Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

こいしあい

2009/05/30 04:36:54
最終更新
サイズ
7.05KB
ページ数
1

分類タグ


「おはよう、お姉ちゃん。そして、お休み、お姉ちゃん」



 愛しい妹の声で目を覚ました私の視界に飛び込んできたのは、銀色に光るナイフだった。



 BAD END 05 「え、タイトル詐欺?」



 ――じゃないっ!?

 振り降ろされるナイフを持つ手をすんでの所で掴む。
 心の目を閉ざした妹が繰る心を持たぬ器物が額の僅か数cmの所で止まった。
 感情を持たぬソレは、けれど、明確な殺意を感じさせるように、輝いている。

 妖力ではなく、純粋な腕力勝負。
 普段ならば遅れをとりはしないが、私は生憎寝起きである。
 加えて、こいしは馬乗りの状態でナイフを向けていた。
 どちらが、より力が込めやすいかは考えるまでもないだろう。
 つまり、後数十秒かからず、鋭利な刃物は私の額を貫くと予想できた。

 冷静に現状を把握している場合でもない。

「こ、こいし! 何が貴女をそうさせるの!? もしかして等身大抱き枕が気に障ったのカシラ!?」
「あ、私だ。気には障らないけれど、どうして半裸なのかは気になるわ」
「私は全裸が良かったのよ!? それを、お燐が、お燐が……!」
「お燐なら、庭でお空と寝ていたわ」
「どっちの意味!?」

 首を傾げるこいしを鑑みるに、本当に寝ているだけなのだろう。お燐の意気地なしさんめ。

 因みに、抱き枕の発注先は紅魔館の司書である。
 姉である私が『ほぅ……』と唸る出来。いい仕事をする。
 幼女と少女の境であるこいしの体型が見事に形成されていた。

 今度、当該の館の主、レミリアにも薦めてみよう。

 生きていれば。

「あ、違う、違うの!? じゃあ、こいしの布団をくんかくんかした事ネ!」
「お布団、干して出かけたと思うんだけど……」
「炎と核の匂いがしました」

 お燐とお空の力の有効活用である。異論は認めない。

 会話を交わしている間にも、ナイフはじりじりと迫ってきていた。

 至る経緯を必死で考える。

 毎日書いているこいしダイアリーがばれたのだろうか。
 生憎と観察記録ではない。
 そんなものをつけれるほど、こいしは家にいないのだ。
 では何かと言うと、私とこいしのうふふな展開を連ねたノートである。
 十八禁? 舐めないで、百禁よ。

 それとも、こいし成分表をでっち上げたのを知ったのだろうか。
 妹の魅力を細大漏らさず記したB2用紙だ。肌色多め。
 先日、足りなくなってもう一枚追加した。

 でもないのだとすれば――私の頭に閃光が走る。

 こいしがいない隙に彼女の洋服を着たのが原因か。
 成長の軌跡があまり変わらない事もあって、すんなりと服は私の体を覆った。
 こここいしの晒しもじじじ実にフィットして、拙者の愚眼は、もう、もぅ……!

「っか、違うわよ、ドロワは穿いてないわよ、アレは鑑賞するものよ!」
「何のお話かしら?」
「未遂です」

 心持、迫りくる力が増した気がする。

 表情の一つも窺えれば感情も捉えられそうだが、視界はナイフにより遮られていた。
 他の者ならばともかく、当然ながら心の声も聞こえない。
 こいしの意思が読み取れない事に苛立ちが募った。

 けれど――閉じかけた瞳をこじ開ける。
 私は古明地さとり。閉じた恋の瞳・古明地こいしの姉。
 口から零れる意思の断片より、彼女の想いをくみ取って見せよう。

 こいしは、囁いた。

「ころしあいましょう、おねえちゃん……」

 狂おしいまでの殺意を。

「ストップ! ジャスト・ア・モーメント!?」

 読み取る余裕なんてありはしない。
 ついでに、言って止まれば苦労はしない。
 ナイフは微かに、だが、確実に近づいてきている。大ピンチ。

 如何程の危機感かと言うと、例えば、そう――。

 レミリアが「ふん、勘違いをするな。お前を倒すのは私だ」とか言いながら乱入してくおぉぉ、やばいやばいやばい!?

 ヘルプミー、レミィ!?





「「「「きゅっとしてぇぇぇ、ドカーンッ!」」」」
「うー!? 助けて、さとりーん!?」
「「「「あ、ナイフ使わないと……」」」」





 ……地上から、凄まじい破壊衝動といじらしい恋心がブレンドされた、よくわからない思念が届いた。気がする。

「――はっ! ピンチに私の『力』が覚醒めた!?」
「むぅ、お姉ちゃん、私の相手してよぅ」
「マジで刺される五秒前!」

 カラ元気に声を出すも、押し返す力は限界を迎えそうだ。 
 結果が同じなのであれば、今もがいている意味もない。
 いや、苦しみが増すだけだ。

 それに、私は常々、思っていた筈だ。
 こいしが望むものは、自身の手が届くものならば与えようと。
 そして、そう、例え自身の命であろうと、関係はない――。

 思ったのは、諦観からか、覚悟からか。

 私は確かに、そう思った。

 けれど、私は古明地さとり。こいしの姉にして、地霊殿の主。

 私が散れば、この地霊殿はどうなる。
 お燐やお空をはじめとしたペット達はどうなる。
 そして、あぁ……私の可愛い妹、こいしはどうなる。

 押し留める。
 力が溢れてきた。
 鬼さえも凌駕する、純粋な力。

 視界を覆っていたナイフを、じりじりと押し戻す。

 広がった視界に、愛するこいしの表情が入り込む。



「むざむざ殺られるほど、私は弱くなくてよ、こいし――!」
「嬉しいわ、お姉ちゃん。さぁ、愛し合いましょう」
「ゴォトゥヘブン!!」



 刺激的な言葉に、私はこいしを抱きこんだ。むしろ、押し倒す勢いで!



「あ」



 零れた声はどちらのものであったか。
 私は腕を伸ばした。
 つまり。

 輝く銀色の光が、額へと突き刺さり――。



 ――私とこいしを、鮮やかな赤が遮った。



 不思議と痛みはない。
 視界を覆う赤色が煩わしい。
 それだけ――「じゃない、目が、目が痛いわ!?」

 頭を振って痛みを散らす。手は使えない、だって、こいしを抱きしめているんですものっ。

「痛いの痛いの飛んでけー」
「ありがとうって目がぁぁぁ!?」
「あん、お姉ちゃん、動かないで!」

 ずびしとこいしの指が私の目を突く。あんぎゃぁぁぁ。

 ……って、あれ?
 鼻に微かな芳しい匂い。
 私は指を舌で舐めとった。

「ん、んぷ、あむ……」
「くすぐったいわ、お姉ちゃん」
「美味しいですよ、こいし。ではなくて、是は……」

 名残惜しくも舌を離し、はしたなくもそのまま、伸ばす。付着しているのは、赤い赤い液体。

 こいしは赤く濡れたナイフを両手で持ち、垂れてきた液体を舐めとりながら、言った。



「ケチャップなの。柄の部分に小さな袋を入れて、押すと飛び出てくるのよ。凄いでしょ!」

 エロイなぁ。いやいや。

「んっとね、今日は湖で遊んでたんだけど、チルノとミスチーが喧嘩し始めてね」

 この頃どうも直截過ぎる。

「私と橙は止めようとしたんだけど、『喧嘩するほど仲がいいのよ』って」

 訂正しよう。

「それなら、『殺し合うほど愛してる』んじゃないかって。その後、フランにも教えて……お姉ちゃん!」

 劣情を催すその様は煽情的にして、拙者の愚眼は、もう、もぅっ!!

「お姉ちゃんってば!」
「はいっ!?」
「話聞いてよぅ!」

 頬を膨らませるこいし。
 耐えられるモノなどいるだろうか。
 いや、いない。少なくともこの場には。

 私は赤い放物線を描きつつ、飛んだ。



「こいし、愛してるわー!」



 放物線とは、つまり、ケチャップ。
 脱衣しつつ、こいしへと飛びこむ。
 脱いだのはその液体を妹に付着させない為であり、他意はある。

 いやだって、こいしにも元からべったり付いてるし。



「私もそう言っているわ、お姉ちゃん。あ」



 あ。って何だろう。
 向けられるのは両手。
 握られているのはナイフ。

 刀身は玩具であり、引っ込むようになっている。
 と言うか、スローモーションで引っ込んだ。
 だから、硬い柄が額に。





 ――がつん。





 ――もう、お姉ちゃんてば、服を散らかして寝ちゃダメじゃない。
 ――……でも、ふぁ、私も、沢山遊んできたから、眠たい、かも。
 ――うーん……うん。散らかさなければいいのよね。

 ――よし、ちゃんと畳んで、……と。
 ――んぅ……おやすみなさい。
 ――おねぇちゃん。










 目を覚ました私の視界に飛び込んできたのは、枕じゃない、半裸でもない、全裸のこいし。

 GOOD END 01 「タイトル詐欺? 細かい事はいいんですよ」

 ぶぱぁ。






                      <了>
近所に命令形で来店するよう訴えてくるお店があります。『愛に恋』。そんな感じのお話。

因みに。別所の妹様は脱いでおりません。彼女の方が感覚的に大人なので、ぬ(ピピピピチューン。
道標
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
次回はレミリア編ですね。わかります。
2.喉飴削除
面白かったー!
テンポも良いですし、なにより最初の1行で引き込まれました。
次回はレミリア編ですね。わかります。
3.名前が無い程度の能力削除
その理論はある意味すごく正しい。

レミリア編期待してます。
4.名前が無い程度の能力削除
らぶらぶだなこの姉妹w

レミリア編に期待
5.名前が無い程度の能力削除
ナイフが使われてない姉妹は今頃…
6.名前が無い程度の能力削除
スカーレット姉妹編を全裸で待機する所存です