法の素材を集めるため、水場を歩いていた。
「大分集まったし、ここらで一つ実験でもしてみよう」
メモを片手に、岩場のくぼみを使ってゴリゴリと魔法の元を調合する。
「上手くいかなくても、まだまだあるしな」
早速試したそれは、一度で昼間の光を屈折させ、それを浴びた洞窟内の光苔が輝いた。
「──お! 今日はうまくいったな。これであの三馬鹿妖精に馬鹿にされずにすむ」
魔理沙が上機嫌で去っていく。
岩場のくぼみでは、そこに隠れていた三妖精が頭を押さえて震えていた。
成功とは運である。だが、成功を続けたい場合は、前の成功をきちんと確認する必要がある。
もしかしたら、それは自分の力によるモノではないかも知れないからだ。
◇同志の話
旧都。
地底に存在するそこには、多くの鬼達が住んでいる。
「いやぁ、久しぶりだねぇ勇儀。ぷふぁ、ぱふぁ!」
「いやもう、そのとおり萃香。この前力試しした人間がおぷふぁ!」
「いやいや良いって良いってそんなに謙遜しなくても水くさいよほふぅー」
「あっはっはっはっは! そりゃ酒くさいよ! そぉれ、無礼講だ、あちぃあちぃー! あひゃひゃっ!」
「────あははは! ●●が××じゃあはははははは!」
「────そっちこそ▼▼が××だろうははははははは!」
鬼の酒宴は続く。
真の同志には言葉は必要ないものなのだろう。
◇隠れる話
霧の湖。
そこでは、チルノがある妖怪を探していた。
「レティー」
「…………」
「レティレティー」
「…………」
「レティは寒いのが好きだから、もっと冷やせば、きっと見つかる筈ね!」
その後、チルノいくら辺りを冷やそうとも、レティが現れる事は無かった。
所変わって、
「うふ……」
「うふふふ……」
「ねえ、姉さん……」
「え……? なぁに………」
「いつか、また私達の季節(秋)が来るよね……」
「ええ……、きっと……、来るはずよ……いつかきっと……」
幻想郷では、ある時季が過ぎると姿が見えなくなる者もいる。
隠れんぼをしている彼女らを発見した時は、見つけた、と楽しげに声をかけてみるのもよいだろう。
◇寛ぐ話
白玉楼。
冥界にある、西行寺家のお屋敷である。そこでは日々庭師の妖夢が働いていた。
「ふぁ……むん」
少し疲れがたまっていたのだろうか、休憩の時間、彼女はつい縁側で横になってしまった。
そこにふわふわと幽々子が通りかかる。
「……──はっ!」
「あらあら」
まどろんでいた妖夢の目が覚めて、幽々子に膝枕されている事に気がつき、慌てて起き上がろうとする。
「あら、駄目よ」
「ふみゅ!」
妖夢の頭が膝に押さえつけられる。
「私はくつろいでいるの。だからあなたも動いてはいけないわ妖夢」
「は、はあ……」
気恥ずかしそうに身をよじる妖夢。それを穏やかに眺めながら、幽々子はその髪をゆっくりと撫でた。
◇巫女の話
博麗神社。
そこの境内で、紅と白の衣を纏った少女が、くるりくるりと舞っていた。
「…………」
古くから神道において、神との和をたもつ──神和ぎ(かんなぎ)という儀式が行われていた。
この中で特に、神を自らの体に宿すこと、すなわち神降ろしをするものを、巫(かんなぎ)という。
巫をする女、これが巫女である。(ちなみに男は覡。読み方も巫と同じかんなぎ……かむなき、とも読む)
巫女に必要な要素として、占い・神遊・寄絃・口寄の四つがあげられる事がある。
この中で神遊──これは神楽と言い換えた方が、馴染み深いだろうか。
巫女による神と舞い遊ぶこの踊りは特に人気があり、神だけでなく多くの人間を魅了した。
これは形を変えて、外の世界でも多くの文化をもたらすと共に、現在は巫女の主要な務めともなっている。
さて、肝心の神降ろしの方は……神の力も弱まり、人の力が高まる頃に否定されてしまった。
これは幻想郷に結界が張られた頃と重なる。神降ろしはそれより外の世界では公式に行われる事は無い。
そういった意味では、いまだ全ての要素を併せもつ幻想郷に住む博麗の巫女こそが、唯一と言って良いだろう。
──巫女はすでに幻想の生き物なのだ。
「…………」
しゃらりしゃらり、鮮やかに、跳ねるように──日頃の努力と研鑽が、実を結ぶ。
普段そういった姿を見せない彼女も、今はとても真剣だ。
誰も見ていない時に、いつも練習を重ねているのだろう。
朝日を浴びて、美しく髪が流れ、肢体に玉のような汗が伝う。
踊るように、遊ぶように、とても楽しそうに────少女は神と舞う。
「こらぁー!」
神社の奥から、寝起きの霊夢が声をあげた。
「いかん。ばれた」
霊夢の巫女服を身につけたまま、魔理沙が走っていった。
寺小屋。
人間が住む小さな里にある、小さな学舎である。そこでは半獣の慧音が、人間の子供たちに歴史を教えていた。
「────そして幻想郷は人の世から隔離された。
先程まで話した事の通り、様々な要因がこの時代に重なっていたのがわかると思う。
さて、今日はこれで終わりだ。明日からは大結界が張られた以後の幻想郷の事を勉強しよう」
日直の子供が、きりつ、きょうつけ、れい、と号令を発し、
ありがとうございました、と全員の声が唱和される。
「けーねせんせー」
慧音の授業をうける生徒の中でもひときわ小さい子供が、教科書を整理している彼女を呼んだ。
「せんせーは、なんでコドモにベンキョーおしえるの?」
おもに人の子供に授業を行う事に対する疑問だろう。この質問は時折親から聞かれる。
だから答えも用意されていたが──慧音はこの子に合わせてわかりやすい言葉を選ぶことにした。
「それは、先生も子供だからだよ」
「せんせーが、こども?」
「ああ、みんなこの幻想郷の子供さ。だから、一緒に歴史を勉強したいんだ」
「うーん?」
首をかしげる子供を見て慧音は苦笑する。やはり、わかりやすく言うのは難しい。
「さて、お腹が減ったな。一緒にお弁当でも食べよう」
「うん!」
慧音が昼食に誘うと、子供は嬉しそうに頷いた。
◇指示の話
境界の家。
結界の狭間にあるその家に、大妖怪・八雲紫とその式神である八雲藍が住んでいた。
「────いい? 東の境の波長が甘くなっているからそれを補修して、
それから冥界の境もいつも通りに。また最近外から入ってくる物品に
猛毒ガスが含まれてるのがあるから、それも見つけたら処分してそれから」
「はい。はい」
藍が、宙に浮かせた式紙に律儀に書き取らせていく。
「家の掃除は満遍なく。お夕飯はハンバーグがいいわ。目玉焼き乗せた熱々の。
迷い込んだ人間は迷い家に送りこんで橙にじゃれつかせておきなさい。日課の巫女の退治を忘れないこと。
全ては計画通り。早くこいつ何とかしないと」
「また寝言ですか」
藍が、布団の中にいる紫の鼻をつまんで黙らせる。
そして寝言表と書かれたファイルに紙を閉じた。
◇成功の話
玄武の沢。
かって溶岩が固まってできたその岩場は所々六角形の溝があり、まるで亀の甲羅のように見える。
「夏場はやはり、この辺りは涼しいな」
魔理沙が魔法の素材を集めるため、水場を歩いていた。
「大分集まったし、ここらで一つ実験でもしてみよう」
メモを片手に、岩場のくぼみを使ってゴリゴリと魔法の元を調合する。
「上手くいかなくても、まだまだあるしな」
早速試したそれは、一度で昼間の光を屈折させ、それを浴びた洞窟内の光苔が輝いた。
「──お! 今日はうまくいったな。これであの三馬鹿妖精に馬鹿にされずにすむ」
魔理沙が上機嫌で去っていく。
岩場のくぼみでは、そこに隠れていた三妖精が頭を押さえて震えていた。
成功とは運である。だが、成功を続けたい場合は、前の成功をきちんと確認する必要がある。
もしかしたら、それは自分の力によるモノではないかも知れないからだ。
◇同志の話
旧都。
地底に存在するそこには、多くの鬼達が住んでいる。
「いやぁ、久しぶりだねぇ勇儀。ぷふぁ、ぱふぁ!」
「いやもう、そのとおり萃香。この前力試しした人間がおぷふぁ!」
「いやいや良いって良いってそんなに謙遜しなくても水くさいよほふぅー」
「あっはっはっはっは! そりゃ酒くさいよ! そぉれ、無礼講だ、あちぃあちぃー! あひゃひゃっ!」
「────あははは! ●●が××じゃあはははははは!」
「────そっちこそ▼▼が××だろうははははははは!」
鬼の酒宴は続く。
真の同志には言葉は必要ないものなのだろう。
◇隠れる話
霧の湖。
そこでは、チルノがある妖怪を探していた。
「レティー」
「…………」
「レティレティー」
「…………」
「レティは寒いのが好きだから、もっと冷やせば、きっと見つかる筈ね!」
その後、チルノいくら辺りを冷やそうとも、レティが現れる事は無かった。
所変わって、
「うふ……」
「うふふふ……」
「ねえ、姉さん……」
「え……? なぁに………」
「いつか、また私達の季節(秋)が来るよね……」
「ええ……、きっと……、来るはずよ……いつかきっと……」
幻想郷では、ある時季が過ぎると姿が見えなくなる者もいる。
隠れんぼをしている彼女らを発見した時は、見つけた、と楽しげに声をかけてみるのもよいだろう。
◇寛ぐ話
白玉楼。
冥界にある、西行寺家のお屋敷である。そこでは日々庭師の妖夢が働いていた。
「ふぁ……むん」
少し疲れがたまっていたのだろうか、休憩の時間、彼女はつい縁側で横になってしまった。
そこにふわふわと幽々子が通りかかる。
「……──はっ!」
「あらあら」
まどろんでいた妖夢の目が覚めて、幽々子に膝枕されている事に気がつき、慌てて起き上がろうとする。
「あら、駄目よ」
「ふみゅ!」
妖夢の頭が膝に押さえつけられる。
「私はくつろいでいるの。だからあなたも動いてはいけないわ妖夢」
「は、はあ……」
気恥ずかしそうに身をよじる妖夢。それを穏やかに眺めながら、幽々子はその髪をゆっくりと撫でた。
◇巫女の話
博麗神社。
そこの境内で、紅と白の衣を纏った少女が、くるりくるりと舞っていた。
「…………」
古くから神道において、神との和をたもつ──神和ぎ(かんなぎ)という儀式が行われていた。
この中で特に、神を自らの体に宿すこと、すなわち神降ろしをするものを、巫(かんなぎ)という。
巫をする女、これが巫女である。(ちなみに男は覡。読み方も巫と同じかんなぎ……かむなき、とも読む)
巫女に必要な要素として、占い・神遊・寄絃・口寄の四つがあげられる事がある。
この中で神遊──これは神楽と言い換えた方が、馴染み深いだろうか。
巫女による神と舞い遊ぶこの踊りは特に人気があり、神だけでなく多くの人間を魅了した。
これは形を変えて、外の世界でも多くの文化をもたらすと共に、現在は巫女の主要な務めともなっている。
さて、肝心の神降ろしの方は……神の力も弱まり、人の力が高まる頃に否定されてしまった。
これは幻想郷に結界が張られた頃と重なる。神降ろしはそれより外の世界では公式に行われる事は無い。
そういった意味では、いまだ全ての要素を併せもつ幻想郷に住む博麗の巫女こそが、唯一と言って良いだろう。
──巫女はすでに幻想の生き物なのだ。
「…………」
しゃらりしゃらり、鮮やかに、跳ねるように──日頃の努力と研鑽が、実を結ぶ。
普段そういった姿を見せない彼女も、今はとても真剣だ。
誰も見ていない時に、いつも練習を重ねているのだろう。
朝日を浴びて、美しく髪が流れ、肢体に玉のような汗が伝う。
踊るように、遊ぶように、とても楽しそうに────少女は神と舞う。
「こらぁー!」
神社の奥から、寝起きの霊夢が声をあげた。
「いかん。ばれた」
霊夢の巫女服を身につけたまま、魔理沙が走っていった。
しかし、言われて見れば巫女も既に幻想なんですよねぇ
一杯食わされた気分です
相変わらずまったりな作品、GJです
巫女の話で感慨を受け…
…ナニィ!←今ここ
しかしもう50話ですか…おめでとうございます!
これからも続いていくことを願っておりますw
これはもうお見事というしか
どこかで聞いたような台詞……w
個人的に幽々子の話が好きですな
今回はどれも面白くて甲乙付けられませんねぇ。
取りあえず、鬼は日本語を喋りましょう、ここは幻想郷ですwww
え? 鬼語? ・・・・・・それなら仕方ありませんね。
そして巫女よりも巫女らしい魔法使いに乾杯です。
最後に一言、秋姉妹頑張れ、超頑張れ。