Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

レミリア・スカーレットはもういない

2009/05/31 18:16:24
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 霧の湖に浮かぶ島、そこに建つ紅に染められた館こそ名の通り紅魔館。恐るべき力持つ
吸血鬼の住処だ。その館の奥深く、玉座と呼ぶに相応しい豪奢な椅子に座る幼い影。
どこか所在なさげに脚をぶらぶらとさせる、その娘こそ当主『フランドール・スカーレット』
である。

「咲夜」

「はい、ただいま」

 音もなくフランドールの傍らに現れたのはメイド長、時を操る『十六夜 咲夜』。

「紅茶を」

「かしこまりましたお嬢様」

 そういうと一瞬で姿が掻き消える。時を止めて移動したのだろうか。フランドールが
溜息をつくと共に、鼻腔をくすぐる紅茶の香り……いや、違う、カカオの香り?

「お待たせしました」

「うん」

 全く待たせてはいないのにそう言うメイドにそっけなく答え、カップに口をつける。
やはり中身はホットチョコレートだった。

「咲夜。これ……」

「はい、”SWISS MISS”社のココアですわ」

「……そう」

 紅茶とはあまりに違う甘ったるい液体。しかし文句一つ言わずに飲み始めるフランドール。
カップの中ほどまで中身を減らしたあと、傍らにたたずむメイド長に話しかける。

「ねぇ、咲夜」

「はい」

「……今さっきみたいな場合、お姉様ならなんて言ってた?」

「そう、ですね……」

 しばし黙考する咲夜。

「やはり、今のお嬢様のようになさったと思いますわ」

「そう」

 その言葉を受けて小さく頷きつつ、またココアをすするフランドール。しばらく、
その音だけが広い部屋にかすかに響くだけ。

「ねぇ、咲夜」

「はい」

「私、どうしたらいいんだろ」

 そう言って、ふっと遠くを眺める。小さく、しかし苦悩がにじみ出る声で語りかける
幼き当主。吐く溜息の甘い香りは、裏腹の苦い苦い思いを隠しているのか。

「どうしたら、といいますと?」

 聞き返す咲夜ではあるが、フランドールの想いは理解している。それでも間違い
なきように聞き返すのはメイド長としてのあり方であろう。

「お姉様がいなくなって、私がここの当主になった。でもね咲夜、私とても不安なの。
がんばらなきゃ、って思ってる。思っても何をすればいいか全然わかんない。お姉様みたいに
振舞ってもお姉様みたいにちゃんとできてるかわかんない。どうすればいいの? 
どうすればいいの? わかんない、わかんないよ。でも、わ、私が紅魔館の主だから。
がんばらなきゃ、がんばらなきゃ、がんばらなきゃ……」

「お嬢様」

 どこか少し常軌を逸した雰囲気、蒼白な顔で繰り返すフランドール。その肩に優しく
手が置かれた。はっとして見上げる先に、瀟洒な従者の優しい顔。

「いいのですよ、お嬢様はお嬢様のままで」

「さく、や……?」

「私たちはレミリア様の代りでお嬢様を主と決めたのではありません。皆がお嬢様こそ紅魔館の
主に相応しいと思ってその玉座に貴女を座らせたのです。ですから何も全て、レミリア様の
ようである必要はないのですよ」

「け、けど!」

 言葉を告げるより早く、咲夜は恭しくかしずきフランドールの柔い手を優しく握る。

「いいんですよ、わからなくてもいいんです。その為に私が居ます。……頼ってください。
何でも聞いてください。一緒に、解決しましょう」

「咲夜……」

 放心しているようだが、落ち着きは取り戻したフランドール。にこりと微笑みかける
咲夜の顔を見て、ようやく安心したようだ。ところが、
「ふーん。抜け駆けなんてずるいわね」
とどこか湿った重たげな声。

「パチェ!」

「あら、パチュリー様」

「おはよう、フラン。ついでに咲夜」

 玉座の間に現れたのは七曜の魔女にして紅魔館の図書室の主、『パチュリー・ノーレッジ』で
ある。今ではフラン、パチェと呼ぶ仲だ。以前レミリアがそうしていたかのように。

「ついでとはずいぶんですわ、パチュリー様」

「ずいぶんにもなるわ。私を差し置いて何でも聞けだなんて」

 いつもと同じような眠そうな顔でも、ぷうっと頬を膨らませていれば不機嫌そうなのは
誰しも分かる。しかしその表情にはいくばくかのおどけた色も見え隠れしていた。

「フラン、こう見えて咲夜は意外とド天然だからね。あまり信用しすぎてはダメよ」

「そうなの?」

「まぁ酷い、パチュリー様」

 フランドールの視線が咲夜とパチュリーの間を行ったり来たりする。その可愛らしい姿に
思わず二人の表情も笑みにほころぶ。

「もう! 笑わないでよ!」

 代わりにフランドールが可愛らしい声でちょっと拗ねだした。その横に移動するパチュリー。

「ごめんなさい。まぁ、そうね……つまりはね、私や咲夜、小悪魔だっていいわ。フラン、
あなたが何か分からない事があったとき、迷ったとき、助けが欲しいとき……いつでも
頼っていいの。レミィがそうしていたように」

「……お姉様も?」

「そうよ。だからフランにもそうしてもらいたい。それは皆の喜びに繋がるわ」

「そうなんだ……。じゃあ、そうする」

 うん、と小さく頷くフランドールに手向けられる微笑みは総じて優しい。パチュリーが続ける。

「そして私たちもあなたを頼るわ。さしあたって一つ、お願いしたいことがあるんだけれど、
いいかしら?」

「なに?」

 自分も頼りになることがあるのかと、フランドールは驚きつつも嬉しそうな顔を
パチュリーに向ける。

「できればあなたには笑顔でいて欲しい。私たちが辛く苦しい気持ちでいるときも、あなたの
笑顔が太陽のように温かく、月のように優しく照らしてくれれば、晴れやかな気持ちに
戻る事ができるわ。……レミィがそうであったように。そして多分そういうものをカリスマ、
って言うのだと思うわ」

 感情が幼いフランドールでも、パチュリーの瞳の奥の真剣な色は見てとれた。それは同時に
姉が笑顔で皆を支えていたことを心に直接伝えてくる。こくり、喉を鳴らすフランドール。
そして、
「笑顔……。こ、こうかな」
少しだけぎこちないけれど、それは確かに笑顔である。パチュリーが無言で微笑むのを見て、
フランドールの硬さが消えた。笑顔が100%のものに変わった。姉の自信溢れる笑みとはまた
少し違う、それはとても穏やかなもの。優しく、無邪気で、幼いながらもカリスマたる姿を
現す、それが今の紅魔館の主だ。

「いい笑顔よ、とても。……あなたもそう思うでしょ? 美鈴」

 パチュリーは突然門番娘の名を呼ぶ。普段なら門の前に立ちっぱなしの彼女がここに
いるわけがないはずだが……。

「ありゃ。ばれちゃいましたか」

「メイ!?」

 門番娘の愛称を叫んで、フランドールが驚くのも無理はない。ひょっこり玉座の間、
扉の影から姿を現すすらりとした長身。赤髪も美しき彼女こそ『紅 美鈴』。気を操り武術を
マスターした妖怪娘だ。そしてフランドールをこよなく愛するひとりでもある。

「いつからそこにいたの?」

 問うのは咲夜。

「実のところを言うと結構最初からです。いやー、だって咲夜さんもパチュリー様も、結構
ヌけてるところあるんですもん。フランドール様を泣かしたりしないかともう冷や汗もので
居ても立ってもいられずに」

「門番業務をサボってきたと」

「あ、いえ、まぁその」

 ふつふつと怒りを内ににこめた声を、ナイフのように投げかける咲夜におろおろ姿の美鈴。
助けを求めようにも、パチュリーの視線もロイアルフレア三秒前といった色合い。

「ふ、フランドール様ぁ」

「私泣いたりしないもん。メイなんかきらーい」

「そ、そんなぁ」

 最後の命綱のはずの主様にまでそっぽを向かれてがっくりと肩を落とす美鈴。そのあまりの
しょぼくれっぷりに美鈴以外の三人ともが吹き出す。笑い声が響けば、釣られて美鈴にも
その歓喜は押し寄せる。

 下がった顔を上げて、明るい表情で、こう言った。

「私も当然、咲夜さんも、パチュリー様も、フランドール様においても、みんなみんな
何かがちょっとずつ足りてないんです。でもそれは悲しいことではありません。全員で
それを補い合うことができるんですから」

 その言葉に大きく頷く咲夜、パチュリー。美鈴の言葉は続く。

「レミリア様は確かにいなくなってしまいました。けれど、四人力をあわせていけば大きな
困難にだって打ち勝てます! その姿を見せれば、きっとレミリア様もお喜びになるはずです」

 ぐっと拳を握り締め熱弁する美鈴。だが、その思いは間違いなく皆一緒だ。強く、明るく、
多少我儘ではあったけれども優しかったレミリアはもういない。それでも紅魔館が紅魔館として
あり続ける姿を見れば大いに喜ぶだろう。四人の視線の向こう側には、にっこりと微笑む
レミリアが映っているのだろう。

「そうだね、メイ」

「はいっ」

「咲夜」

「はい」

「パチェ」

「えぇ」

「お姉様が愛した紅魔館を、みんなで、みんなで守っていこう!」

 主となって以来一番の笑顔でそう宣言するフランドール。三人が答えの声を上げようとした
その時!

「ま、待って、待ってくださいよぅ! 私も混ぜてくださいってはにゃうんっ!?」

 どこかで聞き耳を立てていたであろう小悪魔。慌てて部屋に入ろうとしてつまずいて転んだ。
室内に居た全員がきょとんとした表情を浮かべ、一様に大爆笑。気まずい顔をしていた
小悪魔であったが、すぐにその笑いの輪に加わった。

 こんな笑顔が生まれるのなら、きっと上手くやっていく事ができる。レミリアが居たのなら
そう思うのだろうと、誰ともなく、誰しもがそう思いをはせた。













































「香霖いるかー? お邪魔するぜー」

 そう言いながら魔法の森のすぐ近く、香霖堂のドアを開けて入ってくるのは『霧雨 魔理沙』で
ある。かつて知ったる兄貴分、『森近 霖之助』の店は、いつものように静寂に満ちていた。

「相変わらず暗いなぁ」

 ぼやきつつ魔理沙はエプロンから小さな瓶を取り出す。その瞬間、魔理沙の周囲が明るい
光で包まれる。瓶の中身はヒカリゴケやツキヨタケのエキスに魔理沙特性の魔法をかけたもの。
効果はご覧の通りだ。

 その瓶を掲げながらカウンターへと向かう魔理沙。お目当ての人影を確認し声をかけようと
して……やめた。やれやれと肩をすくめ、きびすを返す。カウンターに座る霖之助は、
穏やかな顔をして眠っていたからだ。

「ほんとにお邪魔だったか」

 ぼやきながら静かに扉を閉める魔理沙。店の壁に立てかけていた箒にまたがり空を仰いで
またぼやく。

「あの場所は私のものだったのにな。ちぇっ」

 帽子を少し目深に被り、黒白の魔法使いの影は一気に蒼天へと消えていった。

 騒がしい少女が去って静寂が戻る香霖堂。魔理沙が見たように霖之助は暗い室内で静かな
寝息を立てている。いまや香霖堂の窓は光の一つも通さないよう外から塞がれている。その
暗い室内は確かに居眠りには適しているだろう。

 カウンターの席に腰掛け眠る霖之助。その膝にはもう一つ影がある。霖之助の胸に
寄りかかり静かな寝息の小さな姿。



 レミリアだ。

 紆余曲折あって彼女は香霖堂に住まうことになった。そう、彼女は霖之助の伴侶となったのだ。












 レミリア・スカーレットはもういない。そこにいるのは『森近 レミリア』なのだから。
 とあるカフェに立ち寄った私。

「コーヒーを」

 注文を聞いたウェイトレスが頷いて店の奥へと向かう。

 かすかに聞こえる優しく、少し悲しいジャズが私の耳を癒す。

 まどろみを誘う陽光の中聞き入っている私に、コーヒーが運ばれてきた。

 琥珀色の液体を収めた白磁のカップ。そして銀のスプーン。テーブルに置かれたのはそれだけ。

 あぁ、ここではブラックコーヒーのみしか出ないのかと、ウェイトレスに目をやる。

「こちらは、サービスで、お好きなだけどうぞ」

 視線に気付いたウェイトレスがテーブルの上に置いたのは砂糖袋1kg。

 微笑むウェイトレスに私も笑みを返す。

 私は袋を引き破り、そこにコーヒーを叩き込んだ。

 そして私はスプーンでコーヒー風味の砂糖をもっしゃもっしゃと口に運ぶのであった。








 まぁ、そういう話です。白でした。

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コメント



1.名前が無い程度の能力削除
よくわからん
2.K-999削除
霖之助好きな私ですら最後の展開には面食らっちまいました。
もしかしなくても死んでない? と思ってたらそうくるかw

ど、どういう経緯でそうなったんだぜ?
3.非共有物理対削除
「その心は超展開」ですね分かります
4.般若削除
もちろん後で霖之助とレミリアの馴れ初めを書いてくれるんですよね?
自分が言えたことではありませんが、どうしてそうなったのか理由が知りたいです
5.名前が無い程度の能力削除
あとがきでビール吹いたwww
6.名前が無い程度の能力削除
あwwwとwwwwwwがwwwwwきwwwww
7.名前が無い程度の能力削除
久々に凄まじい超展開を見た。
で、馴れ初めはまだかね?
8.七人目の名無し削除
れ・・・レミ霖だとぉ~~~!!!
『いなくなった』ってそういう事か。
しかし『森近レミリア』って響きがいまいちのような気がががが。
『レミリア・S・森近』とかの方がらしいかも?
まあ、それは気のせいとして、やはり私も「紆余曲折」の部分が気になります。

「何があったんだ?」
9.名前が無い程度の能力削除
オチよりあとがきの方がw
10.名前が無い程度の能力削除
森近姓になるまで、なにがあったのかが気になります
そしてあとがきはネタなのか実話なのかがもっと気になります(え)
11.名前が無い程度の能力削除
森近レミリアのくだりは正直オチとして微妙だと感じました
そこに至るまでの理由も経緯も何もなく結婚しました、という結果だけ見せられても・・・
すでに似たようなタイトル+オチで、脇役氏の「霧雨魔理沙が消えた日」と言う作品もあるので余計に

紅魔館組のやりとりは良かったので、オチに説得力を持たせるためにも省略された紆余曲折を書いた作品を期待します
12.名前が無い程度の能力削除
魔理沙が寝盗られたっぽくて切なくなった。

それと、なんだこのあとがきは。久しぶりに笑い転げたじゃないか。
13.斗無削除
う~ん…………
レミリアが「紅魔館」を捨て、苗字を変えるような事をするだろうか……?
それはシンボルである『紅』を捨てる事になる…
私は、プライドの高そうなレミリアがそんなことをする様に感じれなかったです。
あくまで私の勝手な偏見ですが。

でもフランや他のみんなが、温かくて優しい感じでよかったです。
14.名前が無い程度の能力削除
最近ごくたまにこーりん×レミを見かけるが何故だ……
本家香霖堂でそうゆう描写でもあったの・・・?

いや、別にそのカプを否定する気はないんですが、あまりにも唐突だったもので
15.名前が無い程度の能力削除
後書きで吹いたwww
16.名前が無い程度の能力削除
微妙
17.名前が無い程度の能力削除
後書きのほうが面白い・・・だと・・・?
登場人物を東方のキャラに置き換えていろいろ付け足せば完璧じゃないか?
18.名前が無い程度の能力削除
とりあえずレミリアがいなくなった経緯を知りたいなぁ。
あと、メイって呼称いいなぁ。