妬ましい、ああ妬ましい。
水橋パルスィの口から漏れるのは、一文字一句変わらない同じ言葉。まるでそれが自分の鳴き声だと主張するように、何度も何度も繰り返す。
だが、決して無機質な叫びではない。
表面上から深層意識に達するまで、籠められた嫉妬が見え隠れしている。
心臓の弱い者が聞けば病状が悪化し、陽気な若者が耳にしたら明日を嘆いて引きこもりそうなほどの妬ましさ。
幸い地下には妖怪しかおらず、周囲が被害を被ることはない。いくらパルスィの言葉に負の感情が満載だったとしても、妖怪ならばさして恐れる必要もなかった。
言葉程度で落ち込むような、柔な輩は地下にいない。
とはいえ、あまり気持ちの良い類でないのは事実。忌み嫌われた地下の妖怪にあっても、古明地さとりと水橋パルスィの近くにいたがるものはあまりいない。
前者はそれを良しとしている風もあるが、パルスィにとってみればそれすらも妬みの対象となる。
ここで自分の境遇を嘆けば、自虐癖のある女の子で済むのだが。仲間の多い妖怪共を妬むあたりは、パルスィがパルスィたる所以といったところか。
今日も今日とて、鬼を見ては強そうだと妬み、酒を飲み干す妖怪あれば楽しそうで妬ましいと恨む。
しかして、最近のお気に入り。と言うには語弊があるが、もっぱら妬んでいる対象がいた。
不可解な事に、そいつは一所にいない不思議な妖怪だ。あちらで見たかと思えば、気付けばこちらにいる。
まるで八雲紫のように、神出鬼没な妖怪なのだ。
そんな身軽さが、まず妬ましい。
そして、何よりも目を惹くのが、そいつの美しさ。
勇儀のような荒々しさも、さとりのような儚さも、そいつは持ち合わせていない。だが、とても生命力に溢れた美しさを兼ね備えていた。
道ですれ違ったなら、確実に振り向いて妬むであろう。
現に何度も、パルスィはそいつに目を奪われたことがあった。
その度に足を止め、心を射止められた自分を恥じるのだ。
そんな美しさが、妬ましい。
それだけではない。
奇妙というか何というか、そいつは決して一人ではないのだ。見かける度に、必ず隣に誰かいる。
自称、孤独を愛する水橋パルスィ。けれど、出来ることなら人といたいのも心情。
前述したように、仲間と仲良く歩いているだけで妬ましく思う妖怪だ。
そんなフレンドリーなところを毎回見せつけられては、妬ましく思うしかないだろう。
だから存分に妬もう。憎もう。いーっ、ってしてやろう。
そんな仲間の多さが、妬ましい。
などという事をヤマメに話したところ、大層その相手に興味を持った。
出来ることなら、一度は見てみたいと言うほどだ。パルスィとしては、なるべく会いたくないのだが。
しかし、どうしてもと頼まれたら断るのも辛い。
仕方ないなあ。
呆れた溜息と共に、ヤマメを連れて街に出る。
基本的に、あいつは一箇所に留まらない。だから、どこにいるのかパルスィにもよく分からなかった。
どこに寝床があるかなんて、勿論知らない。
会いたいのなら彷徨くしかなく、ヤマメとパルスィはしばし街を散歩する。
おおよそ、十分後ぐらい経った時か。
俄に、パルスィは奴を見つけた。
ヤマメの手をとり、そいつの方へ走り出す。
引っ張られたヤマメは動揺しているが、そんな事を気にしている余裕もなかった。
逃げるかもしれない。
だが不敵にも、奴もこちらとの接近を望んでいるようだ。
駆け寄るパルスィと、あいつ。
その遭遇には、十秒の時も必要としなかった。
息を切らせるヤマメに、パルスィは言い放つ。
こいつが、妬んでいる対象だと。
ヤマメは呆れた顔でパルスィに言った。
「鏡じゃん」
話の持って生き方は、さすがでした。
>見かける度に、必ず隣に誰かいる
なんかこれ矛盾してるような。前者がパルスィの主観描写なら問題ないけど。
姉さんと一緒にいた
〉酒を飲み干す妖怪あれば
誰かと飲んでた
なるほどw
たしかに、常に誰かを妬んでるってことは、いつも誰かが傍にいるってことですものね
ちぇんもかわいいけど
ちがうかわいさ