Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ヒマワリとキノコ

2009/05/29 12:07:44
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ある夏の日、転機に似つかわしくない白と黒の仰々しい服を着た魔法使いはヒマワリ畑でしゃがみ込んでいた。
照りつける日差しは傘の広い帽子により遮られてはいるが、色が問題だ。
日傘ならともかく、黒い帽子では中に熱がこもってしまう。
だがそんな実用的ではない帽子でも、この魔女にとっては自分を表現する道具の一つであり、かけがえのないものである。
そんな帽子を手で直しながら、黒白の魔女――霧雨魔理沙――は、咲き誇るヒマワリに目もくれずに何かを探していた。
汗をぬぐい、場所を移動し、座りこむ。この作業の繰り返し。時間にして3時間ほどか。ヒマワリの影が伸び出した頃、一つの影が魔理沙の横に伸びた。
「何か探しもの?」
太陽に向けて開いた傘の下にいたのは、風見幽香。このヒマワリ畑の主だ。
振り向いた魔理沙は突然の声に少し驚いていたが、幽香の顔を確認すると表情を緩ませ答えた。
「別に大したものじゃない」
「あら、ずいぶんね。せっかく手伝ってあげようと思ったのに」
眉をピクリと動かし幽香は踵をかえした。
「あぁ、まってくれ。大したものじゃないが、私じゃ見つけられなかったんだ」
幽香は振り向き、傘を傾け魔理沙の顔を見た
「私のできることは、花を咲かすこと。それと生意気な人間をぶちのめすこと。それだけ。心を読むことはできないわ」
「探し物ってわかっただけで十分だと思うが……」
「何時間も同じようなことしてれば誰だって分かるわよ」
「なんだ、そんなに人を見てたのか。暇な奴だな」
「帰るわよ」
「それで探してるものなんだが」
「キノコね」
「私のイメージはキノコだけか」
「キノコね」
「そうか。でだ、探しているのは植物なんだが……」
「キノコじゃないのね」
「そういうことだ」
「つまんない」
「料理で使うやつなんだが」
その植物の名前を知らない魔理沙は、身振り手振りで伝えた。
「……それなら、たぶん家にあるわ」
「そうか、じゃあ行こうか」
「それにしても、暑いわね」
「暑いな」
「こう暑いと、涼しいところでお茶でも飲みたいものね」
「お、気がきくな」
「問題は茶葉が切れてることかしら」
「……」
「そういえば人間の里に新しく入った茶葉が……」
「わかった。買ってくるから代わりに譲ってくれよ!」
「あら、気がきくわね」
魔理沙が人間の里から帰ってくると、幽香は沸かしていたお湯で紅茶を入れた。
席についた二人は、特に会話を交わすこともなく聞こえてくる鳥のさえずりや蝉の鳴き声を聞いていた。
だが、幽香の表情はとても穏やかなものだった。一方の魔理沙も、時折幽香に視線をやり、まったりとしていた。
緩やかな時の流れ。それは、うだるような暑い日でも感じることができた。
「ほら、持っていきなさい」
幽香は、部屋に置いてある鉢の一つから選んだ植物の葉を魔理沙に持たせた。
「これだけあれば十分でしょう」
「そうだな、ありがとな!」
「また暇があったら来なさいな。お茶ぐらい出してあげるわ」
「またお使いさせられるのは勘弁だぜ」
そう言って魔理沙は帰っていった。
残された幽香は、魔理沙が見えなくなるまで家に入らなかった。


―――――
雑多に物が置かれ、正確な物の位置はおよそ住人にしか理解できそうにない部屋の中に、バンダナを巻いた魔理沙がいた。
手には棒を持ち、小さな体をいっぱいに使ってすりつぶしている。
先日風見幽香から譲り受けた例の植物である。
すり潰した植物を、あらかじめ作っておいた生地に混ぜ込みオーブンに入れた。
バンダナを外し椅子に掛け、乱雑に積み上げられた本の中から選んだ本を手に腰かけた。
焼き上がりの時間になると本を置き、オーブンから焼き上がったものを取り出した。
それが冷めるまで、先ほどの本の続きを読みだした。
冷めた頃合いを見計らって魔理沙は小さな袋に小分けして完成したクッキーを入れた。
ポッドを火にかけていると、扉をノックする音が聞こえてきた。
「よぉ、早いじゃないか」
訪問者は、七色の魔女、アリス・マーガトロイドだった。
「そんなに早くはないと思うけど?」
「10分前行動は偉いな、感心するぜ」
「どうでもいいけど早く中に入れてくれる?外は暑いのよ」
「ようこそ霧雨邸に。マドモワゼル」
右手を胸に当て、深くお辞儀をする魔理沙を見ながらアリスはまんざらでもない表情を浮かべていた。
こうして始まったお茶会は、いつものように他愛もない話題で始まり、他愛もない話題で終わった。しかし、魔理沙が幽香の所へ行ったことを話題に出すことはなかった。
お茶会が終わり、見送る時に余ったクッキーを渡した。
アリスを見送ると、魔理沙は予め用意しておいた袋に入ったクッキーを持って出かけた。

魔理沙は扉をノックし、返事を確認すると扉を開けた。
「よう、また来たぜ」
「あら、今度は何?」
「用事がなきゃ来ちゃいけないのか?」
「用事もないのにこんな所に来るなんて、よっぽど暇なのね、最近の人間は」
「昨日もらった植物を使ってクッキーを作ってみた。いるか?」
ポケットから取り出したクッキーを幽香に差し出した。
「おいしそうね、いただくわ」
「じゃ、私は帰るぜ」
後ろを向き、片手をあげ魔理沙は箒にまたがった。
「まって」
「え?」
「せっかくだから……一緒に食べていかない?」
クッキーを手に持ったまま、幽香は顔を魔理沙に見せないように俯きながら言った。
「私はさっき食べたからいいぜ」
「これだけのクッキー、私には量が多すぎるわ」
手にしたクッキーの入った袋は、片手に収まるほどの大きさだったが、幽香は食べきれないと言った。
「……しょうがない、付き合ってやるぜ」
箒を立てかけ、帽子を脱ぎ、魔理沙は部屋に入っていった。
今度のお茶会も静かなものだった。お互いしゃべらず、ただゆっくりと時間が過ぎていった。
「……なにかしゃべろよ」
沈黙に耐えきれなくなった魔理沙が口を開く。
「あなたがしゃべりなさいよ」
「……」
魔理沙はふてくされたように黙ってしまった。
再びの沈黙の後、先に口を開いたのは幽香だった。
「御馳走様、なかなかおいしかったわ」
「おそまつさま。そいつはよかった」
「暇があったらまた来なさいよ」
「今度はそっちでお茶受けを用意してほしいぜ」
とうに日は傾き、太陽は幽香の顔をオレンジ色に染めていた。
魔理沙が見えなくなるのを確認した頃には、日は完全に沈んでいた。
初めまして。こういうところに投稿するの初めてなので、なにか問題があったら言ってくださいorz即削除します。あと中途半端ですみません……
依田
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
>転機に似つかわしくない
天気、の誤字ですかね。


テンポよく読めて会話文も楽しかったです。
ううむ、続きが読みたくなる気分だ。
2.名前が無い程度の能力削除
なんかまったりとした気分になりました。

幽香と魔理沙が姉妹みたいだなー。
3.ふぶき削除
自分的には好きな話ですな。

この2人で続きか他の話も見てみたいです。
4.奇声を発する程度の能力削除
めちゃくちゃ良いお話でした!!!
この感じが自分的に大好き!
5.名前が無い程度の能力削除
コメントがいただけるとは思いませんでした……ありがとうございます!

>1さん
誤字です、すみませんorz
調子に乗って続きなんぞを書いている途中です。もしよろしければごらんください。

>2さん
幽×魔って、ありだと思うんです。個人的に。

>ふぶきさん
オチというか、なんというか、続きを一応考えてあるのです。はい。よろしければごらんください。まだ書けてませんがw

>奇声を発する程度の能力さん
良い話だなんて……ありがとうございます!


みなさんコメントありがとうございました。こういうところ初めてで、叩かれるんじゃないかとハラハラしてましたが、皆さん優しい方で安心しましたw
続きが書き上がったらあげたいとおもいます。長々と失礼しました。
6.名前が無い程度の能力削除
こういうまったり感のある話は大好きです。
続きの話も期待しています。良い話でした。
7.名前が無い程度の能力削除
>6さん
ありがとうございます。
ただ、続きはまったりだけどちょっとシリアスというかなんというか……すみません。